第1節 若者の就労支援に取り組む
2003(平成15)年6月、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣の4大臣で構成される若者自立・挑戦戦略会議において、「若者自立・挑戦プラン」がとりまとめられ、今後3年間でフリーター1や若年失業者等の増加傾向を転換させるため、各府省が連携して若者を中心とした総合的な人材対策に取り組むこととされた。
2004(平成16)年12月には、同プランの実効性・効率性を高めるため、「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」を、さらに、2006(平成18)年1月には、同アクションプランの改訂版をとりまとめ、これに基づき、関係府省、国と地方、行政と産業界・教育界の連携の下、フリーターの常用雇用化、ニートの自立化支援など、若者一人ひとりの状況に応じたきめ細かな対策等に取り組んできたところである。
この結果、24歳以下の若者の失業率は、2003年をピークに減少に転じ、また、フリーターについても、2004年から4年連続で減少するなど、各種対策の効果があらわれつつある。しかしながら、新卒採用が特に厳しい時期、いわゆる就職氷河期が就職活動の時期に当たり正社員となれず、フリーターにとどまっている若者(年長フリーター(25歳~34歳))やニートの状態にある無業者は依然として多い状況にあり、なお多くの課題があることから、2006年12月にとりまとめられた「再チャレンジ支援総合プラン」(「多様な機会のある社会」推進会議決定)における「2010年までに、フリーターをピーク時の8割に減少させる」ことを目標に、「フリーター25万人常用雇用化プラン」等の各種対策を積極的に推進することにより、一人でも多くの若者が新たにチャレンジできる社会の実現を目指すこととしている。
また、2007(平成19)年6月、第166回通常国会で成立した「雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律」(平成19年法律第79号)において、若者の能力を正当に評価するための募集方法の改善等により、その雇用機会の確保等を図ることを事業主の努力義務とするとともに、同年8月、改正法に基づき「青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針」を定めたところであり、若者の応募機会の拡大等について、事業主への周知・啓発、指導を実施している。
1 学校段階から職場定着に至るまでの総合的・継続的なキャリア形成・就職支援策
(1)初等中等教育段階におけるキャリア教育の推進
近年、若者の勤労観・職業観の希薄化や社会人・職業人としての基礎的・基本的な資質をめぐる課題、高い早期離職率やフリーターやニートの存在が社会問題となっている。
こうした中、学校教育において、子どもたちが勤労観・職業観を身に付け、明確な目的意識を持って日々の学業生活に取り組む姿勢や激しい社会の変化に対応し主体的に自己の進路を選択・決定できる能力を育成し、社会人・職業人として自立していくことができるようにするキャリア教育の推進が強く求められている。
このため、政府では、「若者自立・挑戦プラン」等に基づき、2005(平成17)年度から中学校を中心とした5日間以上の職場体験を「キャリア・スタート・ウィーク」として実施し、地域の協力体制の構築等を通じ、キャリア教育の推進を図っているところである。
一方、これまで高等学校におけるキャリア教育に関する取組は十分とはいえないとの指摘を踏まえ、2007(平成19)年度から、高等学校(特に普通科高校)における取組を充実するため、「高等学校におけるキャリア教育の在り方に関する調査研究」を実施している。
また、企業人等を講師として小・中・高等学校に派遣し、職業や産業の実態、働くことの意義等に関して生徒に理解させ、自ら考えさせる「キャリア探索プログラム」を実施し、2007年度上半期で、約2,000校の小・中・高等学校を対象とし、約20万人の生徒が参加した。加えて、生徒に短期間の企業での就業体験をさせ、自らの適性と職業の関わり等について考える契機とさせる「ジュニア・インターンシップ」を実施し、2007年度上半期で、約1万5,000事業所の協力により、約600校、約4万人の生徒が参加した。そのほかには、高校生就職ガイダンスや高校の進路指導担当者を対象とした研修等を実施している。
さらに、NPOや企業等の民間のアイデア・経験を活用し、職場体験にとどまらず、事前学習・事後学習を盛り込んだ体系的・継続的なカリキュラムを実施する「地域自律・民間活用型キャリア教育プロジェクト」を、2005年度から実施しており、2007年度は、全国28のモデル地域で事業を実施した。これらの教育を受けた子どもたちからは、「様々な仕事があることがわかった」、「学校の勉強と仕事の関係がわかった」、「チームで協力できた」などといった声が寄せられている。さらに、2008(平成20)年度からは、学校と地域の仲介役である教育コーディネーターを育成・評価する仕組みの構築に向けた取組を実施することとしている。
(2)大学、大学院、専修学校等における職業体験の機会の提供や職業教育の推進
