第2節 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた各主体の取組

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1 推進体制の整備

憲章及び行動指針に基づき、仕事と生活の調和を推進していくために、政労使、都道府県がパートナーとして密接に連携する必要があり、その協働のネットワークを支える中核的組織として、2008(平成20)年1月、内閣府に「仕事と生活の調和推進室」を設置した。

また、憲章及び行動指針に基づき、その点検・評価を行うとともに、仕事と生活の調和の実現のための連携推進を図るため、企業、労働組合、地方公共団体の代表等が参集した「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」を2008年4月に設置し、同年7月に、2008年度の効果的な取組推進と2009(平成21年)度の新たな展開を視野に入れ、重点的に取り組んでいく事項を整理した「仕事と生活の調和の実現に向け当面取り組むべき事項」を取りまとめた(第1‐3‐10図参照)。

第1-3-10図 当面取り組むべき課題

2 国の取組

(1)国民の取組気運の醸成

ア 仕事と生活の調和推進ポータルサイトの開設

仕事と生活の調和の推進に係る様々な情報を網羅的に提供し、企業、関係団体をはじめ、広く国民一般の取組を推進するために、2008(平成20)年2月、内閣府のホームページ上に「仕事と生活の調和推進ポータルサイト」を開設した。

サイト上では、憲章や指針の紹介をはじめ、トップ会議や仕事と生活の調和連携推進・評価部会などの動き、先進的な企業や自治体、諸外国等の取組事例、各種調査研究、シンポジウム・イベント等の啓発事業の周知・募集などの情報を紹介している。

イ 仕事と生活の調和推進のための国民運動「カエル!ジャパン」キャンペーン

2008年6月には、「カエル!ジャパン」をキーワードに、国民参加型のキャンペーンを開始し、「ひとつ、働き方を変えてみよう」とのキャッチフレーズの下、親しみやすいカエルをキャラクターとして設定し、ポータルサイトの拡充や周知ポスター・チラシの作成・配布等を通じて、各界・各層の国民に「働き方を変えること」を呼びかけている。

同年7月からは、国民参加の仕組みとして、キャンペーン趣旨に賛同し、具体的な取組を開始する企業、労働団体、地方公共団体、個人等が、シンボルマークをサイト上でダウンロードして自身の取組に活用できるシステムをポータルサイト上に構築している。

ウ 各種勉強会、セミナー・シンポジウム等への講師派遣

憲章及び行動指針の策定以後、企業や業界団体、労働者団体が主催する勉強会や、地方公共団体が主催するシンポジウム、セミナーにおいて、仕事と生活の調和がテーマとして扱われることが増加した。内閣府では積極的に講師を派遣し、仕事と生活の調和の必要性、憲章・行動指針の理念、企業や自治体のロールモデル等について、講演・解説を行っている。

コラム 「カエル!ジャパン」 キャッチフレーズとキャラクター

1 キャッチフレーズ:『ひとつ「働き方」を変えてみよう!』について

「ひとつ」という言葉は、試みに「まずは~してみよう」、「ちょっと~してみよう」という意味と、数字としての「1つ」として、「できることをまず1つ」という意味を持っています。このキャッチフレーズは、国民の皆様が受けとめやすい、「呼びかけの言葉」であると同時に、受け取り手の「呼びかけに応える気持ち」や、「変えてみようと思う本人の内なる声」を表現しています。

2 キャラクター:「カエル」について

【変える=かえる!】

現状を「変える」というちょっと勇気がいることを、「カエル!」と称して、誰もが知っているカエルのキャラクターに託し、‘愛嬌’をもって呼びかけていきます。言葉の洒落は、難題にもユーモアを持って明るく、くじけず臨もうという思いであり、ホップ・ステップ・ジャンプと跳躍するその力にもあやかります。


シンボルマーク(キャッチフレーズとキャラクターの組み合わせ)


コラム ワーク・ライフ・バランスが人材確保のカギ

東京都大田区に本社を置く真空機器等の製造・販売を行う企業を訪問した内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)は、社員の方々との意見交換を行った。社員の方から「社長が率先して定時退社、連続休暇の取得に取り組むことにより、社員の働き方が変わった」「社として定時退社が定着してからは、自分の時間も家族との時間も持てるようになり、仕事への活力が出てきた」「本社は定時退社の会社ということが浸透してからは、取引先から18時以降の電話もなくなった」などという発言が相次いだ。

