2 働き方をめぐる問題点

[目次]  [戻る]  [次へ]


(1)女性が仕事と子育てを両立することが難しい

(妊娠・出産を契機に7割が退職)

 これまでの働き方にはどのような問題があるのだろうか。
 まず、前述したとおり、子育て期にある女性が、仕事と子育てを両立することが難しいといった問題がある。
 子どもが1人の女性の場合、出産する1年前には仕事を持っていた人(有職者)のうち約7割が、出産6か月後には無職となっている(厚生労働省「第1回21世紀出生児縦断調査」(平成13年度))。
 また、その後の母親の就業状況をみると、女性の有職率は出産半年後25%に対して4年後には46.8%と上昇しているが、このうちパート・アルバイトの割合が22.2%と常勤(15.9%)よりも高くなっている(厚生労働省「第5回21世紀出生児縦断調査」(平成17年度))。
 このように、妊娠・出産を機に仕事と子育ての二者択一を迫られるとともに、いったん離職すると、パート・アルバイトに比べ、常勤での再就職は少ない状況にある。

(出産前後で仕事を辞める理由)

 日本労働研究機構「育児や介護と仕事の両立に関する調査」(平成15年)によれば、出産前後で仕事を辞める理由としては、「家事、育児に専念するため、自発的にやめた」(52.0%)が最も多いが、「仕事と育児の両立の難しさでやめた」(24.2%)と「解雇された、退職勧奨された」(5.6%)となっており、約3割が両立環境が整わないこと等を理由に辞めている。
 また、両立が難しかった具体的な理由としては、「自分の体力がもたなそうだった」(52.8%)、「育児休業をとれそうもなかった」(36%)、「保育園等の開所時間と勤務時間が合いそうもなかった」(32.8%)、「子供の病気等で度々休まざるを得ないため」(32.8%)など、職場に両立支援制度があっても、実際には利用しにくい状況があることを示唆する回答も多い。
第1‐3‐1図 出産前後の就業状況の変化

第1‐3‐2図 母の就業状況の変化

第1‐3‐3図 「出産1年前には雇用者で現在は無職」かつ「就学前の子どもがいる女性」が仕事をやめた理由

第1‐3‐4図 両立が難しかった理由

(2)男性が子育てに十分な時間をかけられない

(日本人男性の家事・育児時間は非常に短い)

 これまでの働き方の2つ目の問題点としては、子育て期にある男性が、長時間労働や休暇が取りづらいといった仕事優先の働き方により、家事や育児の時間が十分に確保できないという問題がある。
 我が国では、子どもがいる世帯の夫が家事や育児にかける時間は、1日平均で1時間にも満たず、3時間前後に及ぶ他の先進国と比較すると、非常に短くなっている。
(仕事・家庭・個人生活の両立を希望しているにもかかわらず、現実には仕事を優先)
 少子化と男女共同参画に関する専門調査会「少子化と男女共同参画に関する意識調査」(平成18年)によると、既婚者で有業の男性において、生活のなかで「仕事優先」を希望する人の割合は約2%に過ぎない。一方、「仕事・家事(育児)・プライベートを両立」を希望する人は約32%を占めており、「プライベートな時間優先」(29.9%)、「家事とプライベート優先」(12.2%)、「家事優先」(5.5%)をあわせると、約8割の男性が家事・プライベートを仕事と同等以上にしたいとする希望があることになる。しかし、現実には、5割以上の人が「仕事優先」となっており、希望と現実の間に大きなかい離がみられる。
第1‐3‐5図 6歳未満児のいる男女の育児、家事関連時間(週全体)

(3)ワーク・ライフ・バランスを実現できるような仕事の仕方になっていない

(制度があっても実際には利用しにくい)

