第1部 少子化対策の現状と課題
第2章 少子化対策の取組
第1節 これまでの少子化対策
エンゼルプランと新エンゼルプラン
1990(平成2)年の「1.57ショック」1を契機に、政府は、出生率の低下と子供の数が減少傾向にあることを「問題」として認識し、仕事と子育ての両立支援など子供を生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討を始めた。
1994(平成6)年12月、今後10年間に取り組むべき基本的方向と重点施策を定めた「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)(文部、厚生、労働、建設の4大臣合意)が策定された。また、エンゼルプランを実施するため、保育の量的拡大や低年齢児(0~2歳児)保育、延長保育等の多様な保育の充実、地域子育て支援センターの整備等を図るための「緊急保育対策等5か年事業」(大蔵、厚生、自治の3大臣合意)が策定され、1999(平成11)年度を目標年次として、整備が進められることとなった。
その後、1999年12月、「少子化対策推進基本方針」(少子化対策推進関係閣僚会議決定)と、この方針に基づく重点施策の具体的実施計画として「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(新エンゼルプラン)(大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の6大臣合意)が策定された。新エンゼルプランは、従来のエンゼルプランと緊急保育対策等5か年事業を見直したもので、2000(平成12)年度から2004(平成16)年度までの5か年の計画であった。最終年度に達成すべき目標値の項目には、これまでの保育関係だけでなく、雇用、母子保健、相談、教育等の事業も加えた幅広い内容となった。
1 1990年の1.57ショックとは、前年(1989(平成元)年)の合計特殊出生率が1.57と、「ひのえうま」という特殊要因により過去最低であった1966(昭和41)年の合計特殊出生率1.58を下回ったことが判明したときの衝撃を指している。
次世代育成支援対策推進法
家庭や地域の子育て力の低下に対応して、次世代を担う子供を育成する家庭を社会全体で支援する観点から、2003(平成15)年7月、地方公共団体及び企業における10年間の集中的・計画的な取組を促進するため、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号)が制定された。同法は、地方公共団体及び事業主が、次世代育成支援のための取組を促進するために、それぞれ行動計画を策定し、実施していくことをねらいとしたものである2。なお、次世代育成支援対策推進法は、仕事と生活の調和の更なる推進が必要であること等から、法の有効期限を更に10年間延長するとともに、新たな認定制度の導入など内容の充実を図ることとした。
2 具体的には、地方公共団体及び事業主は、国が策定する行動計画策定指針に基づき、次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標、実施しようとする対策の内容及びその実施時期等を定めた行動計画を策定することとされている。
少子化社会対策基本法、少子化社会対策大綱及び子ども・子育て応援プラン
2003(平成15)年7月、議員立法により、少子化社会において講じられる施策の基本理念を明らかにし、少子化に的確に対処するための施策を総合的に推進するために「少子化社会対策基本法」(平成15年法律第133号)が制定され、同年9月から施行された。そして、同法に基づき、内閣府に、内閣総理大臣を会長とし、全閣僚によって構成される少子化社会対策会議が設置された。また、同法は、少子化に対処するための施策の指針としての大綱の策定を政府に義務付けている。
2004(平成16)年6月、少子化社会対策基本法に基づき、「少子化社会対策大綱」(以下「大綱」という。)が少子化社会対策会議を経て、閣議決定された。
この大綱では、子供が健康に育つ社会、子供を生み、育てることに喜びを感じることのできる社会への転換を喫緊の課題とし、少子化の流れを変えるための施策に集中的に取り組むこととしていた。そして、子育て家庭が安心と喜びをもって子育てに当たることができるように社会全体で応援するとの基本的考えに立ち、少子化の流れを変えるための施策を、国を挙げて取り組むべき極めて重要なものと位置付け、「3つの視点」と「4つの重点課題」、「28の具体的行動」を提示した。
2004年12月、大綱に盛り込まれた施策の効果的な推進を図るため、「少子化社会対策大綱に基づく具体的実施計画について」(子ども・子育て応援プラン)を少子化社会対策会議において決定し、国が地方公共団体や企業等とともに計画的に取り組む必要がある事項について、2005(平成17)年度から2009(平成21)年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を掲げた。
新しい少子化対策について
2005(平成17)年、我が国は1899(明治32)年に人口動態の統計をとり始めて以来、初めて出生数が死亡数を下回り、出生数は106万人、合計特殊出生率は1.26と、いずれも過去最低を記録した。
こうした予想以上の少子化の進行に対処し、少子化対策の抜本的な拡充、強化、転換を図るため、2006(平成18)年6月、少子化社会対策会議において「新しい少子化対策について」が決定された。
「新しい少子化対策について」では、「家族の日」・「家族の週間」の制定などによる家族・地域のきずなの再生や社会全体の意識改革を図るための国民運動の推進とともに、親が働いているかいないかにかかわらず、全ての子育て家庭を支援するという視点を踏まえつつ、子供の成長に応じて子育て支援のニーズが変化することに着目して、妊娠・出産から高校・大学生期に至るまでの年齢進行ごとの子育て支援策を掲げた。
「子どもと家族を応援する日本」重点戦略
「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)」において示された少子高齢化についての一層厳しい見通しや社会保障審議会の「人口構造の変化に関する特別部会」の議論の整理等を踏まえ、2007(平成19)年12月、少子化社会対策会議において「子どもと家族を応援する日本」重点戦略(以下「重点戦略」という。)が取りまとめられた。
