2 アジアの主な国における少子化対策の動向

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 上記の低出生率に対して、アジア諸国・地域では危機感を持ち始めた政府も多く、さまざまな取組が進められている。以下では、アジアの主な国における少子化対策の動向についてみていく。

(韓国‐国家の重要政策としての少子化対策)

 韓国でも2000年以降の出生率の低下が著しく、これを反映させた「将来人口の特別推計」(2005年1月)によると、韓国の人口は2020年をピークにして減少する見通しとなっている。この状況に危機感を持った韓国政府は、出生率の水準を「低すぎる」として、出生率を「回復させる」政策スタンスを採っている。こうしたことを背景に、韓国政府は、2003年12月に大統領府に委員会(「高齢化と未来社会委員会」)を設置した。同委員会は、2004年1月に「少子・高齢社会対応のための国家戦略」を策定し、同年6月に「育児支援方案」を策定した。2005年9月には同委員会は「低出産高齢化社会委員会」に改編され、2006年7月には「少子高齢社会基本計画」を策定している。この計画には、保育サービスの充実、経済的支援の強化、妊娠・出産の支援等が盛り込まれている。
 また、韓国で実施されている具体的な少子化対策の状況をまとめると以下のとおりである。まず、出産休業は90日間(出産後は45日以上)、育児休業は12か月まで取得可能である。後者については、その取得を推進するために、手当の支給が雇用保険から実施されている(2001年までは無給)。また、育児休業中の代替要員を雇用した企業に補助金を支給している。保育サービスでは、公営と民営の保育所のほか、事業所設置の保育所と家庭型(小規模)保育所が制度化されている。経済的支援として、税制における「家族扶養控除」の他、「教育費控除」(幼稚園や保育園などの費用の所得控除制度)があるが、わが国の児童手当に相当する制度はなく、「少子高齢社会基本計画」でも児童手当の導入の検討があげられている。なお、韓国では、児童福祉政策のうち、保育政策は「男女平等および家族部」が2004年から所管しており、その他の分野は保健福祉部や労働部が所管している。

(シンガポール‐「出生率を回復させる」政策スタンス)

 シンガポールでも出生率の低下が著しく、シンガポール政府も出生率が「低すぎる」とし、これを「回復させる」政策スタンスに立っている。
 シンガポールでは、特にユニークな政策として、独身者対策としての国営「お見合い(出会いの場提供)センター」が知られている。このほかにも以下のような政策が実施されている。
 まず、特徴のある経済的支援としてベビーボーナスと税制をあげることができる。シンガポールのベビーボーナスは、子どもの出生時の現金給付と政府の補助も加わった積み立て制度から構成されている。前者は、3,000シンガポールドル(第1子~第2子で約22万円、第3子以降は6,000シンガポールドル(約44万円))を支給する制度であり、後者は第2子から第4子までを対象とした政府からの補助付きの貯蓄制度である。税制では、扶養控除のほか、同居している祖父母や外国人メイドを対象とした保育者控除や税額控除が実施されている。
 次に、育児休業についてみると、12週間の育児休業が制度化されており、これは2004年の8週間から延長されたものである。休業期間中の所得保障として、政府からの補助金が支給されており、第1子、第2子は2004年から延長された4週間分(1万シンガポールドルを限度)を、第3子、第4子は12週間分(3万シンガポールドルを限度)を補助している。
 保育サービスについてみると、保育所が設置されているほか、ベビーシッター等の家庭保育者も利用可能である。特に一部の保育所では、家庭保育者を育成、派遣している。

(中国‐「一人っ子政策」の中での状況)

 近年、経済成長が著しい一方で、世界一の人口を抱える中国では、「一人っ子政策」と呼ばれる独特の政策を実施してきた。具体的には、1979年以降、「晩婚」、「晩産」、「少生」(少なく産む)、「稀」(出産間隔を空ける)、「優生」(子どもの質を高める)を主な柱とした「計画出産」を行う政策である。子どもは1人が原則であり、第2子以上については、地方政府の許可制となっている(農村等では別の取り扱いがある)。これまでは、各地域で計画出産条例を定めて、政策を実施してきたが、2002年に国の法律として「人口及び計画出産法」が施行されており、第2子の出産について都市部を含めた各地域の実情により認められるようになっている。
 「一人っ子政策」の効果として、過去30数年間で出生数を3億人程度減少させたことが指摘されており、合計特殊出生率は1.7であるものの、政府としては出生率を「満足な水準」としており、これを「維持させる」ことが政策スタンスとなっている。その一方で、一人っ子政策の問題点として、出生性比のゆがみ(男児選好により、出生児の男女比が均衡を失う)、超過出産によるペナルティー逃れのために出生登録をしない「黒孩子」(ヘイハイズ)の増加等のほかに、急速な高齢化の進展(高齢化率が1980年には4.7%から、2000年には6.9%、2050年には22.7%に増加)等が指摘されている。
 このような中、「計画出産」を厳格に守り、高齢期に入った夫婦に対して、奨励扶助金を支給する制度の試行が2004年から一部の地域で開始された。支給額は標準で年600元(約8,800円。中国農村部の1人当たり現金消費支出は2004年で1,754.46元(約2万5,900円))である。2005年には試行対象地域が拡大されている。この制度は計画出産を「多産処罰」的なものから「少生奨励」的なものへの転換を図るものとされている。その一方で、農村で整備されていない年金制度を補完すること、つまり、農村部での高齢者の扶養機能の社会化を目的としていることが考えられる。
 また、中国では労働法や女職工労働保護法による90日以上の出産休業があり、休業中の手当も各地方政府が運営する生育保険から支給される。また、0~2歳までの子どもを対象に託児所が運営されているが、女性の社会進出の度合いに対して、供給が少ない。そして、児童手当については、中央政府による全国共通の制度は存在せず、都市部及び一部の農村で1999年から税財源による所得制限付きの手当が低所得世帯を対象に支給されている。

(コラム)東アジアが迎える人口減少社会

 本文でみたように、東アジアの主な国や地域でも少子化が進行している。わが国はすでに人口減少社会に突入しているところであるが、少子化が進行している東アジアの国や地域ではいつごろ人口減少社会を迎えるのであろうか。韓国では、2005年に新しい将来人口推計が公表された。それによると、2004年の人口は約4,808万人であるが、2020年の約4,996万人まで増加し続ける。その後人口は減少し、2030年には約4,933万人、2040年には約4,674万人、2050年には約4,235万人となり、2004年と比べて約570万人減少する見通しである。台湾でも2006年6月に新しい将来人口推計が公表された。それによると、2006年の人口約2,285万人からしばらく人口は増加し続けるものの、2018年の2,331万人をピークにしてその後の人口は減少する。その結果、2030年には2,278万人、2040年には2,124万人、2050年には1,888万人となり、2006年から約400万人減少する見通しとなっている。
 これらの国や地域では、わが国よりも15年程度遅れて人口減少社会に入ることが見通されていることがわかる。このことは、少子化だけでなく人口減少の問題もわが国だけではなく、東アジアの国や地域で共有される問題であることを意味しているものといえよう。

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