第2節 子育て支援サービスをめぐる今後の方向性

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1 今後の人口構造の変化と地域・家族をめぐる課題

○地域・家族をめぐる課題は「多様で公正な働き方の選択肢が充実し、結婚や出産・子育てと就労をめぐって様々な選択ができるような環境整備が進められる動きの中で、どのような選択をとったとしても、子どもの成長を育むという家族の機能が果たされるよう、地域が家族を支援する体制を構築すること」と整理できる。また、子どもの成長を育むすべての家族を地域全体で支えていくという取組は、地域コミュニティの再生につながるという意味からも重要である。
○新人口推計によると、2055(平成67)年には、50歳代以上の者の属する世帯のうち4割以上が「単身かつ無子世帯」となると見込まれている。単身世帯は、世帯員相互のインフォーマルな支援が期待できないことから相対的に失業や疾病・災害といった社会的リスクに弱く、経済的にも可処分所得減少の影響を受けやすいことから、介護問題をはじめとした支援を要する世帯の増大や負担能力の減少など、社会全体に大きな影響を及ぼすことが懸念される。

2 家庭における子育て・親子関係への支援、地域の様々な主体による子育てへの配慮

○各種調査結果によると、夫の家事・育児の分担度合いが低い場合に、出産意欲が弱まり、また、夫の労働時間が長いと家事・育児参加が減少する結果となっており、家事・育児の分担とワーク・ライフ・バランスは裏表の関係になっている。また、男性の育児分担が非常に少ない現状の中で、母親の育児不安の程度が高まると出産意欲が弱まる結果となっている。
○個々人が選択するライフスタイル、ライフサイクルに合わせて、すべての家庭に共通する家庭における子育て、あるいは親子関係への支援体制を構築することが必要である。
○子育て支援事業に関しては、各地方公共団体で計画的な整備が進められつつあるが、各市町村における整備状況には地域差も大きく、国全体で打ち出されている各種の支援メニューが、個々人の生活圏の単位では必ずしも利用可能な状態にはなっていない。近年、すべての子育て家庭に対する「全戸訪問」(こんにちは赤ちゃん事業)や、「地域子育て支援拠点」をはじめとした継続的な支援が進められているが、さらに地域子育て支援の基本的なメニューとして位置づけ、子育て家庭の生活圏ごとに、面的に整備していくことが必要である。
○地域の子育て支援を進めていくに当たっては、親の子育て負担の軽減という観点のみならず、父親・母親がともに協力し、主体的に参画していくことを促すことが重要であり、「当事者主体」の事業展開を図っていくことが必要である。
○子どもを持つ親同士が交流できる「場」をつくるNPO等の子育て支援活動は、近年、全国的に急速な広がりをみせており、地域で子育ての支援を求めている人と支援できる人をつなぎ、地域のコミュニケーション再生の機能を果たしている。
第1‐3‐16図 子育て支援のために望まれる地域活動

○一部の地方公共団体では、働く者が子育てしやすい環境整備や、地域の子育て家庭が利用しやすい商品・サービスの提供、子育て世帯への優遇措置の適用などの取組を進める企業に対して、「子育て応援の店」の登録制度を設けたり、入札資格における配慮等が行われている。このように、地域づくりの中で企業による子育て支援をバックアップする取組を普及するとともに、こうした取組を情報発信することも有効である。

