第1部 少子化対策の現状と課題

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第2章 少子化対策の取組

第3節 少子化対策の新たな取組について【特集】

2014(平成26)年12月には、人口減少問題を克服するため、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、2015(平成27)年3月には、新たな「少子化社会対策大綱」が閣議決定されるなど、少子化に歯止めをかけるための新たな取組が進められている。新たに策定した少子化社会対策大綱と地方創生は、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえることを基本的な目標とするなど、密接に関係するものであり、連携した取組を進めることとなっている。本節では、両者について概説する。

少子化社会対策大綱

少子化社会対策大綱(以下「大綱」という。)は、少子化社会対策基本法に基づく総合的かつ長期的な少子化に対処するための施策の指針であり、これまで2004(平成16)年6月、2010(平成22)年1月に策定されてきた(2010年1月には「子ども・子育てビジョン」として策定)。

2010年1月に策定した大綱において、「おおむね5年後を目途に見直し」を行うとされており、また、骨太方針2014において、「新たな少子化社会対策の大綱を平成26年度中に策定する」とされたことを受け、2014(平成26)年11月に、内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下、有識者による「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」を開催した。この検討会においては、幅広い関係者から意見聴取を行うとともに、広く国民から意見を聴き、2015(平成27)年3月に「少子化社会対策大綱の策定に向けた提言」を取りまとめた。この提言を真摯に受け止め、政府として、総合的な見地から検討・調整を図り、同年3月20日に新たな大綱を策定した。以下、大綱の概要について、背景となる考え方などを含め、概説する。

【はじめに】

現在の少子化の状況は、個人・地域・企業・国家に至るまで多大な影響を及ぼすものであり、我が国の社会経済の根幹を揺るがしかねない危機的状況にある。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」によれば、出生率の水準が変わらなければ、2060(平成72)年の我が国の人口は約8700万人(現在の約3分の2)となり、65歳以上の高齢者の人口に占める割合は約40%に、生産年齢人口(15~64歳)と高齢者人口(65歳以上)の割合は1.3対1になると推計されている。また、「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」(2014(平成26)年7月国土交通省)によれば、人口減少がこのまま進めば、2050(平成62)年には、現在人が住んでいる居住地域の6割以上の地域で人口が半分以下に減少し、うち2割の地域で無居住化すると推計されている。加えて、人口の減少、特に生産年齢人口(15歳~64歳)の減少は、経済や市場規模の縮小や経済成長率の低下につながり、企業の活動にも大きな影響を与える。例えば、2040年代以降には人口が毎年100万人程度(1%程度以上)減少すると推計されており、生産性上昇率が低い現状のままであれば、日本経済全体でプラス成長を続けることは困難になると指摘されている。

一方で、フランスやスウェーデンは、長期にわたる継続的かつ総合的な少子化対策(家族政策)を行うことにより、一旦は低下した出生率が2.0程度までの回復に成功している(第1-1-19図参照)。少子化危機は克服できる課題である。

少子化への対応は遅くなればなるほど将来への影響がより大きくなるものであり、少子化のトレンドを変えるため、直ちに集中的に取り組む必要がある。また、少子化対策の効果があらわれるためには長い時間を要するため、長期的展望に立って、粘り強く少子化対策を進めていくことも必要である。さらに、結婚、妊娠、子供・子育てを大切にする、温かい社会を実現していく必要がある。

