3 欧米諸国の政策の動向

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(出生率の評価と政策スタンス)

 わが国と同様に、欧米諸国においても少子化が進行しているが、各国では、この事実に対してどのように認識し、対応しているのであろうか。
 出生率の水準に対する主要国の現在(2005年)の認識を国連の資料からみると、フランス、ドイツでは、自国の出生率を「低すぎる」と認識している。一方、スウェーデン、イギリス、アメリカでは「満足な水準」と認識している。
 これに対して、政策スタンス(出生率に影響を与える政策に対する態度)をみると、「低すぎる」と認識している2か国のうち、フランスは「回復させる」、ドイツは「介入しない」というスタンスを採っている。また、「満足な水準」と認識している3か国では、すべての国が「介入しない」というスタンスである。なお、わが国の場合、出生率は「低すぎる」との認識にあり、出生率を「回復させる」スタンスに立っている。わが国の政策スタンスは、2001年までは「介入しない」であったが、「少子化の進展に歯止めをかける」ことを趣旨とする少子化社会対策基本法の制定等を踏まえ、近年、政策スタンスを変更している。

(児童・家族政策としての少子化対策)

 西欧諸国でも、児童手当制度のような子育て家庭に対する経済的支援策や各種保育サービス、育児休業制度のような仕事と育児・家庭との両立支援策があるが、西欧諸国ではこれらの施策は、低下した出生率にどのように対応するかという「少子化対策」というよりも、子どもやその家族に対して社会的に支援を行うことを目的とした「児童・家族政策」として位置づけられている。フランスやドイツでも「少子化対策」という概念ではなく、「家族政策」(ファミリー・ポリシー)という政策の位置づけである
 そこで、こうした点を念頭におきながら、欧米諸国(アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、スウェーデン)の児童・家族政策の分野に該当する分野から、特に育児休業、保育サービス、経済的支援策の状況について説明する。
2 両立支援策については「男女共同参画施策」としても位置づけられている。

(育児休業制度等の状況)

 働く親にとって、子どもが乳児期における仕事と家庭、あるいは仕事と育児の両立を図る制度として、育児休業制度は、最も重要な施策のひとつである。わが国では、育児・介護休業法に基づき、子どもが1歳に達するまで最長1年間の取得が可能である(保育所の利用が困難等の理由があれば1歳6か月までの延長も可能)。育児休業制度の整備状況を、ヨーロッパの主要国でみると、ドイツやフランスでは、3歳までの間に最長3年間までの休業が可能である。イギリスでは、5歳に達するまでに13週間の休業をとることができる。スウェーデンでは、生後18か月までの休業が可能である。アメリカでは、生後1年間に12週間の休業の取得が可能である(州により規定が異なる場合がある)。
 育児休業中の所得保障については、給付がある国とない国とに分かれる。最も給付が充実した国は、スウェーデンであり、休業期間の480日分の所得が保証される。このうち、最初の390日間は従前賃金の80%給付、残りの90日間は定額給付となっている。また、390日間のうち、120日分については両親それぞれに60日分ずつ配分され、受給しなければ権利が消滅する(いわゆるパパクォータ、ママクォータ)。ドイツやフランスでは、所得制限等の要件をみたせば育児手当等の給付がある。イギリスやアメリカでは無給であるが、アメリカでは、州によって有給となっているほか、2000年から州の失業保険から手当の支給を行うことができるようになっている。なお、日本の場合は、雇用保険から従前賃金の40%の給付がある。
 復職の保証についても、各国で制度化されており、育児休業前と同じ又は同程度の仕事への復帰ができることとされている。
 育児休業のほかに、出産時の休業制度として、出産休業がある。わが国は出産予定日前6週間、出産後8週間の合計14週間となっているが、主要国ではアメリカ以外で制度化されている。休業の期間は国により異なり、最も長いのはイギリスの予定日前・出産後合計で26週間であり、次いでフランスの予定日前6週間、出産後10週間(合計16週間)となっている(子どもの出生順位、複産等の場合には期間が延長される)。ドイツとスウェーデンではそれぞれ、予定日前6週間、出産後8週間、出産前後各7週間の合計14週間と、日本と同じ期間になっている。
 出産休業は出産する者、つまり女性を対象とした制度であるが、対応する男性の制度(男女とも取得可能な育児休業とは別の制度)として父親休業がある。これが制度化されている国は、フランス、スウェーデン、イギリスであり、それぞれ、11日、10日、1週間~2週間取得できるようになっている。

