第2節 人口減少社会の到来
1 将来の人口の見通し
(50年後の我が国の人口)
人口動態統計によると、2006(平成18)年において、出生数(109万2,674人)と死亡数(108万4,450人)の差である自然増加数は8,224人となった。2005(平成17)年は、現在の形式で調査を開始した1899(明治32)年以降、統計の得られていない1944(昭和19)年から1946(昭和21)年を除き、初めて人口の自然減(対前年(2004年)比マイナス2万1,266人)となったが、2006年は再びプラスに転じた。
それでは、今後、我が国の人口はどのように推移していくのだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所では、国勢調査や人口動態統計を踏まえ、全国の将来の出生、死亡及び国際人口移動について一定の仮定を設け、これらに基づいて、我が国の将来の人口規模や人口構造の推移をおおむね5年ごとに推計している。最新の「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」(以下「平成18年将来推計人口」という。)では、将来の出生推移及び死亡推移について、それぞれ中位、高位、低位の3つの仮定を設けている11。したがって、3つの出生仮定と死亡仮定の組み合わせであるので、9通りの推計で構成されていることになるが、以下では、死亡中位の仮定として、3つの推計(出生中位、高位、低位)を紹介する。
一般に将来推計人口として利用されている中位推計(出生中位・死亡中位)では、合計特殊出生率は、2005年の実績値1.26から2013(平成25)年の1.21まで低下し、その後やや上昇に転じて2055(平成67)年には1.26になると仮定している。このような仮定に基づいて試算すると、我が国の総人口は、2005年の1億2,777万人から長期の人口減少過程に入り、2030(平成42)年の1億1,522万人を経て、2046(平成58)年には1億人を割って9,938万人となり、ほぼ50年後の2055年には8,993万人になることが見込まれている。前回の推計(平成14年1月推計)では、2050(平成62)年において、合計特殊出生率は1.39、総人口は1億59万人になるとされていたが、未婚化、晩婚化等の影響により、前回よりも一層厳しい見通しとなっている。
また、高位推計(出生高位・死亡中位)によると、合計特殊出生率は、2006年に1.32へと上昇に転じ、2055年には1.55へと推移する。総人口は、2053(平成65)年に1億人を割り、2055年には9,777万人になるものと推計されている。
一方、低位推計(出生低位・死亡中位)によると、合計特殊出生率は、2026(平成38)年に1.03台まで低下し、その後わずかに上昇を示して2055年には1.06へと推移する。総人口は、2042(平成54)年に1億人を割り、2055年には8,411万人になるものと推計されている。
さらに、中位推計(出生中位・死亡中位)では、2055年には、1年間に生まれる子どもの数が50万人を下回るといった姿が示されている。
(人口構造の変化)
平成18年将来推計人口をみると、少子化の進行や人口減少ばかりでなく、我が国の人口構造そのものが大きく変化していく見通しであることがわかる。
年齢3区分別の人口規模及び全体に占める割合の推移について、中位推計結果をみると、まず年少人口(0~14歳)では、2007(平成19)年の1,724万人から、2009(平成21)年に1,600万人台へと減少し、2039(平成51)年に1,000万人を割って、2055年には752万人の規模になる。総人口に占める割合は、2007年の13.5%から低下を続け、2025(平成37)年に10.0%となり、2055年には8.4%となる。
次に、生産年齢人口(15~64歳)については、2007年の8,301万人から減少し続け、2055年には4,595万人となる。総人口に占める割合は、2007年の65.0%から低下し続け、2021(平成33)年には60%を下回り、2055年には51.1%となる。
また、老年人口(65歳以上)については、2007年の2,745万人から、団塊世代が参入を始める2012(平成24)年に3,000万人を上回り、緩やかな増加を続けて、第二次ベビーブーム世代が老年人口に入った2042(平成54)年に3,863万人でピークを迎える。その後は減少に転じ、2055年には3,646万人となる。総人口に占める割合は、2007年の21.5%から上昇を続けて、2055年には40.5%に達する。老年人口自体は2042年をピークに減少し始めるが、年少人口と生産年齢人口の減少が続くため、老年人口割合は相対的に上昇し続けることとなる。

