第1部 少子化対策の現状と課題
第1章 少子化の現状
第1節 近年の出生率の推移
1 出生数、出生率の推移
出生数と合計特殊出生率の推移
我が国の年間の出生数は、第1次ベビーブーム1期には約270万人、第2次ベビーブーム期には約200万人であったが、1975(昭和50)年に200万人を割り込み、それ以降、毎年減少し続けた。1984(昭和59)年には150万人を割り込み、1991(平成3)年以降は増加と減少を繰り返しながら、緩やかな減少傾向となっている。
なお、2011(平成23)年の出生数は、105万806人と前年の107万1,304人より2万498人減少した。
次に、合計特殊出生率2をみると、第1次ベビーブーム期には4.3を超えていたが、1950(昭和25)年以降急激に低下した。その後、第2次ベビーブーム期を含め、ほぼ2.1台で推移していたが、1975年に2.0を下回ってから再び低下傾向となった。1989(平成元)年にはそれまで最低であった1966(昭和41)年(丙午:ひのえうま)3の数値を下回る1.57を記録し、さらに、2005(平成17)年には過去最低である1.26まで落ち込んだ。
- ベビーブームとは、赤ちゃんの出生が一時的に急増することをいう。日本では、第2次世界大戦後、2回のベビーブームがあった。第1次ベビーブームは1947(昭和22)年から1949(昭和24)年、第2次ベビーブームは1971(昭和46)年から1974(昭和49)年である。第1次ベビーブーム世代は「団塊の世代」、第2次ベビーブーム世代は「団塊ジュニア」と呼ばれている。
- 合計特殊出生率とは、その年次の15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が、仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に子どもを生むと仮定したときの子ども数に相当する。
- 丙午(ひのえうま)とは、干支(えと)の1つで、60年に1回まわってくる。ひのえうまの年に生まれた女性は気性が激しいという迷信から、この年に子どもを生むのを避けた夫婦が多いと考えられている。
なお、2011年は、1.39(前年同)となっており微増傾向ではあるものの、欧米諸国と比較するとなお低い水準にとどまっている。
2 総人口の減少と人口構造の変化
50年後の我が国の人口
それでは、今後、我が国の人口はどのように推移していくのだろうか。
国立社会保障・人口問題研究所では、国勢調査や人口動態統計を踏まえ、全国の将来の出生、死亡及び国際人口移動について一定の仮定を設け、これらに基づいて、我が国の将来の人口規模や人口構造の推移をおおむね5年ごとに推計している。最新の「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(以下「平成24年将来推計人口」という。)では、将来の出生推移及び死亡推移について、それぞれ中位、高位、低位の3つの仮定を設けている4。したがって、3つの出生仮定と死亡仮定の組み合わせであるので、9通りの推計で構成されていることになるが、以下では、死亡については中位の仮定として、3つの推計(出生中位、高位、低位)を紹介する。
一般に将来推計人口として利用されている中位推計(出生中位・死亡中位)では、合計特殊出生率は、2010(平成22)年の実績値1.39から2014(平成26)年まで、概ね1.39で推移し、その後2024(平成36)年の1.33に至るまで緩やかに低下し、以後やや上昇して2030(平成42)年の1.34を経て、2060(平成72)年には1.35になると仮定している。このような仮定に基づいて試算すると、我が国の総人口は、2010年の1億2,806万人から長期の人口減少過程に入り、2030年の1億1,662万人を経て、2048(平成60)年には1億人を割って9,913万人となり、50年後の2060年には8,674万人になることが見込まれている。
今回の平成24年将来推計人口の特徴としては、将来推計人口において最終的な出生率の前提が前回よりも改善したことがあげられる(昭和44年将来推計人口以来初)。
また、高位推計(出生高位・死亡中位)によると、合計特殊出生率は、2010年実績値1.39から2020(平成32)年1.61まで上昇し、2060年には1.60へと推移する。総人口は、2054(平成66)年に1億人を割り、2060年には9,460万人になるものと推計されている。
