第2節 「子ども・子育て新システム」の構築に向けた検討

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子どもと子育てを応援する社会を築いていくことが求められる中で、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」(2009(平成21)年12月8日閣議決定)において、幼保一体化を含め、新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築を進めることとした。また、「新成長戦略」(2009年12月30日閣議決定)において、幼保一体化の推進、利用者本位の保育制度に向けた抜本的な改革、各種制度・規制の見直しによる多様な事業主体の参入促進等による待機児童解消を図ることとした。さらに、「子ども・子育てビジョン」においても、保育制度改革を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築については、すべての子どもの健やかな育ちを基本に置きつつ、社会全体で費用を負担する仕組みにより財源確保を図りながら、検討することとしている。

これを受け、幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築について検討を行うため、2010(平成22)年1月に、「子ども・子育て新システム検討会議」と「作業グループ」を設置し、同年6月を目途に基本的な方向を固め、少子化社会対策会議等に報告することとした。

「作業グループ」において行った、有識者、保育関係団体、幼稚園関係団体、NPO等の保育に関わる民間事業者、地方自治体、労使団体、保護者団体からのヒアリングを踏まえ、「子ども・子育て新システム検討会議」では、2010年4月に「子ども・子育て新システムの基本的方向」を取りまとめ、さらに議論を重ね、同年6月に「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下「基本制度案要綱」という。)を少子化社会対策会議において決定した。

第1-1-6図 子ども・子育て新システムについて

第1-1-7図 子ども・子育て新システム検討会議体制図

第1-1-8図 基本制度・幼保一体化・こども指針(仮称)ワーキングチームの設置

基本制度案要綱では、すべての子どもへの良質な成育環境を保障し、子どもを大切にする社会、出産・子育て・就労の希望がかなう社会、仕事と家庭の両立支援で、充実した生活ができる社会、新しい雇用の創出と、女性の就業促進で活力ある社会を実現することを目的として掲げている。そして、社会全体による子ども・子育て支援、利用者(子どもと子育て家庭)本位を基本とした、すべての子ども・子育て家庭に必要な良質のサービスの提供、基礎自治体(市町村)中心を前提とした住民の多様なニーズに応えるサービスの実現と、政府の推進体制の一元化といった方針の下に、制度を構築することとしている。

この基本制度案要綱に基づき、2010年9月より「子ども・子育て新システム検討会議」の「作業グループ」の下で、有識者、保育・幼稚園関係者、地方団体、労使代表、子育て当事者などの関係者の参集を得て、「基本制度ワーキングチーム」、「幼保一体化ワーキングチーム」、「こども指針(仮称)ワーキングチーム」の3つのワーキングチームを開催し、制度の具体的内容について議論を進めている。

「基本制度ワーキングチーム」では、子ども・子育て新システム(以下「新システム」という。)の制度全体について検討を進めており、新システムにおける給付設計、費用負担の在り方、子ども・子育て会議(仮称)の設置等について議論を行い、2011(平成23)年3月までに10回開催された。

「幼保一体化ワーキングチーム」では、幼保一体化の具体的内容や進め方について検討を進めており、幼保一体化の目的、こども園(仮称)の具体的制度設計等について議論を行い、2011年3月までに7回開催された。

「こども指針(仮称)ワーキングチーム」では、こども園(仮称)において幼児教育・保育を一体的に提供するにあたり、従来の幼稚園教育要領と保育所保育指針を統合し新しいこども指針(仮称)を作成するための検討を進めており、2011年3月までに4回開催された。

これまでのワーキングチームにおいては、次のような給付や事業を新システムの対象とする方向で議論が行われている。

・子ども手当(現金給付)

・地域子育て支援事業(仮称)(3歳未満児を中心に、保育所等を利用せず家庭で子育てを行っている方を支援する地域子育て支援拠点事業や一時預かり等の事業)

・こども園給付(仮称)(こども園(仮称)(総合施設(仮称)、幼稚園、保育所、それ以外の客観的な基準を満たした施設)の利用者に対する給付)

・地域型保育給付(仮称)(こども園(仮称)以外の小規模保育、家庭的保育(保育ママ)等の利用者に対する給付)

・放課後児童クラブ(就学後の児童に放課後の遊びと生活の場を提供する事業)

など

幼保一体化については、次のような仕組みにより、質の高い学校教育・保育3の一体的提供、保育の量的拡大、家庭における養育支援の充実を図ることを検討している。

<1> 給付システムの一体化

・市町村が市町村新システム事業計画(仮称)を策定し地域における学校教育・保育の計画的整備を行う。

・多様な事業主体の保育事業への参入を促進する。

・学校教育・保育に係る給付を一体化したこども園給付(仮称)を創設する。

<2> 施設の一体化

・学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供する総合施設(仮称)を創設する。

また、「社会保障改革の推進について」(2010年12月14日閣議決定)において、社会保障の安定・強化のための制度改革案と、必要財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進めることが示され、その中で優先的に取り組むべき子ども子育て対策・若者支援対策として、子ども・子育て新システム法案(仮称)の早期提出に向け、検討を急ぐこととされた。

