第14節 子育てバリアフリーなどを推進する
1 ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方に基づき、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(平成12年法律第68号)及び「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」(平成6年法律第44号、以下「ハートビル法」という。)を統合し、施策の拡充を図った「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号、以下「バリアフリー新法」という。)が制定された(平成18年6月21日公布、同年12月20日施行)。同法においては、従前の内容に加え、[1]身体障害者のみならず、知的・精神・発達障害者を含むすべての障害者を含むことを明らかにするため、同法における対象者を「高齢者、障害者等」とし、[2]移動等円滑化基準適合義務及び既設の施設における移動等円滑化基準適合努力義務を課す対象施設に、路外駐車場、都市公園等を追加、[3]市町村が作成する基本構想における策定対象エリア(重点整備地区)を拡大するとともに、同地区内の特定事業の範囲として路外駐車場、都市公園、建築物を追加、[4]移動等円滑化経路を整備・管理する場合の協定制度(移動等円滑化経路協定制度)を創設、[5]基本構想の策定に係る協議会制度及び住民等による作成提案制度の創設等の内容の拡充が図られている。
また、バリアフリー新法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成18年国家公安委員会、総務省、国土交通省告示第1号、以下「基本方針」という。)が新法と同時に施行された。基本方針においては、2010(平成22)年までの移動等円滑化の目標値を定めるほか、当事者ニーズに即した施設の整備や教育訓練を行うことの必要性、市町村の定める基本構想における協議会の活用等当事者参画を図ることの必要性、心のバリアフリー及びスパイラルアップといった国、国民等の責務に関する事項等を定めている。
2 建築物におけるバリアフリー化の推進
旧ハートビル法やバリアフリー新法により、建築物におけるバリアフリー化の推進が図られてきた。
また、妊産婦や児童・乳幼児を含む高齢者・障害者等に配慮した建築空間、設備等によるバリアフリー対応については、「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」により、促進されている。
例えば、乳幼児連れの人が利用する施設に対する、乳幼児用いす、乳幼児等用ベッド、授乳のためのスペース、または多機能トイレの設置等があげられる。他に、建物入口に近い位置に妊産婦や乳幼児連れの人が利用できる駐車スペースの確保や屋内通路等への手すりの設置、または劇場等の客席・観覧席における乳幼児連れの人に対応した区画された観覧室の設置等がある。
3 公共交通機関のバリアフリー化の推進
バリアフリー新法に基づき、旅客施設の新設・大規模な改良及び車両等の新規導入の際に公共交通事業者等が適合させるべき基準を定めた「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第111号)が新法と同時に施行された。また、公共交通機関の旅客施設・車両等の望ましい整備内容等を示す「バリアフリー整備ガイドライン(旅客施設編・車両等編)」を策定し、2007(平成19)年7月に公表した。
以上に加え、補助・税制・融資等の各種支援により公共交通機関のバリアフリー化の促進が図られているところであり、例えば、旅客施設における段差の解消、多機能トイレ(おむつ交換シート等)の設置、乗合バス車両におけるノンステップバス及び路面電車における低床式車両(LRV)の導入等が進められている。
4 都市公園、自然公園及び河川空間等のバリアフリー化の推進
バリアフリー新法に基づき、「移動等円滑化のために必要な特定公園施設の設置に関する基準を定める省令(平成18年国土交通省令第115号)」が新法と同時に施行され、より一層のバリアフリー化の促進が図られることとなった。また、2008(平成20)年度より「都市公園バリアフリー化緊急支援事業」を創設し、市町村における都市公園のバリアフリー化を支援している。これらを受け、妊婦、子ども及び子ども連れの人をはじめ、すべての人々の健康運動や遊びの場、休息、交流の場等となる都市公園を計画的に整備するとともに、園路や便所、休憩所等の公園施設のバリアフリー化が促進されている。
自然公園においても、妊婦、子ども及び子ども連れの人をはじめ、誰もが快適に自然の魅力を楽しむことができるよう、ビジターセンターや園路、便所等のバリアフリー化に配慮した整備を推進している。
また、河川の近隣に病院や福祉施設などが立地している地区等において、水辺にアプローチしやすいよう、スロープや手すり付きの階段、緩傾斜堤の整備等バリアフリー化対策を実施し、高齢者、障害者、子ども等を含むすべての人々が安心して河川を訪れ、憩い親しめる河川空間の創造を行っている。さらに、妊婦、子ども及び子ども連れの人が日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然とふれあえるようにするため、海岸保全施設のバリアフリー化を推進している。
都市公園におけるバリアフリー化されたトイレ(東京都)
5 子育てバリアフリーの情報提供
妊産婦や乳幼児をもつ子育て家庭が地域において安心して生活できる子育て環境を整備するため、妊産婦、子どもや子育て中の親子が外出や社会活動を困難にしているような障壁がないかを点検・確認し、これを反映させた子育てバリアフリーのまちづくりに関する基本計画を市町村が策定する際の支援を行っている。
