2 児童虐待を防止するとともに、社会的養護を充実する

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児童虐待への対応については、2000(平成12)年11月に施行された、児童虐待の防止等に関する法律(以下「児童虐待防止法」という。)が、その後、2004(平成16)年及び2007(平成19)年に改正され、制度的な対応について充実が図られてきた。しかし、重大な児童虐待事件が跡を絶たず、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数も増加を続け、2008(平成20)年度には4万2,664件となるなど、依然として社会全体で取り組むべき重要な課題となっている。

また社会的養護への対応については、社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会報告書(2007年11月)において、社会的養護を必要とする子どもの数の増加、虐待等子どもの抱える背景の多様化・複雑化に対し、現行の社会的養護体制では、十分に対応できていないという指摘がなされたことを踏まえ、2009(平成21)年度に児童福祉法等の改正が行われたところである。

1)児童虐待防止に向けた普及啓発(オレンジリボン・キャンペーン)

2004(平成16)年から11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け、児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図るため、関係府省庁や地方公共団体、関係団体等と連携した広報・啓発活動を実施している。2009(平成21)年度においては、月間標語の公募、全国フォーラムの開催(新潟県妙高市)、広報用ポスター等の作成・配布及び政府広報を活用したテレビ、新聞等による広報啓発等を実施した。また、民間団体が中心となって実施している「オレンジリボン・キャンペーン」について後援を行っているほか、職員が手作業で厚生労働省のビルに巨大なオレンジリボンを掲示した。

第2-2-7図 オレンジリボンについて

2)児童虐待の早期発見・早期対応

(1)児童虐待防止対策の取組状況

児童虐待は、子どもの心身の発達及び人格の形成に重大な影響を与えるため、児童虐待の防止に向け、<1>虐待の「発生予防」、<2>虐待の「早期発見・早期対応」、<3>虐待を受けた子どもの「保護・自立支援」に至るまでの切れ目のない総合的な支援体制を整備、充実していくことが必要である。

このため、

<1>発生予防に関しては、生後4か月までのすべての乳児のいる家庭を訪問し、子育て支援に関する情報提供や養育環境等の把握を行う「乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)」や、養育支援が特に必要であると判断される家庭に対して、保健師・助産師・保育士等が居宅を訪問し、養育に関する指導、助言等を行う「養育支援訪問事業」、子育て中の親子が相談・交流できる「地域子育て支援拠点事業」の推進

<2>早期発見・早期対応に関しては、市町村における「子どもを守る地域ネットワーク(要保護児童対策地域協議会)」の機能強化、児童相談所の体制強化のための児童福祉司の確保等、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた取組を行う親支援の推進

<3>保護・自立支援に関しては、家庭的環境での養護を促進するため里親制度の拡充、児童養護施設等の小規模ケアの推進、児童家庭支援センターの拡充、施設内虐待の防止等施設入所児童の権利擁護の推進

などの取組を進めている。

文部科学省と厚生労働省では、2010(平成22)年3月に教育機関との連携を強化するため、虐待が疑われる児童の出欠状況等について、学校等から市町村や児童相談所に定期的に情報提供する指針を共同で策定し、都道府県等に通知した。

(2)児童虐待の対応技術の向上

児童虐待による死亡事例等の検証は、事件の発生を防止するための対策を講ずる上での課題を抽出するために重要な意義を持つことから、社会保障審議会児童部会の下に設置されている「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」において、2004(平成16)年より実施されており、これまで5次にわたる報告がとりまとめられている。これらの報告書には死亡事例から学んだ対応の在り方を盛り込み、児童相談所等の対応力の向上を図っている。

また、学校における児童虐待の早期発見・早期対応体制の充実を図るため、学校等における児童虐待防止に関する国内外の先進的取組について調査研究を実施し、2006(平成18)年5月に報告書をとりまとめた。この調査研究の成果を踏まえ、教員等向けの研修モデル・プログラムの検討を行い、虐待を受けた子どもへの支援等について教職員の対応スキルの向上を図るよう、研修教材を作成し、2009(平成21)年1月に配布した。この研修教材については、学校現場においてより幅広い活用が図られるよう2009年5月にCD-ROM化し、教育委員会に配布したところである。