【基本的な考え方】

新たな大綱では、次の5項目を「基本的な考え方」としている。

第1-2-9図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~

第1-2-9図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~

(1)結婚や子育てしやすい環境となるよう、社会全体を見直し、これまで以上に少子化対策の充実を図る。
  • これまで少子化対策は、主に子育て支援に重点を置いて推進してきたが、従来の枠組みを越えて、新たに、結婚や教育段階における支援を加え、これまで以上に少子化対策の充実を図る。また、社会のあらゆる分野の制度・システムについて、結婚や子育てしやすい環境を実現する仕組みになっているかという観点から、見直していくことが必要である。
(2)個々人が結婚や子供についての希望を実現できる社会をつくることを基本的な目標とする。
  • 検討会の提言を踏まえ、少子化対策における基本的な目標を、個々人が希望する時期に結婚でき、かつ、希望する子供の数と生まれる子供の数との乖離をなくしていくための環境を整備し、国民が希望を実現できる社会をつくることとした。個々人の希望がかない、安全かつ安心して子供を生み育てられる環境を整備することにより、希望する子供の数も増えていくことになれば、少子化の進展にかけることにつながる。一方でもとより、結婚や出産は個人の決定に基づくものであり、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに留意する。
(3)結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じた切れ目のない取組と地域・企業など社会全体の取組を両輪として、きめ細かく対応する。
  • 少子化の進行は、未婚化・晩婚化の進行や第1子出産年齢の上昇(第1-1-41-1-7図参照)、長時間労働(第1-1-16図参照)、子育て中の孤立感や負担感が大きいことなど、様々な要因が複雑に絡み合っている。一人一人のライフステージの各段階に応じた支援を切れ目なく行うとともに、行政に加え、地域・企業など社会全体として少子化対策を進めていく必要がある。
(4)集中取組期間を設定し、政策を集中投入する。
  • 少子化への対応が遅くなればなるほど、将来への影響がより大きくなる一方で、直ちに集中して取り組めば、少子化のトレンドを変えることができる。このため、今後5年間を「少子化対策集中取組期間」と位置付け、これまで講じてきた政策の効果検証を行うとともに、重点課題を設定し、選択と集中を行いつつ、政策を効果的かつ集中的に投入する。
(5)長期展望に立って、継続的かつ総合的な少子化対策を推進する。
  • フランスやスウェーデンのように、出生率の回復に成功した諸外国(第1-1-19図参照)においては、長期にわたる継続的かつ総合的な少子化対策(家族政策)を行っており、家族関係支出が対GDP比で3%程度以上である(第1-1-20図参照)。国民負担率などの違いもあるため単純に比較はできないが、こうした諸外国の取組も参考にしながら、長期的な少子化対策を行う上で必要な財源を確保しつつ、少子化対策予算の拡充を図る。特に子育て支援の充実など様々な現物給付の充実が必要である。
  • また、全ての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換することをめざし、子育て支援が充実するよう必要な見直しを行うことが重要であるとともに、税制の検討に当たって子育て支援や少子化対策の観点に配慮していくことが重要である。
【重点課題】

少子化社会対策大綱においては、5つの重点課題を設定している。

第1-2-10図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

第1-2-10図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

(1)子育て支援施策を一層充実させる。

核家族化の進展、共働き家庭の増加、働き方の多様化、地域のつながりの希薄化など、子育てをめぐる環境が大きく変化する中、子育て家庭における様々なニーズに対応するとともに、一人一人の子供の健やかな育ちを実現するため、子供や子育て支援の更なる充実を図ることが最も重要である。子育て現役世代をしっかりと応援していくことは、人々の子育ての希望の実現につながるとともに、若い世代が結婚・出産・子育てに対して夢や希望を持つことにつながる。このため、子ども・子育て支援新制度の円滑な実施による、地域の実情と住民のニーズに基づいた幼児教育・保育、地域の子育て支援の「量的拡充」と「質の向上」や、待機児童の解消に向けた取組を進める。