4. 出生推移の仮定については、1995年生まれの女性を参照コーホート(ある年齢層のかたまり)として、結婚及び出生指標に一定の仮定を設け、1960年生まれの年長のコーホートの実績値から参照コーホートの仮定値を経て、2010年生まれのコーホートまで徐々に変化し、以後は一定になるものと仮定している。1995年生まれの参照コーホートの結婚及び出生指標は、例えば、平均初婚年齢は、中位28.2歳、高位27.9歳、低位28.5歳、生涯未婚率は、中位20.1%、高位14.7%、低位26.2%、夫婦完結出生児数は、中位1.74人、高位1.91人、低位1.57人と設定している。
一方、低位推計(出生低位・死亡中位)によると、合計特殊出生率は、2023(平成35)年に1.08台まで低下し、その後わずかに上昇を示して2060年には1.12へと推移する。総人口は、2044(平成56)年に1億人を割り、2060年には7,997万人になるものと推計されている。
人口構造の変化
平成24年将来推計人口をみると、人口減少ばかりでなく、我が国の人口構造そのものが大きく変化していく見通しであることがわかる。
年齢3区分別の人口規模及び全体に占める割合の推移について、中位推計結果をみると、まず年少人口(0~14歳)では、2010年の1,684万人から、2015(平成27)年に1,500万人台へと減少し、2046(平成58)年に1,000万人を割って、2060年には791万人の規模になる。総人口に占める割合は、2010年の13.1%から低下を続け、2025(平成37)年に11.0%となり、2060年には9.1%となる。
次に、生産年齢人口(15~64歳)については、2010年の8,173万人から減少し続け、2060年には4,418万人となる。総人口に占める割合は、2010年の63.8%から低下し続け、2017(平成29)年には60%を下回り、2060年には50.9%となる。
また、高齢者人口(65歳以上)については、2010年の2,948万人から、団塊世代が参入を始める2012(平成24)年に3,000万人を上回り、緩やかな増加を続けて、第2次ベビーブーム世代が高齢者人口に入った2042(平成54)年に3,878万人でピークを迎える。その後は減少に転じ、2060年には3,464万人となる。総人口に占める割合は、2010年の23.0%から上昇を続けて、2060年には39.9%に達する。高齢者人口自体は2042年をピークに減少し始めるが、年少人口と生産年齢人口の減少が続くため、高齢者人口割合は相対的に上昇し続けることとなる。
都道府県別にみた合計特殊出生率
2011(平成23)年の全国の合計特殊出生率は1.39であるが、47都道府県別の状況をみると、これを上回るのは32県、下回るのは13都道府県であった。この中で合計特殊出生率が最も高いのは沖縄県(1.86)であり、以下、宮崎県(1.68)、鹿児島県(1.64)、熊本県(1.62)の順となっている。最も低いのは、東京都(1.06)であり、以下、北海道、宮城県及び京都府(1.25)の順となっている。
2010年と2011年を比較すると、全国の合計特殊出生率は前年同となっており6県が上昇している。その上昇幅が特に大きかったのは、秋田県及び鳥取県(0.04ポイント)、和歌山県及び鹿児島県(0.02ポイント)であった。
3 婚姻・出産等の状況
未婚化・非婚化の進行
婚姻件数は、第1次ベビーブーム世代が25歳前後の年齢を迎えた1970(昭和45)年から1974(昭和49)年にかけて年間100万組を超え、婚姻率(人口千対)もおおむね10.0以上であった。その後は、婚姻件数、婚姻率ともに低下傾向となり、1978(昭和53)年以降は年間70万組台(1987(昭和62)年のみ60万組台)で増減を繰り返しながら推移してきた。2011(平成23)年は66万1,895組(対前年比3万8,319組減)と前年より減少した。婚姻率も5.2で前年の5.5から0.3下回り、過去最低を記録し、1970年代前半と比べると半分近くの水準となっている。
また、2010(平成22)年の総務省「国勢調査」によると、25~39歳の未婚率は男女ともに引き続き上昇している。男性では、25~29歳で71.8%、30~34歳で47.3%、35歳~39歳で35.6%、女性では、25~29歳で60.3%、30~34歳で34.5%、35~39歳で23.1%となっている。さらに生涯未婚率を30年前と比較すると、男性は2.60%(1980(昭和55)年)から20.14%(2010年)、女性は4.45%(1980年)から10.61%(2010年)へ上昇している。