 これまでの働き方の3つ目の問題点としては、両立支援制度は着実に整備されてきているものの、職場においてワーク・ライフ・バランスを実現できるような仕事の仕方になっていないため、実際には利用しにくいといった問題がある。
 内閣府「企業における子育て支援とその導入効果に関する調査研究」(平成18年)において、企業における両立支援策の利用促進上の問題点を尋ねたところ、「代替要員の確保が難しい」(46.7%)、「日常的に労働時間が長い部門・事業所がある」(33.3%)、「職場で周りの人の業務量が増える」(30.9%)といった回答が多くなっており、労働時間の長さや休業することによる周囲への負荷を配慮する状況がうかがえる。制度を利用すると、職場における業務遂行に支障が出るような業務管理・時間管理になっていることが、労働者に両立支援制度の利用をためらわせ、上司や同僚にはその利用を積極的に受け入れにくくさせているといえる。
(就業を継続するための環境が整っていない)
第1子出産前後の妻の就業経歴を子どもの出生年別に見ると、過去20年間で、育児休業を利用して就業を継続している割合は着実に増えているものの、第1子出産前後の継続就業率は過去20年間にほとんど変化がみられない。このことは、前述したとおり、出産を機に約7割の女性が離職するなど、就業継続と子育てが二者択一となっている状況を反映している。
 また、独立行政法人労働政策研究・研修機構「仕事と家庭の両立支援にかかわる調査」(平成18年)によると、職場における労働時間が短いほど、結婚・出産後も職場を辞めることなく働き続けられると考える労働者が多くなっている。
 これらのことは、女性の継続就業率を向上させるためには、育児休業の利用を促進するだけでなく、出産後も継続就業できる見通しが立つような職場環境の整備が必要であることを示唆している。
(仕事と子育ての両立を可能にするワーク・ライフ・バランスの実現)
 日本では、結婚や出産、子育て期に当たる30代で女性労働力率が6割までいったん低下する、いわゆるM字カーブを描くのに対して、近年出生率が回復傾向にあるフランスやスウェーデンでは、子育て期における労働力率の低下はみられず、高い労働力率を維持している。
 このように、フランスやスウェーデンにおいて、仕事と子育ての両立を可能としている背景には、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい環境が整備されていることが指摘されている。
 フランス、スウェーデンにおけるワーク・ライフ・バランスの状況について、日本と比較してみると、週実労働時間が短く(日本43.1時間、フランス37.18時間、スウェーデン37.5時間)、週50時間以上の長時間労働者の割合も低いことに加え(日本28.1%、フランス5.7%、スウェーデン1.9%)、パートタイム労働の公正処遇ルールの整備も進んでいる(コラム「ヨーロッパ諸国におけるパートタイム労働の均衡処遇の状況」参照)。また、夫の帰宅時刻が早く、夫の家事育児の時間も長い。
 次に、フランスとスウェーデンの子育て期の女性の働き方をみると、フランスでは育児休業から比較的早く職場復帰し、しかもフルタイムで働く女性が多いのに対し、スウェーデンでは1年程度は育児休業を取得し、その後短時間勤務を使って職場復帰する女性が多いのが特徴的である。保育サービスについては、こうした働き方に合わせ、フランスでは、0歳児も含め保育ママ等の家庭的保育を組み合わせた柔軟な保育を提供しているのに対し、スウェーデンでは0歳児保育はほとんど実施されず、逆に1歳児以上の保育を充実させている。
 また、我が国では、被扶養者の中には働くことが可能であっても、家族の税・社会保険料の負担増や配偶者手当の削減を考えて就業を抑制するものが多いといわれているのに対し、フランスやスウェーデンでは、片働き世帯を優遇するような所得控除等の仕組みはなく、収入を有する者1は、短時間労働者であっても、すべて年金制度の適用対象となるなど、税・社会保険制度が多様な働き方に対応したものとなっている。
 このように、フランスとスウェーデンにおいては、両立支援制度の整備のみならず、両立支援制度が十分に機能するためのワーク・ライフ・バランスの実現及び多様な働き方を支える保育サービスの提供の環境が整備されているほか、税・社会保障制度も多様な働き方に対応したものとなっている。
1  フランスは、年1,522ユーロ(約20.1万円)、スウェーデンは年16,800クローネ(約25.2万円)以上の収入を有する者が対象となる。

第1‐3‐6図 ワーク・ライフ・バランスの希望と現実(男性:既婚有業 n=1,929)

第1‐3‐7図 両立支援策を利用促進する上での問題

第1‐3‐8図 子どもの出生年別、第1子出産前後の就業経歴の構成

第1‐3‐9図 結婚・出産後も職場を辞めることなく働ける会社だと思うかについての認識(週労働時間の長短別)

第1‐3‐10表 両立先進国と日本の両立環境の比較

(コラム) 欧米諸国におけるパートタイム労働の均衡処遇の状況2

 我が国は、近年、パートタイム労働者が増加し、2006(平成18)年には1,205万人と、雇用者総数の約22.5%にも達している。しかしながら、パートタイム労働者の待遇がその働きに見合ったものになっていない場合もあり、正社員との不合理な待遇の格差を解消し、働き・貢献に見合った公正な待遇を確保することが課題となっている。このため、2007(平成19)年5月、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を目的とするパートタイム労働法の改正が行われたところである(2008(平成20)年4月施行。一部、2007年7月施行)。
 欧米諸国においては、1970年代以降、サービス経済化の進展に伴い、市場のニーズやサービスを提供する時間帯に柔軟に対応できる働き方として、男性と同じようにフルタイムで働くことが難しい女性を中心とするパートタイム労働者が増加してきた。
 こうした状況に対し、ヨーロッパ諸国では、1980年代以降、同一労働同一賃金の考えに立脚した時間による差別的取り扱いの禁止の立法化を行う国もみられた(例えば、フランスは1981年、ドイツは1985年)。さらに、1997(平成9)年には、パートタイム労働に関するEU指令が採択され、加盟国は2000(平成12)年1月までに必要な措置を講じることとされた。EU指令では、客観的な理由がない限りフルタイム労働者とパートタイム労働者を差別してはいけないという差別的取扱いの禁止のほか、適当と認められる場合には時間比例原則を適用することなどが定められている。ヨーロッパ諸国では、職種ごとの賃金が産業別の労働協約により存在し、賃金と職務とのリンクが明確になっている分野が多いことから、均衡処遇のルールを比較的受け入れやすかったこと等が指摘されている。
 一方、米国では、パートタイム労働の均衡処遇に関する立法化はなされていない。その背景として、アメリカの労働組合は企業や事業場の単位で構成されている場合が多く、ヨーロッパのように産業別労働協約により産業全体の賃金を決定する基盤がないこと、当事者が契約で合意していることに法は介入しないという「契約の自由」の考え方が強いこと等が指摘されている。

2 本コラムの記述は、独立行政法人労働政策研究・研修機構ビジネス・レーバー・トレンド研究会における水町勇一郎東京大学社会科学研究所助教授の基調報告「均等待遇の国際比較とパート活用の鍵‐ヨーロッパ、アメリカ、そして日本‐」等を参照した。

[目次]  [戻る]  [次へ]