〈具体的な施策の例〉

  • 「子ども・子育て支援新制度」の円滑な実施により、幼児教育・保育・子育て支援の「量的拡充」(待機児童の解消や身近な子育て支援サービスの提供)及び「質の向上」(職員の配置や処遇の改善等)を行う。その際、市町村が住民のニーズを把握し、地域の実情に応じて、利用者支援事業、地域子育て支援拠点、一時預かり、延長保育や病児保育などの多様な保育等、計画的に提供体制の整備を図る。そのために必要な1兆円超程度の財源の確保については、消費税財源から確保する0.7兆円程度を含め、適切に対応する。(子ども・子育て支援新制度の概要については、本章第2節参照)
  • 「待機児童解消加速化プラン」の推進により、就労希望者の潜在的な保育ニーズに対応し、保育所等の整備や地域型保育事業の活用を含め、2015(平成27)年度から2017(平成29)年度までの3年間で約20万人分の保育の受け皿を確保し、待機児童の解消を目指す。これに伴い、新たに必要となる6.9万人の保育士の確保を図るため、処遇改善や人材育成を含めた「保育士確保プラン」を推進する。
  • 「放課後子ども総合プラン」の実施により、共働き家庭等の「小1の壁」を打破するとともに、次代を担う人材を育成するため、2019(平成31)年度末までに、放課後児童クラブについて、30万人分整備し、受入児童数の拡充を図り、利用を希望するが利用できない児童の解消を目指すとともに、放課後子供教室との一体型を推進する。
(2)若い年齢での結婚・出産の希望が実現できる環境を整備する。

初婚年齢や第1子出産年齢の上昇、若い世代での未婚率の増加が、少子化の大きな要因である(第1-1-41-1-7図参照)。非正規雇用労働者の未婚率は男性で高い傾向にあり、30代前半では、正規雇用の未婚率が36.1%であるのに対し、非正規雇用では70.5%となっている。また、25歳から34歳までの男女について独身にとどまっている理由(国立社会保障・人口問題研究会「第14回出生動向基本調査」。項目のうちから3つまで選択。)をみると、「適当な相手にめぐり会わない」(男性46.2%、女性51.3%)、「まだ必要性を感じない」(男性31.2%、女性30.4%)、「自由さや気楽さを失いたくない」(男性25.5%、女性31.1%)、「結婚資金が足りない」(男性30.3%、女性16.5%)などとなっている。また、同調査によれば、理想の子供数を持たない理由について、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を6割の方が挙げており、特に妻の年齢が30歳未満で83.3%、30~34歳で76.0%となっている一方、妻の年齢の上昇とともに年齢・身体的理由(高年齢で生むのは嫌だから、欲しいけれどもできないから)が高くなっている。

18歳から34歳の未婚者で結婚を希望する人は約9割いるが、上記の理由等により結婚の希望が実現できていないことや、特に若いうちの経済的理由や30代以降の年齢・身体的理由により理想の子供数を持たない状況にあることから、若者の経済的基盤の安定を図るとともに、結婚に対する取組の支援を行い、若い年齢での結婚・出産の希望が実現できる環境整備に取り組む。

〈具体的な施策の例〉

(3)多子世帯へ一層の配慮を行い、3人以上子供が持てる環境を整備する。

夫婦の約45%が3人以上の子供を持つことを理想としている一方で、国立社会保障・人口問題研究所によれば、1955(昭和30)年生まれの女性のうち子供の数が3人以上である方が約3割であるのに対し、1975(昭和50)年生まれの女性については約15%程度(推計)と低下している。理想の子供数を持たない理由として、第3子以降に関し、71.1%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を理由として挙げるなど、様々な面での経済的負担が第3子以降を持てない最大の理由となっている。3人以上の子供がいる世帯など、多子世帯への配慮については、既に幼児教育・保育に係る保育料の負担の軽減(第2子半額、第3子無償)や、児童手当の第3子以降の増額などの取組を行っているが、全ての子育て家庭を支援していく中で、3人以上子供を持ちたいとの希望を実現するための環境を整備するため、子育て、保育、教育、住居など様々な面での負担軽減や、社会の全ての構成員による多子世帯への配慮の促進に取り組む。

