第5節 特に支援が必要な子どもが健やかに育つように
1.障害のある子どもへの支援に取り組む
1)障がい者制度改革推進本部における取組
「障がい者制度改革推進会議」において、2010年12月に取りまとめられた「障害者制度改革の推進のための第二次意見」等を踏まえ、政府は、障害者基本法について、可能な限り障害のある児童生徒が障害のない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、十分な教育を受けられるようにすることや、障害のある子どもが身近な場所で療育等の支援を受けられるようにすること等を盛り込んだ「障害者基本法の一部を改正する法律案」を2011(平成23)年3月に「障がい者制度改革推進本部」において決定し、同年7月に成立、同年8月に施行(一部を除く)された。
2)ライフステージに応じた一貫した支援の強化
障害のある子どもに対しては、健康診査等によりできるだけ早期に障害を発見するとともに、児童福祉法に基づき、障害のある子どもに対し、治療や専門的療育を実施する児童福祉施設の整備及び機能強化を図り、療育体制を整備している。
3)障害のある子どもの保育
障害のある子どもの訓練や居場所の確保のため、日常生活における体の動作の訓練等を行う障害児通所支援や、障害のある子どもを一時的に預かって見守る日中一時支援事業等を実施している。
保育所において、障害のある子どもを受け入れるにあたり、バリアフリーのための改修等を行う事業などを実施している。
幼稚園においても、特別支援教育コーディネーターの指名などの支援体制を整備する事業を実施するとともに、公立幼稚園において地方財政措置による特別支援教育支援員の配置を進めるなど、障害のある子どもの受入れ体制の整備促進を図っている。
4)発達障害のある子どもへの支援の充実
発達障害児支援については、2005(平成17)年4月に施行された発達障害者支援法(平成16年法律第167号)を踏まえ、発達障害者の乳幼児期から成人期までの各ライフステージに対応する一貫した支援の推進を図るため、保健、医療、福祉、教育、就労等の制度横断的な関連施策の推進に取り組んでいる。
2011(平成23)年度においては、発達障害等に関する知識を有する専門員が、市町村の保育所等の子どもやその親が集まる施設・場を巡回し、施設のスタッフや親に対して、発達障害の早期発見・早期対応のための助言等の支援を行う「巡回支援専門員整備事業」を創設するなど、地域における発達障害者に対する支援体制の充実を図ったところである。
5)特別支援教育の推進
大学への委託により特別支援教育に関する研修を実施し、特別支援教育にかかわる教員の専門性の向上に取り組むとともに、「特別支援教育総合推進事業」等の各種事業の実施や、障害のある子どもの学校における生活介助・学習支援等のサポートを行う「特別支援教育支援員」の配置に関する地方財政措置の公立高等学校への拡充(2011(平成23)年度より措置)等を通じて、特別支援教育の推進を図っている。
また、インクルーシブ教育システムの構築という障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について検討を行うため、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議が行われており、2012(平成24)年2月、「合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ」による報告がとりまとめられたところである。
2.児童虐待を防止するとともに、社会的養護を充実する
2-1 児童虐待の発生予防、早期発見・早期対応、保護・自立支援に取り組む
児童虐待への対応については、2000(平成12)年11月に施行された児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号、以下「児童虐待防止法」という。)が、2004(平成16)年及び2007(平成19)年に改正され、制度的な対応について充実が図られてきた。しかし、重大な児童虐待事件が後を絶たず、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数も増加を続け、2010(平成22)年度には5万6,384件(東日本大震災の影響により、福島県を除いて集計した数値)となるなど、依然として社会全体で取り組むべき重要な課題となっている。
なお、主たる虐待者をみると、実母が60.4%と最も多く、次いで実父が25.1%となっている。
1)児童虐待防止に向けた普及啓発
2004(平成16)年から11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け、児童虐待問題に対する社会的関心の喚起を図るため、関係府省庁や地方公共団体、関係団体等と連携した広報・啓発活動を実施している。また、民間団体が中心となって実施している「オレンジリボン・キャンペーン」について後援している。
2)児童虐待防止対策の取組状況
(1) 切れ目のない児童虐待防止対策の推進
児童虐待の防止に向け、<1>虐待の「発生予防」、<2>虐待の「早期発見・早期対応」、<3>虐待を受けた子どもの「保護・自立支援」に至るまでの切れ目のない総合的な支援体制の整備、充実を推進している。
(2) 親権に係る制度の見直し