3 多様な働き方を支える保育をはじめとする子育て支援サービス

○現在25歳~39歳層の有配偶の女性の労働力率は50%程度にとどまっているが、子どもが欲しいと考えている女性について就業形態の希望をみた調査では、約6割の女性が出産後も継続就業を希望しており、また、世帯主の配偶者である女性の潜在労働力率も70%程度となっている。このため、女性の未婚者と有配偶者の労働力率の大きな差をもたらしている仕事と子育ての両立が困難な現在の構造を、女性が安心して結婚、出産し、男女ともに仕事も家庭も大事にしながら働き続けるという選択ができるシステムへと変革していくことが不可欠である。
○特別部会の議論の整理によれば、第1子以降の出産については、子育てしながら就業を継続できる見通しの有無及び仕事と家庭生活の調和の確保の度合いが影響を及ぼす。また、就業継続の見通しには、単に育児休業制度など企業の取組だけでなく、保育サービス等の地域の実情に応じた取組、育児・家事分担等の家庭内での取組も影響することに留意が必要である。
○有配偶の女性の労働力率が8割程度となっているフランスやスウェーデンでは、認可保育サービスを利用する3歳未満児の割合が4割以上となっているのに対し、我が国では2割程度となっており、ほとんどは在宅で育児が行われている。今後、女性の就業継続の希望を実現するため、保育所等のサービス基盤整備を一層進めていかなければならないが、その際、多様な働き方に対応した弾力的なサービスを提供するとともに、ワーク・ライフ・バランスを実現していく中で、男女を通じた家庭における子育てへの支援についても、社会全体で支えていく仕組みを構築していくことが求められている。
第1‐3‐20図 多様な子育て支援サービス

○我が国では、依然として約1.8万人の待機児童が存在しており、この問題は大都市圏に顕著にみられる課題である。また、多様な保育サービスの提供については、短時間や隔日、夜間帯や休日など、多様な就労時間・就労形態に対応した保育時間の設定や、病児・病後児の対応などのニーズが高まっているにもかかわらず、十分対応できていない。このような状況に的確に対応していくためには、保育所による保育サービスの拡充だけでなく、家庭的保育(保育ママ)の充実や、その質を確保し安心して子どもを預けられる仕組みの検討、事業所内保育施設の地域での活用もあわせて進めていくことが必要である。
○3歳以上児については、就学前の子どもに対する教育・保育のニーズに総合的に対応できる拠点として、「認定こども園」制度の普及促進を図っていくことが必要である。
○全小学校区への「放課後子どもプラン」の普及を図ることにより、幼児期から、高学年期まで、放課後の子どもの安全で健やかな活動場所を確保し、多様なニーズに対応した柔軟なサービスを提供していくことが必要である。

4 困難な状況にある子どもや家族を支える地域の取組強化

○児童虐待の増加等に伴う子どもの状態の多様化・複雑化に対応するため、社会的養護の質の向上に向けた見直しが求められている。また、施設内虐待の再発防止に有効な仕組みの導入や、第三者評価の充実、子どもが意見を表明する機会の担保等、子どもの権利擁護とケアの質の確保を図る必要がある。

5 安心して生み育てられる産科・小児科医療体制の確保

○産科・小児科の医療体制を確保するため、医師が集まる拠点病院づくり、周産期医療ネットワークをはじめとした医療機関相互のネットワークの構築等の対策が進められているところであり、引き続き、実効性ある対策を推進していく必要がある。

6 目指すべき子育て支援サービスの実現に向けた制度的な枠組みの在り方について

○少子化対策が一定の効果を持つためには、経済的支援と保育サービス等の地域の子育て支援サービスの充実、育児休業や短時間勤務制度など育児期の多様な働き方の選択肢の拡大といった仕事と家庭との両立支援策の双方をバランスよく組み合わせて取り組むとともに、この両方の施策が切れ目なく利用できる仕組みが必要である。
○様々な働き方、ライフスタイルの選択に対応した子育て支援サービスの実現を目指し、子育て中の利用者の適正・確実な負担を含めて国民全体で支え合う包括的な次世代育成支援の制度的な枠組みの構築を図る必要がある。
○基礎自治体において、地域の実情を踏まえた施策展開が着実かつ持続的に進められるよう、財源の確保を含めた制度的な枠組みについて検討していく必要がある。また、このような基礎自治体を支援するため、各自治体で行われている先進的な地域における子育て支援の取組事例を集め、情報提供をしていくことも必要である。

7 社会全体の意識改革

○「新しい少子化対策」や「子どもと家族を応援する日本」重点戦略の中間報告において、社会全体の意識改革に関する国民運動の展開の必要性が明記されたことを踏まえ、2007(平成19)年度から、「家族・地域のきずなを再生する国民運動」が展開されている。11月の第3日曜日を「家族の日」、その前後各1週間を「家族の週間」とすることとし、地方公共団体や民間の関係団体、有識者等と政府が連携・協力し、家族・地域のきずなの重要性を呼びかけるための行事の開催や広報・啓発の取組を行うこととしている。

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