また、市町村において、乳幼児とその親が外出する際の遊び場や授乳コーナー、一時預かりの実施場所等を示したマップを作成し、子育て家庭に情報提供することにより、子育てしやすいまちづくりを推進している。
さらに、バリアフリー教室の開催やバリアフリーボランティアの普及・促進、交通事業者向けバリアフリー人材育成プログラムの作成などにより、ハード面のみならず、「心のバリアフリー社会」の形成に向けたソフト面の取組を実施し、妊産婦や子ども連れの人も含めた誰もが公共交通機関を円滑に利用できる社会の実現を図るとともに、鉄道駅などの旅客施設や車両、宿泊施設などのバリアフリー化の状況に関する情報提供を推進している。
6 子育てを支援する道路交通環境の整備
妊婦、子ども及び子ども連れの人などが安全にかつ安心して通行することができるよう、生活道路等において、都道府県公安委員会による信号機、光ビーコン等の整備、道路管理者による歩道、ハンプ(道路上の凸型施設)、シケイン(車両通行部分のジグザグ蛇行)の整備等を重点的に実施し、歩行空間の整備及び通過交通の進入や速度の抑制に努めた。
あわせて、都道府県公安委員会では、音響信号機、歩行者感応信号機等のバリアフリー対応型信号機の整備を推進するとともに、道路管理者では、幅の広い歩道の整備や、歩道の段差・勾配の改善等に取り組み、歩行空間のバリアフリー化に努めた。
さらに、警察庁では、交通安全の観点からの支援策として、妊婦のシートベルト着用の必要性、正しいシートベルトの着用方法について周知を図るため、交通の方法に関する教則(昭和53年国家公安委員会告示第3号)の一部を改正した。
7 子どもの事故防止対策の推進
(1)遊び場の安全対策の推進
都市公園における遊具については、安全確保に関する基本的な考え方を示した「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」を近年の事故状況を踏まえ2008(平成20)年8月に改定し、各施設管理者への周知を図っている。本指針は、我が国唯一の指針として、公園管理者のみならず、学校等教育機関や福祉施設管理者等においても活用され、指針に即した遊具の安全確保が図られている。
(2)建築物の安全対策の推進
建築物に要求される性能水準を維持し、常時適法な状態に保ち安全性を確保するため、多数の者が利用する特定の特殊建築物等について、建築物の所有者等による維持保全計画の作成、定期報告制度等を通じ、適切な維持保全及び必要な改修を促進している。
また、社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会において、建築物に係る事故情報について継続的に分析・検討を行い、建築物の事故防止を図っている。
(3)キッズデザインの推進
子どもの安全・安心と健やかな成長発達につながる生活環境の創出を目指したデザインである「キッズデザイン」の開発・普及を推進している。2007(平成19)年度から、キッズデザインに優れた製品や取組等を表彰する「キッズデザイン賞」を創設し、受賞作品には「キッズデザインマーク」を付与している。2008年8月には、東京での第2回キッズデザイン賞受賞作品の展示会や親子参加型・体験型のイベント「キッズデザイン博2008」の開催や、金沢、神戸、高松等での巡回展の開催等を通じて、子どもに優しい製品やサービス、取組などを広くアピールした。
第2-4-12図 キッズデザインマーク
また、子どもを安心して生み育てられる生活環境を整備するため、子どもの事故情報の収集・分析・共有等を行い、子どもの事故予防を図る「安全知識循環型社会構築事業」を実施している。子どもの不慮の事故を無くすことを目指し、病院や保護者等から子どもの事故情報を収集してデータベース化を行うとともに、専門家・研究所・企業による分析を行い、事故防止策等の情報を保護者など社会全体へ発信していくことにより、事故防止に向け参加型の安全知識の循環を推進している。2008年5月には、事故情報の発信・共有用ホームページ「キッズデザインの輪」を開設した。
8 子どもを犯罪等の被害から守るための取組の推進
子どもの犯罪被害を防止するためには、政府全体において総合的に対策を講じるべきとの考えから、2008(平成20)年12月には、犯罪対策閣僚会議において、「犯罪から子どもを守るための対策」を改訂するとともに、「犯罪に強い社会実現のための行動計画2008」を策定した。
これらに基づき、子どもを対象とする犯罪の取締りや通学時間帯における通学路等のパトロール活動を強化するとともに、防犯ボランティア等によるパトロール活動、「子ども110番の家」の活動への支援を推進している。
また、学校等の教育関係機関と連携して、子どもの連れ去りや不審者の学校侵入を想定した実践的な防犯訓練や防犯教室の実施を推進するとともに、ネットワーク等の構築により、声かけ事案、不審者情報等の迅速な発信及び共有に努めている。
さらに、2008年6月には「学校保健法」が改正され、「学校保健安全法」に改められた。改正法においては、総合的な学校安全計画の策定・実施や、危険等発生時の対処要領の作成など学校の施設・設備の安全点検、日常生活における安全に関する指導等を含めた取組が規定された。
9 「安全・安心まちづくり」の推進
2002(平成14)年11月に設置した防犯まちづくり関係省庁協議会において、2003(平成15)年7月にとりまとめた「防犯まちづくりにおける公共施設等の整備・管理に係る留意事項」の着実な実施を図ることなどにより、防犯に配慮した犯罪の発生しにくい公共施設等の整備・管理の普及を促進し、あわせて、住宅についても犯罪防止に配慮した環境設計を行うことにより、犯罪被害に遭いにくい「安全・安心まちづくり」を推進している。また、子どもに対する犯罪の発生が懸念される学校周辺、通学路、公園、地下道、空き家等における危険箇所の把握・改善に努めている。