第4節 労働時間の短縮等仕事と生活の調和のとれた働き方の実現に向けた環境整備を図る

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1 仕事と生活の調和の考え方の浸透のための取組

「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき、その理念を広く国民に伝え、社会全体としての数値目標を達成するために、2008(平成20)年1月に内閣府に設置された「仕事と生活の調和推進室」を中心に、政労使・地方公共団体との連携の下、様々な取組を展開している。また、随時その進捗を確認・評価し、政労使の相互連携によるPDCAサイクルを確立するため、政労使の実務者レベルにより構成される「仕事と生活の調和連携推進・評価部会」及び関係府省で構成する「仕事と生活の調和関係省庁連携推進会議」を設置した。

2008年1月からは、企業における具体的な取組を推進・拡大するため、担当大臣自らが企業や業界団体の経営幹部を訪問し、経営幹部のリーダーシップに基づく積極的な取組を要請する活動を行っている。2008年3月から7月にかけては、「職場を変えよう!キャラバン」と銘打ち、仕事と生活の調和と密接な関係にある、男女共同参画、少子化対策についても、相互連携の下に取り組んでもらうべく、各々についての協力依頼事項を要望文として取りまとめ、担当大臣から経営幹部に手交した。同年11月からは、先進的な取組を行っている企業を訪問し、経営幹部との意見交換や、仕事と生活の調和の推進に取り組む社員との懇談を行い、そこで得られた成果を、優れたロールモデルとして収集・発信することを通じて、全国的な取組の底上げを目指す活動を展開している。

あわせて、社会的気運の醸成を図るため、2008年6月には、「ひとつ、働き方を変えてみよう」とのキャッチフレーズの下、「カエル!ジャパン」キャンペーンを展開している。キャンペーンでは、親しみやすいカエルをキャラクターとして設定し、ポータルサイトの拡充や周知ポスター・チラシの作成・配布等を通じて、各界・各層の国民に「働き方を変えること」を呼びかけている。また、各界・各層の個別事情に応じた取組を支援するため、企業や業界団体、労働者団体が主催する勉強会や、地方公共団体が主催するシンポジウム、セミナーにおいても、内閣府から積極的に講師を派遣し、参加者の属性に応じた講演・解説を行っている。さらに、地域性を生かした取組を推進するべく、都道府県における推進窓口の設置や、具体的取組事例集(「地方公共団体における仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)取組事例について」(2008年3月))の公表を通じて、取組の裾野を拡大している。

2 長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進等、仕事と生活の調和に向けた取組

労働時間対策としては、単に労働時間の短縮を図るだけではなく、労働時間等の設定を労働者の健康と生活に配慮するとともに、多様な働き方に対応したものへと改善を図ることが重要である。近年、労働時間の長い者と短い者の割合がともに増加する、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」の進展、年次有給休暇の取得率の低水準での推移、長い労働時間等の業務に起因する脳・心臓疾患に係る労災認定件数の高水準での推移、育児・介護や自己啓発などの労働者の抱える事情の多様化などの課題が発生している。これらを踏まえ、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」(平成4年法律第90号)及び同法に基づく「労働時間等設定改善指針(労働時間等見直しガイドライン)」に基づき、労働時間等の設定の改善に向けた労使の自主的な取組を促進することにより、仕事と生活の調和を推進している。

また、2007(平成19)年12月に策定された憲章及び行動指針を踏まえ、仕事と生活の調和に向けた社会的気運の醸成、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進に取り組むなど社会全体で働き方の改革を進めている。

具体的には、代表的な企業における取組状況や成果を広く周知する「仕事と生活の調和推進プロジェクト」の展開、年次有給休暇の取得促進など職場意識の改善に積極的に取り組む中小企業事業主に対する助成、憲章及び行動指針の趣旨を踏まえて改正した「労働時間等見直しガイドライン」の周知啓発等に取り組んでいる。

さらに、時間外労働の削減については、時間外労働の限度基準が遵守されるよう、周知徹底を図っている。

2008年には、長時間労働を抑制するとともに、生活時間を確保しながら働くことができるようにすることを目的として2008年12月に「労働基準法の一部を改正する法律」が成立し、2010(平成22)年度からは、1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金について、現行の25%から50%に引上げること、年休取得について、現行は日単位であるところを、労使協定を締結した場合には、5日分を限度として、時間単位での年休取得を可能とすることとしている。

3 ライフスタイルに応じた多様な働き方の推進

近年、パートタイム労働者は増加し、2008(平成20)年には1,407万人と、雇用者総数の約26.1%にも達し、従来のような補助的な業務ではなく、役職に就くなど職場において基幹的役割を果たす者も増加している一方で、パートタイム労働者の待遇がその働き・貢献に見合ったものになっていない場合もあり、正社員との不合理な待遇の格差を解消し、働き・貢献に見合った公正な待遇を確保することが課題となっている。

