2 アジアの主な国・地域における少子化対策の動向

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 上記の低出生率に対して、アジア諸国・地域では危機感を持ち始めた政府も多く、様々な取組が進められている。以下では、アジアの主な国と地域における少子化対策の動向について見てみよう。

(政策のスタンス)

 アジアの主な国における出生率への評価と政策のスタンスを国連の資料で見ると、1986年では、シンガポールだけが「低すぎる」とし、出生率を「回復させる」というスタンスにたっていた。その一方で、韓国とタイは「高すぎる」とし、出生率を「抑制する」というスタンスにあった。しかし、2003年になると、タイを除く各国で、出生率は「低すぎる」という認識となり、出生率を「回復させる」ための政策を実施するというスタンスに変わっている。
 この資料にない他の国や地域については、中国では、「計画出産」による出生力抑制を行うことが基本的なスタンスとなっている。また、台湾では「適当な年齢で結婚し、出産することを奨励する」ことを掲げており、出生率を回復させることを政策の目標としている。一方、香港では、少子化対策は行わないとしている。
 このように、アジアの主な国や地域では、少子化の進行を踏まえ、出生率を回復させるというスタンスを採る国が多くなっている。

第1‐4‐23表 東アジア諸国の出生力への評価と政策スタンス
 
1986年
2003年
合計特殊
出生率(1985年)
出生率の
評価
出生率の水準
に対する政策
スタンス
合計特殊
出生率
出生率の
評価
出生率の水準
に対する政策
スタンス
韓国
1.67
高すぎる
抑制する
1.19
低すぎる
回復させる
シンガポール
1.61
低すぎる
回復させる
1.26
低すぎる
回復させる
タイ
2.17
高すぎる
抑制する
1.80
満足な水準
維持
日本
1.76
満足な水準
介入しない
1.29
低すぎる
回復させる
資料: United Nations, "World Population Polices 2003".合計特殊出生率は、韓国は韓国統計庁資料、シンガポールはシンガポール統計局資料、タイはタイ王国統計局資料、日本は厚生労働省「人口動態統計」。
 注: 2003年の合計特殊出生率のうち、タイは2002年のデータ。

(各国の少子化対策)

(1)韓国―少子化対策は国家の重要政策

 韓国でも2000年以降の出生率の低下が著しく、これを反映させた「将来人口の特別推計」が2005年1月に公表された。それによると、韓国の人口は2004年には約4,808万人であるが、2020年には約4,996万人になりピークを迎える。その後は人口減少社会に入り、2050年には4,235万人になる見通しである。
 韓国における少子化の背景には、〔1〕子どもにかかる教育費の増大、〔2〕親の意識の変化(老後を子どもに頼るという考えの変化)、〔3〕初婚年齢の上昇、〔4〕女性の社会進出等が指摘されている。この状況に危機感を持った韓国政府は、2003年12月に大統領府に委員会(「高齢化と未来社会委員会」)を設置した(当初はタスクフォース(臨時の作業班)、2004年2月に委員会に格上げ)。委員会では、少子・高齢化等に関わる中長期的な計画の立案等を行っており、2004年1月には「少子・高齢社会対応のための国家戦略」を策定し、同年6月には「育児支援方案」を策定している。これらの中では、育児支援の強化、保育サービスの充実、男女平等社会実現の推進等がうたわれている。また、保健福祉部(厚生労働省に相当)でも「2004年保健福祉主要業務計画」の中で少子・高齢化を5つの主要課題の一つとして位置づけている。
第1‐4‐24図 韓国の「少子・高齢社会対応のための国家戦略」の概要(一部)