〈具体的な施策の例〉

  • 幼稚園、保育所等の第3子以降の保育料無償化の対象拡大等に向けた検討や多子世帯又は第3子以降を対象とする保育所等の優先利用、住宅政策における多子世帯への配慮なども含め、子育て、保育、教育、住居など様々な面での負担の軽減策の充実に取り組む。
  • 子育て支援パスポート等事業の充実や公共交通機関等における負担の軽減の要請などにより、社会の様々な構成員による多子世帯への配慮を促進する。
(4)男女の働き方改革を進める。

長時間労働などにより、男性の家事・育児への参画が少ない(第1-1-18図参照)ことが、少子化の原因の一つ(第1-1-17図参照)であるが、一方で、子育て世代に当たる30代男性雇用者の17.0%が週60時間以上の長時間労働を行っており(第1-2-16図参照)、従来の働き方に関する意識を含めた改革が必要不可欠である。また、多様なライフスタイルが選択でき、男女ともに希望すれば働き続けながら子育てができる環境をつくることにより、子育てと仕事が二者択一ではなくなり、子供を持つ希望を実現できるようになるとともに、男女が共に働き続けることで若い世帯の経済的基盤が安定するなどの効果が考えられる。

このため、長時間労働の是正、人事評価制度の見直しなど経営者・管理職の意識改革、男性の出産直後からの育児のための休暇取得の促進など、男性の意識・行動改革に取り組むとともに、「ワーク・ライフ・バランス」・「女性の活躍」を推進する。

〈具体的な施策の例〉

  • 長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、人事評価制度の見直しなど経営者・管理職の意識改革、「イクボス」や「子育て」を尊重するような企業文化の醸成などにより働き方の改革を進める。また、男性の育児休業取得や出産直後からの休暇(育児休業に加え、子育て等を目的とした企業独特の休暇制度、年次有給休暇を含む。)の取得を促進するとともに、男性の家事・育児を促進する。
  • 両立支援制度を利用しやすい職場環境の整備やフレックスタイム制の弾力化、育児休業の取得等を理由とする不利益取扱いの防止、育児休業からの円滑な復帰の支援、有期契約労働者など非正規雇用の労働者に対する支援、テレワークの推進などにより、「ワーク・ライフ・バランス」を推進する。
  • 女性の職業生活における活躍の推進のための法的枠組みの整備、正規・非正規にかかわらず妊娠・出産前後の継続就業の支援、子育て女性等の再就職支援などにより、女性の活躍を推進する。
(5)地域の実情に即した取組を強化する。

少子化の状況や原因は、都市と地方など地域により異なる(第1-1-2図参照)。また、結婚、妊娠・出産、子育ては、人々の暮らしそのものでもある。実効性のある少子化対策を進める上で重要なことは、地域が少子化対策の主役になるという視点を持ち、地域の実情に即した取組を進めていくことである。このため、地域少子化対策強化交付金等により地域の強みを活かした取組を支援し、先進事例を全国展開するとともに、少子化対策は地方を創生する上でも極めて重要であり、「地方創生」との連携を意識しながら国と地方が緊密に連携した取組を推進する、「地方創生」と連携した取組を推進する。

【きめ細やかな少子化対策の推進】

大綱では、上記の重点課題に加え、長期的視点に立って、きめ細かな少子化対策を総合的に推進することとしており、

  • 1)結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じ、一人一人を支援する。
  • 2)社会全体で行動し、少子化対策を推進する。
第1-2-11図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

第1-2-11図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

を二つの柱としている。

1)結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じ、一人一人を支援する。

(結婚)

結婚に関する希望を実現できるようにするためには、重点課題に掲げた「経済的基盤の安定」や「結婚に対する取組支援」に加えて、さらに総合的な結婚支援の取組が重要である。教育・情報提供やコンサルティングなどを通じて、結婚・出産・子育てや仕事との両立などに関する個人の希望を、より具体的かつ現実的な計画として持つことができるよう支援を行うとともに、結婚や子育てに関する情報について分かりやすくかつ効果的な情報発信を充実する。また、「家族の日」(11月第3日曜日)や「家族の週間」(家族の日の前後1週間)等を通じて、家族や地域の大切さ等について理解の促進を図る。

