第1節 近年の少子化の状況
1 少子化の進行
(出生数と合計特殊出生率の推移)
2006(平成18)年の出生数は、109万2,674人と前年の106万2,530人より3万144人上回り、2000(平成12)年以来、6年ぶりに増加に転じた。
我が国の年間の出生数は、第1次ベビーブーム1期には約270万人、第2次ベビーブーム期には約210万人であったが、1975(昭和50)年に200万人を割り込み、それ以降、毎年減少し続けた。1984(昭和59)年には150万人を割り込み、1991(平成3)年以降は増加と減少を繰り返しながら、緩やかな減少傾向となり、2001(平成13)年からは5年連続で減少が続いていた。
次に、合計特殊出生率2をみると、2006年は、前年の1.26を0.06ポイント上回る1.32となり、出生数と同じく6年ぶりに上昇に転じた。
合計特殊出生率は、第1次ベビーブーム期には4.3を超えていたが、1950(昭和25)年以降急激に低下した。その後、第2次ベビーブーム期を含め、ほぼ2.1台で推移していたが、1975年に2.0を下回ってから再び低下傾向となった。1989(平成元)年には丙午(ひのえうま)3のためそれまで最低であった1966(昭和41)年の数値を下回る1.57を記録し、2003(平成15)年には「超少子化国」と呼ばれる水準である1.3を下回り、さらに、2005(平成17)年には過去最低である1.26まで落ち込んだ。
このように2006年は、出生数、合計特殊出生率ともに回復したものの、依然として人口置換水準4を大きく下回る状況が続いており、欧米諸国と比較しても(第1章コラム参照)、極めて低い水準となっている。また、後述するとおり、2007(平成19)年の出生数は、前年を若干下回ると推計されており、決して楽観できない状況となっている。

(子どもの数の減少)
出生数の減少は、我が国における年少人口(0~14歳)の減少をもたらしている。
第2次世界大戦後の年少人口の総人口に占める割合の変化をみると、1950年には35.4%(約3,000万人)と、総人口の3分の1を超えていたが、第1次ベビーブーム期以降の出生数の減少により、1960年代後半まで低下を続け、総人口の約4分の1となった。その後、第2次ベビーブーム期の出生数の増加により若干増加したが、1980年代後半から再び減少傾向となり、1997(平成9)年には、老年人口(65歳以上)よりも少なくなった。
また、総務省「人口推計(平成19年10月1日現在推計人口)」5によると、年少人口は1,729万3千人、総人口に占める割合は13.5%となっている。これに対して生産年齢人口(15~64歳)は8,301万5千人(対総人口比65.0%)、老年人口は2,746万4千人(同21.5%)となっており、我が国の人口構造はますます少子高齢化が進行している。

2005年時点での世界全域の年少人口割合(国連推計)は、28.3%であるが、我が国の総人口に占める年少人口の割合は、13.5%と世界的にみても最も小さくなっている。日本以外では、イタリア14.0%、スペイン14.4%、ドイツ14.4%と、相対的に合計特殊出生率が低い国ほど年少人口割合が小さくなっている。一方、日本と同様に合計特殊出生率が低い水準である韓国、シンガポールでは、少子化の進行が日本よりも遅い時期に始まったことから、それぞれ18.6%、19.5%となっている。
さらに、65歳以上の老年人口の割合をみると、我が国は21.5%と最も高くなっており、世界で最も少子高齢化が進行している国であることがわかる。

(最近の出生数及び婚姻件数の傾向)
前述したとおり、2006年の出生数は6年ぶりに増加に転じたところであるが、「平成19年人口動態統計の年間推計6」によると、2007年の出生数は109万人で、2006年の109万2,674人より約3,000人減と見込まれている。一方、死亡数は110万6,000人で、2006年の108万4,450人より約2万2,000人増となっており、自然増加数はマイナス1万6,000人と見込まれている。
婚姻件数については、2007年は71万4,000組で、2006年の73万971組より約1万7,000組減と見込まれ、婚姻率(人口千対)についても5.7と、2006年の5.8を下回っている。
次に、「人口動態統計速報7」により、月ごとの出生数の動きをみると、2007年は前年同月を下回る月が多くなっており、1月から12月までに累計は112万937人となっている。また、2008(平成20)年1月の出生数は9万5,089人となっており、前年同月よりも6人下回っている。
一方、婚姻件数について、当月分を含む過去1年間の婚姻件数の累計をみると、2005年以降では、2007年1月の75万592組をピークに減少傾向となり、2008年1月時点では、73万6,831組となっている。


