第2節 「子ども・子育て支援新制度」の施行に向けた取組【特集】
2012(平成24)年3月に、政府が平成24年通常国会(第180回国会)に提出した「子ども・子育て関連3法案」は、国会審議等による修正等を経て、同年8月10日に成立し、8月22日に公布された。子ども・子育て関連3法に基づく、子ども・子育て支援新制度(以下、「新制度」という。)は、社会保障・税一体改革の一項目として、消費税率の引き上げによる財源の一部を得て実施されるものであり、2015(平成27)年度から本格施行する方針の下、取り組んでいる。
新制度の検討の背景や経緯、制度の概要及び施行に向けた政府の取組状況は以下のとおりである。
(新制度の検討の背景)
現在、我が国では出生率の低下に伴い少子化が進んでいる。
子どもや子育てをめぐる環境は厳しく、核家族化や地域のつながりの希薄化により、子育てに不安や孤立感を覚える家庭も少なくない。また、保育所に子どもを預けたいと考えていても、希望する保育所が満員であること等から、多くの待機児童が生じていることや、仕事と子育てを両立できる環境の整備が必ずしも十分でないこと等が問題となっており、そうした状況を前に、子どもが欲しいという希望を叶えられない人も多い。
もとより、幼児教育や保育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う上で重要なものであり、質の高い幼児教育や保育を地域のニーズに応じて、総合的に提供することが重要である。
これらの課題に対処し、子どもが欲しいという希望が叶い、子育てをしやすい社会にしていくためにも、国や地域を挙げて、子どもや家庭を支援する新しい支え合いの仕組みを構築することが求められている。
(検討の経緯と子ども・子育て関連3法の成立)
こうした要請を受けて、政府では少子化社会対策会議の下で幼保一体化を含む新たな子育て支援の制度について検討を進め、2012(平成24)年3月には「子ども・子育て新システムに関する基本制度」等を同会議において決定した。
これに基づき、政府は、社会保障・税一体改革関連法案として「子ども・子育て支援法案」、「総合こども園法案」、「子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」の3法案を、税制抜本改革関連法案等とともに平成24年通常国会(第180回国会)に提出した。
国会に提出された3法案については、衆議院での審議及び同年6月15日の自民党・公明党・民主党の3党による社会保障・税一体改革(社会保障部分)に関する実務者間会合においてとりまとめられた「社会保障・税一体改革に関する確認書」を踏まえて、「子ども・子育て支援法案」及び「子ども・子育て支援法及び総合こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」に対する議員修正案が提出されるとともに、新たな議員立法として「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が提出された。
これらの3法案は、2012年6月26日に衆議院において可決された後、同年8月10日に参議院において可決・成立し、「子ども・子育て支援法」、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」及び「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」として同年8月22日に公布された。
(新制度の主なポイント)
新制度の主なポイントは以下の3点である。
一点目は、認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付である「施設型給付」及び小規模保育、家庭的保育等への給付である「地域型保育給付」の創設である。
これまで、幼稚園、保育所に対する財政措置は学校教育の体系、福祉の体系として別々になされてきたが、新制度では、認定こども園、幼稚園、保育所に共通の給付である「施設型給付」を創設し、財政支援を一本化することとしている。
また、新たな給付である「地域型保育給付」を創設し、6人以上19人以下の子どもを預かる「小規模保育」、5人以下の子どもを預かる「家庭的保育(保育ママ)」や子どもの居宅において保育を行う「居宅訪問型保育」、従業員の子どものほか地域の子どもを保育する「事業所内保育」の4つの事業について財政支援の対象とすることとした。
こうした多様な保育を財政支援の対象とする「地域型保育給付」を創設することにより、特に待機児童が多く、施設を新設する場所を確保することが困難な都市部における保育の量の拡大と、子どもの数が減少傾向にあり施設の維持が困難である地域や、施設までの距離が遠いなど利用が困難な地域における保育の確保が可能となる。
