2 わが国における子育て意識の特徴

[目次]  [戻る]  [次へ]


 わが国は、戦後の経済成長に伴い、物質的な豊かさは飛躍的に向上したものの、前述したとおり、その間、経済的な豊かさや個人を優先させるライフスタイルの広がり等により、従来の子育てにおいて重要な役割を果たしていた家族の絆や地域の絆が薄まってきたことが少子化傾向にも影響を与えていると指摘されている。他方、欧米諸国は、もともと経済的な豊かさや個人を優先する考え方が強かったにもかかわらず、最近では、フランスやスウェーデンのように、少子化の流れに歯止めをかけることに成功した国もみられる。
 ここでは、日本、韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンの5か国における子育ての意識を比較した調査(内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」(平成18年3月))を中心に、わが国の育児に関する考え方の特徴をみてみよう。こうした国際意識調査を政府が行ったのは初めてのことである。調査対象は、5か国の20~49歳までの男女(約1,000サンプル)である。なお、この5か国の合計特殊出生率や労働力率等を比較すると、第1‐5‐10表のとおりである。
第1‐5‐10表 5か国における合計特殊出生率等の比較
 
人口
(万人)
年間出生数
(万人)
合計特殊出生率
平均初婚年齢
労働力率
(15歳以上の男女)
(%)

(歳)

(歳)
日本
12,777
106.3
1.25
29.8
28.0
60.4
(2005年)
(2005年)
(2005年)
 
(2005年)
(2005年)
韓国
4,829
43.8
1.08
26.9
23.9
62.1
(2005年)
(2005年)
(2005年)
 
(1983年)
(2004年)
アメリカ
29,366
411.6
2.05
26.7
24.8
66.0
(2004年)
(2004年)
(2004年)
 
(1988年)
(2004年)
フランス
6,218
80.0
1.94
27.7
25.6
55.4
(2004年)
(2004年)
(2005年)
 
(1987年)
(2004年)
スウェーデン
899
10.1
1.75
30.7
28.1
77.7
(2004年)
(2004年)
(2004年)
 
(1988年)
(2004年)
資料
人口:日本は総務省統計局「国勢調査」。韓国は韓国統計庁資料。アメリカはアメリカ厚生省資料。その他はEU資料。
年間出生数:日本は厚生労働省「人口動態統計」、韓国は韓国統計庁資料、アメリカは疾病管制局(CDC)資料、その他はEurostat。
合計特殊出生率:日本は厚生労働省「人口動態統計」。韓国は韓国統計庁資料。アメリカはアメリカ厚生省資料。その他はEurostat。
平均初婚年齢:日本は厚生労働省「人口動態統計」。その他は「人口統計資料集2006年版」(国立社会保障・人口問題研究所)から引用。
労働力率:日本は総務省統計局「労働力調査」。その他は厚生労働省「2004~2005年世界情勢報告」から引用。
(CSV形式:2KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

(育児における夫婦の役割分担意識)

 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、肯定的な意見(「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計)が多かったのは、日本(57.1%)と韓国(48.5%)である。他方、否定的な意見(「反対」と「どちらかといえば反対」の合計)が多かったのは、スウェーデン90.7%、フランス71.4%、アメリカ54.6%である。
 日本や韓国では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という性別での役割分担意識を持つ人が多いのに対し、スウェーデンやフランス、アメリカでは、その考え方に否定的な人が多く、性別での役割分担意識が弱いことがうかがえる。特に、スウェーデンでは肯定的な意見を持つ人は8.6%に過ぎず、9割の人が否定的である。
 このような結果から、日本や韓国では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という家庭内の役割分担の意識が強く、次に述べるように、実態上も子育てを妻に依存している。
第1‐5‐11図 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について

 次に、就学前の子どもの育児における夫・妻の役割分担について、「主に妻が行う」(「もっぱら妻が行う」と「主に妻が行うが、夫も手伝う」の合計)と回答した割合が多かったのは、韓国(67.9%)と日本(66.8%)である。他方、「妻も夫と同じように行う」と回答した割合が多かったのは、スウェーデンが92.4%と大変高く、アメリカ(60.4%)、フランス(53.3%)も韓国・日本よりも高い。
 合計特殊出生率が低い日本や韓国では、子どもの育児を妻に依存する傾向がみられるのに対し、日本・韓国よりも合計特殊出生率が高いスウェーデンやアメリカ、フランスでは、夫婦で育児を分担している。
第1‐5‐12図 就学前の子どもの育児における夫・妻の役割

 さらに、実際の子育て経験者の実態として、夫と妻が同程度あるいは夫の方が主として行っている(行っていた)ことでは、日本以外では「家の中で、話しや遊び相手をする」が最も多くなっている。「行っている」と回答したケースの全体的な割合をみると、日本は他の国よりも少ない傾向にある。日本では、夫と子どものふれあいやコミュニケーションが、比較的不足していることがうかがえる。
第1‐5‐13図 育児の中で、妻よりも夫の方が主に行っていること

(3歳までは家庭で子どもを育てることについて)