(妊娠・出産)

母体や子供へのリスクを低減し、安全かつ安心して妊娠・出産ができる環境整備が重要であり、周産期医療の確保・充実等、産休中の負担の軽減や産後ケアの充実を始め、「子育て世代包括支援センター」の整備などにより、妊娠から子育てまでの切れ目のない支援体制を構築していく。「子育て世代包括支援センター」は、妊娠期から子育て期にわたるまでの様々なニーズに対して総合的相談支援を提供するワンストップ拠点であり、同センターにおいて、保健師等の専門職等が全ての妊産婦等の状況を継続的に把握し、必要に応じて支援プランを作成することにより、妊産婦等に対し切れ目のない支援の実施を図る。

また、妊娠中や出産後も、職場等において必要な配慮を受けながら仕事を継続できることが、妊娠・出産の安心につながることから、マタニティハラスメント防止の取組を充実させる。

不妊治療や不育症治療に関する情報提供や相談体制を強化するための不妊専門相談センターの整備、不妊治療に係る経済的負担の軽減を図るための助成など、不妊治療等への支援を行う。

(子育て)

子育てへの不安が大きいことが、少子化の要因の一つである。このため、重点分野に掲げた子ども・子育て支援新制度等の子育て支援の充実や、多子世帯への一層の配慮に加え、様々な取組を行う。

理想の子供数を持たない理由として最も多くの方が挙げていることが、子育てや教育にお金がかかりすぎることであり、教育を含む子育ての経済的負担を緩和させるため、児童手当の支給、幼児教育の無償化の段階的実施、高校生等への修学支援、高等教育段階における教育費負担軽減策の充実等に取り組む。

また、三世代同居・近居の促進や特定非営利活動法人、企業等による支援などにより、多様な主体による子や孫育てに係る支援を充実させる。さらに、子育てしやすい住宅の整備や、小児医療の充実、地域の安全を向上させる取組により、子供が健康で、安全かつ安心に育つことができる環境を整備する。

貧困の状況にある子供への支援、ひとり親家庭支援、児童虐待の防止や社会的養護の充実、障害のある子供等への支援、ニート、引きこもり等の子供・若者への支援、様々な事情により遺児となった子供への支援など、様々な家庭・子供への支援を推進する。

(教育)

結婚、妊娠・出産、子育て、仕事を含めた将来のライフデザインを希望どおり描けるようにするためには、その前提となる知識・情報を適切な時期に知ることが重要である。一方で、妊娠適齢期等に関する知識について、日本は他の先進国等と比べて国際的に低い水準であったという調査結果がある。子供を産み育てたいという人々の希望が実現できるようにするため、妊娠や出産などに関する医学的・科学的に正しい知識について、学校教育において適切な教材に盛り込み、教職員の研修を行うことに加えて、家庭や地域での教育、婚姻届提出時や成人式などの機会を活用した、教育課程修了後の社会人等に対する情報提供が行われるよう取組を進める。(コラム「不妊治療と妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識の普及啓発について」参照)

(仕事)

結婚、妊娠・出産、子育ての各段階のいずれにおいても、就労を望む場合に、望むタイミングで望む働き方ができるという希望がかなう環境を整備することが重要である。このため、個々人の希望を踏まえた正社員化の促進や処遇改善、子供を持ちながら働き続けることができるロールモデルなどの提示、「地方創生」と連携した地域における雇用の創出などを進める。

2)社会全体で行動し、少子化対策を推進する。

(結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会づくり)

地域や職場、さらには周囲の様々な方が、結婚や、妊娠中の方や子供、さらには子育てを温かく見守り、困っているときには必要な手助けを行うことが、安心して結婚、妊娠・出産、子育てができる社会につながる。