(保育サービスの状況)

 わが国では、保育サービスとして、認可保育所が主たる役割を果たしてきた。主要国の状況をみると、国により保育サービスの体制に特徴がある。
 まず、スウェーデンでは、ヨーロッパの主要国で最も充実した保育サービスを提供している国のひとつである。保育サービスとして、通常の保育所の他に家庭型保育所が運営されており、その大半はわが国の市町村に相当するコミューンが設置している。次に、フランスでもフルタイムで働く女性が多く、こうした人々のニーズに応えるために保育サービスが提供、利用されている。まず、Crecheと呼ばれる保育所等の施設サービスが提供されている一方で、在宅での保育サービスが発達している。その代表が、認定保育ママ(Assistantes maternelle)である。これは、在宅での保育サービスを提供する者のうち、一定の要件を備えた者を県政府に登録する制度である。この認定保育ママが現在の保育需要の多くを担っているとされている。
 これに対して、保育サービスの整備水準が低い水準にとどまっているのがドイツである。保育所の整備状況は、旧西ドイツ地域を中心に遅れており、その背景として、子どもの保育は家庭で母親が行うという考えが旧西ドイツ地域を中心に依然として強いこと等があげられる。しかし、最近では保育サービスの充実に力を入れており、2010年を目標とした整備計画が立てられている。
 イギリスでも、ドイツと同様に保育サービスの整備が遅れていたところであるが、近年「仕事と生活の調和」政策の一環で保育サービスの充実が図られつつある。特に、2004年には保育サービスの選択の充実、質の向上を目指した「保育戦略10カ年計画」が策定された。そして、2006年7月には地方政府の役割等を定めた保育所法が議会を通過した。また、教育基準事務所(OFSTED)に登録されたチャイルドマインダーと呼ばれる個別保育者による保育サービスも提供されている。アメリカでは、保育サービスに関する全国的な制度はなく、保育所の設置基準等は州政府により定められている。また、保育サービスの提供は教会や非営利団体のほか、民間企業が担っている。

(経済的支援策の状況)

 子どものいる世帯に対する経済的支援として、現金給付と税制(各種控除制度)をあげることができる。わが国では、児童手当等の支給のほか、所得税制における扶養控除が実施されている。欧米の主要国では、わが国と比較して、高い給付水準の児童手当制度等の経済的支援策が行われている。
 欧米の主要国の中で、経済的支援が最も手厚いといわれているのがフランスである。まず、「家族手当」(児童手当)は、第2子以降の20歳未満の子どもに対して支給される。1か月当たりの支給額は、第2子で117.14ユーロ(約1万7千円)、第3子がいる場合で合計267.21ユーロ(約4万円)等となっている。このほかに第1子から3歳未満まで支給される「乳幼児迎入れ手当」のほか、フランスの家族給付は、児童手当も含めて30種類もの手当がある。これらの手当は、生活困窮者や低所得者を対象としたものではなく、一般市民全体を対象としている。
3 ただし、16歳以上20歳未満の子どもに対して家族手当が支給されるには、月収が最低賃金の55%未満であるという要件が必要。
4 本章における各国の為替レートについては、日銀報告省令レート(2006年11月分)により換算。

