第2節 戦略会議の中間報告の概要

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1 中間報告の概要

 戦略会議の中間報告(2007(平成19)年6月1日)では、「基本戦略」、「働き方の改革」、「地域・家族の再生」、「点検・評価」の4つの分科会の議論の整理を踏まえ、「重点戦略策定に向けての基本的考え方」として、
〔1〕基本認識
・更なる少子化の進行とその原因・背景
・今後の人口構造の変化を展望した戦略的対応の必要性
・ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現の重要性
〔2〕諸外国の家族政策の教訓、これまでの我が国の少子化対策の評価と課題
・近年の諸外国の家族政策の基本方向の分析・評価
・我が国の少子化対策の課題
〔3〕重点戦略策定の方向性
 といった項目に沿って記述されている。
 今後、この中間報告で示された考え方に基づいて、具体的施策についての検討を進め、税制改革等の議論も見極めつつ、平成19年末を目途に、重点戦略の全体像のとりまとめを行う予定である。

(更なる少子化の進行とその原因・背景)

 新人口推計では、一層急速な少子化の進行が予測されているが、前述したとおり、これは決して国民が望んだものではなく、国民の結婚や出産・子育てに対する希望と実態のかい離が拡大していることによる。特別部会の議論の整理で明らかにされているとおり、「国民の結婚や出生行動に影響を及ぼしていると考えられる要素」として、
○ 結婚には、家庭生活を送っていく上で必要な経済的基盤や雇用・キャリアの将来の見通し・安定性の影響
○ 出産には、子育てしながら就業継続できる見通しや仕事と家庭生活の調和の確保の度合いの影響
○ 特に第2子以降の出産には、夫婦間の家事・育児の分担度合いや育児不安の度合いの影響
 がそれぞれ示唆される。
 そして、現在の急速な少子化の進行の背景としては、「就業継続希望と結婚・出産・育児の希望との二者択一を迫られる構造」、多様な働き方の選択ができないことや、非正規労働者の増大、長時間労働など「働き方をめぐる様々な課題」が存在している。

(今後の人口構造の変化を展望した戦略的対応の必要性)

 今後の人口減少、特に労働力人口の減少は、社会経済の各面に大きな影響を及ぼすことが予想されている。新人口推計では、2030(平成42)年以降の生産年齢人口の減少度合いが大きくなっているが、2030年頃に新たに労働力化する若者はこれから生まれる子どもたちであり、国民の結婚や出産に対する希望と現実のかい離を解消する政策努力で変えられる余地のある問題である。
 その一方で、2030年までに労働力化する世代の人口は現時点でほぼ確定しており、その間、我が国社会の持続的・安定的な発展を図るためには、すべての人が意欲と能力が最大限発揮できるような環境整備に直ちに着手し、若者、女性、高齢者などの労働市場への参加を促進し、労働力人口の減少の緩和を図ることも同時に必要である。
 以上のような人口構造の変化の展望から、我が国は、
〔1〕 国民の希望する結婚や出産・子育ての実現により少子化の流れを変える
〔2〕 若者、女性、高齢者の就業参加促進を図る
 という二つの要請に対して、これまでの制度・施策の効果を検証し、実効性のある制度・施策へと再構築し、戦略的に、しかも同時に応えていくことが必要となる。

(ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)実現の重要性)

 上記二つの戦略的な対応を並行して直ちに実施するためには、「女性の未婚者と有配偶者の労働力率の大きな差をもたらしている仕事と子育ての両立が困難な現在の構造」を、「女性が安心して結婚、出産し、男女ともに仕事も家庭も大事にしながら働き続けることができるシステム」へと変革していくこと、すなわち、「ワーク・ライフ・バランスの実現を目指した働き方の改革」が最優先の課題である。
 「ワーク・ライフ・バランスの実現」とは、個人が仕事上の責任を果たしつつ、結婚や育児をはじめとする家族形成のほか、介護やキャリア形成、地域活動への参加等、個人や多様なライフスタイルの家族がライフステージに応じた希望を実現できるようにすることであり、
〔1〕 国民一人ひとりが自らの望む生き方を手にすることができる社会の実現
〔2〕 労働力確保等を通じた我が国社会経済の長期的安定・持続可能性の確保
 の達成を同時に目指すならば、我が国社会にとって必要不可欠の改革である。
 ワーク・ライフ・コンフリクト(労働者が仕事と生活の調和を図るに当たり、希望を満たすことが出来ない葛藤を指し、企業内の雇用環境や職場風土だけでなく、家庭内の事情や取引先等企業間の関係、地域や社会サービスとの関係からも生ずる。)の解消を図り、個人、社会、企業にとって望ましい豊かな社会の実現の基盤となるワーク・ライフ・バランスを実現することは、個別の労使のみならず、社会全体で取り組むことが必要な課題である。