(都道府県別の人口の見通し)
国立社会保障・人口問題研究所では、平成18年将来推計人口に基づいて、2005年から2035(平成47)年まで30年間の都道府県別人口の将来推計も行っている12。この推計結果によると、今後、人口が減少する都道府県が増加し続け、2010(平成22)年から2015(平成27)年にかけては42道府県、2020(平成32)年から2025(平成37)年にかけては沖縄県を除く46都道府県、2025年以降はすべての都道府県で人口が減少することが見込まれている。また、2035年時点で2005年と比べて人口が増加しているのは、東京都と沖縄県のみであり、それ以外はすべて減少している。
また、全国人口に占める割合を地域ブロック別にみると、2005年に最も大きかったのは南関東ブロック(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の27.0%であり、そのシェアは今後も緩やかに上昇し続け、2035年には29.8%に達する見込みである。一方で、そのほかの地域ブロックの占める割合は横ばいないしは減少となっている。
次に、年齢別人口の推移をみると、年少人口及び生産年齢人口については、すべての都道府県において減少し、各都道府県の総人口に占める割合も減少傾向となっている。一方で、老年人口については、2020年まですべての都道府県で増加となっているが、老年人口の増加率はおおむね縮小傾向にあり、2020年以降は老年人口の減少県があらわれる。ただし、老年人口が総人口に占める割合は、年少人口及び生産年齢人口が減少するため、各都道府県とも今後一貫して増加し、老年人口割合が30%を超える都道府県は2005年時点では一つもないが、2020年には31道県で30%を超え、さらに、2035年には44都道府県で老年人口割合が30%を超える見込みとなっている。
なお、市町村の老年人口割合をみると、現状においても、76の町村が40%を超えている(全体の約3.4%)。



11 | 出生推移の仮定については、1990年生まれの女性を参照コーホート(ある年齢層のかたまり)として、結婚及び出生指標に一定の仮定を設け、1955年生まれの年長のコーホートの実績値から参照コーホートの仮定値を経て、2005年生まれのコーホートまで徐々に変化し、以後は一定になるものと仮定している。1990年生まれの参照コーホートの結婚及び出生指標は、例えば、平均初婚年齢は、中位28.2歳、高位27.8歳、低位28.7歳、生涯未婚率は、中位23.5%、高位17.9%、低位27.0%、夫婦完結出生児数は、中位1.70人、高位1.91人、低位1.52人と設定している。 |
12 | 「日本の都道府県別将来推計人口(平成19年5月推計)」では、ある年の男女・年齢別人口を基準として、ここに人口動態率や移動率などの仮定値を当てはめて将来人口を計算している(コーホート要因法)。各都道府県別にコーホート要因法によって将来人口の推計値をもとめた後、男女・年齢別推計人口の全都道府県の合計が、全国推計(出生中位・死亡中位)の値と一致するよう一律補正を行ったものを、最終の推計結果としている。 |
2 人口減少による影響
(労働力人口の減少)前頁のとおり、平成18年将来推計人口をみると、2055(平成67)年には、合計特殊出生率が1.26、総人口が9,000万人を下回り、その4割(約2.5人に1人)が65歳以上の高齢者といった姿が示されている。こうした人口減少社会は、単純な人口規模の縮小ではなく、高齢者数の増加と生産年齢人口(15~64歳)の減少という「人口構造の変化」を伴うものであり、我が国の経済社会に大きな影響を与えることが懸念される。
例えば、生産年齢人口が減少することに伴い、出生数の減少による若年労働力の減少や、高齢者の引退の増加によって、労働力人口は高齢化しながら減少していくことが予想され、経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があることから、中長期的な経済成長の基盤を確保するためにも、イノベーションの推進を図るとともに、若者、女性、高齢者、障害者などの働く意欲と能力を持つすべての人の労働市場への参加を実現するための仕組みづくりを強力に進めることが必要である13。こうした施策を講じることにより、労働市場への参加が進めば、2030(平成42)年時点で6,180万人の水準にまで労働力人口の減少を抑えることができると見込まれている(第1-1-16図参照)。

