コラム
コラム:妊娠・出産包括支援事業を活用した取組
総論
近年、核家族化や地域のつながりの希薄化等により、地域において妊産婦やその家族を支える力が弱くなっており、妊娠、出産や子育てに関する妊産婦等の不安や負担が増えていると考えられる。
このため、地域レベルでの結婚から妊娠・出産を経て子育て期に至るまでの切れ目のない支援の強化を図っていくことは重要であり、厚生労働省においては、2014(平成26)年度から、以下の3事業から成る「妊娠・出産包括支援モデル事業」を創設し、29市町村において実施したところである。
- <1> 妊産婦等からの支援ニーズに応じて、母子保健や子育てに関する様々な悩みへの相談対応や、支援を実施している関係機関につなぐための「母子保健相談支援事業」
- <2> 妊産婦等の孤立感や育児不安の解消を図るため、助産師等による専門的な相談援助や、地域の子育て経験者やシニア世代等に話し相手になっていただく等の「産前・産後サポート事業」
- <3> 出産直後に休養やケアが必要な産婦に対し、心身のケアや育児のサポート等のきめ細かい支援や休養の機会を提供する「産後ケア事業」
本稿では、本事業や既存の母子保健事業を活用した取組について紹介したい。
愛知県春日井市
~妊産婦ケアに重点をおいた切れ目ない支援の充実をめざして~
- ママはゆっくり浴槽につかり、バスタイムを楽しんだ後、パウダーコーナーで髪をブローし、化粧をする。
- 「ゆっくり休んでくださいね」とスタッフがママをベッドルームに案内する。
- 授乳中のママに「このクッションを使うと楽にできると思いますよ」とスタッフが声をかける。
「妊産婦ケア~さんさんルーム~」(デイサービス型)では、よく見かける光景だ。
この事業は従来から実施してきた母子保健事業に加え、2014(平成26)年6月から「安らげる空間の提供」と「専門職による相談」の2本柱で開始した。そこには、浴室、シャワー室、リビングルーム及びベッドルームを備えた専用のサロン風スペース(約300m2)があり、利用者から「出産後、初めて熟睡できた」「温かくホッとできる言葉と対応だった」「子供と離れる時間が持て、また育児を頑張ろうと思えた」など好評を得ている。
愛知県春日井市は、「母子」ではなく、「母親」にスポットをあて、「子」と切り離して支援することにより、母親が子育てによる日々の緊張感や負担感、不安感が軽減されることで、母親がいきいきとして子育てに向き合えるように、この事業を母子保健の核と位置付け、切れ目のない細やかな支援体制を構築し、母子保健事業を展開していこうと考えている。
最後に
厚生労働省では、2015(平成27)年度は、「妊娠・出産包括支援モデル事業」の1事業である「母子保健相談支援事業」の取組を更に進め、妊娠期から子育て期にわたるまでの切れ目のない支援を実施する観点から、<1>様々な機関が個々に行っている支援について利用しやすくなるよう、ワンストップ拠点としての「子育て世代包括支援センター」を立ち上げ、<2>そこにおいて、保健師等のコーディネーターが全ての妊産婦等の心身の状態や周りからの支援の状況等、健診(妊婦健康診査・乳幼児健康診査等)の結果や保健指導等の内容を継続的に把握し、様々な母子保健サービスや子育てサービス等を実施する関係機関へつなぎ、<3>特に手厚い支援が必要な方に対しては、関係機関と連携してオーダーメイドの支援プランを策定することとし、妊産婦等の方に対して一層のきめ細かい支援を実施していくこととしている。