第2節 「待ったなし」の少子化対策の推進(1/3)
1 少子化対策をめぐる最近の議論
●社会保障の機能強化のための緊急対策 ~5つの安心プラン~
2008(平成20)年7月、政府は、「将来に希望を持って安心して働き、安心して子どもを生み育てられること」、「病気になっても安心して医療を受けられること」など、国民の「安心」につながる国民の目線に立ったきめ細かな社会保障の方策を検討し、この1~2年の間に着実に実行に移していくために求められている5つの課題について、緊急に講ずべき対策とこれを実施していく工程を「社会保障の機能強化のための緊急対策~5つの安心プラン~」としてとりまとめた。
5つの課題のうちの1つの柱4である『未来を担う「子どもたち」を守り育てる社会』では、国民の結婚・出産・子育てについての「希望」と「現実」とのかい離を解消し、未来を担う「子どもたち」を守り育てる社会を実現するための「保育サービス等の子育てを支える社会的基盤の整備等」と「仕事と生活の調和の実現」について、第1‐2‐13図のような施策が盛り込まれている。
第1-2-13図 社会保障の機能強化のための緊急対策 ~5つの安心プラン~(概要・抜粋)
●社会保障国民会議
高齢化に伴う医療費の増加、救急医療・産科、小児科の医師不足や基礎年金の国庫負担率の引上げ、少子化対策に対する欧州諸国並みの財源投入の議論等、社会保障を考える上での大きな課題を抱えている中で、国民が希望と安心の持てるような社会保障制度のあるべき姿とその中で政府にどのような役割を期待し、どのような負担を分かち合うかを国民目線で議論を行うために2008年1月、社会保障国民会議(以下「国民会議」という。)が設置された(座長:吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授)。
国民会議では議論を効率的に行うため、[1]所得確保・保障〔雇用・年金〕、[2]サービス保障〔医療・介護・福祉〕、[3]持続可能な社会の構築〔少子化・仕事と生活の調和〕の3つのテーマについて分科会を設けるとともに各分科会の議論の方向性を共有するなど連携を高めるための基本問題ワーキンググループを設けて議論が進められ、同年6月の中間報告を経て同年11月に最終報告を取りまとめた。
中間報告においては、少子化対策は、将来の担い手を育成する「未来への投資」と位置付け、就労と結婚・出産・育児の「二者択一構造」の解決を通じた「希望と現実のかい離」の解消を目指し、[1]仕事と生活の調和、[2]子育て支援の社会的基盤の拡充を「車の両輪」として取り組むことが重要としている。
あわせて、我が国の家族政策関係支出が諸外国に比べて非常に小さいことから、「国が責任をもって国・地方を通じた財源の確保を図った上で、大胆かつ効率的な財政投入を行い、サービスの質・量の抜本的な拡充を図るための新たな制度体系を構築することが必要不可欠」とされている。
このような中間報告の整理を受けて、最終報告では子育て支援の社会的基盤の充実に関する新たな制度体系構築に向けた次のような3つの視点を提示している。
[1] | 仕事と子育ての両立を支えるサービスの質と量の確保のために、「保育に欠ける」という要件の見直し、良質で柔軟なサービス提供を行なう仕組、多様な提供主体の参入、一定の質が保たれるための公的責任の在り方。 |
[2] | すべての子育て家庭に対する支援の拡充、妊娠・出産期の支援の拡充、特別な支援を必要とする子どもに対する配慮、多様な主体の参画・協働。 |
[3] | 少子化対策は社会保障制度全体の持続可能性の根幹にかかわる政策であり、その位置付けを明確にした上で、効果的な財源投入を行なうことが必要。少子化対策は「未来への投資」として、国、地方公共団体、事業主、国民が、それぞれの役割に応じ、費用を負担していくよう、合意形成が必要。 |
一方、少子化対策に係る費用推計に関し、重点戦略においては、国民の希望する結婚、出産・子育てを実現した場合の社会的コストの追加所要額については、1.5兆円~2.4兆円と推計されているところである。国民会議最終報告では、同試算には含まれていないが、施設整備やサービスの質の維持・向上のためのコスト、社会的養護など特別な支援を必要とする子ども達に対するサービスの充実に要するコスト、さらには児童手当をはじめとする子育てに関する経済的支援の充実も、緊急性の高い保育をはじめとするサービスの充実の優先の必要性にも留意しつつ併せて検討すべきであるとされている。
また、年金、医療・介護、少子化対策について、その機能を充実強化していくために必要な将来の費用、及び基礎年金国庫負担を1/3から1/2に引き上げるために必要な費用を加えれば、社会保障の機能強化のために追加的に必要な国・地方を通じた公費負担は、その時点での経済規模に基づく消費税率に換算して、基礎年金について現行社会保険方式を前提とした場合には2015年に3.3~3.5%程度、2025年に6%程度、税方式を前提とした場合には2015年に6~11%程度、2025年で9~13%程度の新たな財源を必要とすると試算されている。
このうち少子化対策については、重点戦略における推計を基に、現行の関連する制度の公費負担割合を当てはめて算出しており、少子化対策のために必要な財源は消費税率に換算して、2015年度及び2025年度において0.4~0.6%と試算されている。なお、これには児童手当等の経済的支援の拡充に要する費用は計上されていない(第1‐2‐14図参照)。
また、制度に基づく給付・サービス以外に、国のみならず、地方自治体が様々な形で提供する社会保障に関わる給付・サービスがある。地方分権、地域住民のニーズを踏まえた地域の実態に即したサービスの実施という観点からは、このような施策にかかる財源の確保をどのように考えていくかも大きな課題となる。
第1-2-14図 社会保障の機能強化のための追加所要額(試算)(社会保障国民会議及び「子どもと家族を応援する日本」重点戦略に基づく整理)
●持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」
急速に進む少子・高齢化の下で、国民の安心を確かなものとするためには、堅固で持続可能な「中福祉・中負担」の社会保障制度を構築することが必要であり、かつその安定財源確保のための税制抜本改革の道筋などを示す必要があることから、2008年12月に「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた『中期プログラム』」(以下「中期プログラム」という。)を閣議決定した。
中期プログラムにおいては、「中福祉・中負担」の実現に向けて、少子化対策については子育て支援の給付・サービスの強化などの機能強化と効率化を図ることとされている。具体的には、第1‐2‐15図の工程表において示されているような制度改正の時期を踏まえて検討を進め、確立・制度化に必要な費用について安定財源を確保した上で、段階的に内容の具体化を図ることとしている。
また、消費税収を充てる社会保障の費用については、その他の予算とは厳密に区分経理し、予算・決算において消費税収と社会保障費用の対応関係を明示することとしている。具体的には、消費税については、その全税収を確立・制度化した年金、医療及び介護の社会保障給付及び少子化対策の費用に充てることにより、消費税収は全て国民に還元し、官の肥大化には使わないこととしている。
第1-2-15図 少子化対策の工程表
4 | 他の4つの課題は、『高齢者が活力を持って、安心して暮らせる社会』、『健康に心配があれば、誰もが医療を受けられる社会』、『派遣やパートなどで働く者が将来に希望を持てる社会』、『厚生労働行政に対する信頼の回復』となっている。 |