 また、フランスでは、税制においても独特の制度があり、所得税の課税にN分N乗方式が用いられている。これは、世帯を課税の単位とみなし、夫婦及び扶養子女の所得をすべて合計した額を家族係数(大人は1、子どもは2人目までは0.5、3人目以降は1とみなして世帯全員で合計した数値)で割って、係数1当たりの課税額を求め、この課税額に再び家族係数をかけて家族全体の税額を計算する方法である。累進税率の場合、こうしたN分N乗方式を用いると、同じ所得の場合、子どもをはじめ家族の数が多くなるほど、所得税負担が緩和されることとなる。
 スウェーデンでも経済的支援は充実しているが、税制による支援はなく、児童手当に一本化されている。原則として16歳未満の第1子から手当が支給されている。手当は所得制限無しで支給されるが、1か月当たりの支給額は第1子で1,050クローネ(約1万7千円)、第2子では1,150クローネ(約1万8千円)等となっており、子どもが多いほど支給額が多くなる仕組みとなっている。
 イギリスでは、児童税額控除とともに、児童手当の制度が実施されている。原則として16歳未満の第1子からの支給で、1か月当たり支給額は第1子で73.67ポンド(約1万6千円)、第2子以降で49.40ポンド(約1万1千円)となっている。ドイツでは国の財産としての子どもを国が援助するという理念の下、児童手当が実施されており、児童手当は原則として18歳未満の者を対象に、第1子から所得制限なしで支給されている。また、第4子以降への加算もある。1か月当たり支給額は第1子から第3子で154ユーロ(約2万3千円)、第4子以降では179ユーロ(約2万7千円)となっており、支給額は他の国に比べ大きなものになっている。児童扶養控除の制度も実施されているが、児童手当と比べていずれか有利な方が適用される仕組みとなっている。
 アメリカでは、児童手当はなく、所得税制(所得控除、税額控除等)で子育て支援が行われている。

(コラム)ドイツにおける新たな家族政策の取組

 ドイツは、先進国の中では、日本、イタリアと並んで低い出生率で推移してきた。特に1990年代の出生率は低く、1995年には、ドイツの合計特殊出生率は1.25(同年のイタリアは1.18、日本は1.42)であった。
 ドイツは、第2次世界大戦後、社会福祉国家として家族政策に多くの予算を充ててきた。たとえば、児童手当は、支給額は第1子で月額約2.3万円、支給対象年齢も原則として18歳未満までと、日本と比較をすれば充実した内容となっている。その結果、家族政策に関する財政支出の対GDP比は、1.9%と日本の0.6%の3倍の数値となっている。このように経済的支援は手厚いものの、子育ては基本的に家庭で行うべきものという考え方が強く、保育サービスの整備は立ち遅れていた。
 しかし、出生率の低迷に対して、近年、ドイツ政府でも深刻な問題ととらえ、新たな家族政策の展開がみられるようになった。ドイツ政府は定期的に家族に関する報告書を作成しているが、昨年公表した「第7次家族報告書」では、「持続可能な家族政策」と題して、単一の政策ではなく、経済的支援(再分配政策)と、保育所などのインフラ整備(保育政策)、子どもや家族と過ごす時間の確保(時間政策)という3つの要素を混合した政策が重要であると強調している。政府関係者によれば、こうした政策が実施されれば、2015年までに出生率が1.7程度にまで回復することが可能だとしている。
 具体的な施策としては、まず、他のEU諸国並みの保育サービスの充実が必要であるとして、2005年1月から保育所設置促進法が実施され、政府から地方自治体への補助を強化し、2010年を目標に保育所の拡大が図られている。同年1月から、ひとり親家庭を想定した児童手当に対する育児手当の上乗せも実施されている。また、育児休業中の所得保障の充実と男性の取得促進をねらいとして、2006年9月、両親手当を新設する法律が制定されている。手当は最長で12か月間支払われるほか、父親が取得すれば2か月間延長できる仕組みが盛り込まれている。さらに、行政、企業、労働組合、地域団体等が一緒に家族政策を考える地域単位の「家族のための地域同盟」が各地に設置され、地域の事情に応じたファミリーフレンドリーな対策の検討・実施がなされている。
 ドイツの合計特殊出生率は、2000年以降1.3台に回復し、最新の2005年の数値は1.34と上昇傾向になっている(同年の日本は1.25、イタリア(2004年)は1.33)。
5 ドイツ政府には、1953年に家庭省が設置され、家族政策の推進を担当している。第1回目の家族報告書は、1968年に作成された。

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