2 社会全体の子育て費用

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(社会全体の子育て費用の推計)

 社会全体としては、育児や教育等、子育てに対してどのくらいの費用をかけているのであろうか。また、どのような分野で子育て費用がかかっているのだろうか。年齢別にみるとどのように変化するのか。子育て費用全体のうち、国や地方自治体等の公費による負担はどのくらいの割合だろうか。
 社会全体の子育て費用に対して、家計や国、地方自治体等はどのように対応していくことがよいのか、子育ての社会的支援というときにどの分野に力を入れていくのか、など今後の少子化社会対策を考える上での参考とするために、内閣府では、「社会全体の子育て費用に関する調査研究」(以下「子育て費用研究」という。)を行い、子育て費用のマクロ推計を行ったので、その結果を解説する。

(子育て費用総額は、38.5兆円)

 2003(平成15)年度の社会保障給付費(年金や医療保険給付など、社会保障制度を通して1年間に国民に給付される金額)は、総額84兆2,668億円であるが、そのうち児童家族関係給付費は3兆1,626億円、全体の3.8%となっている。ただし、この児童家族関係給付費は、児童手当(2003年度では4,365億円)、児童扶養手当等(4,792億円)、保育所運営費等の児童福祉サービス費(1兆6,724億円)が主なものであり、医療費や教育費、生活費等は含まれていない。そこで、「子育て費用研究」では、社会全体の子育て費用を把握するために、図(第1‐5‐11図)のとおり、租税支出まで含めて幅広に推計を行った。

第1‐5‐11図 子育て費用のマクロ推計における主な捕捉対象



 研究結果では、2002(平成14)年度における18歳未満の子育て費用総額は、38.5兆円であり、日本全体の最終消費支出に対する割合は10.4%、対国民所得比では7.6%となっている。2002年度の数値は、1997(平成9)年度の数値よりも若干減少しているが、これは18歳未満の子ども数の減少によるものである。子育て費用総額38.5兆円という規模は、社会保障給付費総額約84.3兆円と比較をすると46%の規模、社会保障給付費の中の年金給付額44.8兆円よりも少なく、国民医療費31兆円よりは大きいという水準となっている。社会保障給付費の中に、高齢者の年金、医療給付費等を合わせた高齢者関係給付費があるが、この金額(2003年度において59.3兆円)と比較をすると6割程度となる。
 なお、家庭内で親が行う育児活動は金銭の支払が行われない「無償の労働」であるが、これを「家庭内育児活動費用」として、仮にパート労働者の平均賃金を基にコスト換算すると、年間8.1兆円の規模となる5。このうち、女性労働分は7兆400億円、男性労働分は1兆400億円であり、家庭内育児活動のほとんどを女性に依存している状況となっている。
5 家庭内育児を金銭換算するには、1人あたりの育児時間×時間あたりの平均賃金×365日で算出した。1人あたりの育児時間については、社会生活基本調査(総理府統計局)の結果を用いている。たとえば、ゼロ歳児であれば、女性の育児時間は1日あたり307分、男性の場合は39分である。「時間あたりの平均賃金」については、〔1〕外で働いていたと仮定した場合(機会費用法)、〔2〕育児の専門家(保育士)に依頼すると仮定した場合(代替費用法スペシャリストアプローチ)、〔3〕家事使用人に依頼すると仮定した場合(代替費用法ジェネラリストアプローチ)の方法がある。本文中の数字は、〔3〕の方法によるもので、パート労働者の平均賃金を使用したものである。
第1‐5‐12図 子育て費用と他の費用の比較


第1‐5‐13図 子育て費用総額(18歳未満)


(分野別では、教育費が最も多い)

 分野別に子育て費用をみると、「教育費(学校教育費・学校外学習費)」が最も多く、20.3兆円かかっており、子育て費用全体(家庭内育児活動費用を除く)の52.7%を占めている。公費負担の額も、12.9兆円と最も多い。次いで、「その他生活費」が12.7兆円(全体の33.0%)、「医療費、妊娠・出産費」が3兆円(同7.8%)となっている。
 これを年齢階層別にみると、0~5歳では、「その他生活費」の私費負担が大きく、公費負担では、「児童福祉サービス費」や「手当・一時金等」が多い。この時期の特徴は、親が行う家庭内の育児労働を金銭換算すると、7.4兆円と、「児童サービス費」や「医療費、妊娠・出産費」等の他のすべての費用を合わせた額よりも大きくなることである。金額的にみると、乳幼児の育児は、家庭内の親の労働に多くを負っていることがわかる。
 6~11歳及び12~17歳では、「教育費」が圧倒的に多くなり、6~11歳では全費用の57.6%、12~17歳では65.4%を「教育費」が占めている。「教育費」に次いで「その他生活費」となっている。
第1‐5‐14図 分野別にみた子育て費用総額(18歳未満)



第1‐5‐15図 分野別・年齢(3段階)別にみた子育て費用総額(18歳未満)