さらに新制度では、給付の創設に併せて、従来の保育所などの認可制度の改善を行い、客観的な認可基準に適合し、必要な条件を満たす場合には、欠格事由に該当する場合や需給調整が必要な場合を除き、認可するものとするという透明性の高い認可の仕組みとすることで、特に大都市部での保育需要の増大に機動的に対応することとしている。市町村は、認可施設・事業に対し、施設等の利用定員を定めるなどの「確認」を行い、給付を実施することとなる。
二点目は、認定こども園制度の改善である。認定こども園は、保護者の就労状況等に関わらず、そのニーズに合わせて子どもを受け入れ、幼児期の学校教育・保育を一体的に行う、幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持った施設である。また、子育ての不安に対する相談を受けることや、親子の集まる場所を提供するなど、地域の子ども・子育て支援の役割も果たすことが期待されている。認定こども園制度は2006(平成18)年に創設されたものであるが、利用者から高い評価を受ける一方で、これまでの制度では、学校教育法に基づく幼稚園と児童福祉法に基づく保育所という2つの制度を前提にしていたことによる、認可や指導監督等に関する二重行政の課題などが指摘されてきた。
今回の制度改正では、認定こども園の類型の一つである「幼保連携型認定こども園」を、学校及び児童福祉施設の両方の法的位置づけをもつ単一の認可施設とし、認可や指導監督等を一本化することなどにより、二重行政の課題などを解消し、その設置の促進を図ることとしている。また、財政措置についても、「幼保連携型」以外の「幼稚園型」「保育所型」「地方裁量型」を含む4類型すべてが「施設型給付」の対象となる。
三点目は、地域の子ども・子育て支援の充実である。保育が必要な子どものいる家庭だけでなく、全ての家庭を対象に地域のニーズに応じた多様な子育て支援を充実させるため、保護者が地域の教育・保育、子育て支援事業等を円滑に利用できるよう情報提供・助言等を行う利用者支援や、子育ての相談や親子同士の交流ができる地域子育て支援拠点、一時預かり、放課後児童クラブなど、市町村が行う事業を新制度では「地域子ども・子育て支援事業」として法律上に位置づけ、財政支援を強化して、その拡充を図ることとしている。
新制度は、これらの取組により、質の高い幼児期の学校教育・保育を総合的に提供し、地域の子ども・子育て支援を充実させ、全ての子どもが健やかに成長できる社会の実現を目指すものである。
(新制度の実施主体)
新制度では、基礎自治体である市町村が実施主体となり、「施設型給付」等の給付や「地域子ども・子育て支援事業」を計画的に実施し、こうした市町村による子ども・子育て支援策の実施を国と都道府県が重層的に支える仕組みとなる。
このため、市町村においては、地域における幼児教育・保育及び子育て支援についての需要を把握するための調査を順次実施し、その需要に対する子ども・子育て支援の提供体制の確保等を内容とする事業計画(「市町村子ども・子育て支援事業計画」)の策定作業を進めているところである。また都道府県においても、市町村子ども・子育て支援事業計画の数値を集計したものを基本として、各年度における需要の見込みと確保方策等を記載した「都道府県子ども・子育て支援事業支援計画」を策定することとしている。
なお、子ども・子育て支援法では、市町村、都道府県においては、新制度の実施に関し調査審議等を行うための審議会その他の合議制の機関を置くよう努めることとされている。都道府県及び多くの市町村においては、いわゆる「地方版子ども・子育て会議」を開催し、多くの関係者の参画を得て、こうした調査の企画・分析や事業計画の検討を行うなど、新制度の実施に向けた準備を進めているところである。
(施設・事業等の利用手続と市町村の役割)
新制度において、「施設型給付」の対象となる認定こども園、幼稚園、保育所や、「地域型保育給付」の対象となる小規模保育等の事業を利用するに当たっては、保護者は市町村に対して、子どもの年齢(満3歳以上又は未満の別)や保育の必要性の有無により分類される区分に該当することの認定の申請を行い、認定を受けることとなる。
申請を受けた市町村は、子どもの区分の認定と併せて、子どもが保育を必要とする場合に該当すると認めるときは、保育必要量(施設型給付等の対象となる保育の量)の認定を行う(保育の必要性の認定)。そして、こうした区分や保育必要量等を記載した認定証を交付する。
認定を受けた保護者は、市町村の関与の下、施設・事業等を選択し契約を行うこととなるが、市町村は新制度の下でも保育所での保育の実施義務を負い、保育所以外(認定こども園や小規模保育等)の保育についても必要な保育を確保する義務を負うことから、当分の間、「保育を必要とする」との認定を受けた子どもについては、市町村が保護者からの利用の申込みを受けて利用調整を行い、利用可能な施設・事業者のあっせん等を行うほか、施設・事業者に対して、その子どもが利用できるよう要請を行うこととなる。なお、私立保育所を利用する場合には、保護者と市町村が契約を行う形となる。
(費用負担)
