第1部 少子化対策の現状と課題
第2章 少子化対策の取組
第1節 これまでの少子化対策
(エンゼルプランと新エンゼルプラン)
1990(平成2)年の「1.57ショック」を契機に、政府は、仕事と子育ての両立支援など子供を生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討を始め、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)(文部、厚生、労働、建設の4大臣合意)、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(新エンゼルプラン)(大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の6大臣合意)が策定された。
(次世代育成支援対策推進法)
家庭や地域の子育て力の低下に対応して、次世代を担う子供を育成する家庭を社会全体で支援する観点から、2003(平成15)年7月、地方公共団体及び企業における10年間の集中的・計画的な取組を促進するため、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)が制定された。同法は、地方公共団体及び事業主が、次世代育成支援のための取組を促進するために、それぞれ行動計画を策定し、実施していくことをねらいとしたものである。この法律は、2014(平成26)年の法改正により、有効期限が、更に10年延長されるとともに、新たな認定制度の導入など内容の充実が図られた。
(少子化社会対策基本法、少子化社会対策大綱及び子ども・子育て応援プラン)
2003年7月、議員立法により、「少子化社会対策基本法」(平成15年法律第133号)が制定され、同年9月から施行された。同法に基づき、2004(平成16)年6月、「少子化社会対策大綱」が閣議決定された。
同年12月、大綱に盛り込まれた施策の効果的な推進を図るため、「少子化社会対策大綱に基づく具体的実施計画について」(子ども・子育て応援プラン)を決定し、国が地方公共団体や企業等とともに計画的に取り組む必要がある事項について、2005(平成17)年度から2009(平成21)年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を掲げた。
(新しい少子化対策について)
2005年、合計特殊出生率は1.26と、過去最低を記録した。こうした予想以上の少子化の進行に対処し、少子化対策の抜本的な拡充、強化、転換を図るため、2006(平成18)年6月、少子化社会対策会議において「新しい少子化対策について」が決定された。
「新しい少子化対策について」では、「家族の日」・「家族の週間」の制定などによる家族・地域のきずなの再生や社会全体の意識改革を図るための国民運動の推進とともに、子供の成長に応じて子育て支援のニーズが変化することに着目して、妊娠・出産から高校・大学生期に至るまでの年齢進行ごとの子育て支援策を掲げた。
(「子どもと家族を応援する日本」重点戦略)
2007(平成19)年12月、少子化社会対策会議において「子どもと家族を応援する日本」重点戦略(以下「重点戦略」という。)が取りまとめられた。
重点戦略では、就労と出産・子育ての二者択一構造を解決するためには、「働き方の見直しによる仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現」とともに、その社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」(「親の就労と子どもの育成の両立」と「家庭における子育て」を包括的に支援する仕組みの構築)に同時並行的に取り組んでいくことが必要不可欠であるとされた。
働き方の見直しによる仕事と生活の調和の実現については、2007年12月、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が政労使の代表等から構成される仕事と生活の調和推進官民トップ会議において決定された。
(少子化社会対策基本法に基づく大綱(子ども・子育てビジョン)の策定)
「新しい少子化社会対策大綱の案の作成方針について」(2008(平成20)年12月、少子化社会対策会議決定)を受け、2009(平成21)年1月、内閣府に「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、同年6月には提言(“みんなの”少子化対策)をまとめた。
その後、2009年10月に発足した内閣府の少子化対策担当の政務三役(大臣、副大臣、大臣政務官)で構成する「子ども・子育てビジョン(仮称)検討ワーキングチーム」において検討が行われ、2010(平成22)年1月29日、少子化社会対策会議を経て、「子ども・子育てビジョン」が策定された。
(子ども・子育て支援新制度)
2010年1月の少子化社会対策大綱「子ども・子育てビジョン」の閣議決定に合わせて、少子化社会対策会議の下に、「子ども・子育て新システム検討会議」が発足し、新たな子育て支援の制度について検討を進め、2012(平成24)年3月には、「子ども・子育て新システムに関する基本制度」を少子化社会対策会議において決定した。これに基づき、政府は、社会保障・税一体改革関連法案として、子ども・子育て支援法等の3法案を平成24年通常国会(第180回国会)に提出した。国会における修正を経て成立した、子ども・子育て支援法等に基づき、政府において子ども・子育て支援新制度の本格施向に向けた準備を進め、2014(平成26)年度には、消費税引上げ(5%→8%)の財源を活用し、待機児童が多い市町村等において「保育緊急確保事業」が行われ、2015(平成27)年4月1日から新制度が実施された。
(待機児童の解消に向けた取組)
喫緊の課題である待機児童の解消の取組を加速化させるため、2013(平成25)年4月、「待機児童解消加速化プラン」を策定し、2015(平成27)年度からの子ども・子育て支援新制度の施行を待たずに、待機児童解消に意欲的に取り組む地方自治体に対してはその取組を支援してきたところであり、その結果、待機児童解消に向けた「緊急集中取組期間」である2013年度、2014(平成26)年度において、約20万人分の保育の受け皿を確保できる見込みである。今後、2015年度から2017(平成29)年度までを「取組加速期間」として位置付け、潜在的な保育ニーズも含め、さらに約20万人分の保育の受け皿確保を図り、待機児童の解消を目指すこととしている。
(少子化危機突破のための緊急対策)
2013(平成25)年3月に内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下で、「少子化危機突破タスクフォース」が発足し、同年5月には、「『少子化危機突破』のための提案」が取りまとめられた。この提案をもとに、同年6月には、少子化社会対策会議において「少子化危機突破のための緊急対策」(以下「緊急対策」という。)が決定された。