(公費負担の割合は、子育て費用総額の約5割)

 子育て費用について、公費負担・私費負担別6にみると、2002年度では公費負担は20兆円と、子育て費用全体の約5割(51.8%)を占めている。実質的な私費負担は18.5兆円である。1997年度と比較をすると、子育て費用の総額は少子化の影響により減少しているが、公費の負担額は増加している。
6 内閣府「社会全体の子育て費用に関する調査研究」(2005年)における「公費負担」とは、国や地方自治体の負担金、補助金等の負担のほか、社会保険における負担や扶養控除による税の軽減等も含む。一方、「私費負担」とは、保育料や医療保険の自己負担分、衣食住費などの家計の負担をいう。

第1‐5‐16図 子育て費用総額の公費負担・私費負担の内訳(家庭内育児活動費用を除く場合、18歳未満)



 公費負担の内訳を施策領域別にみると、「学校教育費」が圧倒的に多く、2002年度では12.9兆円と、公費負担総額の64.5%を占めている。次いで、福祉・医療関係が5.6兆円(28.0%)、租税支出等が1.5兆円(7.4%)となっている。
 福祉・医療関係の公費負担の内訳をみると、児童福祉サービス費が2.1兆円、医療費が2.1兆円、手当等給付費が1.5兆円となっている7。これらは、1997年度と比較をして、いずれも増加している。
7 内閣府「社会全体の子育て費用に関する調査研究」(2005年)における「福祉・医療関係」の公費負担の額の方が、2002年度の社会保障給付費の中の「児童・家族関係給付費」よりも大きいが、主たる相違は、前者には保育サービスの利用者負担や子どもの医療費が含まれているからである。

第1‐5‐17図 公費負担の内訳



第1‐5‐18図 福祉・医療関係費(公費負担)の内訳(18歳未満)


(子ども1人あたりの子育て費用は、年間173万円)

 子育て費用を子ども1人あたりでみると、1997年度が166万円、2002年度が173万円である。2002年度において、これを年齢階層別にみると、0~5歳では、115万円、6~11歳では182万円、12~14歳では212万円、15~17歳では218万円となる。年齢があがるにつれて金額が大きくなっているのは、小学校、中学校、高校にかかる学校教育費が大きくなるからである。
 公費負担と私費負担の分担をみると、0~5歳では、公費負担が62.6万円、私費負担が52.1万円、6~11歳では、公費負担が100.2万円、私費負担が82.2万円、15~17歳では、公費負担が103.9万円、私費負担が114.6万円となっている。全平均では、公費負担が83.2万円、私費負担が83.2万円である。
 こうしてみると、0~5歳では子育て費用が他の年齢区分よりも低いようにみえるが、実際には、親の家庭内育児活動費用は大きく、1人あたり86.5万円かかっている計算となる。これを加えると、0~5歳児の子育て費用は他の年齢階層と同じか、やや高い水準となる。家庭内育児活動費用のうち、9割は女性(妻)の労働である。また、もし女性が職場で働いていたとすれば得たであろう逸失利益(機会費用)でみると、もっと高い水準となる。
第1‐5‐19図 子ども1人あたりの子育て費用(18歳未満、家庭内育児活動費用を除く)



第1‐5‐20図 年齢(4段階)別子ども1人あたりの子育て費用における公費・私費負担の内訳(家庭内育児活動費用を含む場合、18歳未満)

(子育て費用研究結果が示唆するもの)

 2002年度においてゼロ歳から17歳までの子どもは2,275万人であるが、その子ども達に対する社会全体の子育て費用総額は38.5兆円であり、子ども1人あたりにすると173万円になるが、この数字をどのように評価したらよいだろうか。
 子育て費用総額のうち、公費負担部分の規模は20兆円であり、対GDP比で約4.0%となる。欧米主要国で全く同じ研究結果はないものの、OECDのデータ等(2001年)によると、家族政策支出と教育費の公費負担支出の対GDP比は、スウェーデン11.2%、フランス8.5%、イギリス6.7%、ドイツ6.5%、アメリカ6.0%、日本4.2%となっている。
 また、0~5歳児においては、公費負担や私費負担をあわせた金額よりも、親、特に母親の家庭内育児活動費用が圧倒的に多くなっている8。育児の一義的責任は両親にあることは言うまでもないが、家庭内育児活動の負担のほとんどは母親である女性に偏っている。
 女性にとっては、結婚・出産により、家庭内育児活動の負担が集中することに加え、仕事をやめたことに伴う機会費用の大きさが子育ての負担感を増し、それが結婚や出産をためらわせ、少子化に影響を与えていると考えられる。このため、機会費用を小さくする仕事と子育ての両立支援や女性の再就職支援の取組の充実が必要である。さらに、現実に乳幼児期の子育ての多くを担っている家庭内育児に対して、どのような社会的支援策を進めていくのか検討が必要である。
8 家庭内育児活動の金銭換算を、注5で述べた〔1〕の機会費用法で試算してみると、約13兆円となる。

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