企業において、優秀な人材を確保することは大きな課題である。この企業の取組は、トップダウンによるワーク・ライフ・バランスの推進した結果、各社員の仕事と生活の間に好循環が生まれ、社員の流出を防ぐとともに、その取組のPRにより新たな人材の確保に成功した好事例といえる。

今回の訪問において、「全国には、ワーク・ライフ・バランスに取り組みたくても、具体的にどうすればよいのか困っている企業がたくさんある。みなさんの素晴らしい取組とその成果を、ロールモデルとして私自ら全国に発信し、経営トップの意識を変えて、各企業の取組を促進していきたい。みなさんもあらゆる機会を捉えて、自社の取組を発信していってほしい。」と大臣より要請した。

訪問の様子

(2)企業への働きかけ

企業における仕事と生活の調和を推進するためには、経営幹部のリーダーシップによる取組が必要である。このため、内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)自らが企業や業界団体等を訪問し、経営幹部層に憲章・指針の理念を伝え、取組への具体的な協力を要請する活動を随時積極的に展開している。

2008年3月から同年7月にかけては、「職場を変えよう!キャラバン」と銘打って、仕事と生活の調和と密接な関係にある、男女共同参画、少子化対策についても、相互連携の下に取り組んでもらうことを要請する活動を展開した。

また、同年11月からは、先進的な取組を行っている企業を訪問し、経営幹部との意見交換や、仕事と生活の調和の推進に取り組む社員との懇談を行い、そこで得られた成果を優れたロールモデルとして収集・発信することにより、全国的な取組の底上げを目指す活動を展開している。

(3)男性の働き方の見直し

仕事と生活の調和を実現するためには、人生の各ステージ、特に子育て期において、多様で柔軟な働き方を選択できることが重要である。また、女性が仕事と育児を両立していくためには意識改革を含めた男性の働き方の見直しが必要である。

しかし、現実には、育児休業を取得したいと希望する男性は3割を超えているにもかかわらず、男性の育児休業取得率は1.56%(2007(平成19)年)にとどまり、男性の育児・家事の時間も、欧米諸国と比較しても突出して低い水準にとどまっている。

このような状況を踏まえ、「パパの育児休業体験記」を募集し、育児休業取得から復帰までの実践のロールモデルの普及に役立てている。

第1-3-11表 育児休業取得率(事業所規模別)

育児休業取得率(事業所規模別)(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

また、男女ともに仕事と子育てを両立できるような雇用環境の整備を目指して、子育て期の短時間勤務制度の義務化やいわゆる「パパ・ママ育休プラス」の導入など、育児・介護休業法の見直しについての議論が進められている。(第2部 第2章 第2節 1参照)。

第1-3-12図 6歳未満児を持つ男性の育児・家事関連時間(週全体)

6歳未満児を持つ男性の育児・家事関連時間(週全体)(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

コラム 経営戦略としてのワーク・ライフ・バランス

東京都渋谷区に本社を置くある企業は、従業員数は80名(うち約6割が女性)で、主な事業内容は、人事・採用のコンサルティング事業とアウトソーシング事業で、「社員こそが商品」という考えのもと、充実した社員教育に加えて、両立支援策を積極的に導入している。

例えば、毎週水曜日を「パパの日」として、幼児期の子どもがいる男性社員を対象に、通常は18時の退社時刻を16時とする制度を設けている。プレス・リリースや取引先等へのアナウンスにより、顧客にも「パパの日」の存在はよく知られている。また、社員がいつでも会社に子どもを連れてこられるように「キッズルーム」を設置したことで、親である社員が安心して働けると同時に子どもが親の働く姿を見られるようにしている。

両立支援策の導入により社員の多様な状況に応じた働き方が可能になったことで、社員一人ひとりが、業務の効率性を強く意識するようになり、生産性の向上に結びついているケースも多い。同社では、3か月に1回、高い生産性をあげた社員を表彰する制度を導入しているが、育児のため短時間勤務制度を利用している社員が受賞した例もある。

また、働きやすい職場で活躍し続けたいという意識から社員の自己研さん意欲が高く、それが企業の生産性の向上に反映されるという好循環が生じている。


(4)長時間労働の抑制

これまでの働き方の問題点のひとつとして、仕事優先の働き方による長時間労働や休暇のとりづらさが挙げられる。特に長時間労働は健康を害する可能性が高いだけでなく、家事や育児の時間を十分に確保できないという問題がある。憲章及び行動指針で謳われている「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」を実現させるためには、長時間労働の抑制が不可欠である。

長時間労働を防止するとともに、生活時間を確保しながら働くことができるようにすることを目的として2008年12月、労働基準法が改正された(2010(平成22)年4月1日施行)。主な内容は、