 韓国で実施されている少子化対策の状況をまとめると、以下のとおりである。まず、出産休業は90日間(出産後は45日以上)、育児休業は12か月まで取得可能である。後者については、その取得を推進するために、手当の支給が雇用保険から実施されている(2001年までは無給)。また、育児休業中の代替要員を雇用した企業に補助金を支給している。しかしながら、2003年の取得者は6,816人と2002年の3,763人より大幅に増えてはいるが、政府の見込みより著しく少ない。保育サービスでは、公営と民営の保育所のほか、事業所設置の保育所と家庭型(小規模)保育所が制度化されている。これらの保育施設への2002年の入所者数は770,029人であり、0~5歳の人口の20.7%をカバーしているが、待機児童が多いことも指摘されている。経済的支援として、税制における「家族扶養控除」の他、「教育費控除」(幼稚園や保育所などの費用の所得控除制度)があるが、わが国の児童手当に相当する制度はなく、「少子・高齢社会対応のための国家戦略」の中でも「2008年までに実施についての検討を行う」にとどまっている。

(2)シンガポール―ユニークな政策を実施

 国土が699平方キロメートルと東京都区部(621平方キロメートル)より若干広い面積で、人口が約424万人のシンガポールでは、1965年の独立以降、出生率抑制を含む人口政策が実施されてきた。1980年代の大幅な出生率低下を背景に、1987年の「新人口政策」の下、子育て世帯への税制優遇、育児休業(期間中無給)の実施等を進めてきた。2000年以降には、ベビーボーナス、有給の育児休業、保育施設の充実等の新しい政策が実施されている。
 シンガポールでは、未婚率の上昇が激しく、独身者対策として、国営の「お見合い(出会いの場提供)センター」が運営されている。1984年設立のこのセンターはSDU(社会発展局)が運営しており、年間800以上の各種イベントを実施し、2003年で10,638人が参加している。
 シンガポールでは、特徴のある経済的支援としてベビーボーナスと税制を挙げることができる。ベビーボーナスはオーストラリアでも実施されているが、シンガポールで2001年に導入されたベビーボーナスでは、子どもの出生時の現金給付と政府の補助も加わった積み立て制度から構成されている。前者は、第1子~第2子で3,000シンガポールドル(約20万円)、第3子以降は6,000シンガポールドル(約40万円)を出生から18か月までの間に分割で支給する制度である。支給にあたって所得制限はなく、子どもが生まれた全ての者に資格がある。後者は第2子から第4子までを対象とした貯蓄制度で、親からの貯蓄と同額の補助が政府から支給され(6年間で、第2子で最高6,000シンガポールドル(約40万円)、第3子以降で最高12,000シンガポールドル(約80万円))、専用の口座に積み立てられる。積立金は保育所や幼稚園の保育料等の支払いに充てることができる。
 税制では、〔1〕扶養控除、〔2〕保育者控除、〔3〕税額控除で子どもがいる者を対象とした支援が実施されている。〔1〕として、扶養子ども控除(Qualifying Child Relief)と就業女性子ども所得控除(Working Mother's Child Relief)がある。前者は、16歳未満の子ども1人につき一定の金額(第1子から第3子の場合は2,000シンガポールドル(約13.3万円))を所得から控除する制度である。後者は、就業している女性で子どもがいる者に対して、就労による所得の一定割合(第1子で就労所得の5%、第2子では就労所得の15%、限度額あり)を控除する制度である。
 〔2〕として、祖父母控除(Grandparent Caregiver Relief)と外国人メイド控除(Relief for Foreign Maid Levy)がある。前者は就業している女性で、子どもの保育を父母(祖父母)等に頼んでいる場合に、3,000シンガポールドル(約20万円)を控除する制度である。後者は、就業している女性等が、外国人メイドを雇用した場合、外国人メイド人頭税(外国人メイドを雇用したときに支払う人頭税)の2倍に相当する額(限度額は2005年で8,280シンガポールドル(約55万円))を所得から控除する制度である。こうしたいわゆる「祖父母税制」、「メイド税制」は、高学歴者を中心に就業している女性の出産を促進するねらいがあるものと思われる。
 〔3〕として、特別税額控除(Special Tax Rebate)が実施されていたが、2005年から扶養者税額控除(Parenthood Tax Rebate)に改められている。この制度は、出産を奨励し、子育て費用の軽減を計ることを目的としており、第2子からを対象にしている。控除額は第2子で1万シンガポールドル(約66.6万円)、第3子で2万シンガポールドル(約133.3万円)となっている。