(都道府県別にみた少子化の状況)
2006年の全国の合計特殊出生率は1.32であるが、47都道府県別の状況をみると、これを上回るのは34、下回るのは13であった。この中で合計特殊出生率が最も高いのは沖縄県(1.74)であり、以下、宮崎県(1.55)、島根県(1.53)、鳥取県及び鹿児島県(1.51)の順となっている。最も低いのは、東京都(1.02)であり、以下、北海道(1.18)、京都府(1.19)、大阪府及び奈良県(1.22)となっている。
2005年と2006年を比較すると、全国の合計特殊出生率が1.26から1.32へ大きく上昇したこともあり、33県が上昇している8。その上昇幅が特に大きかったのは、宮崎県(0.07ポイント)、徳島県及び大分県(0.05ポイント)であった。

1 | ベビーブームとは、赤ちゃんの出生が一時的に急増することをいう。日本では、第2次世界大戦後、2回のベビーブームがあった。第1次ベビーブームは1947(昭和22)年から1949(昭和24)年、第2次ベビーブームは1971(昭和46)年から1974(昭和49)年である。第1次ベビーブーム世代は「団塊の世代」、第2次ベビーブーム世代は「団塊ジュニア」と呼ばれている。 |
2 | 合計特殊出生率とは、その年次の15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が、仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に子どもを生むと仮定したときの子ども数に相当する。 |
3 | 丙午(ひのえうま)とは、干支(えと)の1つで、60年に1回まわってくる。ひのえうまの年に生まれた女性は気性が激しいという迷信から、この年に子どもを設けるのを避けた夫婦が多いと考えられている。 |
4 | 長期的に人口が安定的に維持される合計特殊出生率の水準を「人口置換水準」という。この水準を下回ると人口が減少することになり、人口学の世界では、この水準を相当期間下回っている状況を「少子化」と定義している。標準的な水準は2.1前後、近年の日本における値は2.07~2.08であるが、男女の出生性比等の違いによって変動する。 |
5 | 「推計人口」は、国勢調査の人口を基に、その後の人口の自然動態(出生・死亡)及び社会動態(出入国)を、人口動態統計(厚生労働省)、出入国管理統計(法務省)等、他の人口関連資料から得て、最新の人口を推計したものである。国勢調査の総人口は、国内に住む日本人に加えて日本に3か月以上住む外国人も含む。 |
6 | 日本における日本人を対象とし、「人口動態統計速報」の2007年1~10月分まで及び「人口動態統計月報(概数)」の同年1~7月分までを基礎資料として、1年間の出生、死亡、婚姻、離婚及び死産を推計したものである。 |
7 | 人口動態統計速報は、日本における日本人、日本における外国人、外国における日本人及び前年以前に発生した事象を含む。 |
8 | 都道府県の合計特殊出生率は、その分母である年齢別女性人口に、2005年は日本人人口、2006年は総人口を用いている。したがって、両年ともに日本人人口を用いている全国の合計特殊出生率と比べ、その上昇幅が小さくなっている点に留意が必要である。 |
2 未婚化・晩婚化の進行
(未婚化の進行)
婚姻件数は、第1次ベビーブーム世代が、かつて結婚適齢期といわれていた25歳前後の年齢を迎えた1970(昭和45)年から1974(昭和49)年にかけて、年間100万組を超え、婚姻率(人口千対)もおおむね10.0以上と「結婚ブーム」を現出した。その後は、婚姻件数、婚姻率ともに低下傾向となり、1978(昭和53)年以降は年間70万組台(1987(昭和62)年のみ60万組台)で増減を繰り返しながら推移してきた。2002(平成14)年からは4年連続で減少していたが、2006(平成18)年は73万971組(対前年比1万6,706組増)と5年ぶりに増加に転じた。婚姻率も過去最低だった2004(平成16)年、2005(平成17)年の5.7より0.1上昇し、5.8となったが、「結婚ブーム」であった1970年代前半と比べると半分近くまで落ち込んでいる。
また、2005年の総務省「国勢調査」によると、25~39歳の未婚率は男女ともに引き続き上昇している。男性では、25~29歳で71.4%、30~34歳で47.1%、35~39歳で30.0%、女性では、25~29歳で59.0%、30~34歳で32.0%、35~39歳で18.4%となっている。30年前の1975(昭和50)年においては、30代の男性・女性ともに約9割が結婚していたことを考えると、この間、未婚化が急速に進行していることがわかる。さらに、生涯未婚率を30年前と比較すると、男性は2.1%(1975年)から15.4%(2005年)、女性は4.3%(1975年)から6.8%(2005年)へ上昇している。
厚生労働省「人口動態統計」によると、我が国では、2006年に生まれた子どものうち、98%は嫡出子(法律上の婚姻をした夫婦間に出生した子)であり、嫡出でない子(いわゆる婚外子)の割合は2%にすぎない9。したがって、子どもは男女が結婚してから生まれる場合が大半である我が国において、結婚しない人の割合が増加すれば、出生数の減少に直接的な影響を与えることになる。

