第1部 少子化対策の現状と課題

[目次]  [戻る]  [次へ]

第1章 少子化の現状

5 諸外国との国際比較

諸外国における出生率の状況

主な国(アメリカ、フランス、スウェーデン、英国、イタリア、ドイツ)の合計特殊出生率の推移をみると、1960年代までは、全ての国で2.0以上の水準であった。その後、1970(昭和45)年から1980(昭和55)年頃にかけて、全体として低下傾向となったが、その背景には、子供の養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及等があったと指摘されている。1990(平成2)年頃からは、出生率が回復する国もみられるようになってきている。

特に、フランスやスウェーデンでは、出生率が1.5~1.6台まで低下した後、回復傾向となり、直近ではフランスが1.99(2013(平成25)年)、スウェーデンが1.89(2013年)となっている。これらの国の家族政策の特徴をみると、フランスでは、かつては家族手当等の経済的支援が中心であったが、1990年代以降、保育の充実へシフトし、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備、すなわち「両立支援」を強める方向で政策が進められた。スウェーデンでは、比較的早い時期から、経済的支援と併せ、保育や育児休業制度といった「両立支援」の施策が進められてきた。また、ドイツでは、依然として経済的支援が中心となっているが、近年、「両立支援」へと転換を図り、育児休業制度や保育の充実等を相次いで打ち出している。

次に、アジアの国や地域について、経済成長が著しく、時系列データの利用が可能なタイ、シンガポール、韓国、香港及び台湾の出生率の推移をみると、1970年の時点では、いずれの国も我が国の水準を上回っていたが、その後、出生率は低下傾向となり、現在では人口置換水準5を下回る水準になっている。出生率は、タイが1.4(2012(平成24)年)、シンガポールが1.19(2013年)、韓国が1.19(2013年)、香港が1.12(2013年)、台湾が1.07(2013年)と我が国の1.43(2013年)を下回る水準となっている。


5 人口置換水準とは、現在の死亡の水準を前提としたとき、人口が長期的に増えも減りもせずに一定となる出生の水準(合計特殊出生率)。2013年日本においては、2.07となっている(「人口統計資料集(2015)」国立社会保障・人口問題研究所)。

また、2014(平成26)年総務省「人口推計(平成26年10月1日現在)」によると、年少人口(0~14歳)は1,623万3千人、総人口に占める割合は12.8%となっている。これに対して生産年齢人口(15~64歳)は7,785万人(対総人口比61.3%)、高齢者人口(65歳以上)は3,300万人(同26.0%)となっている。

世界全域の年少人口割合(国連推計)は、26.6%であるが、我が国の総人口に占める年少人口の割合は、12.8%と世界的にみても最も小さくなっている。日本以外では、ドイツ13.4%、イタリア14.0%、スペイン14.9%と、相対的に合計特殊出生率が低い国ほど年少人口割合が小さくなっている。

我が国は、欧州諸国に比べて現金給付、現物給付を通じた家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されている。国民負担率などの違いもあり単純に比較はできないが、家族関係社会支出の対GDP比をみると、我が国は、1.32%(2012年度)となっており、フランスやスウェーデンなどの欧州諸国と比べておよそ4割程度となっている。

コラム 結婚・家族形成に関する意識調査について

これまでの各種調査によると、多くの若者が将来家庭を持つことを望み、希望する子供の数は平均2人以上となっているものの、晩婚化が進むとともに、生涯未婚率が上昇しており、結婚や妊娠・出産に対する国民の希望をかなえることができていない。

本調査においては、20代から30代の未・既婚者の結婚、妊娠・出産、子育てについての意識を深堀りし、結婚等に対する不安要因や社会的背景の問題を抽出・分析した。

〈恋人が欲しいですか〉(図1、図2)

全体の60.8%が「恋人が欲しい」と回答している。また、男女ともに、コミュニケーション力が高い方が、「恋人が欲しい」の割合が高い。

〈交際への不安〉(図3)