大学等の高等教育機関においても、社会の様々な分野で活躍することのできる人材を養成することは、重要な役割として期待されている。このため、各大学等においても、学生の職業観の涵養のため、インターンシップの導入等に取り組んでいる。政府では、インターンシップを推進する観点から、インターンシップ推進全国フォーラムの開催、インターンシップを実施する大学等に対する財政的支援、経済団体と連携したインターンシップ受入企業開拓の実施など、各種の施策を実施している。これらの取組を受けてインターンシップの実施率は年々上昇しており、授業科目として実施したインターンシップは、2006年度には全大学の65.8%に上り、約5万人の大学生がインターンシップを体験した。また、社会で必要な能力(社会人基礎力)の育成を推進する観点から、2007年度は7つのモデル大学において、PBL(Project Based Learning:プロジェクト型授業)や実践型インターンシップ等の実践教育により、学生の社会人基礎力の育成・評価を実施した。
また、若年者雇用が社会的問題となる中で、高い職業意識・能力を有する若者を育成することがますます重要な課題となっている。
そこで、政府としても、高等教育段階での質の高いキャリア教育を促進するため、2006年度から「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の公募テーマの1つとして新たに「実践的総合キャリア教育の推進」を設定した。2007年度は大学・短期大学・高等専門学校から申請のあった153件の取組の中から30件の優れた取組を選定し、財政支援を行うとともに、他の大学等の取組の参考となるよう社会に広く情報提供を行っている。
(3)キャリア教育等の更なる推進
政府では、キャリア教育等を推進するため、様々な施策を講じてきた結果、各学校段階におけるキャリア教育等の取組は広がりつつあるが、一方で、地域や各学校段階においても取組にばらつきや偏りがあるなどの課題が残っている。
このような課題を検討し、キャリア教育等の推進に向けた取組を強化・加速するための関連施策をとりまとめるため、2006年12月、青少年育成推進本部の下に、青少年育成を担当する内閣府特命担当大臣を主宰者とし、文部科学大臣、厚生労働大臣及び経済産業大臣で構成する「キャリア教育等推進会議」を設置し、2007年5月、「キャリア教育等推進プラン」を策定した。本プランは、キャリア教育等に関する政府の関係施策を体系的にまとめた初めてのプランであり、今後は、これに基づいて具体的な取組を実施するとともに、取組の成果と課題を検証・評価し、更なる取組へと継続・発展させていくため、本プランのフォローアップを定期的に実施し、公表していくこととしている。
2 就職経路の複線化に対応した多様な就職システムの整備
(1)フリーター等の就労支援の推進
2007(平成19)年度において、年間25万人のフリーターの常用雇用化を目指すという目標を掲げ、「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)」による就職支援(4を参照)のほか、次の各種施策等を最大限効果的かつ効率的に実施し、約17万7人(2007年11月現在速報値)の常用雇用を実現したところである。
ア | 「ジョブクラブ(就職クラブ)」方式による年長フリーターの常用就職の支援 |
2007(平成19)年度において、年間25万人のフリーターの常用雇用化を目指すという目標を掲げ、「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)」による就職支援(4を参照)のほか、次の各種施策等を最大限効果的かつ効率的に実施し、約17万7人(2007年11月現在速報値)の常用雇用を実現したところである。
イ | 若年者雇用特別奨励金を活用した年長フリーター等の安定した雇用の促進 |
2007年度より、正社員として就業経験が少ない、就職が困難な年長フリーターについて、トライアル雇用(エを参照)後に常用雇用に移行した事業主に対して「若年者雇用促進特別奨励金」を支給することにより、年長フリーターの安定した雇用を促進している。
ウ | フリーター常用就職支援事業の推進 |
常用雇用を希望するフリーターを支援するため、ハローワークにおいて専門の窓口を設け、セミナーや合同選考会の開催、専任職員による一対一の相談・助言、求人開拓、職業紹介、就職後の職場定着指導等、常用雇用化のための一貫した支援を実施している。
エ | 若年者トライアル雇用の活用 |
フリーターや学卒未就職者等の若年失業者を短期間のトライアル雇用として受け入れる企業に対する支援を行い、その後の常用雇用への移行を図る「若年者トライアル雇用事業」を2001(平成13)年12月より実施している。同事業により、2007年度上半期で、約2万2,000人がトライアル雇用を開始し、そのうちトライアル雇用を終了した約2万人の約8割に当たる約1万6,000人が常用雇用に移行するなど、常用雇用の実現に高い効果を上げている。
オ | 「日本版デュアルシステム」の推進 |
若者のフリーター化・無業化を防止するため、教育訓練機関における座学と企業における実習を組み合わせた職業能力開発を行うことにより、企業のニーズに応える実践的な人材を育成する「日本版デュアルシステム」を推進している。2006(平成18)年度の短期訓練(標準5か月間)においては約2万8,000人が受講し、また2006年度に開始した長期訓練(1~2年間)においては、約700人が受講している。
(2)就労が困難な若者に対する自立支援の推進
様々な要因により働く自信をなくした若者に対して、合宿形式による集団生活の中で労働体験等を通じて、働くことについての自信と意欲を付与することにより就労等へと導く若者自立塾を2005(平成17)年度から実施している。2007年度においては、5団体を新たに選定し、2006年度に選定した25団体と合わせ、30団体において支援を行っている。