緊急対策では、これまで少子化対策として取り組んできた「子育て支援」及び「働き方改革」をより一層強化するとともに、「結婚・妊娠・出産支援」を新たな対策の柱として打ち出すことにより、これらを「3本の矢」として、結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」の総合的な政策の充実・強化を目指すこととされた。
また、緊急対策の内容は「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」(2013年6月14日閣議決定)及び「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日閣議決定)にも盛り込まれ、政府を挙げて少子化対策に取り組むこととされた。
さらに、「緊急対策」を着実に実施するため、2013(平成25)年8月から内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下で、「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」(以下「タスクフォース(第2期)という。)が発足した。緊急対策やタスクフォース(第2期)政策推進チームの「少子化危機突破のための緊急提言」(2013年11月)において、地域の実情に応じた結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援の重要性が盛り込まれたこと、全国知事会からの強い要望も踏まえ、「好循環実現のための経済対策」(2013年12月閣議決定)において「地域における少子化対策の強化」が盛り込まれ、2013年度補正予算において「地域少子化対策強化交付金」が創設された(30.1億円)。この交付金を活用し、地方自治体において、地域の実情に応じた結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援の先駆的な取組が行われている(コラム「地域少子化対策強化交付金を活用した取組」参照)。また、2014(平成26)年度補正予算においても同額が計上されている。
タスクフォース(第2期)が、2014年5月にまとめた提言の主な内容は、同年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレから好循環拡大へ~」(以下「骨太方針2014」という。)に盛り込まれ、政府全体の方針とされた。
(「選択する未来」委員会と「骨太方針2014」)
人口減少・少子高齢化は、経済社会全体に大きな影響を及ぼすものであることから、2014(平成26)年1月、経済財政諮問会議の下に、「選択する未来」委員会が設置され、精力的に議論が進められ、同年5月、中間整理が取りまとめられた。さらに、同年6月に閣議決定した骨太方針2014においては、「人口急減・超高齢化」が今後の日本経済の課題の大きな項目の一つとして掲げられるとともに、「少子化対策」も重点課題の中に項目として掲げられ、取組の方針が示された。「選択する未来」委員会においては、引き続き議論が行われ、2014年11月に報告がまとめられた。
(放課後子ども総合プランの策定)
保育所を利用する共働き家庭等においては、児童の小学校就学後も、その安全・安心な放課後等の居場所の確保という課題に直面している。このいわゆる「小1の壁」を打破するためには、児童が放課後等を安全・安心に過ごすことができる居場所についても整備を進めていく必要がある。加えて、次代を担う人材の育成の観点からは、共働き家庭等の児童に限らず、全ての児童が放課後等における多様な体験・活動を行うことができるようにすることが重要であり、全ての児童を対象として総合的な放課後対策を講じる必要がある。
このような観点から、文部科学省及び厚生労働省が連携して検討を進め、2014(平成26)年7月に「放課後子ども総合プラン」を策定した。このプランにおいては、2019(平成31)年度末までに、放課後児童クラブについて、約30万人分を新たに整備するとともに、全ての小学校区で、放課後児童クラブ及び放課後子供教室を一体的又は連携して実施し、うち一体型の放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、1万か所以上で実施することを目指している。
(地方創生の取組)
人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、<1>「東京一極集中」の是正、<2>若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、<3>地域の特性に即した地域課題の解決という3つの視点を基本として、魅力あふれる地方を創生していくことが必要である。このため、2014(平成26)年9月3日に発足した第2次安倍改造内閣において、地方創生担当大臣を新設するとともに、「まち・ひと・しごと創生本部」を発足させた。さらに、同年11月には、「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、12月27日には、日本の人口・経済の中長期展望を示した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、今後5年間の目標や施策の基本的方向、具体的施策を取りまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定した。これらを勘案し、地方自治体において、まち・ひと・しごと創生総合戦略が策定されることになる。
(新たな少子化社会対策大綱の策定)
骨太方針2014において、新たな少子化社会対策大綱を2014(平成26)年度内に策定するとされたことを受けて、内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下、2014年11月に、有識者による「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」を発足させ、検討を進めた。同検討会は、2015(平成27)年3月に提言を取りまとめ、政府においては、この提言を真摯に受け止めて、大綱の検討を行い、同年3月20日に閣議決定を行った。
(子ども・子育て本部の設置)
2015(平成27)年4月の子ども・子育て支援新制度の施行に合わせて、内閣府に、内閣府特命担当大臣(少子化対策)を本部長とし、少子化対策及び子ども・子育て支援の企画立案・総合調整並びに少子化社会対策大綱の推進や子ども・子育て支援新制度の施行を行うための新たな組織である子ども・子育て本部を設置した。