2 学びや体験を通じ豊かな人間性を育成する
1)地域ぐるみで子どもの教育に取り組む環境の整備
(1)地域の教育力の向上に向けた取組
学校、家庭及び地域住民等がそれぞれの役割と責任を自覚しつつ、未来を担う子どもたちを健やかに見守り育むことにより、地域の教育力の向上を図るため、「学校支援地域本部事業」や「放課後子ども教室推進事業」を全国で推進している。
ア 学校支援地域本部事業
地域住民がボランティアとして学校の教育活動を支援し、地域全体で子どもを育てる体制づくりを行う学校支援地域本部事業を2008(平成20)年度より実施しており、学校や地域の実情に応じ、地域住民による学校支援のための様々な活動が行われている。
イ 放課後子ども教室推進事業
放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け、地域の多様な方々の参画を得て、学習活動やスポーツ・文化芸術活動、地域住民との交流活動等の機会を提供する「放課後子ども教室推進事業」を実施している。
(2)家庭の教育力の向上に向けた取組
家庭の教育力の向上を図る上で、親が、親としての学びや経験を通じ、家庭教育についての理解を深めることが重要である。このため、乳幼児健診や就学時健診など多くの親が参加する機会を利用して、子育て講座などの家庭教育に関する学習機会が地域で提供されるよう支援している。
また、地域の家庭教育支援活動における中心的な役割を担う地域人材の養成や、民生委員や保健師、元教員等の専門的な人材を活用して家庭教育支援チームを組織し、学校等と連携して状況に応じて相談対応や情報提供、学習機会へのコーディネート等を行う地域の取組を支援している。
さらに、家庭教育に関するヒント集として、家庭教育手帳を文部科学省HPに掲載するとともに、全国の教育委員会等へ電子コンテンツを提供して、家庭教育に関する学習機会などでの活用を図っている。
加えて、早寝早起きや朝食をとるなどの子どもの望ましい基本的な生活習慣を育成するため、2006(平成18)年度から、民間団体等と連携し、「早寝早起き朝ごはん」国民運動を推進している。2009(平成21)年度は、これまでの調査研究等の成果をもとに、学校・家庭・地域に向けた全国的な普及啓発に取り組んだ。
あわせて、独立行政法人国立女性教育会館においては、男女共同参画の視点から、家庭教育・次世代育成支援に必要な専門的・実践的研修として、2006年度から「家庭教育・次世代育成支援指導者研修」を開催している。また、2008年度には「地域活性化に向けた男女共同参画推進に関する調査研究」を実施し、地域における次世代育成支援活動への男性の参画を促進する取組事例を収集し、その成果を上記研修に活用している。さらに、「女性情報ポータル“Winet”(ウィネット)」において、育児・子育て支援に関する情報を提供している。
学校・PTAと連携して子育て・親育ち講座を実施(石川県羽咋市)
2)消費者教育等の推進
国民一人ひとりが自立した消費者として、安心して安全で豊かな消費生活を営むために、消費者教育は重要な役割を担うものである。
消費者教育を推進するに当たっては、消費者庁(2009(平成21)年8月までは内閣府)と文部科学省及び関係省庁が密接に連携をとり、消費者教育施策を推進している。
具体的には、消費者教育ポータルサイトによる、幼児期・児童期・少年期・成人期という各ライフステージに対する消費者教育用教材の提供や、独立行政法人国民生活センターによる、小学校・中学校・高等学校・高等専門学校・特別支援学校の教員を対象にした消費者教育講座を行っている。
また、2008(平成20)年3月に小・中学校学習指導要領、2009年3月に高等学校学習指導要領を改訂し、例えば、中学校の技術・家庭科において、消費者の基本的な権利と責任について指導することとするなど、消費者教育に関する内容の充実を図った。
今後も、新たな消費者基本計画(2010(平成22)年3月30日閣議決定)や改訂した学習指導要領などを踏まえ、学校や地域における、消費者教育を推進することとしている。
3)地域や学校における体験活動
少子化の進展、家庭や地域社会の教育力の低下などの様々な問題が指摘される中、特に、子どもたちの精神的な自立の後れや社会性の不足が顕著になっていることから、次世代を担う子どもたちが、規範意識や社会性、他人を思いやる心などを身に付け、豊かな人間性を育むよう、発達段階などに応じた様々な体験活動の機会を充実させることが求められている。