晩婚化、晩産化の進行
日本人の平均初婚年齢は、2011年で、夫が30.7歳(対前年比0.2歳上昇)、妻が29.0歳(同0.2歳上昇)と上昇傾向を続けており、結婚年齢が高くなる晩婚化が進行している。1980年には、夫が27.8歳、妻が25.2歳であったので、ほぼ30年間で、夫は2.9歳、妻は3.8歳、平均初婚年齢が上昇していることになる。
また、初婚の年齢(各歳)別婚姻件数の構成割合を1991(平成3)年から10年ごとにみると、夫は1991年と2001(平成13)年を比較すると大きな差異はないものの、2001年以降、また、妻は1991年以降一貫して、ピーク時の年齢が上昇するとともに、その年齢が占める割合は低下し、高い年齢の割合が増加していることがわかる。
さらに、出生したときの母親の平均年齢をみると、2011年の場合、第1子が30.1歳、第2子が32.0歳、第3子が33.2歳であり、初めて第1子出産年齢が30歳を超えた。
4 結婚、出産、子育てをめぐる状況
結婚に対する意識
国立社会保障・人口問題研究所が実施した「第14回出生動向基本調査結婚と出産に関する全国調査(独身者調査)」(2011(平成23)年)によると、いずれは結婚しようと考える未婚者の割合は、男性は86.3%、女性は89.4%と、依然として高い水準にある。しかし、「一生結婚するつもりはない」とする未婚者は第9回調査以降、男性、女性ともに緩やかな増加傾向にあり、男性9.4%、女性6.8%となっている。
結婚することの具体的な利点としては、男女とも「子どもや家族をもてる」を挙げる人が第9回調査から増加傾向であり、第14回調査においては、男性では「精神的安らぎの場が得られる」(32.3%)を抜いて33.6%と初めてトップの項目となった。一方で、「社会的信用や対等な関係が得られる」、「生活上便利になる」については、第9回調査から減少傾向である。また、女性では、「子どもや家族をもてる」のほか、「経済的余裕がもてる」は第9回調査から増加傾向である。
出産に対する意識
国立社会保障・人口問題研究所が実施した「第14回出生動向基本調査結婚と出産に関する全国調査(夫婦調査)」(2011年)によると、夫婦にたずねた理想的な子どもの数(平均理想子ども数)は、前回の第13回調査に引き続き低下し、調査開始以降最も低い2.42人となった。また、夫婦が実際に持つつもりの子どもの数(平均予定子ども数)も、2.1を下回り、2.07人となっている。
理想の子ども数を持たない理由として、最も多いのが、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(60.4%)であり、年代別にみると、若い世代ほど割合が高くなる傾向がみられる。次に多いのが、「高年齢で生むのはいやだから」(35.1%)であり、年代別にみると、年代が高くなるほど、割合が高くなる傾向がみられる。
若い世代などの所得の伸び悩み
20代、30代といった子育て世代の所得分布をみると、20代では、1997(平成9)年には年収が300万円台の雇用者の割合が最も多かったが、2007(平成19)年には200万円台前半の雇用者が最も多くなっている。また、30代では、1997年には年収が500~699万円の雇用者の割合が最も多かったが、2007年には300万円台の雇用者が最も多くなっている。このように子育て世代の所得分布は、この10年間で低所得層にシフトしていることがわかる。
就労形態などによる家族形成状況の違い
若年者の雇用をめぐる環境をみると、完全失業率及び非正規雇用割合ともに、全年齢計を上回る水準で推移している。また、非典型雇用者の有配偶率は低く、30~34歳の男性においては、非典型雇用の人の有配偶率は正社員の人の半分以下となっているなど、就労形態の違いにより家庭を持てる割合が大きく異なっていることがうかがえる。
依然として厳しい女性の就労継続
女性の就労をめぐる環境をみると、出産1年前に仕事をしていた女性のうち、出産前後に仕事をやめた母の割合は54.1%となっており、平成13年出生児の67.4%から13.3ポイント減少している。
一方、女性の就労意向については、パートや正社員など就労形態は異なるものの、何らかの形で働きたいという者の割合は86.0%となっている。一方、出産を機に退職した女性の約4分の1が、仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立が難しいという理由で仕事をやめている。このことから出産に伴う女性の就労継続は依然として厳しいことがうかがえる。
