2 これまでの施策の評価
これまでの子ども・子育て支援策(いわゆる「少子化対策」)については、少子化社会対策基本法(平成15年法律第133号)第7条の規定に基づく「少子化社会対策大綱」(2004(平成16)年6月閣議決定。以下「旧大綱」という。)に基づいて各種の取組が行われてきた。また、旧大綱に基づく数値目標等を定めた「子ども・子育て応援プラン」(2004年12月少子化社会対策会議決定)においては、「目指すべき社会の姿」が掲げられているところであるが、「利用者意向調査」(2009(平成21)年3月)などをもとに、この「目指すべき社会の姿の達成度」、「国の取組への評価」、及び「国民の求める子ども・子育て施策」についてみていくことにより、これまでの施策の評価と今後の課題を明らかにすることとしたい。
(「目指すべき社会の姿」の達成度)
「目指すべき社会の姿」の達成度についてみると、全体的に厳しい評価だが、特に、最近の厳しい経済情勢を反映して「若者が意欲を持って就業し、経済的にも自立できるような社会」の達成度への評価が低くなっているほか、育児休業の取得促進、育児期の離職者の減少及び育児期にある男女の長時間労働の是正等に関する「仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し」に関する評価が低くなっている。
<評価が低い項目>
※数字は、「あまりそう思わない」、「そう思わない」の計
・若者が意欲を持って就業し、経済的にも自立できるような社会(71.5%)
・希望する者すべてが、安心して育児休業等を取得できる職場環境が整った社会(71.3%)
・育児期に離職を余儀なくされる者の割合が減るとともに、育児が一段落した後の円滑な再就職が可能な社会(65.5%)
・働き方を見直し、多様な人材を効果的に育成活用することにより、(労働)生産性が上昇するとともに、育児期にある男女の長時間労働が是正される社会(65.0%)
その他、目指すべき社会の姿の達成度に関しては、以下のように評価されている。
※数字は、「あまりそう思わない」、「そう思わない」の計
・男性も家庭でしっかりと子どもに向き合う時間が持てる社会(61.8%)
・様々な場において、中・高校生が乳幼児とふれあう機会をもてる社会(60.1%)
・児童虐待により子どもが命を落とすことがない社会(59.9%)
・全国どこでも、必要な保育サービスが利用できる社会(58.0%)
・就業形態に対応した保育ニーズが満たされる社会(57.0%)
・家庭教育に関する親の不安や負担感が軽減される社会(54.9%)
・全国どこでも、養育困難家庭の育児への不安や負担感が軽減される支援を受けられる社会(52.5%)
・すべての子育て家庭が、歩いていける場所に気兼ねなく親子で集まって、相談や交流ができる社会(51.8%)
・全国どこでも、子どもが病気の際に適切に対応できる社会(51.7%)
・働き方の多様な選択肢が用意されている社会(51.6%)
・多くの若者が子育てに、肯定的なイメージを持つことができる社会(50.9%)
・子どもたちが、確かな学力、豊かな人間性、健康や体力などの「生きる力」をはぐくむことができる学校教育が推進される社会(50.8%)
・虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境の中で育まれる社会(49.3%)
・教育を受ける意欲と能力のある者が、経済的理由で修学を断念することのない社会(47.4%)
・妊婦、子ども及び子ども連れの人に対して配慮が行き届き安心して外出できる社会(46.7%)
・周産期、乳幼児期の母子の安全が確保される社会(45.8%)
・孤独な子育て(誰にも子育てについて相談できない、誰にも預けられない)をなくす社会(45.2%)
・母子家庭等の安定、自立した生活が確保される社会(44.5%)
・地域住民や関係者を交えた子育てを応援する取組が行われる社会(44.3%)
・ボランティア体験、自然体験、社会体験活動の機会が充実し、多くの子どもが様々な体験を持つことができる社会(38.0%)
・障害のある子どもの「育ち」を支援し、一人ひとりの適性に応じた社会的・職業的な自立が促進される社会(38.0%)
なお、「全国どこでも、必要な保育サービスが利用できる社会」(58.0%(「あまりそう思わない」、「そう思わない」の計))についてのさらに詳細な内容に関して、望ましい保育サービスの拡充についての調査結果(少子化社会対策に関する子育て女性の意識調査(2009年3月))をみると、「待機しなくても入所できるよう、保育所の数や定員を増やす」(64.9%)が最も多くなっており、以下、「病児・病後児保育の充実」(54.7%)、「延長保育の充実」(49.5%)、「一時保育の充実」(46.6%)となっている。
(「国の取組」への評価)
このような「目指すべき社会の姿」を実現するために、国がどの程度取り組んでいるかという評価についてみると、全般的に厳しい評価であった。
特に、男性の子育て参加促進や労働時間の短縮等、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)のとれた働き方の実現に関する取組についての評価が極めて厳しいものとなっている。「妊娠・出産の支援体制、周産期医療体制を充実する取組」に対する評価も低くなっているが、2008(平成20)年に東京都で妊婦の緊急搬送をめぐる事案が発生するなど、特に、周産期の救急医療体制への不安が社会問題化したこともその背景にあるものと思われる。
<評価が低い項目>
※数字は、「あまり行っていないと思う」、「行っていないと思う」の計
・男性の子育て参加促進のための父親プログラム等の普及の取組(59.2%)
・労働時間短縮等、仕事と生活の調和のとれた働き方の実現に向けた環境整備の取組(54.8%)
・妊娠・出産の支援体制、周産期医療体制を充実する取組(52.9%)
・妊娠・出産しても安心して働き続けられる職場環境の整備を進める取組(50.4%)
(国民の求める「子ども・子育て施策」)
国民が求める子ども・子育て施策に関するニーズについては、内閣府が実施した少子化対策に関する特別世論調査(2009年2月)等をみると、大きく分けて、<1>経済的支援の充実、<2>保育所の充実をはじめとした子供を預かる事業の拡充、<3>育児休業や短時間勤務を含めた働き方の見直しについての要望が高くなっていることが分かる。
また、子どもを持つ上での不安もしくは持たない要因を調査(インターネット等による少子化施策の点検・評価のための利用者意向調査・中間報告(2009年11月))したところ、「経済的負担の増加」が際立っており、「仕事と生活・育児の両立」、「出産年齢、子どもを持つ年齢」がこれに続いている。
これを男女別にみると、「経済的負担の増加」は男女差なく第1位である。全体2位の「仕事と生活・育児の両立」は特に20代の女性で6割(59.7%)となっており、30~40代女性では「出産年齢、子どもを持つ年齢」への不安も高くなっている(30代 62.6%、40代63.1%)。
更に、ライフステージ別にみると、男女とも子どもの有無にかかわらず、「経済的負担の増加」を不安視しているが、未婚の男性では特に「結婚の機会」(40.8%)が第2位となっており、「仕事と生活・育児の両立」(40.3%)と「不安定な雇用、就業関係」(40.0%)に並んで上位となっていることが特徴的である。