全体では、「そもそも出会いの場所がない」(55.5%)が最も高く、次いで「自分は魅力がないのではないかと思う」(34.2%)、「自分が恋愛感情を抱くことができるのか不安だ」(20.5%)が続く。

〈結婚観〉(図4)

全体では、「結婚したほうが良い・計」(「必ずしたほうが良い」、「できればしたほうが良い」の合計)は68.1%であり、男性のほうが、女性よりも「結婚したほうが良い・計」の割合が高い。

これに対し、「結婚しなくて良い・計」(「無理してしなくても良い」、「しなくて良い」の合計)が30.9%と約3割である。

〈結婚意向に関する周囲からの影響〉(図5)

全体では、「周りの友人・知人が次々と結婚や出産をする」(62.7%)、次いで「友人の幸せな結婚や家庭の様子を感じる」(50.5%)、「周囲から幸せな結婚の話を聞く」(41.3%)が高く、周囲の友人・知人の影響が強い。

〈女性の理想の働き方〉(図6)

女性の回答を見ると、

  • A)結婚して子供がいない時では、「急な残業もあるフルタイムの仕事」が44.7%で最も多く、次いで「フルタイムだが残業のない仕事」が32.3%となっている。
  • B)末子が3歳以下の時では、「仕事は持たず、家事・育児に専念する」が44.8%で最も多いが、一方で、働きたい方(フルタイム、短時間勤務制パート・アルバイト、家でできる仕事)が合計で53.9%と前者を上回る。
  • C) 末子が4歳以上小学校入学前の時では、「短時間勤務制パート・アルバイト」が38.9%で最も多く、次いで「フルタイムだが時間の融通がきく仕事」が24.6%となっている。
  • D) 末子が小学生の時では、最も多いのが「短時間勤務制 パート・アルバイト」の38.4%であり、「フルタイムだが時間の融通がきく仕事」が33.5%と続いている。
  • E) 末子が中学生の時では「フルタイムだが残業のない仕事」が33.8%、「フルタイムだが時間の融通がきく仕事」が33.7%となっている。

〈子育ての不安要素〉(図7)

全体では、「経済的にやっていけるか」が63.9%と最も多く、次いで「仕事をしながら子育てすることが難しそう」(51.1%)、「きちんとした子供に育てられる自信がない」(40.7%)、「子育てするのが大変そう」(37.0%)と続く。

〈妊娠・出産の医学的情報について知っておくべきと考える時期〉(図8)

全体では、「中学生・高校生の頃」が38.6%と最も高く、次いで「大学生の頃(18~22歳頃)」が35.5%であり、学生の頃に知るべきとする回答が7割強に上る。

※ この調査における「妊娠・出産の医学的情報」とは、女性の妊娠する力は35歳前後からだんだんと下がり始め、40歳を過ぎると妊娠はかなり難しくなる((公社)日本産科婦人科学会調べ)という情報である。

図1 恋人が欲しいですか(未婚者かつ現在恋人がいない人)〈単一回答〉【性・年代別】

図1 恋人が欲しいですか(未婚者かつ現在恋人がいない人)〈単一回答〉【性・年代別】

図2 恋人が欲しいですか(未婚者かつ現在恋人がいない人)〈単一回答〉【コミュニケーション力別】

図2 恋人が欲しいですか(未婚者かつ現在恋人がいない人)〈単一回答〉【コミュニケーション力別】

※コミュニケーション力について

調査票の「あなたご自身のことについて」の回答結果をもとに因子分析を行い、「社交性」(対人関係への積極性)と「自己効力感」(自分が必要とされる行動をとれるかどうかについての評価)の2因子(特性)を抽出し、点数化した。