このような公正な待遇を実現することは、少子高齢化、大幅な労働力人口減少の中で貴重な労働力を確保し、労働生産性を高め、経済の成長を持続させるという点からも重要である。

こうしたことから、パートタイム労働者がその能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、働き方の実態に応じた通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保や通常の労働者への転換の推進等を内容とする改正パートタイム労働法が2008年4月1日から施行されている。


【改正パートタイム労働法】
(1)労働条件の文書交付・説明義務

1)  労働条件を明示した文書の交付等の義務化
2) パートタイム労働者の求めに応じ、待遇決定に当たり考慮した事項の説明の義務化

(2)均衡のとれた待遇の確保の促進(働き・貢献に見合った公正な待遇の決定ルールの整備)

1)  すべてのパートタイム労働者を対象に、賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用について、通常の労働者との均衡のとれた待遇を確保するための措置を講じることの義務化等
2) 特に、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対しては、全ての待遇について差別的取扱いの禁止

(3)通常の労働者への転換の推進

通常の労働者への転換を推進するための措置を講じることの義務化

(4)苦情処理・紛争解決援助

1)  苦情を自主的に解決することの努力義務化
2) 行政型ADR(都道府県労働局長による助言等・調停)の整備

第2-2-4図 短時間雇用者(週間就業時間35時間未満の者)数・割合の推移―非農林業―

短時間雇用者(週間就業時間35時間未満の者)数・割合の推移―非農林業―(CSV形式:2KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

また、パートタイム労働者の均衡待遇に取り組む事業主や中小企業事業主団体を支援するため、助成金を支給している。

短時間正社員制度については、自らのライフスタイルやライフステージに応じた多様な働き方を実現する制度として、そして、企業にとっては、人材の定着や組織の活性化等に効果が見込める人事制度として、その普及や定着が期待されている。

また、2007(平成19)年12月に仕事と生活の調和推進官民トップ会議において決定された「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では、国は、「短時間正社員制度」等多様な働き方を推進するための条件整備を行うこととされるとともに、「短時間勤務を選択できる事業所の割合(短時間正社員制度等)」を、2012(平成24)年には10%、2017(平成29)年には25%とする数値目標が設定されている(仕事と生活の調和推進のための行動指針)。

こうした中、厚生労働省では、制度を導入した事業主に対する助成金の支給に加え、インターネット上に「短時間正社員制度導入支援ナビ」を開設し、短時間正社員制度の概要や取組事例等についての情報提供を行うなど、短時間正社員制度の導入支援を行っている。

短時間労働者への厚生年金の適用については、現在、労働時間及び労働日数がその事業所の通常の労働者のおおむね4分の3未満である者は、原則として厚生年金の適用対象となっていない。

しかしながら、短時間労働者が社会経済においてその役割や比重を増していく中で、その被用者にふさわしい年金保障を充実することは、均衡待遇を確保するための労働政策の展開とともに、将来の老後生活における格差を拡大・固定化させないための喫緊の政策課題である。また、現行の厚生年金の適用基準が雇用形態等の選択に中立的でないとの指摘もあることからも、これらを踏まえ、「週所定労働時間が20時間以上」、「賃金が月額9万8千円以上」、「勤務期間が1年以上であること」等の要件を満たす短時間労働者に厚生年金の適用を拡大するための「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律案」を第166回通常国会に提出し、継続審議とされているところである。

4 テレワークの推進

情報通信技術を活用した、時間と場所にとらわれない柔軟な働き方であるテレワークは、職住近接の実現による通勤負担の軽減のみならず、特に育児や介護、障害等の個々の事情を抱える人にとって仕事と生活の調和の実現に有効な働き方として、社会的な期待や関心も大きいものとなっている。国土交通省の推計によれば、テレワーカー(週8時間以上情報通信技術を活用して、職場以外で勤務した人)の就業者全体に占める割合は、2002(平成14)年度に6.1%であったものが、2005(平成17)年度には10.4%と増加しており、テレワークが着実に広まってきていることがうかがえる。

政府では、2010(平成22)年までにテレワーカーを就業者人口の2割とする目標の実現に向けて、2007(平成19)年5月に「テレワーク人口倍増アクションプラン」(テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議決定、IT戦略本部了承)を策定し、政府一体となってテレワークの普及を推進している。

このような中で、政府が自ら率先してテレワークを導入する観点から、総務省がテレワークを本格導入しているほか、経済産業省、国土交通省など複数の省庁においてテレワークを試行しているところである。また、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省が呼びかけ人となり、産学官協働でテレワークの普及促進を図ることを目的とする「テレワーク推進フォーラム」(2005年11月設立)と連携して、「企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック」やDVD等を活用し、テレワークの意義やメリットを広く浸透させるための普及活動を行っている。

