コラム
コラム:夫の帰宅時間が少子化に与える影響〈~内閣府経済社会総合研究所の少子化研究より~〉
内閣府経済社会総合研究所では、少子化対策に関する政策立案に資するため、少子化の原因・背景、諸外国の少子化対策の事例、効果的な少子化対策の在り方等について、調査研究を行っている。
2013(平成25)年度は、夫婦の出生意欲に影響を与える就業や生活環境などを分析するため、25歳から39歳の有配偶女性を対象とする調査を行い、分析結果を取りまとめた(経済社会総合研究所)1。
ここではその中から、未就学児の子育てをする女性の「イライラ」と、「イライラ」が出生意欲に与える影響を紹介し、夫の帰宅時間が家庭生活に与える影響について考える。
■子育て中の女性の負担感(「イライラ」)と出生意欲への影響
未就学児の子育てをする女性の大半は子育てを「楽しいと感じることが多い」と回答しているが、一方で子供なしの女性に比べて「イライラしている」割合が高い状況がみられる。
「イライラする」は、「何をするのも面倒」「気分が晴れず、ゆううつと感じる」など抑鬱の傾向に至るほどではないが、日常的なストレスを表す状況であると考えられる。子育てする女性のうち「イライラ」を感じている割合が高いのは次のような女性である。
- 「正規雇用」よりも「有期雇用」「無職」の女性
- 家事・育児を「もっぱら自分ひとり」で受け持つ正規雇用の女性
- 3歳児を持つ女性
- 子供の教育に熱心な女性
- 夫の帰宅が遅いなど(下記参照)、「(夫の)気が張りつめている」と感じる女性
また子育て中の女性の「イライラ」は、子育ての楽しさを減じて、追加的な出生意欲にマイナスに影響する可能性が高いことも明らかになった。
■夫の帰宅時間の遅さが家庭生活に与える影響
同研究では、子育てする女性の「イライラ」を高める原因の一つに「(夫の)気が張りつめている」がある。「気が張りつめている」と妻が感じる割合は、夫の帰宅時間が22時を超えると急激に高まる(図表)。
また、別の研究では、夫の帰宅時間が21時を超えると、育児参加の度合いが急激に低下するとも指摘されている2。
夫の帰宅時間が21時、あるいは22時を過ぎるという状況は、小さな子供を育てる家庭の生活の質を損なっている可能性があり、長時間労働もさることながら「(夫の)帰宅時間」そのものも社会全体で考えていくべき課題といえるだろう。
1 Discussion Paper Series No.311「有配偶女性の生活環境と就労、出産、子育てに関する分析~「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査」の個票を用いて~」
2 松田茂樹(2002)「父親の育児参加促進策の方向性」国立社会保障・人口問題研究所編『少子社会の子育て支援』東京大学出版会, pp.313-330