さらに、養護教諭の児童虐待への対応の充実を図る一助とするため、「養護教諭のための児童虐待対応の手引き」を作成し、2007(平成19)年12月に配布している。

3)家庭的養護の推進

虐待を受けた子ども等、家庭での養育に欠ける子どもに対しては、可能な限り家庭的な環境の下で愛着関係を形成しつつ養育を行うことが重要である。里親制度は、そのような観点から、社会的養護の諸施策の中でも極めて重要なものの一つであり、その拡充を図る必要がある。

このため、2009(平成21)年に改正された児童福祉法等においては、社会的養護の担い手としての「養育里親」を、養子縁組を前提とした里親と区別するとともに、養育里親に研修を義務付ける等、里親制度の拡充を推進している。

また、同法改正で「小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)」が、里親委託、施設入所に加わる新たな社会的養護の受け皿として位置づけられ、普及を推進している。

さらに、里親に対する相談支援等の業務を施設やNPO等に委託して総合的に行う「里親支援機関事業」についても、引き続き推進することとしている。

4)年長児の自立支援策の拡充

社会的養護の下で育った子どもは、施設等を退所し自立するに当たって、保護者等から支援を受けられない場合が多く、その結果さまざまな困難に突き当たることが多い。このような子どもたちが他の子どもたちと公平なスタートが切れるように自立への支援を進めるとともに、自立した後も引き続き子どもを受け止め、支えとなるような支援の充実を図ることが必要である。

このため、2009(平成21)年改正後の児童福祉法等においては、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)について、都道府県にその実施を義務付け、費用を負担金で支弁することとした。

また、2008(平成20)年度より、児童福祉や就業支援に精通したスタッフ等を配置し、相談支援、就職活動支援、生活支援等を行うことにより、地域生活及び自立を支援するとともに、退所した者同士が集まり、意見交換や情報交換・情報発信を行えるような場を提供する「地域生活・自立支援事業」を実施している。

さらに施設等を退所する子ども等が、親がいない等の事情により身元保証人を得られず、就職やアパート等の賃借に影響を及ぼすことがないように支援することが必要であり、2007(平成19)年度から、子ども等が就職やアパート等を賃借する際に、施設長等が身元保証人となる場合の補助を行う「身元保証人確保対策事業」を実施している。

5)社会的養護に関する施設機能の充実

近年、児童養護施設をはじめとする児童福祉施設においては、虐待を受けた子どもが増加しており、できる限り家庭的な環境の中で、職員との個別的な関係性を重視したきめ細かなケアを提供していくことが求められている。

このような趣旨から、ケア形態の小規模化を図るため、児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設を対象とした小規模グループケアの実施並びに児童養護施設を対象とした地域小規模児童養護施設の設置を進めている。

また、2007(平成19)年11月の「社会的養護専門委員会報告書」において、子どもの状態や年齢に応じた適切なケアを実施できるよう現行の施設類型のあり方を見直すとともに、人員配置基準や措置費の算定基準の見直し等を含めたケア改善に向けた方策を検討する必要があるなどの提言が行われ、これを受けて、施設内で行われているケアの現状を把握するための調査・分析を行い、その基本的な集計を2009(平成21)年10月の社会的養護専門委員会へ報告したところである。

今後、さらに詳細な集計・分析を進め、その結果や新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築に関する議論等を踏まえ、施設機能の見直しについての検討を進めることとしている。

6)施設内虐待の防止

子どもの福祉を守るという観点から、被措置児童等の権利が侵害されている場合や生命や健康、生活が損なわれるような事態が予測される場合等には、被措置児童等を保護し、適切な養育環境を確保することが必要である。また、不適切な事業運営や施設運営が行われている場合には、事業者や施設を監督する立場から、児童福祉法に基づき適切な対応が必要となる。

このため、2009(平成21)年の改正児童福祉法では、被措置児童等虐待の防止に関する事項を盛り込み、被措置児童等の権利擁護を図るため、適切な対応のための仕組みを整備したところである。

同年、「被措置児童等虐待ガイドライン」を作成し、都道府県の関係部局の連携体制や通告等があった場合の具体的対応等の体制をあらかじめ定めること、都道府県児童福祉審議会の体制を整備することに加え、関係施設の協議会等との連携・協議を強化し、被措置児童等への周知や子どもの権利についての学習機会の確保を図ること等について、都道府県等に対し具体的に示したところである。


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