第3節 子育てに対する社会的支援の在り方と今後の方向

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1 少子化対策に関する5つの視点

(子どもは社会の希望、未来の力)

 本年(2005(平成17)年)は、第2次世界大戦の終戦から60年目であるが、終戦まもなくの2年後には「児童福祉法」(昭和22年法律第164号)が制定された。児童福祉法第1条では、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。〔2〕すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」とし、第2条では「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と規定している。1951(昭和26)年5月5日には、わが国は「児童憲章」を定めた。「児童は人として尊ばれる。/児童は社会の一員として重んぜられる。/児童は、よい環境の中で育てられる。」という3原則を前文に掲げて、私達や政府がすべての児童の幸福を図るために行うべき12の事項を列挙している。
 こうした児童福祉法に規定された理念や児童憲章に掲げられた原則の背景には、戦争によって国富の4割と310万人の人々を失い、多くの戦災孤児や浮浪児をかかえることになった戦後の日本にとって、児童すなわち子ども達の健全育成が日本の将来を決することになること、言い換えれば、子どもはこれからの社会の希望であり、未来の日本社会をつくりあげていく力であるという考え方があったといえるであろう。
 結婚や出産は個人の自由な決定に基づくものであることは言うまでもないが、子どもが生まれることは、親にとってはもちろんのこと、祖父・祖母等の肉親、親戚、さらには地域社会等にとっても喜びである。親は子どもの成長を期待しながら子育てをし、子どもは、親や社会の育児や教育・訓練等を経て成長して、次の社会の担い手となる。子ども達の世代は、親の世代がつくりあげた社会や文化を引き継ぎながら、次の社会をつくりあげていく。こうして日本社会は、2000年以上の時代を経て、現在に至っている。まさしく、子どもは「社会の希望」であり、「未来の力」である。

(少子化の流れに歯止めをかける責任)

 1990年代以降顕著となってきた少子化傾向により、わが国はまもなく総人口が減少に転じ、長い期間にわたって人口減少社会に突入することになる。人口が減少しても、一人当たりの生産性が高まれば、経済的には問題がなく、人口減少社会に危機感をもつ必要がないという意見もある。しかし、1億人程度の規模で人口減少が止まればまだしも、前述したとおり(第1章 第3節参照)、このままの低出生率が続けば、2100年には6,000万人程度と、現在の総人口の半分の規模となってしまう。総人口が半減するような社会では、国全体の活力はもとより、地域社会の活力を維持していくことさえ甚だ困難であろう。少子化の進行は、日本社会の持続性に対して疑問を投げかけている。
 これから人口減少社会に対応した社会経済システムの構築への取組が必要であることは言うまでもないが、同時に、少子化の進行に歯止めをかけるために社会全体で取り組んでいくことが必要である。第4章でみたとおり、欧米諸国では、フランス、スウェーデン、イギリスなど、わが国よりも高い出生率を維持したり、中にはフランスのように出生率が上昇に転じて「ベビーブーム」を迎えている国もある。こうした国々の施策も参考にしながら、総合的な少子化対策を講じたり、社会全体で子育て世帯を支援したりすることにより、少子化の流れを変えていかなければならない。さもなければ、100年後に総人口が半減してしまうという事態を招くことになる。100年後の世代に「人口半減社会」を残さないようにすることが、現在の日本社会に生きる私たちの責任である。
 これまで述べてきた本白書の内容や、前節までに述べたニーズ等を踏まえ、子育て女性の意識調査等に表れた少子化対策として重要と考えるものを中心に、これからの少子化対策を進めていく上で重要な視点を5点にまとめてみよう。

(1)個別の施策の見直し・改善

 わが国は、子育て支援のメニューはそろっているものの、第4章でみたとおり、近年出生率が回復傾向にあるフランスやスウェーデン等のヨーロッパ諸国の児童・家族政策の内容と比較をしてみると、個々の施策では必ずしも十分な内容に達していないものもある。これまでの施策について総点検をして、財源の問題や、受益と負担に対する国民の合意を得ることに考慮しつつ、見直し・改善等の検討が必要であるといえる。
 世論調査等では、経済的支援に対するニーズが高いことがわかるが、たとえば、児童手当制度については、支給対象年齢、給付金額の水準、所得制限の有無などについて、フランス、スウェーデンなどの制度を比較すると、わが国は限定的な内容となっている。また、フランスの乳幼児迎入れ手当やイタリアの一時金制度など、児童手当以外の制度を持っている国もある。いずれにせよ、社会全体で次世代の育成を効果的に支援していくため、児童手当等の経済的支援を含め、地域や家族の多様な子育て支援、働き方に関わる施策など多岐にわたる次世代育成支援施策について幅広く検討することが必要である。
 なお、児童手当等の各国比較(第4章参照)のとおり、児童手当と税制を同時に拡充するよりは、どちらかに力点を置く傾向がある。児童手当制度の拡充には新たな財源を要するため、児童手当と税制との関係、子育て世帯に及ぼす影響と効果等についても検討する必要がある。