その上で、各回答者における「社交性」と「自己効力感」の平均値を高・中・低の3群にレベル分けし(各群に属する人は約3分の1ずつ)、高・低の2群の結果を示している。

図3 交際への不安(未婚者、かつ現在恋人がいない人)〈複数回答〉【性・年代別】

図3 交際への不安(未婚者、かつ現在恋人がいない人)〈複数回答〉【性・年代別】

図4 結婚観(全員)〈単一回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

図4 結婚観(全員)〈単一回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

図5 結婚意向に関する周囲からの影響(未婚者)〈複数回答〉【性・年代別】

図5 結婚意向に関する周囲からの影響(未婚者)〈複数回答〉【性・年代別】

図6 女性の理想の働き方(全員)〈単一回答〉【性別】

図6 女性の理想の働き方(全員)〈単一回答〉【性別】

図7 子育ての不安要素(全員)〈複数回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

図7 子育ての不安要素(全員)〈複数回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

図8 妊娠・出産の医学的情報について知っておくべきと考える時期(全員)〈単一回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

図8 妊娠・出産の医学的情報について知っておくべきと考える時期(全員)〈単一回答〉【性・結婚状況(性・年代)別】

コラム 夫の帰宅時間が少子化に与える影響〈~内閣府経済社会総合研究所の少子化研究より~〉

内閣府経済社会総合研究所では、少子化対策に関する政策立案に資するため、少子化の原因・背景、諸外国の少子化対策の事例、効果的な少子化対策の在り方等について、調査研究を行っている。

2013(平成25)年度は、夫婦の出生意欲に影響を与える就業や生活環境などを分析するため、25歳から39歳の有配偶女性を対象とする調査を行い、分析結果を取りまとめた(内閣府 経済社会総合研究所)別ウィンドウで開きます1

ここではその中から、未就学児の子育てをする女性の「イライラ」と、「イライラ」が出生意欲に与える影響を紹介し、夫の帰宅時間が家庭生活に与える影響について考える。


1 Discussion Paper Series No.311「有配偶女性の生活環境と就労、出産、子育てに関する分析~「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査」の個票を用いて~」

■子育て中の女性の負担感(「イライラ」)と出生意欲への影響

未就学児の子育てをする女性の大半は子育てを「楽しいと感じることが多い」と回答しているが、一方で子供なしの女性に比べて「イライラしている」割合が高い状況がみられる。

「イライラする」は、「何をするのも面倒」「気分が晴れず、ゆううつと感じる」など抑鬱の傾向に至るほどではないが、日常的なストレスを表す状況であると考えられる。子育てする女性のうち「イライラ」を感じている割合が高いのは次のような女性である。

  • 「正規雇用」よりも「有期雇用」「無職」の女性
  • 家事・育児を「もっぱら自分ひとり」で受け持つ正規雇用の女性
  • 3歳児を持つ女性
  • 子供の教育に熱心な女性
  • 夫の帰宅が遅いなど(下記参照)、「(夫の)気が張りつめている」と感じる女性

また子育て中の女性の「イライラ」は、子育ての楽しさを減じて、追加的な出生意欲にマイナスに影響する可能性が高いことも明らかになった。

■夫の帰宅時間の遅さが家庭生活に与える影響

同研究では、子育てする女性の「イライラ」を高める原因の一つに「(夫の)気が張りつめている」がある。「気が張りつめている」と妻が感じる割合は、夫の帰宅時間が22時を超えると急激に高まる(図表)。

また、別の研究では、夫の帰宅時間が21時を超えると、育児参加の度合いが急激に低下するとも指摘されている2

夫の帰宅時間が21時、あるいは22時を過ぎるという状況は、小さな子供を育てる家庭の生活の質を損なっている可能性があり、長時間労働もさることながら「(夫の)帰宅時間」そのものも社会全体で考えていくべき課題といえるだろう。


2 松田茂樹(2002)「父親の育児参加促進策の方向性」国立社会保障・人口問題研究所編『少子社会の子育て支援』東京大学出版会, pp.313-330

図9 配偶者「気が張りつめている」割合―配偶者の帰宅時刻別・女性の就業形態別―(子供1人の女性)

図9 配偶者「気が張りつめている」割合―配偶者の帰宅時刻別・女性の就業形態別―(子供1人の女性)

[目次]  [戻る]  [次へ]