妊娠中の方や子供連れで外出する際に生じる様々な支障を取り除き、外出しやすい環境を整備するため、マタニティマーク、ベビーカーマークの普及や子育てバリアフリーの推進など、妊娠中や子育て時のバリアフリー化を進めるとともに、駅や小売店等を活用した子供との外出を応援するサービス等の提供、公共交通機関での子供連れ家族への配慮などの環境整備を行う。また、行政、商店街、企業等が連携し、地域において子供連れにお得なサービスを提供する取組の全国展開などを行う。

(企業の取組)

従業員が安心して結婚し、子供を生み育てながら働き続けられる環境を整備するとともに、企業が地方自治体や特定非営利活動法人と連携して少子化対策に取り組んでいくことが重要である。このため、次世代育成支援対策推進法も活用し、企業の少子化対策や両立支援の取組の「見える化」や先進事例を他企業へ波及させるための情報共有を進めるとともに、企業が少子化対策に積極的になるインセンティブを付与する取組を進める。(コラム「次世代育成支援対策推進法の延長・拡充」「企業における取組事例」参照)

【施策の推進体制】

「少子化対策集中取組期間」において、国は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、政府一体となって早期・集中的な少子化対策に取り組む。また、少子化対策の成果を検証・評価するため、国民や住民から分かりやすい形での「見える化」を進めるとともに、 個別施策について2020年を目途とした数値目標を設定し、その進捗をフォローアップすることとしている。数値目標の主なものは、次の第1-2-12図のとおりである。

第1-2-12図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

第1-2-12図 少子化社会対策大綱(概要)~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~(つづき)

地方創生(まち・ひと・しごと創生)

我が国の人口は2008(平成20)年をピークに減少に転じ、今後急速なスピードで減少することが予想されているが、その程度や要因は地域ごとに異なっている。地方では、出生率の低下に加え、3大都市圏、特に東京圏への若い世代を中心とした転出により、年少人口(0~14歳)の減少が加速している。さらに、過疎地においてはすでに高齢者でさえも減少に転じている地域がみられる。他方、大都市圏では出生率が地方に比べて低い傾向がある。(第1-1-2図参照)大都市圏への若者の集中が、日本全体の人口減少を一層進行させている。また、このまま地方が弱体化すれば、地方から大都市への人口流入もいずれなくなり、地方・都市共々衰退することになりかねない。

こうした待ったなしの状況に対処するためには、「東京一極集中」を是正し、地方での自発的な取組を進め、地域特性に即した課題解決を図るとともに、若い世代の就労・結婚・子育ての希望を実現することが求められる。

このため、2014(平成26)年9月の第2次安倍改造内閣発足の際に、地方創生担当大臣が新たに任命され、まち・ひと・しごと創生本部の設置を閣議決定した。また、同年11月に成立した「まち・ひと・しごと創生法」(平成26年法律第136号)に基づき、同年12月27日、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(以下「長期ビジョン」という。)と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「総合戦略」という。)を閣議決定した。

(まち・ひと・しごと創生長期ビジョン)

「長期ビジョン」は、日本の人口の現状と将来の姿を示し、人口減少を巡る問題に関する国民の認識の共有を目指すとともに、今後、目指すべき将来の方向を提示することを目的としており、待ったなしの課題である人口減少への対応に当たり、<1>東京一極集中を是正する、<2>若い世代の就労・結婚・子育ての希望を実現する、<3>地域の特性に即した地域課題を解決する、という3つを基本的視点とすることとしている。

また、「目指すべき将来の方向」として、将来にわたって「活力ある日本社会」を維持することであるとし、その実現のために、人口減少に歯止めをかけなければならないとしている。若い世代の希望が実現すると、出生率は1.8程度に向上することが見込まれるとともに、2030年~2040年頃に出生率が人口置換水準(2.07)まで回復するならば、2060年に総人口1億人程度を確保し、その後2090年頃には人口が定常状態になることが見込まれることを示している。

