(3)家庭や地域の子育て力

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(育児に対する孤立感や疲労感、自信の喪失)

 家庭は、子どもが親や家族との愛情によるきずなを形成し、人に対する基本的な信頼感や倫理観、自立心などを身に付けていく大事な場である。
 ところが、3世代同居世帯が多く、子ども自身もきょうだい数も多く、地域社会でも子どもたちの数が多かった時代と比較をすると、家族規模が縮小し、親と子の核家族世帯が中心で、しかも大都市部のように隣近所に誰が住んでいるのかよくわからないような現代社会では、家庭の子育て力や地域社会の子育て力は、以前よりも低下しているものと考えられる。乳幼児を抱えた若い夫婦が、周囲から適切な支援を受けられない場合には、特に母親が育児に対して孤立感や疲労感をいだき、場合によっては育児ノイローゼや児童虐待等の望ましくない結果を引き起こすこともあるだろう。
 財団法人こども未来財団の世論調査によると、いわゆる専業主婦の方が共働き世帯の妻よりも、子育てに対する負担感を感じている人が多い。厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」(第2回:2002(平成14)年度、対象児年齢1歳6か月)では、「子どもを育てていて負担に思うこと」を尋ねた結果、「自分の自由な時間が持てない」(63.7%)、「子育てによる身体の疲れが多い」(39.3%)、「目が離せないので気が休まらない」(34.1%)の順となっている。これを、母の就業別にみると、職に就いている場合よりも「無職」(専業主婦)の方が割合が高くなっている。こうした結果の背景には、夫や他の家族、あるいは外部からの支援が得られないまま、24時間乳幼児と向きあって、心身両面で育児に追われる妻の姿がうかがえる。
 日本では、父親が育児にかける時間が他の先進国と比較して突出して少ないことが指摘されており、妻の就労の有無にかかわらず、父親が親としての役割を積極的に果たすことが、子育て家庭の育児ストレスや不安の解消のみならず、子どもの健全な育ちのためにも重要になっている。
第1‐2‐34図 子育ての負担感の状況



第1‐2‐35図 子育ての負担感の状況



 また、厚生労働省「全国家庭児童調査」(1999(平成11)年)において、家庭養育上の問題について尋ねると、「問題がある」と回答した親のうち、「親類や近所づきあいが乏しい」(1989(平成元)年と1999年を比較すると、8.2%から13.0%へ)、「子育てと社会参加の両立が難しい」(同じく11.3%から15.3%へ)、「しつけや子育てに自信がない」(同じく12.4%から17.6%へ)などが増加しているように、子育てに関する地域内のコミュニケーションが進んでいない傾向がみられ、あるいは、しつけや子育てに自信が持てない親が増加している。
 こうした状況から、子育てに関する孤立感が深まり、子育てそのものが親にとって過度の負担となるとき、育児ノイローゼなどにつながるものと考えられる。
第1‐2‐36表 父母の状況別にみた家庭養育上の問題
(%)
父母の状況 総数 問題がある   問題はない
しつけや子育てに自信がない 親(保護者)と子の接触時間が不足している 養育費に困っている 親類や近所づきあいが乏しい 子育てと社会参加の両立が難しい 家族の協力が得られない 住宅が狭い等居住環境に悩んでいる その他
1989年(平成元)
100.0
46.7
12.4
16.9
5.1
8.2
11.3
2.3
14.2
2.5
53.3
1994(平成6)
100.0
55.3
14.7
17.5
8.4
12.0
14.7
3.6
18.8
3.8
44.7
1999(平成11)
100.0
58.5
17.6
19.9
12.1
13.0
15.3
4.1
17.8
3.5
41.5
資料: 厚生労働省「全国家庭児童調査」(1999(平成11)年)
注: 家庭養育上の問題は複数回答である。


 児童虐待という深刻な事態も増加しており、児童虐待に関する相談処理件数は、1993(平成5)年度で1,611件であったものが2003(平成15)年度では26,569件に増加している。
第1‐2‐37図 虐待に関する相談処理件数の推移



(家庭や地域の子育て力の低下)

 父親に対して、子育ての優先度を、仕事等との比較で聞いてみると、希望としては「仕事等と家事・育児を同等に重視」が51.6%と最も高い割合である一方、現実では「どちらかと言えば仕事等が優先」が52.7%となり、仕事重視の傾向が強いことがうかがわれる。
 こうした家庭よりも職場優先・経済優先の風潮などから、子どもに対し時間的・精神的に十分向き合うことができていない親、無関心や放任といった極端な養育態度の親などの問題が指摘されている。子どもの親がその役割を十分担うことができるように、職場をはじめ社会が応援する風土や意識が求められている。家庭において夫婦が子育ての喜びを共有することで、親から子へ子育ての喜びや楽しさが伝えられることにもつながる。
 前述した労働時間の見直しは、親が子どもと一緒に過ごす時間、言い換えれば妻も夫も子育てにあてる時間をより多く取れるようにすることであり、仕事と育児のバランスを得ることによって、家庭の子育て力を回復させることにもつながるものである。
第1‐2‐38図 子育ての優先度(父親)



(シニア世代の役割)

 結婚にあたって夫妻のそれぞれの親との同居を敬遠する傾向があるが、国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002(平成14)年)によれば、夫婦と両親の同居の有無別に平均出生子ども数を比較した場合、妻もしくは夫の両親(1人の親の場合も含む)と同居の場合では、平均子ども数が2.37人であるのに対して、両親と別居している場合には2.16人と、両親同居の場合のほうが高い数字となっている。6夫婦の出生力に対して、親との同居はプラスの影響を及ぼしている。さらに、同調査では、同居、別居にかかわらず、妻の出産後の就業継続についても、夫妻の母親からの育児援助が大きな役割を果たしていることを指摘している。出生力の回復や子育てにおいて、祖父母の役割、いわゆるシニア世代の役割が重要となっている。

6 この平均子ども数は、結婚持続期間が15~19年の初婚同士の夫婦に基づいた数値である。なお、夫妻とその親との同居・別居の割合は、別居が全体の62.6%、妻の親との同居が11.5%、夫の親との同居が21.5%となっている。

(地域社会のネットワーク)

 子育ては父母その他の保護者が第一義的責任を持つものである。また、子育ては次代の担い手を育成する営みであるという観点から、子育て家庭が安心と喜びをもって子育てにあたれるよう社会全体で支援することが求められている。
 今日、地域社会でも、子どもの数が減少したり、高齢化が進んでいたりしていることなどから、地域社会が果たす機能や助け合いのネットワークが弱体化しているとの指摘がある。子育てをめぐる環境の大きな変化から、家庭のみでは子育てを負い切れなくなった現状を踏まえ、地域社会において「新たな支え合いと連帯による子育て支援」の体制の構築が求められている。
 内閣府「少子化対策に関する特別世論調査」(2004(平成16)年)によれば、地域社会における住民同士の助け合いとして、次のような活動が期待されている。「子育てに関する悩みを気軽に相談できるような活動」(52.3%)、「子育てをする親同士で話ができる仲間づくりの活動」(41.3%)、次いで「不意の外出の時などに子どもを預かる活動」(31.8%)、「子育てに関連した情報を簡単に入手しあえるような活動」(31.8%)となっている。

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