(2)多様性と総合性に配慮した支援

 経済社会や家族形態の変化とともに、子育て世帯の状況が多様化している。児童のいる世帯の状況をみると、三世代世帯の割合が減少し、母子世帯の割合が増えている。「平成17年度版母子家庭就業支援白書」によれば、2003(平成15)年現在の母子世帯(父のいない児童(満20歳未満の子どもであって、未婚のもの)がその母によって養育されている世帯)の数は約122万5千世帯であり、5年前と比べて約28%増となっており、「国民生活基礎調査」(2003年6月)の全世帯数(45,800千世帯)の2.7%にあたる。同調査によると、母子世帯の1世帯あたりの年間平均所得金額は233万6千円であり、一般世帯(同589万3千円)、高齢者世帯(同304万6千円)に比べ、低い水準にとどまっている。母子家庭の自立支援は、母親のみならず児童の健全育成という観点からも重要である。
 また、若年層の就業形態が変化している。パートやアルバイトは既婚女性だけでなく、若年男女においても主要な働き方になりつつあることから、「平成17年版 国民生活白書」によれば、夫婦の中で共働き世帯の割合は増えているものの、1990(平成2)年と比較をして「フルタイム同士」の夫婦の占める割合は減少し、「夫フルタイム・妻パートタイム」の夫婦が増加している9。さらに、「パートタイム同士」の夫婦も20代後半から30代前半の世帯全体の4~5%に達している。パートタイム同士の夫婦では、2人の収入をあわせて20代で年収230万円強、30代でも年収280万円強である。
9 若年層の共働き夫婦の就業形態をみると、1990年では「夫フルタイム・妻フルタイム」が全体の59.7%、「夫フルタイム・妻パートタイム」が37.5%であったが、2004年では、前者は48.9%に減少し、後者は44.4%に割合が増加している(「平成17年版 国民生活白書」)。

 こうした例からもわかるように、子育て世帯の状況が変化・多様化してきていることを踏まえて、きめ細かな支援策が求められる。
 一方、乳幼児の昼間の居場所をみると、図(第1‐5‐21図)のとおり、0歳から2歳までは家庭保育が中心であり(0歳児では96.1%、1歳児では83.1%、2歳児では75.5%)、3歳児以降では幼稚園及び保育所の割合が高まっている。4、5歳児では、約95%が幼稚園または保育所に通っている。こうした状況をみると、保育所の量的拡大ばかりでなく、0歳から3歳頃までの家庭保育に対する支援、たとえば地域における子育て支援サービスや安心して遊べる公園の整備、子どもへの犯罪防止など地域の治安の強化など、また、共働き世帯に対しては、仕事と育児の両立支援策の一層の充実が必要であり、さらには、幼稚園と保育所の機能を併せ持った総合施設の検討・推進や経済的支援策など、様々な施策を総合的に展開していくことが重要である。
第1‐5‐21図 就学前児童の居場所


(3)国民的な子育て支援運動の推進

 (財)子ども未来財団が、妊娠中または3歳未満の子どもを子育て中の母親を対象に行った世論調査10では、80%の女性が「子どもを産みたい、育てたいと思える社会ではない」と答えている。また、「子どもは社会の財産、社会全体で暖かく見守ってほしい」(87%)、「制度や設備が整うだけでは不十分。国民全体の意識改革が必要だ」(83%)、「子育てを応援する社会とは思えない。1日も早く改善してほしい」(77%)と、社会全体の育児支援に対する制度面ばかりでなく、意識面においても課題が多いことを指摘している。
 たとえば、育児休業を取りにくい理由として、社内において育児休業を取りにくい雰囲気があり、その内容として経営幹部や管理職が育児休業に否定的であることを挙げる人が少なからず存在する(日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」(2003年))。育児休業制度が「絵に描いた餅」とならないように、企業経営者が率先して従業員の育児休業取得促進に努力しなければならないことは言うまでもない。2005年4月から次世代育成支援のための行動計画が実施されていることも踏まえ、政府と経済界、労働界とが一体となって企業における子育て支援推進のための運動を推進することが重要である。また、中小企業に対する重点的な支援策の検討など、今後とも希望する者すべてが安心して育児休業を取得できる環境の整備に一層取り組む必要がある。
10 (財)子ども未来財団による「子育て中の母親の外出時等に関するアンケート調査」(2004年)。インターネット調査で、有効回収数は1,069サンプル。