(近年の諸外国の家族政策の基本方向の分析・評価)

1990(平成2)年代以降の諸外国(特にフランス、スウェーデン、ドイツ)の家族政策は、仕事と家庭との両立支援を軸に展開している。
 近年出生率が回復しているフランスやスウェーデンでは、我が国に比べ、長時間労働は少なく、多様な働き方が可能となっており、また、多様な働き方に対応できる柔軟な保育サービス提供が実施されている。この結果、フランスやスウェーデンでは、既婚女性の労働力率は8割程度、3歳未満児の4~5割が家庭的保育等も含めた認可保育サービスを利用している(我が国では3歳未満児の2割程度が利用)。
 また、家族政策関連支出の規模は、我が国がGDP比0.75%であるのに対し、イギリス、ドイツ、フランス3、スウェーデン等では、おおむねGDPの2~3%を投入している。一方で、こうした給付が可能となっている背景には、高い国民負担があることにも留意が必要である。
3  近年出生率が回復しているフランスを例に、給付の規模を我が国の人口構造に機械的に当てはめると約10.6兆円(GDP比では約2%)に、我が国のGDPに機械的に当てはめると約14.9兆円に相当する。(第2回基本戦略分科会資料「フランスの家族関係社会支出の日本の人口規模換算」による。)

(我が国の少子化対策の課題)

 上記のような諸外国の家族政策の変遷やその結果に照らせば、我が国の少子化対策の課題は以下のようになる。
○ 質・量両面でのサービス基盤整備の不足
 我が国では、保育サービスが得られないことにより、就業継続を希望しつつも断念している状況がみられ、これを克服する保育環境の整備が課題である。特に3歳未満児については、育児休業明けでの年度途中入所が必要な場合が多く、また、短時間勤務などの働き方の多様化に対応するためにも、多様で弾力的なサービスの仕組みの検討が必要である。
○ 働き方の改革に向けた取組の弱さ
 我が国の企業における働き方は、やや図式的にいえば「過密な労働が求められる正規労働者の働き方」か「経済的基盤の確保が難しい非正規労働者の働き方」かに二極分化し、相互の行き来が難しい構図となっている。
 仕事と生活に関わるニーズが、人によっても、また個人のライフステージによっても多様化する中、こうした二極分化により、労働者にとっての希望と現実のかい離が大きくなり、若年層の結婚・出生行動に影響を及ぼしていると考えられる。
○ 施策間の整合性・連携の欠如・政策の一元性・サービスの一貫性の欠如
 少子化対策が一定の効果を持つためには、経済的支援だけでは限界があり、また、育児休業制度の利用は増加しているが、出産に伴い離職する割合は約7割と依然高く、仕事と家庭との両立支援策が出産前後の就業継続の増加に必ずしもつながっていない。経済的支援と、保育サービス等の地域の子育て支援サービスの充実、育児休業や短時間勤務制度など育児期の多様な働き方の選択肢の拡大といった仕事と家庭との両立支援策の双方をバランス良く組み合わせて取り組んでいくことが必要である。
 同時に、この両方の施策が切れ目なく利用できる仕組みも必要である。産休・育休から保育サービスへの切れ目のない移行や、両者の整合性の確保など、経済的支援や各種サービスが一体的に提供される利用者本位の仕組みとなるよう、制度的枠組みの在り方についても検討すべきである。
○ 税制や年金・医療等の他の社会保障制度をも視野に入れた対策の弱さ
 一例を挙げれば、産前産後の休業期間中には労働が提供されず、多くの場合賃金が支払われていないが、事業主と労働者に社会保険料が賦課されている。これは、育児休業中の取扱いと比較しても、継続就業の環境整備の観点から問題があるとの指摘がある。
 多様な働き方の選択が可能で、国民が希望する結婚や出産が可能な社会の構築に向け、他の社会保障や税制をはじめとする幅広い分野において、総合的視野に立って、必要となる財源にも留意しつつ、制度の在り方について引き続き検討すべきである。
○ 手厚い家族政策を支える国民負担についての国民合意の不形成
 近年特に出生率が回復しているフランスやスウェーデンでは、税や社会保障負担などの国民負担率は6割以上となっている。フランスについては、家族政策に要する費用も、公費負担とともに、高水準の企業拠出によって賄われており、企業におけるワーク・ライフ・バランスの取組とともに、事業主が給与総額の5.4%(給付総額の約50%に相当)を家族政策の財源として拠出するなど、企業が大きな役割を果たしている。
 一方、我が国の国民負担率は36%程度であり、我が国の場合、家族政策を支える負担についての明確な国民的合意が現段階で形成されているとはいいがたい状況にある。

(重点戦略策定の方向性)