また、労働力人口の減少が生じると経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があることに留意し、中長期的な経済成長の基盤を確保する観点から、イノベーションの推進を図るとともに、若者、女性、高齢者など、働く意欲を持つすべての人々の就業参加を実現することが不可欠である。
また、これから生まれる世代が労働力化する2030年以降についても、生産年齢人口の減少速度の加速により、さらに急速な労働力人口の減少が予想され、若者、女性、高齢者などの労働市場参加が進まないことに加えて少子化の流れを変えることができなければ、2050(平成62)年の労働力人口は4,228万人と、現在(2006年)の6,657万人の3分の2弱の水準まで落ち込むことが見込まれている。
(高齢化率の上昇)
少子化の進行による急速な人口減少は、労働力人口の減少による経済へのマイナスの影響のほか、高齢者人口の増大による年金や医療、介護費の増大の影響が考えられる。一方で、社会保障制度を支える現役世代の人口及び総人口に占める割合の双方が低下していくため、社会保障制度の持続可能性を図るためには、高齢者に対する給付内容の見直しや、給付と負担の均衡等の措置を講じていかなければならない。
さらに、人口減少による社会的な影響としては、地域から子どもの数が少なくなる一方で、高齢者が増加し、特に過疎地においては、防犯、消防等に関する自主的な住民活動をはじめ、集落という共同体の維持さえ困難な状況など、地域の存立基盤にも関わる問題が生じる可能性がある。
コラム 身近な地域からみた少子化の影響 ~児童・生徒数、学校数の減少~少子化の影響は、地域の学校の児童・生徒の人数等の推移に現れている。 まず、小学校の児童数の推移をみると、第2次ベビーブーム世代の1981(昭和56)年度の1,192万4,653人以降、年々減少し、2007(平成19)年度には、1950年代後半のピーク時の約半分である713万2,874人にまで減少している。中学校や高等学校の生徒数の推移についてもほぼ同様の傾向であり、中学校は1986(昭和61)年度に610万5,749人であったものが2007年度には361万4,552人に、高等学校は1989(平成元年)年度に564万4,376人であったものが、2007年度には340万6,561人にまで、それぞれ減少している。 第1-1-17図 児童・生徒数の推移(小・中・高校)
![]() 1学級当たりの児童・生徒数でみてみると、小学校では1955(昭和30)年度の43.8人から2007年度の25.7人と、約18人の減少となっている。同様に、同じ時期の中学校の生徒数の推移をみると、中学校では46.5人から30.2人と、約16人の減少となっている。 第1-1-18図 1学級当たりの児童・生徒数の推移
![]() 学校数について、およそ50年前と比較すると、小学校では、1957(昭和32)年度の2万6,988校から2007年度の2万2,693校へ、中学校では、1957年度の1万3,622校から2007年度の1万955校へと減少している。高等学校では、1957年度の4,577校から1988(昭和63)年度の5,512校まで上昇傾向であったが、それ以降減少傾向となり、2007年度には5,313校となっている。 第1-1-19図 学校数の推移
![]() この背景には、児童・生徒数の減少による教育機関の統合がある。小・中学校の統合によって、遠距離通学を余儀なくされるケースなど児童・生徒への負担が大きくなることも考えられる。 こうした子どもの数の減少は、子ども同士が切磋琢磨し社会性を育みながら成長していくという機会を減少させ、自立したたくましい若者へと育っていくことをより困難にする可能性があるとの指摘もある。 このほか、子どもの集まる祭りやイベントが姿を消したり、町内会で夏祭りをやっても高齢者の姿の多さが目立つようになるなど、少子化の影響は、地域における日常生活の中で、目に見える形で現れてきている。 |
13 | 労働力人口とは、15歳以上の者で、就業者及び就業したいと希望し求職活動をしており、仕事があればすぐ就くことができるが、仕事についていない者(完全失業者)の総数をいう。また、当該年齢人口に占める労働力人口の割合を労働力率という。 |