2 人口減少による影響
(労働力人口の減少)
上記のとおり、平成18年将来推計人口をみると、2055(平成67)年には、合計特殊出生率が1.26、総人口が9,000万人を下回り、その4割(約2.5人に1人)が65歳以上の高齢者といった姿が示されている。こうした人口減少社会は、単純な人口規模の縮小ではなく、高齢者数の増加と生産年齢人口(15~64歳)の減少という「人口構造の変化」を伴うものであり、我が国の経済社会に大きな影響を与えることが懸念される。
例えば、生産年齢人口が減少することに伴い、出生数の減少による若年労働力の減少や、高齢者の引退の増加によって、労働力人口は高齢化しながら減少していくことが予想され、経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があることから、中長期的な経済成長の基盤を確保するためにも、イノベーションの推進を図るとともに、若者、女性、高齢者、障害のある者などの働く意欲と能力を持つすべての人の労働市場への参加を実現するための仕組みづくりを強力に進めることが必要である10。こうした施策を講じることにより、労働市場への参加が進めば、2030(平成42)年時点で6,180万人の水準にまで労働力人口の減少を抑えることができると見込まれている(第1‐2‐15図参照)。
また、労働力人口の減少が生じると経済成長にマイナスの影響を及ぼす可能性があることに留意し、中長期的な経済成長の基盤を確保する観点から、イノベーションの推進を図るとともに、若者、女性、高齢者など、働く意欲を持つすべての人々の就業参加を実現することが不可欠である。
また、これから生まれる世代が労働力化する2030年以降についても、生産年齢人口の減少速度の加速により、さらに急速な労働力人口の減少が予想され、若者、女性、高齢者などの労働市場参加が進まないことに加えて少子化の流れを変えることができなければ、2050(平成62)年の労働力人口は4,228万人と、現在(2009年)の6,617万人の3分の2弱の水準まで落ち込むことが見込まれている。
- 労働力人口とは、15歳以上の者で、就業者及び就業したいと希望し求職活動をしており、仕事があればすぐ就くことができるが、仕事についていない者(完全失業者)の総数をいう。また、当該年齢人口に占める労働力人口の割合を労働力率という。
(国民の希望を反映した人口試算)
「平成18年将来推計人口」を受けて、厚生労働省の社会保障審議会に「人口構造の変化に関する特別部会」(以下「特別部会」という。)が設けられ、「出生等に対する希望を反映した人口試算」(2007(平成19)年1月)(以下「希望を反映した人口試算」という。)が示された。
平成18年将来推計人口においては、参照コーホートとして設定されている1990(平成2)年生まれの女性の生涯未婚率は23.5%、夫婦完結出生児数は1.70人と仮定されている。一方、「出生動向基本調査」等の結果によれば、未婚者の9割はいずれ結婚したいと考えており、また、既婚者及び結婚希望のある未婚者の希望子ども数の平均は、男女ともに2人以上となっている。こうした国民の結婚や出生行動に対する希望が一定程度実現したと仮定し、「希望を反映した人口試算」では、希望実現の程度によっていくつかのケースに分けて試算を行っている(第1‐2‐16図参照)。それによると、2040(平成52)年までに希望がすべて実現するケース(生涯未婚率10%未満、夫婦完結出生児数2.0人以上)の合計特殊出生率の試算の過程は第1‐2‐17図のとおりであり、これから出生年齢に入る1990年生まれの女性が50歳となる2040(平成52)年時点で、合計特殊出生率は1.75まで上昇する11。この場合、2055(平成67)年において、総人口は1億人以上、高齢化率は35.1%になると見込まれている。
このように、平成18年将来推計人口では、前回推計よりも一層少子高齢化が進行するとの見通しが示されているが、「希望を反映した人口試算」の結果を踏まえると、国民の結婚や出産・子育てに対する希望と実態とのかい離を解消することにより、人口減少社会の流れを変えることが可能であると考えられる。
- この試算の前提として仮定される出生率(1.75)は、国民の希望が実現した場合を想定しており、生物学的なヒトの出生力を示すものではなく、また、施策が奏功した際の社会的に達成可能な上限を示すものでもない。平成18年将来推計人口の前提である2055年で1.26という数値とのかい離をいかに埋めていくかという議論の素材となることが期待される。