新制度は、社会保障・税一体改革の一項目であり、これまで高齢者3経費(基礎年金、老人医療、介護)とされていた国分の消費税収の使途を、社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)として子育て分野にも拡大し、その財源を得て本格施行されるものである。
具体的には、2015(平成27)年10月に予定されている消費税率10%への引上げにより社会保障の充実の財源に充てられる2.8兆円のうち0.7兆円程度を子ども・子育て支援に充てることとされ、それにより保育等の量的拡大や質の改善を図ることとしている。
また、「社会保障・税一体改革に関する確認書」や、子ども・子育て関連3法に対する参議院の附帯決議においては、幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るためには、1兆円超程度の財源が必要であり、消費税率の引上げにより確保する0.7兆円程度以外の0.3兆円超の確保について、最大限努力するものとする旨の記述が盛り込まれている。
(子ども・子育て会議における検討)
新制度では、有識者、地方公共団体、子育て当事者、子育て支援当事者などが子育て支援の政策プロセス等に参画・関与できる仕組みとして、国に「子ども・子育て会議」を設置することとしている。同会議は、2013(平成25)年4月に内閣府に設置され、子ども・子育て支援法に基づく「基本指針」及び施設・事業の各種基準等について、順次検討を行ってきた。
このうち、子ども・子育て支援の意義や市町村・都道府県が作成する事業計画の記載事項等について定める基本指針については、会議において概ねの案を取りまとめて同年8月に公表した。基本指針の概ねの案においては、市町村子ども・子育て支援事業計画について、市町村における施設・事業の現在の利用状況及び将来の利用希望を踏まえて設定する「量の見込み」と、これに対応する「施設・事業の確保の内容及び実施時期」を記載すること等とされており、先述のとおり、各市町村において、計画の策定作業を進めているところである。
また、同会議においては、子ども・子育て支援法に基づく「保育の必要性」の認定基準の考え方を整理し、取りまとめた。ここでは、保育の必要性の認定に係る事由として、例えば就労については、フルタイム以外にもパートタイムなど基本的にすべての就労に対応することとし、認められる事由を従来より広げることとしたほか、保育必要量についても、「保育標準時間」(1日最長11時間)及び「保育短時間」(同8時間)の2区分にするなどの内容を盛り込んでいる。
この他、新制度における施設・事業の各種基準及び給付費の額の算定基準等については、子ども・子育て会議の下に基準検討部会を設置し、検討を行ってきた。
同部会の検討事項のうち、幼保連携型認定こども園の認可基準については、新設の場合と既存施設からの移行特例の場合とを整理した基準の考え方を、2013(平成25)年12月に取りまとめた。また、新たに市町村認可事業となる地域型保育事業の認可基準については、同年8月に小規模保育事業に関して、同年12月に家庭的保育事業、事業所内保育事業及び居宅訪問型保育事業に関して、それぞれ考え方を取りまとめた。また、市町村による確認制度のための運営基準や業務管理体制・情報公表のルール等についても、子ども・子育て会議及び基準検討部会において検討を行い、同年12月に取りまとめを行った。
こうした各種の取りまとめを受けて、政府においては、2014(平成26)年4月には施設・事業の設備運営基準等の主務省令を策定し、今後、地方自治体においてもこれを踏まえて必要な条例等を策定していくこととなる。
さらに、子ども・子育て会議においては、基準検討部会を中心に、施設・事業の公定価格等について、引き続き検討を進めているところであり、同年3月には公定価格の骨格案について取りまとめを行った。
(今後の予定)
新制度は、先述のとおり、2015(平成27)年4月の本格施行を予定している。
本格施行に先立ち、消費税率が8%に引き上げられた2014(平成26)年度には、待機児童が多い市町村等において「保育緊急確保事業」が行われている。これは、小規模保育事業や幼稚園における長時間預かり保育の支援など「待機児童解消加速化プラン」の推進に加え、地域子育て支援拠点事業の支援や放課後児童クラブの充実など新制度において地域子ども・子育て支援事業に移行する取組を先行的に実施するものであり、これにより新制度への円滑な移行につながることが期待される。
また、新制度では、子ども・子育て支援法上の事務の企画立案から執行までを一元的に内閣府が所管するとともに、内閣府は認定こども園制度も所管することとなる。このため内閣府に、それに対応した組織として「子ども・子育て本部」を設置し、新制度の一元的な実施体制を整備することとしている。一方で、学校教育法体系及び児童福祉法体系との整合性の確保の観点から、文部科学省、厚生労働省とも連携しながら事務を実施することとなるため、政府においてはこうした新制度の実施体制も構築することとしている。