また、働くことに不安を抱えている者や自信を失っている者などをはじめとした若者に対する地域の支援拠点として、2006年度から、地域若者サポートステーションを地域の主導により設置(2006年度:25箇所、2007年度:50箇所)し、地域の若者支援機関からなるネットワークを構築するとともに、キャリア形成に係る相談を含めた総合的な相談等を行い、個別的、継続的かつ包括的な支援を行っている。
さらに、若年求職者の中には、人間関係などの要因により離職した者や、就職活動に自信がないなど不安や悩みなどを抱える者も多くみられるところであり、その就職の促進を図るため、就業に関わって心理的な面も含めてよりきめ細かく専門的相談を行い、就職活動を行うことや、就業することを促進している。
(3)「実践型人材養成システム」の推進
人口減少社会を迎えるとともに、団塊世代の大量引退が見込まれる中で、我が国産業を支えてきた熟練技能の喪失が懸念される一方、生産現場への若者の入職の減少が相まって、現場を支える人材の質量両面にわたる不足への対応が急務となっている。
このような観点から、2006年10月に施行された「職業能力開発促進法及び中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成18年法律第81号)により、実践的な技能を備えた人材を育成するため、企業が主体となり、新規学校卒業者を主たる対象として、「教育訓練機関における学習」と「企業における雇用関係の下での実習(OJT)」とを組み合わせて行う訓練システムである「実践型人材養成システム」を法律上に位置づけ、広くその普及を図っている。
(4)職場定着の促進
新規学卒就職者の早期離職率の減少を図るため、インターネット等を活用した、若年労働者の働くことに関わる幅広い相談に応ずる体制を整備するなど、学卒就職者など若年労働者の「職場定着促進事業」を実施している。
3 能力を軸としたマッチングを可能とする若年労働市場の基盤の整備
企業の求める人材ニーズを把握し、IT、技術経営(MOT)等の専門分野における能力評価基準の策定や、それに対応したカリキュラム・教材の開発、実証研修等を実施することにより、雇用のミスマッチの解消など、若年労働市場の整備を図っている。
また、若年者について、「コミュニケーション能力」など職業人としての基礎能力の著しい低下が指摘される中で、早い段階から若年者の主体的な就職基礎能力の習得を支援することを目的として、2004(平成16)年度から、企業が若者に求めている就職基礎能力の内容を公表し、それらを身に付けるための講座や試験の認定を行うとともに、講座を修了又は試験に合格等した若者に対し、申請に応じて証明書を発行するYES―プログラムを展開している。
さらに、若年ものづくり人材の育成のため、3級技能検定の実施職種数を拡大し、若者の受検機会の拡大を図っている。
4 若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)の整備
地方公共団体と産業界、学校等の連携の下、若者に対するカウンセリングから研修等までの一連の就職支援サービスを提供する「若年者のためのワンストップサービスセンター(通称ジョブカフェ)」を都道府県の主体的取組により整備している。
2007(平成19)年度においては、全国46都道府県(87か所)(2007年12月現在)にジョブカフェが設置されており、うち39都道府県においてハローワークを併設し、若者を対象とした職業紹介を実施するほか、企業説明会や各種セミナーの実施等の事業を委託している。また、20道府県においては2004(平成16)年度から2006(平成18)年度までの3年間、モデル地域として、民間を積極的に活用し、カウンセリングから研修等までの一貫した雇用関連サービスをきめ細かく提供するジョブカフェモデル事業を実施し、地域の実情に応じた就職支援を推進してきた。2007年度からは、これまで得られたノウハウを活用し、各地方公共団体が自主的に事業を実施している。
その結果、2007年度上半期において、全国でサービス利用者数延べ約76万9,000人、就職決定者約3万7,000人となっており、着実に実績をあげている。
5 若者の人間力を高めるための国民運動の推進
若年者雇用問題の解決のためには経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会、政府等の関係者が一体となった取組が必要であることから、2005(平成17)年度から、若年者雇用問題についての国民各層の関心を喚起し、若者に働くことの意義を実感させ、働く意欲・能力を高めるため、「若者の人間力を高めるための国民運動」を展開している。
この国民運動の中核として、広く関係者により構成される「若者の人間力を高めるための国民会議」を開催し、2005年9月には、国民に向けたメッセージとして「若者の人間力を高めるための国民宣言」をとりまとめるとともに、広報・啓発活動の展開など若年者雇用に関する国民各層の関心の喚起を図ることにより、国民運動を推進している。
1 | フリーターについては、年齢は15歳から34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし、[1]雇用者のうち勤め先における呼称が「パート」又は「アルバイト」である者、[2]完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者、[3]非労働力人口のうち希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」で、家事も通学も就業内定もしていない「その他」の者としている。実数は総務省統計局「労働力調査(詳細結果)」により把握している。 |