(まち・ひと・しごと創生総合戦略)

「総合戦略」は、2015(平成27)年度を初年度とする今後5年間の目標や施策の基本的方向、具体的な施策をまとめたものであり、その付属文書である「アクションプラン(個別施策工程表)」においては、個別施策の「成果目標」と「緊急的取組・2015年度の取組・2016年度以降の取組」を盛り込んでいる。

【基本目標】

総合戦略では、5つの基本目標を定めており、基本目標ごとに政策パッケージがまとめられ、全ての政策パッケージについて具体的な目標や2020(平成32)年までに達成すべき重要業績評価指標(KPI)を設定している。

少子化対策の関連では、若い世代の経済的安定や、「働き方改革」、結婚・妊娠・出産・子育てについての切れ目のない支援などにより、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」が基本目標として定められている。

この基本目標の下、2020年の目標として、以下のものなどを定めている。

  • 安心して結婚・妊娠・出産・子育てできる社会を達成していると考える人の割合 40%以上(2013年度 19.4%)
  • 第1子出産前後の女性の継続就業率 55%(2010年度 38%)
  • 結婚希望実績指標 80%(2010年度 68%)
  • 夫婦子ども数予定実績指標 95%(2010年度 93%)
【政策パッケージ】

総合戦略において、国は、「政策パッケージ」の形で、地方が「地方版総合戦略」を策定・実施していくに当たり必要と考えられる支援策を用意している。特に少子化対策に関連している「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」という基本目標については、下記の4分野について、2020年までに達成すべきKPIと、主な施策を記載している。

〈主な施策〉

(ア)若い世代の経済的安定

  • <1>若者雇用対策の推進、「正社員実現加速プロジェクト」の推進
  • <2>「少子化社会対策大綱」と連携した結婚・妊娠・出産・子育ての各段階に対応した総合的な少子化対策の推進

(イ)妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援

○「子育て世代包括支援センター」の整備、周産期医療の確保等

(ウ)子ども・子育て支援の充実

○子ども・子育て支援の充実(「子ども・子育て支援新制度」の円滑かつ持続的な実施、事業主負担を含め社会全体で費用を負担する仕組みの構築、幼児教育の無償化に向けた取組を財源を確保しながら段階的に実施するなど教育費負担の軽減、社会全体で多子世帯を支援する仕組みの構築や「三世代同居・近居」の支援)

(エ)仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現(働き方改革)

○長時間労働の見直し、転勤の実態調査等(育児休業の取得促進、所定外労働時間の削減・年次有給休暇の取得促進・企業の先進的取組の普及支援等の長時間労働を抑制するための総合的な取組、勤務地や職務を限定した多様な正社員の普及、転勤の実態調査を含む働き方の見直し)

(地方公共団体に対する支援)

地方創生の取組は、地域の特性に即して地域課題を解決することを基本的な視点としており、地方が自立につながるよう自らが考え、責任を持って戦略を推進できるよう、国は「情報支援」、「人的支援」、「財政支援」を切れ目なく展開することとしている。

2014(平成26)年度補正予算においては、地域住民生活等緊急支援のための交付金4,200億円を計上した。同交付金には、地域消費喚起・生活支援型(2,500億円)と地方創生先行型(1,700億円)の2類型があり、前者については多子世帯支援が、後者については少子化対策がメニュー例として示されている。また、2015(平成27)年度予算において、地方財政措置も行っている。さらに、地方公共団体の地方版総合戦略の策定・推進を支援するため、地域経済分析システムを整備するとともに、首長の補佐役として国家公務員等を派遣する「地方創生人材支援制度」や相談窓口を務める「地方創生コンシェルジュ制度」による人的支援を行っている。

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