(晩婚化、晩産化の進行)
日本人の平均初婚年齢は、2006年で、夫が30.0歳(対前年比0.2歳上昇)、妻が28.2歳(同0.2歳上昇)と上昇傾向を続けており、結婚年齢が高くなる晩婚化が進行している。1975年には、夫が27.0歳、妻が24.7歳であったので、ほぼ30年間に、夫は3.0歳、妻は3.5歳、平均初婚年齢が上昇していることになる。
また、初婚の妻の年齢(各歳)別婚姻件数の構成割合を1986(昭和61)年から10年ごとにみると、ピーク時の年齢が上昇するとともに、その山も低くなっていることがわかる。

また、初婚年齢が遅くなるという晩婚化が進行すると、それに伴い、出生したときの母親の平均年齢も遅くなるという晩産化の傾向があらわれる。2006年の場合、第1子が29.2歳、第2子が31.2歳、第3子が32.8歳であり、ほぼ30年前の1975年と比較すると、それぞれ3.5歳、3.2歳、2.5歳遅くなっている。高年齢になると、出産を控える傾向にあることから、晩婚化や晩産化は少子化の原因となる。

コラム 諸外国における少子化の状況我が国は、戦後、出生数と合計特殊出生率が急速に低下し、現在でも少子化傾向が続いているが、諸外国における少子化の状況はどのようになっているのであろうか。 主な国(アメリカ10、フランス、スウェーデン、イギリス、イタリア、ドイツ)の合計特殊出生率の推移をみると、1960年代までは、すべての国で2.0以上の水準であった。その後、1970(昭和45)年から1980(昭和55)年頃にかけて、全体として低下傾向となったが、その背景には、子どもの養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊など出生抑制技術の普及等があったと指摘されている。1990(平成2)年頃からは、出生率の動きは国によって特有の動きをみせ、ここ数年では回復する国もみられるようになってきている。 特に、フランスやスウェーデンでは、出生率が1.6台まで低下した後、回復傾向となり、直近ではフランスが1.98(2007年(速報値))、スウェーデンが1.85(2006年)となっている。これらの国の家族政策の特徴をみると、フランスでは、かつては家族手当等の経済的支援が中心であったが、1990年代以降、保育サービスの充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で政策が進められている。スウェーデンでは、比較的早い時期から、経済的支援とあわせ、保育サービスや育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきた。また、ドイツでは、依然として経済的支援が中心となっているが、近年、両立支援へと転換を図り、育児休業制度や保育サービスの充実等を相次いで打ち出している。 このように、1990年代以降の欧州諸国(特にフランス、スウェーデン、ドイツ)では、家族関係社会支出の規模やその内訳は国によって様々であるものの、仕事と育児・家庭に対する「両立支援」を軸に展開する傾向がみられる。 第1-1-10図 主な国の合計特殊出生率の動き
![]() 次に、アジアの国や地域について、経済成長が著しく、時系列データの利用が可能なタイ、シンガポール、韓国、香港及び台湾の出生率の推移をみると、次の図のとおりである。1970年の時点では、いずれの国も我が国の水準を上回っていたが、その後、出生率は低下傾向となり、現在では人口置換水準を下回る水準になっている。タイの1.90(2005年)を除けば、我が国の1.32(2006年)を下回る水準となっており、シンガポールが1.25(2005年)、韓国が1.26(2007年(速報値))、台湾が1.12(2006年)、香港が0.98(2006年)となっている。 このように、日本以外の東アジアの主な国や地域においても、「超少子化」ともいえる状況が発生しており、近年、韓国やシンガポールでは、自国の出生率を低すぎると認識し、出生率を回復させるという政策スタンスをとっている。 第1-1-11図 アジアの主な国・地域における合計特殊出生率の動き
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9 | 欧米諸国における嫡出でない子の割合は30~50%台の水準であるが、その背景には、男女のカップルが法律上の結婚に至るまでに同棲という事実婚の状態を経ることが多いこと、嫡出でない子であっても法的には嫡出子とほぼ同じ権利を享受できること、結婚形式の多様化に対する社会一般の受け入れなどが考えられる。 |
10 | アメリカの2006年の合計特殊出生率は2.10であるが、人種別にみると、白人1.86、アフリカ系2.11、アジア系1.91、ヒスパニック系2.96となっている。ヒスパニック系の出生率が大変高く、全出生数の約24%を占めているが、白人の出生率も我が国の水準(2006年で1.32)を大きく上回っている。 |