そのほか、テレワークのうち、事業主と雇用関係にある者が、労働時間の全部又は一部について自宅等で業務に従事する勤務形態について、テレワーク試行・体験プロジェクト(多くの企業等に安心・安全で簡易なツールにより、テレワークを試行・体験いただく機会の提供)や先進的テレワークシステムモデル実験等の実施、「テレワーク環境整備税制」による支援、セミナーの開催等を通じた普及促進のための事業を実施している。また、適正な労働条件下でのテレワークの普及促進のため、主要3都市に相談センターを設置するとともに、在宅勤務の適切な労務管理の在り方を示した「在宅勤務ガイドライン(情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン)」について、内容を明確化するための改正を行い、事業主等への周知・啓発を行っているほか、事業主・労働者等を対象としたセミナーを実施している。

さらに、在宅で自営的に、文章入力、テープ起こし等比較的単純・定型的な作業を行う在宅ワークについて、契約をめぐるトラブルの発生を未然に防止するため、契約に関する最低限のルールを定めた「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」を策定し、周知・啓発を図っている。さらに、在宅ワーカーを対象に、インターネット上で能力診断や能力開発、再就職・就業に役立つ情報を提供するサイトを運用するとともに、セミナーの開催、トラブル・健康相談等への対応などの支援事業を実施している。

第2-2-5表 2005年時点における日本のテレワーク人口推計値(前回2002年と比較)

2005年時点における日本のテレワーク人口推計値(前回2002年と比較)(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

5 公務員の働き方の見直し

次世代育成支援対策推進法に基づき、国や地方公共団体の各機関においては、職員を雇用する事業主の立場から、国が定める指針(行動計画策定指針)に即して、仕事と子育ての両立や働き方の見直し等に関する具体的な方策や目標を掲げた行動計画を策定しており、それぞれの機関の実情に応じて、総合的かつ具体的な取組が盛り込まれている。

さらに、少子化社会対策大綱においては、公務員について、多様な勤務形態の導入について検討を進め、これを踏まえた適切な対応を行うこととし、また、小学校就学始期までの子どもを養育する公務員に対する仕事と子育ての両立支援策について検討することとされている。

国家公務員について、人事院は、2005(平成17)年7月、国家公務員の勤務時間制度の在り方について検討を行った「多様な勤務形態に関する研究会」から最終報告「勤務時間の弾力化・多様化への提言」を受けて、小学校就学前の子を養育する職員の職業生活と家庭生活の両立を支援するため、常勤職員のまま1日4時間勤務や週3日勤務等、1週間当たりの勤務時間を短くすることができる育児のための短時間勤務の制度を設けること、また、1日2時間まで休業することができる部分休業を育児時間に改称し、3歳未満の子を養育する職員から小学校就学前までの子を養育する職員に対象を拡大することが適当と認め、2006(平成18)年8月、国会及び内閣に対して意見の申出を行った。これを受けて、2007(平成19)年5月、「国家公務員の育児休業等に関する法律」(平成3年法律第109号)が改正された(2007年8月1日施行)。また、2008(平成20)年8月には、勤務時間の短縮について勧告を行い、それを受けて、2008年12月、「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律」(平成6年法律第33号)が改正され、国家公務員の勤務時間は1日15分、1週1時間15分短縮された(2009(平成21)年4月1日施行)。

なお、防衛省においても同様に特別職の国家公務員である同省職員の勤務時間を短縮すべく関係省令等の改正を行った(2009年4月1日施行)。

超過勤務の縮減については、2008年の人事院勧告時の公務員人事管理に関する報告において、職業生活と家庭生活の調和の観点からも、喫緊に取り組む必要のある重要課題であり、政府全体として計画的に在庁時間削減に取り組む必要があることについて言及した。

地方公務員については、多様な働き方を導入するため、「地方公務員法及び地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第85号)により、任期付短時間勤務職員制度を創設し、制度の周知を図っている。この制度の活用により、任期付短時間勤務職員(非常勤職員)が育児のための部分休業を取得している職員の業務を代替することで職員の育児のための部分休業の取得を推進し、子育てを支援している。

また、国家公務員と同様に、地方公務員においても、職務を完全に離れることなく長期にわたり仕事と育児の両立が可能となるよう、小学校就学前の子を養育する職員が、常勤職員のまま育児のための短時間勤務をすることができる制度等を導入するとともに、あわせて1日2時間まで休業することができる部分休業の対象となる子の範囲を3歳未満から小学校就学の始期に達するまでに拡大するため、2007年5月、「地方公務員の育児休業等に関する法律」(平成3年法律第110号)が改正された(2007年8月1日施行)。

なお、国家公務員の勤務時間が2009年4月1日より1日15分、1週1時間15分短縮されることを踏まえ、各地方公共団体の勤務時間についても国家公務員の勤務時間との均衡を図るよう要請している

6 農山漁村での両立支援

農山漁村の女性は、仕事に加え家事・育児等の負担が大きいことから、出産・育児期の女性の負担を軽減し、農林漁業経営及び地域社会活動への参画を支援するため、シンポジウム等の開催、農山漁村における子育て支援活動の優良事例の紹介、子育て支援に携わる担当者への情報提供などを行っている。



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