2 社会保障負担等の増加
(社会保障給付費の増加)
社会保障給付費(年金や医療保険等の社会保障制度を通じて国民に提供される年間の給付総額)は、年々増大しており、2002(平成14)年度では、83兆6,000億円と、国の一般会計の総額に匹敵する規模となっている。対前年度伸び率は2.7%、対国民所得比は23.0%となっている。国民1人当たりにすると65万5,800円であり、1世帯当たりでは179万5,500円となっている。日本が高齢化社会の仲間入り(人口の高齢化率が7%を超えること)をした1970(昭和45)年度には、社会保障給付費は3兆5,200億円、対国民所得比は4.7%であったが、この頃と比較をすると、経済の伸びに比べて、社会保障給付費の伸びははるかに大きい。
第1‐3‐25図 社会保障給付費の推移

社会保障給付費の増大は、わが国の社会保障制度の充実、年金制度の成熟化等を反映しているが、一方で、社会保障給付費に対する負担も増大している。2002年度の社会保障給付費の財源内訳は、保険料が55.8兆円(63.3%)、国や地方自治体による公費(税)負担が26.7兆円(30.3%)、資産収入・その他が5.6兆円(6.4%)となっている。
(社会保障の給付と負担の見通し)
厚生労働省が2004(平成16)年5月に発表した「社会保障の給付と負担の見通し(平成16年5月推計)」によれば、社会保障給付費は、2004年度(予算ベース)の86兆円から、2010(平成22)年度には105兆円、2015(平成27)年度には121兆円、2025年度には152兆円に増大すると予想されている。対国民所得比は、2004(平成16)年度の23.5%から2025年度には29.0%に増加する。社会保障給付費が増大する理由は、今後とも、年金給付の増大や老人医療費を中心とした医療保険給付の増大、介護給付の増大などが見込まれているからである。
第1‐3‐26図 社会保障の給付の見通し

一方、社会保障負担も増大し、2004年度の78兆円(対国民所得比21.5%)から2010年度には100兆円、2015年度には119兆円、2025年度には155兆円(同29.5%)と、今後約20年間で、約2倍に増大すると予想されている。
現在の社会保障負担は、年金制度に典型的に現れているが、現役世代の保険料負担が高齢者の給付にまわる構造となっている。これは、医療保険制度における老人医療費の負担や介護保険制度において同様である。したがって、年金制度や医療保険制度、介護保険制度が現在の仕組みのままでは、これらに基づく社会保障給付費の増大は、現役世代の負担の増に直結する。
ちなみに、厚生労働省の推計によるサラリーマンの社会保険料率をみると、年金、医療、介護、雇用保険の4つを合わせて、2004年度に23.7%であったものが2025年度には31.7%になると見込まれている。これは仮に、サラリーマン1人当たりの月収が30万円とすれば、月2.4万円(本人負担分は約半分の1.2万円)の負担増となる。7
7 厚生労働省の推計による社会保障負担のうち、社会保険料負担分を労働力人口1人当たり負担にしてみると、2004年度では1人当たり約77万円であるのが、2025年度には約152万円の負担となる(この間の名目経済成長率は年平均約1.7%と仮定しているため、2004年度で労働力人口1人当たり740万円のGDPが2025年度には1,140万円になる)。
第1‐3‐27図 社会保障負担の見通し