[1]  時間外労働の割増賃金について、現行は25%であるところを、60時間超については50%とする、
[2] 年休取得について、現行は日単位であるところを、労使協定を締結した場合には、5日分を限度として、時間単位での年休取得を可能とする、

などである。

3 企業の取組

企業を支えているのは「人材」の力に他ならない。仕事と生活の調和の実現に向けた取組は、企業の活力や競争力の源泉である有能な人材の確保・育成・定着の可能性を高めるものである。また、業務の見直しや適切な時間管理等により生産性向上につなげることも可能である。これらの利点を認識し、仕事と生活の調和の実現に向けた取組を「明日への投資」として積極的にとらえる企業の間で仕事と生活の調和に対する関心が高まっている。

次世代育成支援対策推進法に基づいて一般事業主行動計画を策定し、計画期間内に男性の育児休業等取得者がおり、かつ、女性の育児休業等取得率が70%以上であることなどの一定の基準を満たした企業は、都道府県労働局長の認定を受け、認定マーク(愛称「くるみん」)を使用することができる。認定申請が開始された2007(平成19)年4月以降認定企業は着実に増加し、2008(平成20)年6月末現在で545社となった。

なお、企業の取組の更なる見える化を図るため、一般事業主行動計画の策定・届け出義務の対象の拡大や一般事業主行動計画の公表・周知などを盛り込んだ改正次世代育成支援対策推進法が2008年11月に成立し(第2部 第2章 第1節1参照)、企業におけるさらなるワーク・ライフ・バランスの促進に向けた取組が期待される。

第1-3-13図 企業が「仕事と生活の調和」に取り組むメリット

第1-3-14図 一般事業主行動計画の届出数の推移

一般事業主行動計画の届出数の推移画像(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

第1-3-15図 次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業数の推移

次世代育成支援対策推進法に基づく認定企業数の推移(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

4 地域の取組

都道府県では、仕事と生活の調和の推進窓口を設置し、地域性を生かした仕事と生活の調和推進に向けた取組がなされている。内閣府では、「地方公共団体における仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)取組事例について」(2008(平成20)年3月)を取りまとめ、地方公共団体から報告された231の取組事例のうち、地域レベルでの取組推進に寄与する48の個別事例を公表している。代表的な取組としては、仕事と生活の調和の実現に向けた社会基盤づくりとして、[1]理解の浸透・推進力強化のための枠組みの構築(例:官民一体となった推進会議等の設置など)、[2]企業・組織の取組を社会全体で後押しする施策(表彰制度、融資・貸付制度、登録・認定・認証制度、奨励金・助成金・補助金制度、アドバイザー等派遣、啓発・情報提供、講座・セミナー・講演会開催、アンケート・事例調査など)、[3]個人の多様な選択を可能にする支援やサービスの展開(講座・セミナー・講演会、啓発・情報提供など)が挙げられる。また、ノー残業デーの設定など、地方公共団体における組織としてのマネジメント改革も積極的に行われている。

コラム 都道府県の取組事例

(1)ワークライフバランス推進キャンペーン(八都県市)

八都県市(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市)が共同して、事業者や住民一人ひとりが、仕事と生活の調和の重要性を理解し、働き方を見直す契機とするために「八都県市仕事と家庭生活の調和(ワークライフバランス)推進キャンペーン」を、平成19年度から3か年計画で実施している。
【主な事業】
[1]八都県市ワークライフバランス共同アピール
[2]定時退社及び定時退庁の働きかけ
[3]ワークライフバランス実践アイデア募集
[4]八都県市共同アンケート(企業・事業所対象)
[5]ワークライフバランス企業事例集の作成

ワークライフバランス推進キャンペーン(八都県市)のイメージ

(2)「子育て応援宣言企業」登録事業(福岡県)

経営トップが従業員の子育てを応援する具体的な取組を次の4つの観点から自主的に宣言するもの。県は、宣言内容を明示した登録証を交付することに加え、各種の広報媒体で企業名や取組内容を広く県民にPRを行う。公共工事等の入札参加優遇制度も導入し、企業を後押しする。
【宣言の観点】
[1]育児休業を取りやすい職場づくり
[2]育児休業期間中の職場とのコミュニケーション維持
[3]円滑な職場復帰に向けた支援
[4]職場復帰のための弾力的な勤務時間の配慮

福岡県子育て応援宣言登録マーク

(3)お父さんも育休促進事業(秋田県)

「仕事と家庭の両立支援」企業経営アドバイザー等による事業所内研修を実施した企業において、男性従業員が10日以上の育児休業を取得した場合、事業主には20万円、休業取得者には5万円の奨励金を支給している。


コラム 少子化社会対策に関する先進的取組事例研究
―子育て支援、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する事例を収集―

介護の現場においてワーク・ライフ・バランスを推進し、人材確保と従業員の定着率向上に効果あり!