(3)中国―「一人っ子政策」の動きと関連制度の状況

 近年、経済成長が著しく、2005年7月にイギリスで行われたグレンイーグルズ・サミット(先進国首脳会議)に招かれた中国では、「一人っ子政策」と呼ばれる独特の政策を実施してきた。中国では、1970年代に、世界一の人口を踏まえ、将来にわたって安定した経済社会とするために、国をあげて人口増加を抑制する必要性が出てきた。そうした中、1979年から、「晩婚」、「晩産」、「少生」(少なく産む)、「稀」(出産間隔を空ける)、「優生」(子どもの質を高める)を主な柱とした「計画出産」を行う政策(いわゆる「一人っ子政策」)が実施されてきた。特に、各地域で計画出産条例を定めて、政策を実施してきた。
 子どもは一人が原則であり、第2子以上については、地方政府の許可制となっている。都市では原則が厳格に守られたが、農村では、労働力確保の観点から、柔軟な運用が行われてきた。なお、少数民族については制度を適用しないなど、別の取り扱いがあった。現在、国の法律として「人口及び計画出産法」が2002年から施行されており、第2子の出産は都市部を含めた各地域の実情により認められるようになった。
 中国の合計特殊出生率を国連の統計で見ると、1970年~1975年平均で4.86、1975~1980年平均で3.32であったものが、1980年代以降は急速に低下し、1990年~1995年平均で1.92、2000年~2005年平均で1.83となっている。これを出生数に換算すると、この30数年間で出生数を3億人程度減少させたといわれている。こうした出生力低下は「一人っ子政策」が効果をあげたものであると考えることができる。

第1‐4‐25表 中国「一人っ子政策」の概要
項目
内容
政策の柱 「晩婚」、「晩産」、「少生」(少なく産む)、「稀」(出産間隔を空ける)、「優生」(子どもの質を高める)
法律 (当初)
・中央政府:「婚姻法」
 地方政府:「計画出産条例」(地方政府が具体的な内容を決定)
(現在)
・中央政府:「人口及び計画出産法」が制定(2002年)
 地方政府:「計画出産条例」等
内容 〔1〕 晩婚を奨励する
〔2〕 子ども1人を宣言した夫婦は「一人っ子証」を受領し、奨励金や住宅などの優先配分などを受ける
〔3〕 その一方で、超過出産、計画外出産に対しては、賃金カットなどのペナルティーを課する
第2子の出産について (都市)
・第1子が障害を有する場合
・夫婦双方が一人っ子の場合等
(農村)
・第1子が女子の場合
・地域全体の出生数の10%以内に収まる場合等
(少数民族)
・制度を適用しない等の別の取り扱い
資料: 中国「人口と計画生育委員会」資料、厚生労働省資料から内閣府少子化対策推進室において作成