児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から、親権の停止制度を新設し、法人又は複数の未成年後見人を選任することができるようにするなどの措置を講ずるための民法等の改正が行われるとともに、里親委託中等の親権者等がいない児童の親権を児童相談所長が行うこととすることや、児童の福祉のために施設長等がとる監護等の措置について親権者等が不当に妨げてはならないこととするなどの措置を講ずるための児童福祉法の改正が行われた(2012(平成24)年4月から施行)。
(3) 児童虐待による死亡事例等の検証
児童虐待による死亡事例等について、「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」において分析、検証し、事例から明らかになった問題点・課題から具体的な対応策を提言として取りまとめている。2011(平成23)年度においては第7次報告を取りまとめ、望まない妊娠について相談できる体制の充実や、妊娠期から養育支援を必要とする家庭に対する連携体制の整備の促進等について提言している。
(4) 学校による取組
2010(平成22)年3月より、学校・教育委員会等に対し、学校と児童相談所等との間の情報共有の仕組みについての基本的考え方や、教職員に対する研修の充実等を含めた児童虐待の早期発見・早期対応、通告後の関係機関との連携等を図る上での留意点について周知を図っており、2012(平成24)年3月には、児童虐待の速やかな通告を一層推進するための留意事項を、都道府県等を通じて、学校教育関係者に周知した。
2-2 社会的養護を質・量ともに充実させる
1)家庭的養護の推進
2009(平成21)年に施行された改正児童福祉法等において、「養育里親」を、養子縁組を前提とした里親と区別するとともに、「小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)」が、里親委託、施設入所に加わる新たな社会的養護の受け皿として位置づけられており、その普及を推進している。2011(平成23)年3月には、里親委託優先の原則を明示した「里親委託ガイドライン」を策定し、里親の孤立防止など里親支援の体制を整備しながら、里親委託を推進している。
2)年長児の自立支援策の拡充
2009(平成21)年改正後の児童福祉法等において、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)の実施について、都道府県にその実施を義務付け、費用を負担金で支弁することとした。また、2010(平成22)年度から、施設を退所した後の地域生活及び自立を支援するとともに、退所した人同士が集まり、意見交換や情報交換・情報発信を行えるような場を提供する「退所児童等アフターケア事業」を実施している。
3)社会的養護に関する施設機能の充実
施設運営の質を向上させるため、「社会的養護の課題と将来像」を受け、2011(平成23)年9月に児童福祉施設最低基準を改正し、第三者評価及び施設長研修を義務づけた。
また、2012(平成24)年3月には、児童養護施設、乳児院、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設の5つの施設運営指針と、里親及びファミリーホーム養育指針を策定するとともに、第三者評価の評価基準を策定した。
さらに、2012年度予算には、虐待を受けた子ども等の増加に対応し、ケアの質を高めるため、社会的養護の施設の児童指導員・保育士等の基本的人員配置を30数年ぶりに引き上げるためなどの予算を盛り込んだところである。
4)被措置児童等虐待の防止
2009(平成21)年の改正児童福祉法では、被措置児童等虐待の防止に関する事項を盛り込み、被措置児童等の権利擁護を図るため、適切な対応のための仕組みを整備した。
3.定住外国人の子どもなど特に配慮が必要な子どもたちへの支援を推進する
1)定住外国人の子どもに対する就学支援
外国人については、保護者が希望する場合には、その子どもを公立の小中学校等に無償で就学させることができ、その就学支援のための諸施策を行っている。
2)自死遺児への支援
自死遺児支援については、2006(平成18)年10月に施行された自殺対策基本法を踏まえ、自殺又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等に対する適切な支援を行うため、遺族のための自助グループ等の地域における活動を支援するなど、地方公共団体との連携の下、自死遺族支援施策の中で関連施策の推進に取り組んでいる。
4.子どもの貧困率への取組を行う
1)子どもの貧困率について
最新の2010(平成22)年国民生活基礎調査での相対的貧困率は、全体で16.0%、子どもで15.7%となっている。一方、子どもがいる現役世帯の相対的貧困率は、14.6%であり、そのうち、大人が1人いる世帯の相対的貧困率は50.8%、大人が2人以上いる世帯の相対的貧困率は12.7%となっている。
また、OECDでは、2000年代半ばまでのOECD加盟国の相対的貧困率を公表しているが、これによると、我が国の相対的貧困率はOECD加盟国30か国中27位と高い水準となっており、特に子どもがいる現役世帯のうち大人が1人いる世帯の相対的貧困率が加盟国中最も高くなっている。
こうした指標等から、ひとり親家庭等、大人1人で子どもを養育している家庭において、特に経済的に困窮しているという実態がうかがえる。
このため、ひとり親家庭に対する支援として、経済的な自立を可能とする就業支援策などの充実・強化を進めているほか、ひとり親家庭の経済的支援の拡充を図るため、2010年8月から、児童扶養手当の支給対象を父子家庭にも拡大した(同年12月から支給開始)。また、生活保護の母子加算を引き続き支給する。