(4)地方自治体における取組の推進

 少子化問題は、国全体の問題であるとともに、地域においてはより切実な問題である。第1章でみたとおり、合計特殊出生率には地域格差があり、低下しているところが多いが、地域によっては、反転し上昇しているところもある。第3章では、地方自治体における独自事業の調査結果を概括したが、地方自治体において様々な取組がなされている。個別の施策がどの程度、出生率に影響を与えるかは判然としないが、地方自治体が、保育所の待機児童ゼロの取組をはじめ、多様な保育サービスの展開、NPO団体等による地域の子育て支援活動に対する助成、乳幼児医療費の負担軽減、子育て世帯の住宅取得促進、特別の手当の支給等、様々な施策を展開することにより、全体として「子どもを生み、育てやすいまち」という生活環境をつくることが重要である。
 また、少子化と同時に高齢化も急速に進展することを考慮すれば、高齢者が住みやすいまちづくりとともに、子育てしやすいまちづくりに対して全地方自治体が取り組むこととなれば、わが国の子育て環境は一変することであろう。

(5)子育てに対する社会的支援の充実

 わが国では長い間、老後の生活や高齢者の介護、子どもの育児は、家族の責任に委ねられてきた。しかし、寿命の伸長や生活水準の向上、核家族化の進展、生活形態の変化等から、家族のみがこれらの仕事を担うことは難しくなり、高齢者に対しては、年金制度や老人保健、老人福祉、さらには介護保険と、社会的な仕組みとして、生活を支える社会保障制度の充実が図られてきた。一方、子育てに対しても、保育所等の児童福祉や児童手当等の社会手当など、社会的な支援の仕組みがつくられてきた。
 しかし、社会保障給付費(2003年度)の規模でみると、全体で84.3兆円のうち、高齢者関係には全体の7割の59兆円が給付されているのに対して、児童・家族関係給付費は全体の約4%、3.2兆円に過ぎない。仮に、高齢者関係給付費を65歳以上人口で除し、児童・家族関係給付費を15歳未満人口で除すると、1人あたり給付費は、高齢者は約247万円であるのに対し、子どもは約17万円となる。これは、高齢者に対する社会的支援に比べて、子どもに対する社会的支援の規模が極めて小さいことを示している。
 本章 第2節でみたとおり、わが国の社会全体の子育て費用は38.5兆円(2002年度)であり、そのうち公費負担部分は約5割を占めているが、その3分の2は学校教育費、その約3割が医療・福祉関係費となっている。
 図(第1‐5‐22図)のとおり、OECD諸国において、各国の家族政策に関する財政支出(児童手当、育児休業手当、保育サービス等)の規模を対GDP(国内総生産)比で比較すると、日本は0.6%であるが、大多数の国は日本よりも数値が高く、スウェーデンやフランスは日本の5倍の3%弱となっている。
 また、教育費への公的支出の対GDP比をみても、日本は3.5%と、OECD諸国中ではトルコに次いで最も低い水準にあり、フランスは5.7%、スウェーデンは6.3%と日本の2倍前後、教育に関する私的な負担が多いアメリカでも、公的支出は4.8%と、日本よりも高い。
 前述したとおり、これまでの施策の見直し・改善を図りながら、社会保障給付について、大きな比重を占める高齢者関係給付を見直し、これを支える若い世代及び将来世代の負担の軽減を図るとともに、多岐にわたる次世代育成支援施策について、総合的かつ効率的な視点に立って、その在り方等の幅広い検討を進め、子育てに対する社会的支援を充実させる必要がある。
第1‐5‐22図 各国の家族政策に関する財政支出の規模(対GDP比)



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