 子どもが3歳くらいまでの間は、保育所等を利用せずに母親が家庭で子どもの世話をするべきであるという考え方(いわゆる「三歳児神話」)について、肯定的な意見(「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計)が多かったのは、韓国(85.5%)、日本(67.8%)、アメリカ(62.7%)である。他方、否定的な意見(「反対」と「どちらかといえば反対」の合計)は、スウェーデン(67.5%)、フランス(48.8%)で高くなっている。
 実際、日本では、3歳未満の乳幼児のうち85%の子どもは、家庭で育てられている。一方、スウェーデンでは、0歳から1歳半までは父親・母親とも約8割の高率で育児休業制度を利用し、家で子育てをするが、育児休業が終了する1歳半以降は、保育所を利用しつつ仕事と育児を両立させながら子育てが行われている。また、フランスでも、0~2歳児の間でも、認定保育ママや保育所を早期に活用して働きながら子育てが行われていることが多い。
第1‐5‐14図 「子どもが3歳くらいまでの間は母親が家庭で子どもの世話をするべきである」という考え方について

(子どもの生み育てやすさ)

 自国が子どもを生み育てやすい国かどうかについては、肯定的な意見(「とてもそう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)が多かったのは、スウェーデン(97.7%)、アメリカ(78.2%)、フランス(68.0%)である。他方、否定的な意見(「どちらかといえばそう思わない」と「全くそう思わない」の合計)が多かったのは、韓国(79.8%)、日本(50.3%)である。
 他の3か国に比較して、少子化が急速に進行し、合計特殊出生率が大変低い水準で推移している日本と韓国において、自分の国が子どもを生み育てやすい国と考えていないという回答が多かったことは、示唆に富む。少子化対策の内容はもちろんのこと、子育てに対する夫婦の協力の在り方や、子育てに対して社会がやさしく対応しているのかなど、私達一人ひとりの意識や行動が問われているものとみることができる。
第1‐5‐15図 子どもを生み育てやすい国かどうかについて

(育児を支援する施策として何が重要か)

 「育児を支援する施策として何が重要か」を尋ねたところ、日本では「児童手当など、手当の充実」(67.5%)が最も高く、次いで「多様な保育サービスの充実」(55.5%)、「扶養控除など、税制上の措置」(47.0%)の順となっている。
 韓国では、「多様な保育サービスの充実」(60.6%)がトップであるが、次いで「教育費の支援、軽減」(58.0%)が高い点が他国と大きく異なる。
 一方、アメリカ、フランス、スウェーデンでは「フレックスタイム・パートタイムなどの柔軟な働き方」がトップ(それぞれ42.8%、51.3%、59.9%)であるが、この項目は日本では5番目(39.7%)となっている。
 フランスやスウェーデンでは児童手当などの家族給付の水準が日本よりも高いことと、男女とも労働力率が高いことから働き方に対するニーズが高いものと考えられる。
第1‐5‐16表 育児を支援する施策として何が重要かについて
(%)
国名/順位
1
2
3
4
5
日本 児童手当など、手当の充実 多様な保育サービスの充実 扶養控除など、税制上の措置 教育費の支援、軽減 フレックスなど柔軟な働き方の推進
1115人
67.5
55.5
47.0
42.8
39.7
韓国 多様な保育サービスの充実 教育費の支援、軽減 児童手当など、手当の充実 企業のファミリーフレンドリー政策の充実 出産退職後の職場復帰の保障の充実
1004人
60.6
58.0
52.2
51.0
38.3
アメリカ フレックスなど柔軟な働き方の推進 多様な保育サービスの充実 企業のファミリーフレンドリー政策の充実 犯罪防止など地域における治安確保 児童手当など、手当の充実
1000人
42.8
34.7
33.9
31.9
29.9
フランス フレックスなど柔軟な働き方の推進 児童手当など、手当の充実 扶養控除など、税制上の措置 教育費の支援、軽減 育児休業を取りやすい職場環境整備
1006人
51.3
46.2
41.0
39.4
38.2
スウェーデン フレックスなど柔軟な働き方の推進 育児休業を取りやすい職場環境整備 児童手当など、手当の充実 出産退職後の職場復帰の保障の充実 犯罪防止など地域における治安確保
1019人
59.9
44.1
40.8
37.9
35.9
資料:内閣府「少子化社会に関する国際意識調査報告書」(2006年3月)
(CSV形式:2KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

(意識調査からみた日本と韓国の類似性)

 上述したとおり、少子化に関連した意識調査において、日本と韓国は似通っている点が多い。
 両国は、夫と妻の家庭内の役割分担の意識が強く、実態上も子育てを母親に依存する傾向がみられる。また、いわゆる三歳児神話についても肯定的な意見が多い。フランスなど3か国と比較をして、「子どもを生み育てやすい」と答える人の割合が小さい。日韓両国は、時期は違うものの急速な経済発展をとげる一方で、出生率が急低下をしたという点でも似通っている。
 日本からみて韓国は地理的に最も近い国であり、歴史・文化の面からも千数百年前から深い関係がある。本年7月、少子化担当大臣が韓国を訪問し、韓国政府の保健福祉部長官等との間で、少子化問題について政府担当者の交流、シンポジウムの開催等の連携を図ることで合意をした。今後、日韓両国が連携を深めることで、双方の少子化対策の推進、国際交流・協力の進展に役立つことが期待される。
猪口邦子前少子化担当大臣(左)とユ・シミン韓国保健福祉部長官(右)による会談(2006年7月18日)

[目次]  [戻る]  [次へ]