このため、2001(平成13)年7月には、社会教育法(昭和24年法律第207号)、2006(平成18)年6月には学校教育法(昭和22年法律第26号)を改正し、青少年に対しボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動、その他の体験活動の充実を図ることが明確化されている。
(1)地域における体験活動の推進
放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して、子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け、地域の多様な方々の参画を得て、学習活動やスポーツ・文化芸術活動等の体験活動や、地域住民との交流活動等の機会を提供する「放課後子ども教室推進事業」を実施している。
また、非行等の問題を抱える青少年の立ち直りの支援策として、居場所づくりを進めるとともに、地域の関係機関・民間団体等と連携・協力し、体験活動などを行うことができる継続的活動の場を構築する事業を実施している。
さらに、2008(平成20)年度から、次代を担う自立した青少年の育成を図るため、「青少年体験活動総合プラン」を実施しており、長期自然体験活動の指導者養成等必要な支援に取り組むとともに、自立に支援を要する青少年の体験活動、青少年の発達段階に応じた体験活動、関係省庁の連携による地域ネットワーク型の体験活動など青少年の様々な課題に対応した体験活動を推進している。
このほか、独立行政法人国立青少年教育振興機構において、民間団体が実施する体験活動等に対する「子どもゆめ基金」による助成、全国28か所にある国立青少年教育施設における青少年の体験活動の機会と場の提供や指導者の養成などを通して、青少年の体験活動を推進している。
沖縄県那覇市立若狭小学校放課後子ども教室
(2)学校における体験活動の推進
小・中・高等学校等においては、「豊かな体験活動推進事業」を実施し、他校のモデルとなる体験活動を行うとともに、その成果を広く全国の学校に普及させ、全国の小・中・高等学校等での多様な体験活動の展開を推進している。
4)文化・芸術活動
子どもたちが本物の舞台芸術や伝統文化に触れ、日頃味わえない感動や刺激を直接体験することにより、豊かな感性と創造性を育むとともに、我が国の文化を継承、発展させる環境の充実を図るために、次の施策を実施している。
(1)本物の舞台芸術に触れる機会の確保
子どもたちが、学校において、優れた舞台芸術を鑑賞し、芸術文化団体による実演指導、ワークショップやこれらの団体との共演に参加し、本物の舞台芸術に身近に触れる機会を提供している(2009(平成21)年度実施公演数:1,344公演)。
(2)学校の文化活動の推進
優れた活動を行っている芸術家や伝統芸能の保持者等を学校に派遣し、文化芸術に関する体験談等の講話と簡単な実技披露を通して、子どもたちの文化芸術への関心を高める取組を推進している(2009年度講師派遣箇所数:1,603か所)。そのほか、全国高等学校総合文化祭を2009年度は7~8月に三重県で開催した。
(3)「文化芸術による創造のまち」支援事業
地域における文化リーダー(指導者)や文化芸術団体の育成、文化芸術活動の発信・交流、及び大学と地域との交流・連携を通して、地域の文化芸術活動の活性化と環境づくりを図る取組を支援している(2009年度実施地域数:115地域)。
(4)伝統文化こども教室
次代を担う子どもたちに対し、土・日曜日などにおいて学校、文化施設等を拠点とし、民俗芸能、工芸技術、邦楽、日本舞踊、武道、茶道、華道などの伝統文化に関する活動を、計画的、継続的に体験・修得できる機会を提供している。2009年度は5,232事業を採択している。
港区氷川雅楽会こども教室(東京都港区)
5)自然とのふれあいの場
優れた自然の風景地である国立公園等において、子どもたちに自然や環境の大切さを学んでもらえるよう、自然保護官(レンジャー)やパークボランティアの指導・協力のもと、自然の中でのマナーの習得、自然環境の復元維持活動などを行う機会を提供している。
また、「インターネット自然研究所」や「自然大好きクラブ」などのウェブサイトにより、様々な自然とのふれあいの場やイベント、自然体験活動プログラム等に関する情報を幅広く提供している。
さらに、地方公共団体や企業等との連携の下、子どもたちが地域の中で楽しみながら自主的に環境保全活動・環境学習を行うことを支援する「こどもエコクラブ事業」を推進し、自然観察や水質調査などの環境学習やリサイクル活動などの環境保全活動に参加する機会を提供している(2009(平成21)年度末現在登録数:3,633クラブ、179,446人)。
こどもエコクラブ全国フェスティバル2010~一人の一歩、みんなの未来~(東京都)