子育て世代の男性の長時間労働
男性について週60時間以上の長時間労働をしている人は、どの年代においても、2005(平成17)年以降減少傾向にある。しかしながら、子育て期にある30代男性については、約5人に1人が週60時間以上の就業となっており、他の年代に比べ最も高い水準となっている。
加えて、育児時間を国際比較してみると、6歳未満の子どもをもつ夫の育児時間は、1日平均約40分程度しかなく、欧米諸国と比較して半分程度となっている。家事の時間を加えても、我が国の子育て期の夫の家事・育児にかける時間は1日平均1時間程度となっており、欧米諸国と比べて3分の1程度となるなど、男性の育児参加が進んでいないことがわかる。
5 諸外国との国際比較
諸外国における出生率の状況
主な国(アメリカ、フランス、スウェーデン、英国、イタリア、ドイツ)の合計特殊出生率の推移をみると、1960年代までは、すべての国で2.0以上の水準であった。その後、1970(昭和45)年から1980(昭和55)年頃にかけて、全体として低下傾向となったが、その背景には、子どもの養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及等があったと指摘されている。1990(平成2)年頃からは、出生率の動きは国によって特有の動きをみせ、ここ数年では回復する国もみられるようになってきている。
特に、フランスやスウェーデンでは、出生率が1.6台まで低下した後、回復傾向となり、直近ではフランスが2.01(2011(平成23)年)、スウェーデンが1.90(2011年)となっている。これらの国の家族政策の特徴をみると、フランスでは、かつては家族手当等の経済的支援が中心であったが、1990年代以降、保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で政策が進められている。スウェーデンでは、比較的早い時期から、経済的支援とあわせ、保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきた。また、ドイツでは、依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している。
次に、アジアの国や地域について、経済成長が著しく、時系列データの利用が可能なタイ、シンガポール、韓国、香港及び台湾の出生率の推移をみると、1970年の時点では、いずれの国も我が国の水準を上回っていたが、その後、出生率は低下傾向となり、現在では人口置換水準5を下回る水準になっている。タイの1.60(2010(平成22)年)を除けば、シンガポールが1.20(2011年)、韓国が1.24(2011年)、台湾が1.07(2011年)、香港が1.20(2011年)と我が国の1.39(2011年)を下回る水準となっている。
また、2012(平成24)年総務省「人口推計(平成24年10月1日現在)」によると、年少人口は1,654万7千人、総人口に占める割合は13.0%となっている。これに対して生産年齢人口(15~64歳)は8,017万5千人(対総人口比62.9%)、高齢者人口は3,079万3千人(同24.1%)となっている。
世界全域の年少人口割合(国連推計)は、26.8%であるが、我が国の総人口に占める年少人口の割合は、13.0%と世界的にみても最も小さくなっている。日本以外では、イタリア14.1%、スペイン15.0%、ドイツ13.5%と、相対的に合計特殊出生率が低い国ほど年少人口割合が小さくなっている。一方、日本と同様に合計特殊出生率が低い水準である韓国、シンガポールでは、少子化の進行が日本よりも遅い時期に始まったものの、他国より大きく減少しており、日本では13.0%(2008(平成20)年比0.5ポイント減)、韓国16.4%(2008年比2.7ポイント減)、シンガポール17.4%(2008年比2.2ポイント減)となっている。
我が国は、欧州諸国に比べて現金給付、現物給付を通じて家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されている。家族関係社会支出の対GDP比をみると、我が国は、0.96%(2009年)となっており、フランスやスウェーデンなどの欧州諸国と比べておよそ3分の1となっている。
5. 人口置換水準とは、現在の人口を維持できる合計特殊出生率の目安。2010年日本においては、2.07(「人口統計資料集(2013)」国立社会保障・人口問題研究所)となっている。