仮に少子化傾向が予想以上に進んで労働力人口が現在の推計よりも少なくなると、さらに現役世代の負担は増大することになる。
したがって、社会保障制度については、高齢者関係給付の負担の多くを担っている現役世代の負担が過重なものとならないよう、世代間の給付と負担の公平に配慮しつつ、給付の効率化など各制度の不断の見直しに取り組むとともに、社会保障制度間の給付の重複の調整といった総合的な観点からの見直しを進めていく必要がある。
(高齢者重点型から少子化社会対策の強化を)
社会保障給付費を対象者別にみると、2002(平成14)年度では、高齢者関係給付費(年金保険給付費や老人医療費、老人福祉サービス等の給付の合計)が58兆円と、全体の約7割を占めている。子どもや現役世代に対する給付費は25兆円、全体の3割となっている。後者のうち、保育所運営費や児童手当、児童扶養手当など、児童・家族関係給付費に限ってみると、2002年度では3.2兆円で、全体の3.8%にすぎない。高齢者関係給付費と比較をすると、約19分の1の水準である。仮に、高齢者関係給付費を65歳以上人口で除し、児童・家族関係給付費を15歳未満人口で除するとすると、1人当たり給付費では、高齢者は約247万3千円、子どもは約17万4千円となる。
第1‐3‐28表 高齢者関係給付費と児童・家族関係給付費の推移
年度 | 高齢者関係給付費(億円) | 高齢者関係給付費/社会保障給付費 (%) | 児童・家族関係給付費(億円) | 児童・家族関係給付費/社会保障給付費 (%) | 社会保障給付費(億円) |
---|---|---|---|---|---|
1975(昭和50)
|
38,754
|
32.9
|
6,608
|
5.6
|
117,693
|
1980(55)
|
107,514
|
43.4
|
11,197
|
4.5
|
247,736
|
1985(60)
|
188,287
|
52.8
|
14,513
|
4.1
|
356,798
|
1990(平成2)
|
279,262
|
59.1
|
15,986
|
3.4
|
472,203
|
1995(7)
|
407,109
|
62.9
|
21,369
|
3.3
|
647,314
|
1996(8)
|
430,785
|
63.8
|
23,615
|
3.5
|
675,475
|
1997(9)
|
451,401
|
65.0
|
23,258
|
3.4
|
694,187
|
1998(10)
|
478,041
|
66.3
|
23,997
|
3.3
|
721,411
|
1999(11)
|
503,564
|
67.1
|
24,972
|
3.3
|
750,417
|
2000(12)
|
531,982
|
68.1
|
27,419
|
3.5
|
781,272
|
2001(13)
|
559,517
|
68.7
|
30,133
|
3.7
|
814,007
|
2002(14)
|
584,379
|
69.9
|
31,513
|
3.8
|
835,666
|
資料:国立社会保障・人口問題研究所「社会保障給付費」 |
現在のわが国の社会保障給付費の構造は高齢者重点型となっているが、1975(昭和50)年時点では、全体の3分の1を占めているにすぎなかった。その後、高齢化の進展による高齢者人口の増大とともに、年金給付の改善、老人保健制度の導入、介護サービスの充実等、高齢者向けの社会保障制度の充実とあいまって、高齢者関係給付費が増大していったものである。一方、児童・家族関係給付費は、1975年時点では5.6%と、割合からみると現在のシェアよりも大きかったのである。
年金受給者の増大、老人医療費や介護給付費の増大で高齢者関係給付費が増大するのはやむを得ないとしても、ヨーロッパ諸国の社会保障給付の対象者別構成割合を見ても、日本の場合には高齢者給付に偏っているということができる。今後の少子化の進展状況をみると、少子化の流れを変えるためにも、大きな比重を占めている高齢者関係給付を見直し、これを支える若い世代や将来世代の負担増を抑えるとともに、少子化社会対策に関する施策を充実させる必要があると考えられる。
第1‐3‐29図 社会保障給付費における児童・家族関係給付の位置(2002年度)

(財政構造の健全化の必要性)
将来の負担増としては、社会保障負担ばかりでなく、わが国の財政全体の負担が巨額な水準に達していることについても注意を払う必要がある。財務省によれば、2004(平成16)年6月末時点での「国の借金」に相当する国債、借入金及び政府短期証券の合計残高は、729兆2,281億円と、過去最大に達している。国民1人当たりに換算すると、570万円を上回る額になる。このほか、「地方自治体の借金」に相当する地方債残高等の総額も、平成16年度末には204兆円にのぼる見込みとなっており、「国の借金」とあわせると900兆円を超える金額となっている。
今後とも、「国や地方自治体の借金」が増大するようであれば、人口減少社会においては、ますます国民1人当たりの負担が増大していくことになる。将来世代に対する負担を緩和する観点からも、財政構造の健全化が急務の課題である。
今後とも、「国や地方自治体の借金」が増大するようであれば、人口減少社会においては、ますます国民1人当たりの負担が増大していくことになる。将来世代に対する負担を緩和する観点からも、財政構造の健全化が急務の課題である。
(少子化の流れを変えていく)
以上述べてきたような少子化が与える経済社会への大きな影響を考慮すると、人口減少社会に対応して活力ある豊かな社会を維持、形成していくためには、少子化の流れを変えていくことが重要である。少子化や人口減少が急激になればなるほど、それに対応した雇用、教育、産業、社会保障、地方行政等の経済社会システムを構築することの困難性が増大する。第4章 第1節でみるとおり、合計特殊出生率が1.60前後で安定する高位推計の場合と、1.10前後で安定する低位推計を比較すると、2050年時点で、年間の出生数は前者の90万人に対し、後者は44万人と大きく異なった数値となる。総人口や生産年齢人口の急激な低下を招かないためにも、出生率の低下を反転させていくような取組が必要である。