 その一方で、一人っ子政策の問題点として、〔1〕中絶件数の増加、〔2〕出生性比のゆがみ(男の子を選好することにより、出生児の男女比が均衡を失う)、〔3〕超過出産によるペナルティー逃れのために出生登録をしない「黒孩子」(ヘイハイズ)の増加、〔4〕「小皇帝(男子の場合の呼び名。女子の場合は、小公主)」とよばれる過保護問題、〔5〕急速な高齢化の進展(高齢化率が1980年には4.7%から、2000年には6.9%、2050年には22.7%に増加)等が指摘されている。
 このような中、「計画出産」を厳格に守り、高齢期に入った夫婦に対して、奨励扶助金を支給する制度の試行が2004年から一部の地域で開始されている。支給額は標準で年600元(約8,200円。なお、中国農村部の一人あたり現金消費支出は2003年で1576.64元(約2万1500円))であり、対象者が死亡するまで支給される。財源は中央政府と地方政府(原則として省政府)が負担するが、負担割合は地域により異なり、中部地域は50%対50%、西部地域は80%対20%、東部地域は省政府の全額負担となっている。2005年には試行対象地域が拡大されている。なお、東部地域の一部の省では、地方政府単独事業として試行されている。この試行対象地域の拡大により、2005年にこの事業の対象者は中国全体で135万人であり、政府が必要とする予算は8億元に達する。そのうち、国家事業分の対象者は93万人であり、中央政府の負担が4億元、地方政府の負担が2億元となっている。この制度は計画出産を「多産処罰」的なものから「少生奨励」的なものへの転換をはかるものとされている。その一方で、農村で整備されていない年金制度を補完すること、つまり、農村部での高齢者の扶養機能の社会化を目的としていることが考えられる。
 また、中国では労働法や女職工労働保護法により、出産休業があり、各地方政府が運営する生育保険から出産休業中の手当が支給される。また、0~2歳までの子どもを対象に託児所が運営されているが、女性の社会進出の度合いに対して、供給が少ない。そして、児童手当については、中央政府による全国共通の制度は存在せず、都市部及び一部の農村で1999年から税財源による所得制限付きの手当が低所得世帯を対象に支給されている。
 なお、2000年の中国の人口は、12億7,500万人と、世界人口の21%を占めているが、2050年には、13億9,500万人と、世界の15.6%を占めるものの、同じグレンイーグルズ・サミットに招かれたインドの15億3,000万人を下回る水準になることが見通されている。

コラム その他の地域(中国語圏)における状況

 東アジアの主な国や地域ではわが国と同様に少子化が進行している。本文で取り上げた以外の地域での状況はどのようになっているのであろうか。ここでは、東アジアの中国語圏として、香港と台湾について見てみよう。
 1997年に中国に返還され、特別行政区となった香港では、2003年に当局から「人口政策専責小組報告書」が公表された。その中で、合計特殊出生率が1.00を下回る一方で、中国本土からの人口流入が多い中、香港の人口政策は、〔1〕質の高い人々の受け入れを推進する、〔2〕人々の教育水準等の人的資本の向上に資する政策を重視、〔3〕出産は個人の決定にゆだねられるべきもの等から、出生率を回復させる政策は採らない、ことを打ち出している。特に最後のスタンスは、香港より合計特殊出生率が高い韓国等が出生率回復のスタンスを打ち出していることと比べ、特色ある政策スタンスを打ち出していると言えよう。なお、香港でも出産休業や保育サービスの提供が実施されているが、少子化対策ではなく、家庭機能の支援、雇用政策の観点から実施されている。
 中国本土から海峡をはさんで位置している台湾でも出生率の低下が著しく、台湾の人口は2004年の約2,269万人からしばらくは増加するものの、2022年の約2,370万人をピークにしてその後は減少する見通しである。そのような中、当局では、「適当な年齢で結婚し、出産する」ことを奨めるため、必要な対応をとることを基本的な方針としている。その方針の下、2002年には出産休業や育児休業制度の他、父親休暇、事業所における保育施設の設置、出産等による退職者への再就職支援等が制度化されている。保育サービスでも、幼保一元化が計画されている他、保育ママ(原語で「保母」)の登録制度、「幼児教育券」の支給(幼稚園、保育所に通う5歳児全員に保育料を補助する制度)が実施されている。また、当局が、「3歳児以下の医療費無料化」を実施している他、わが国の都道府県に相当するレベルでも独自の出産手当を支給している。また、当局内には1999年に児童局が設置され、児童福祉の体制強化が図られている。このように、台湾では、当局が基本的な方針を明確にする中で、少子化への対応を進めているところである。

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