社会福祉法人杏樹会

[埼玉県入間市、特別養護老人ホーム(杏樹苑)の運営など介護事業を主体とし、職員数総勢約230名(男女比は2:8)の社会福祉法人]


玄関

1.取組の背景

介護ケアは、高齢者の方の入浴や排泄介助、車椅子への移動など肉体的に負担が大きく、育児との両立は困難となる場合が多い。また、夜勤を含めたスケジュール調整・管理作業はまったなしのため、一人欠けると全員に負担がかかる。このため妊娠した女性は職場に言い出しにくく、出産・育児休暇が取りにくい状況であった。

そのような状況の中、本苑では「次世代育成支援対策の実施による達成目標」を明示し、行動計画を2006(平成18)年7月1日に策定した。行動計画の目的は、職員が仕事と子育てを両立させることができ、職員全員が働きやすい環境をつくることによって、「全ての職員がその能力を発揮」できるようにすること。本苑での制度の特徴として、正職員とともに「非常勤職員も対象」とした点がある。


2.具体的な活動

1)  育児休業の取得向上のため(男性の育児休業取得率の目標:10%以上、女性:70%)、2008(平成20)年10月より妊娠・出産等の相談窓口設置を明文化。職員に周知し育児休業の取得をしやすい環境を整備し、目標を達成。
2) 非常勤職員においても2008年2月までに2名の育児休業取得実績。
3) 子供の出生時に父親が取得できる休暇制度を導入するために、2008年10月より施設長・理事長・対象管理職と相談し、制度化した。2010(平成22)年6月までに研修・チラシ等により職員に周知する。
4) 小学校に入学するまでの子を持つ職員が希望する場合に利用できる短時間制度及びフレックスタイム制度の導入[2008年4月1日に導入済]。ただし、フレックスタイム制度は介護職員を除く職員(介護職員はシフト制のため)が対象である。


中庭

5)  小学校低学年の子を持つ職員が希望する場合に利用できる看護休暇制度を導入[2008年4月1日に導入済]。
6) 月1回のノー残業デー(緊急時等は除く)を実施[2008年6月11日から]。
7) 有給休暇の取得状況のばらつきをなくし、各事業所が平均に取得できる環境にするとともに、リフレッシュのための連休をとりやすくする[2008年7月より]。対策として、各事業所に有給取得状況の調査を行い、取得率の低いところに対して取得を促している。
8) 育児・介護休業法、雇用保険法、労働基準法等に基づく育児・介護等の諸制度を職員に周知する[2008年11月までに勉強会・研修等にて周知済]。

3.活動の効果

福祉関係での人材確保が難しい中、人材確保と維持そして従業員の定着率向上に大きな効果が見られるようになった。2008年10月に、埼玉県労働局による「くるみんマーク」を取得したこともあり、今年は9名の新規採用ができた。

育児休暇の取得は男女を問わずに職員に勧めている。2006年に約2ヶ月間、長男誕生によって育児休暇を取得した男性は、「育児作業に疲れながらも、その経験が復帰後の介護業務に生かされている。子育て体験以前よりきめ細かくお年寄りに接することができるようになった。」と話している。子育て体験が職業意欲の向上につながっている。

4.活動継続や支援制度を行う上での留意点

トップダウンではなく、総務部所属の職員が中心となって組織全体の意識改革を粘り強く続けた。具体的には、妊娠した職員の直属の上司との相談や調整、苑内で勉強会を開催することで、活動内容や関連する支援制度の周知と理解に努めてきた。施設内のワーク・ライフ・バランスのあり方や育児・介護休業制度と法律上の給付金、および問題発生時の連絡方法及び相談窓口についても説明する機会を設けた。

5.今後の展開

「お父さん講座」の充実や職員・入居者が各々人生を楽しめる環境づくりを考えている。2008年7月に、(財)21世紀職業財団から「職場風土改革促進事業主」の指定を受けた。これを踏まえて、職場風土改革促進事業として、管理職層への研修、両立支援制度の職員への周知徹底、勤務体制や仕事の進め方の見直し、勤務時間等の雇用管理の見直しなどに取り組むことを宣言した。



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