○ 働き方の改革によるワーク・ライフ・バランスの実現
 働き方の改革については、労使の自主的な取組を基本に置きつつ、政府において、制度的な枠組みの構築や基盤整備等を通じて、社会全体の取組となるような促進・支援策の実施が必要である。
 また、地域によってニーズが異なることから、地域の労使団体を中心とし、それに国、地方公共団体を加えた地域において「働き方の改革」を具体的に推進する体制の構築を図り、地域の実情に応じた展開を図ることも重要である。
 国民が働き方についての意識を変え、企業も行動を変えていくためには、社会全体でワーク・ライフ・バランスを達成する国民運動のみならず、関係府省や地方公共団体が一体となって、総合的かつ体系的な施策の展開を図っていく必要がある。このため、「ワーク・ライフ・バランス憲章」及び政府において「働き方の改革を推進する行動指針」を政策のパッケージとして策定することが必要である。
○ 包括的な次世代育成支援の制度的枠組みの構築
 ワーク・ライフ・バランスの実現を支える子育て支援サービスの基盤整備については、すべての子どもの育ちを支え、子どもの成長を育むすべての家族を、地域全体で支え、当事者でもある親も責任を持ってそれに主体的に参画していくという基本的な理念に立って進められなければならない。
 このため、様々な働き方、ライフスタイルの選択に対応した子育て支援サービスの実現を目指し、3歳未満児に対する家庭的保育(保育ママ)の充実を含めた多様で弾力的な保育の拡充、子育て家庭がその生活圏内で利用できる地域子育て支援拠点等の子育て支援サービスの面的な整備を進めるとともに、産休・育休から保育サービスへの移行等利用者本位の切れ目のない支援を提供できるよう、子育て中の利用者の適正・確実な負担を含めて国民全体で支え合う包括的な次世代育成支援の制度的な枠組みの構築を図る。
 さらに、すべての子ども、すべての家族を応援する観点に立って、児童虐待や障害、母子家庭など困難な状況にある子どもや家族に対する支援の強化を図る。
○ 税制・他の社会保障制度での対応を含めた総合的対応
 今後の人口減少社会における労働力確保の要請と、国民の希望する結婚や出産の実現による出生率回復の要請とを同時に満たす鍵となる就業継続と出産・子育てが二者択一的になっている構造の改革のためには、子育てしながら就業継続する受け皿となる社会サービス基盤の整備と、長時間労働の改善や多様な働き方が可能となる働き方の改革の双方を総合的に進めることが必要である。
 さらに、「働き方の改革」を可能にする社会的条件の整備として、税や社会保障制度をはじめ幅広い分野においても、ワーク・ライフ・コンフリクトの解消に資する働き方がより自由に選択できるような制度や運用の在り方について総合的に検討していく必要がある。
 また、実効ある対策を進めていくためには一定規模の財政投入が必要になると考えられるが、必要な財源については、税制改革や社会保障制度改革の中で総合的に検討を進め、賄っていく必要がある。
○ 地域の実情に応じた施策展開
 地方公共団体、とりわけ住民にもっとも身近な基礎自治体が、個々人の生活圏域において、子育ての当事者や地域住民の参画のもとで、それぞれの地域の実情を踏まえて施策展開していくことが求められている。
 このため、基礎自治体において、このような施策展開が着実かつ持続的に進められるよう、財源の確保を含めた制度的な枠組みについて検討していくことが必要である。
○ 少子化対策への効果的な財政投入
 諸外国の家族政策関連支出の規模と我が国の状況を比較したとき、働き方・男性の育児参加などの社会状況や負担に対する国民意識の違いに留意が必要である一方、有効な少子化対策の実施のためには、一定規模の効果的財政投入の検討を行うことも必要と考えられる。
 この場合、次世代育成支援の費用を次世代の負担によって賄うことのないよう、必要な財源は現時点で手当しなければならないものである。
 個別施策の実効性の検証、現物給付と現金給付のバランスなどにも配慮した上で、我が国において実効ある家族政策を持続的に展開するための財源規模やその負担の在り方について、税制の抜本的見直しの議論と並行して国民的議論を行うべきである。
○ 施策の実効性の担保‐効果的かつ計画的な施策の遂行
 重点戦略に沿った具体的な施策の見直しを進めるとともに、その実効性を担保するため、利用者の視点に立って施策の有効性を点検・評価するための手法の開発を進めるとともに、数値目標の見直しや新たな数値目標の設定を含めた「子ども・子育て応援プラン」の改定や次世代育成支援対策に関する地域行動計画の見直しを進め、計画(Plan)―実施(Do)―点検・評価(Check)―施策の改善(Action)といったPDCAサイクルを定着させ、効果的かつ計画的な施策の遂行を図る必要がある。

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