新システムの制度設計に関しては、社会保障改革の議論に合わせ、引き続きワーキングチームを開催し検討を進めることとしている。


(子ども・子育て新システム検討会議等に関しては内閣府ホームページ(「子ども・子育て新システム検討会議」について)参照)

  1. 「学校教育」とは、学校教育法に位置付けられる小学校就学前の子どもを対象とする教育(幼児期の学校教育)を言い、「保育」とは児童福祉法に位置づけられる乳幼児を対象とした保育を言う。以下この節について同じ。
第1-1-9図 給付設計の全体像

第1-1-10図 幼保一体化の具体的な仕組みについて

第1-1-11図 社会保障改革の推進について

地方自治体における独自性のある幼保一体化の取組事例

政府における幼保一体化の取組については、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ認定こども園の整備が、2006(平成18)年の制度発足以来進められてきた。また、幼保一体化を含め、新たな次世代育成支援のための制度・給付・財源の包括的・一元的な「子ども・子育て新システム」の構築に向けた検討が進められているところである。

以下では、幼保一体化を意欲的に進めてきた地方自治体の独自性のある取組を紹介する。

(1) 東京都新宿区

新宿区では、保護者の就労の多様化や状況の変化により、長時間保育や一時保育についての需要の高まりによる待機児童の解消が課題となり、一方、幼稚園では利用人数が減少する中、3歳児保育や預かり保育の需要の高まりによる既存施設の有効利用が課題となっていた。このような区の保育・教育ニーズに対して、その受け皿である保育・教育施設の配置のアンバランスな状況を解消する必要があったことから、0歳から小学校就学前までの子どもに対し、同じ環境の下で保育・教育が受けられるように、「子ども園」※に関する取組を進めている。

現在、多様なスタイルの「子ども園」の導入により、0歳から5歳までの育ちを踏まえた保育・教育の実践、保育園や幼稚園で培ってきた知識・技能の双方の良さを活かすことによる保育・教育の質の向上、小1プロブレムの解消など、これまで進めてきた保育園・幼稚園と小学校の連携の促進などの効果が期待されている。

(2) 東京都三鷹市

三鷹市では、1955(昭和30)~1965(昭和40)年の人口急増期に私立幼稚園を補完するために市立幼稚園を設立してきた。しかし、少子化の進行による私立幼稚園での欠員の発生や保育所待機児童の増加などにより時代のニーズに合った新たな子育て支援施設が必要となった。1998(平成10)年に5園あった市立幼稚園については、廃園して公設民営保育所などとして整備し直すなどしていたが、廃園後の施設活用について検討していく中で、その活用策としてあがったものが、2005(平成17)年度をもって廃園したちどり幼稚園の「こども園」化であった。

2007(平成19)年4月に、市立幼稚園のノウハウを継承し、幼・保・小連携の取組に資する施設として開設した「ちどりこども園」は、保育所保育指針、幼稚園教育要領に基づいた、1~5歳児までの一貫した保育と小学校教育を視野に入れた遊びを通した幼児の教育活動、異年齢保育による世代間交流、小学校に隣接しているメリットを生かした小学校との連携・円滑な接続などに取り組んでいる。また、保育相談、園庭開放、図書の貸し出し等などの在宅の子育て支援、預かり保育などを実施している。

(3) 新潟県聖籠町

聖籠町では、少子化に伴う幼稚園の入園児の減少や保育園に対するニーズの高まりを受け、2005(平成17)年4月から、町立の幼稚園・保育所のすべて(3つの幼稚園と1つの保育園)を「こども園」として、運営している。

3歳未満の乳幼児には保育を基本として公立の「こども園」と私立の保育園で役割分担し、質の高い保育を専門的に保障する一方、3歳以上の幼児には「こども園」での幼児教育を基本とし、質の高い幼児教育を保障している。これにより、幼稚園の空き教室の解消や、人件費などの行政コストの削減につながったほか、町の子育て支援施策を総合的に進めることにより、各々の行政分野が連携し子育てに対する相談指導体制を構築するなどして、保護者の高い信頼が得られている。

(4) 秋田県井川町

井川町では、1973(昭和48)年以来、保育園が2園、幼稚園が1園運営されてきたが、1989(平成元)年に実施したアンケートなどでは、幼保を一緒にしてもいいのではないかという保護者の声もあがっていた。そのような状況を踏まえて、1995(平成7)年に、2つの保育園に、それぞれ幼稚園を併設し、東幼稚園、西幼稚園とした(対象年齢は保育園児が0~5歳、幼稚園児が4、5歳)。さらに、1997(平成9)年に、幼保一体化施設「井川こどもセンター」を設置し、2006(平成18)年に全国初の認定こども園として認定された。

幼稚園と保育園を一体的に運用したことで、乳児保育、一時保育、いのこり保育、障害児保育など多様な保育サービスに対応することが可能となった。小学校、福祉施設、関係団体との連携により、現在では、保育需要の動向に応じた緊急的な保育サービスとしての一時預かり事業、10歳未満を対象にした学童保育などに加えて、障害児保育、産休明けの乳児保育、延長保育など、必要に応じて選択ができるように進めている。


※本コラム中における、「子ども園」、「こども園」の呼称については、各地方自治体における独自の取組による幼保一体化施設の呼称。

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