6)農林水産業の体験や、都市と農山漁村との交流体験
学ぶ意欲や自立心、思いやりの心、規範意識などを育み、力強い子どもの成長を支える教育活動として、2008(平成20)年度から、総務省、文部科学省、農林水産省が連携し、小学生が農山漁村において、農林漁家への宿泊や農林漁業体験などの宿泊体験活動を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進している。
子どもたちが農業・農村に親しむ機会の充実を図るため、体験活動受け入れ可能な農業者・団体の連絡先や体験内容等の情報をインターネットで提供しているほか、農業体験活動に取り組む小中学生等のグループがお互いの体験、感想、情報等を全国的に交換できるネットワークである「子どもファーム・ネット」の活動に対し支援を行っている。
また、我々の食生活が、自然の恩恵や食に関わる人々の様々な活動の上に成り立っていることへの理解を深めることを目的として、農林漁業者などが一連の農作業等の体験の機会を提供する教育ファームの取組を推進している。
緑を守り育てる心と健康で明るい心をもった人間に育てることを目的として、各地域において森林内での学習活動やボランティア活動を行っている「緑の少年団」活動、親子や子どもたちによる森林ボランティア活動などに対し支援を行っている。
さらに、主として小中学生を対象とした「森の子くらぶ」活動など入門的な森林体験活動を行う機会を提供するため、体験学習の場となる森林や施設の整備・情報提供や森林環境教育の普及・啓発活動等の支援を行うとともに、「レクリエーションの森」として選定した国有林野を広く国民へ提供するなどの取組を行っている。
海や水産業、漁村に関する子どもたちの理解を深める上で重要な学校内外活動の一環として実施される体験漁業や自然体験活動を促進するため、体験漁業等の普及・啓発活動への支援や体験活動の場の整備を行うとともに、漁村の受入体制の整備や都市漁村交流の普及・啓発活動等の支援を実施している。
また、青少年の農山漁村等における自然体験活動を推進するため、夏休みなどに野外活動施設や農家などを利用した「短期山村留学」や都市と農山漁村等の青少年が農林水産業体験や自然体験などを通して社会性や主体性を育む交流体験活動等の事業を実施している。
農業体験:稲刈り体験をする児童(千葉県多古町)
7)子どもの遊び場の確保(公園、水辺、森林)
子どもが身近な自然に安心してふれあうことができ、安全で自由に遊べる場所を地域に確保することは、子どもの健全な育成のために重要である。
子どもの身近な遊び場としての役割が求められる都市公園については、子どもの身近で安全な遊び場として歩いていける範囲の公園の整備や、各種運動施設や遊戯施設等を有し、手軽にスポーツやレクリエーションを楽しむことができる総合的な公園などの整備を推進している。
また、都市部にある下水処理場の上部空間や雨水排水路、雨水調整池などを活用した水辺空間の整備を進めるとともに、下水処理水を都市部のせせらぎ水路の水源として送水する等の取組により、都市内において子どもたちが水とふれあう場の整備を行っている。
多自然型の雨水調整池(千葉県千葉市こてはし台調整池)
河川空間については、身近な水辺等における環境学習・自然体験活動を推進するため市民団体や教育関係者、河川管理者等が一体となった取組体制の整備とともに、水辺での活動に必要な機材(ライフジャケット等)の貸出しや学習プログラムの紹介など、水辺での活動を総合的に支援する仕組みを構築し、必要に応じ、水辺に近づきやすい河岸整備等(水辺の楽校プロジェクト:2008(平成20)年度末277か所登録)をはじめとする「『子どもの水辺』再発見プロジェクト」(2008年度末282か所登録)を実施している。
「子どもの水辺」再発見プロジェクト(北海道 漁川)
また、国有林野においては、優れた自然景観を有し、森林浴や自然観察、野外スポーツ等に適した森林を「レクリエーションの森」に選定し、広く国民に提供している。
市民団体、NPOなどが行う自然体験・環境教育の活動場となる藻場・干潟等を保全・再生・創出し、市民による良好な港湾環境の利活用の促進、自然環境の大切さを学ぶ機会の充実を図るため、海辺の自然学校を開催している。
海辺の自然学校in 田尻(広島県福山市)
海岸については、青少年等が海辺における自然体験活動を安全に楽しめ、また、都市・農漁村及び世代間の交流の場となる海岸を創出することを目的とした「いきいき・海の子・浜づくり」を全国8か所にて実施し、安全で良好な自然・景観を有する海岸空間の形成を図るとともに、自然体験活動等に利用しやすい海岸づくりを推進している。