重点戦略では、就労と出産・子育ての二者択一構造を解決するためには、「働き方の見直しによる仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現」とともに、その社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」(「親の就労と子どもの育成の両立」と「家庭における子育て」を包括的に支援する仕組みの構築)に同時並行的に取り組んでいくことが必要不可欠であるとされた。
働き方の見直しによる仕事と生活の調和の実現については、2007年12月、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が政労使の代表等から構成される仕事と生活の調和推進官民トップ会議において決定された。
また、重点戦略を踏まえ、2008(平成20)年2月に、政府は、希望する全ての人が安心して子供を預けて働くことができる社会を実現し、子供の健やかな育成に社会全体で取り組むため、保育所等の待機児童解消を始めとする保育施策を質・量ともに充実・強化し、推進するための「新待機児童ゼロ作戦」を発表した。
少子化社会対策基本法に基づく大綱(子ども・子育てビジョン)の策定
「新しい少子化社会対策大綱の案の作成方針について」(2008(平成20)年12月、少子化社会対策会議決定)を受け、2009(平成21)年1月、内閣府に「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、少子化対策担当大臣の下、全10回の会合、地方での懇談、大学生との公開討論会を開催し、同年6月には提言(“みんなの”少子化対策)をまとめた。
その後、2009年10月に発足した内閣府の少子化対策担当の政務三役(大臣、副大臣、大臣政務官)で構成する「子ども・子育てビジョン(仮称)検討ワーキングチーム」において検討が行われ、有識者、事業者、子育て支援に携わる地方自治体の担当者等からの意見聴取や国民からの意見募集などを行い、2010(平成22)年1月、少子化社会対策基本法に基づく新たな大綱を閣議決定した。この大綱では、子ども・子育て支援施策を行っていく際の3つの大切な姿勢として、「1 生命(いのち)と育ちを大切にする」、「2 困っている声に応える」、「3 生活(くらし)を支える」を示すとともに、これらを踏まえ、「目指すべき社会への政策4本柱」と「12の主要施策」に従って、具体的な取組を進めることとしている。
子ども・子育て支援新制度
2010(平成22)年1月の少子化社会対策大綱(「子ども・子育てビジョン」)の閣議決定に合わせて、少子化社会対策会議の下に、「子ども・子育て新システム検討会議」が発足し、新たな子育て支援の制度について検討を進め、2012(平成24)年3月には、「子ども・子育て新システムに関する基本制度」を少子化社会対策会議において決定した。これに基づき、政府は、社会保障・税一体改革関連法案として、子ども・子育て支援法等の3法案を2012年通常国会(第180回国会)に提出した。国会における修正を経て成立した、子ども・子育て支援法等に基づき、政府において子ども・子育て支援新制度の本格施行に向けた準備を進め、2014(平成26)年度には、消費税引上げ(5%→8%)の財源を活用し、待機児童が多い市町村等において「保育緊急確保事業」が行われ、2015(平成27)年4月1日から同制度が実施された。
待機児童の解消に向けた取組
都市部を中心に深刻な問題となっている待機児童の解消の取組を加速化させるため、2013(平成25)年4月、新たに「待機児童解消加速化プラン」を策定し、2015(平成27)年度からの子ども・子育て支援新制度の施行を待たずに、待機児童解消に意欲的に取り組む地方自治体に対してはその取組を支援してきたところであり、その結果、待機児童解消に向けた「緊急集中取組期間」である2013年度及び2014(平成26)年度において、約20万人分の保育の受け皿を確保できる見込みである。今後、2015年度から2017(平成29)年度までを「取組加速期間」として位置付け、潜在的な保育ニーズも含め、更に約20万人分の保育の受け皿確保を図り、待機児童の解消を目指すこととしている。
少子化危機突破のための緊急対策
2013(平成25)年3月から内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下で、「少子化危機突破タスクフォース」が発足し、同年5月28日には、「『少子化危機突破』のための提案」が取りまとめられた。この提案をもとに、同年6月には、少子化社会対策会議において「少子化危機突破のための緊急対策」(以下「緊急対策」という。)を決定した。緊急対策では、これまで少子化対策として取り組んできた「子育て支援」及び「働き方改革」をより一層強化するとともに、「結婚・妊娠・出産支援」を新たな対策の柱として打ち出すことにより、これらを「3本の矢」として、結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」の総合的な政策の充実・強化を目指すこととされた。
また、緊急対策の内容は「経済財政運営と改革の基本方針~脱デフレ・経済再生~」(2013年6月14日閣議決定)及び「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月14日閣議決定)にも盛り込まれ、政府を挙げて少子化対策に取り組むこととされた。
さらに、緊急対策を着実に実施するため、2013年8月から内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下で、「少子化危機突破タスクフォース(第2期)」(以下「タスクフォース(第2期)」という。)が発足した。緊急対策やタスクフォース(第2期)政策推進チームの「少子化危機突破のための緊急提言」(2013年11月)において、地域の実情に応じた結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援の重要性が盛り込まれたこと、全国知事会からの強い要望も踏まえ、「好循環実現のための経済対策」(2013年12月閣議決定)において「地域における少子化対策の強化」が盛り込まれ、2013年度補正予算において「地域少子化対策強化交付金」が創設された(30.1億円)。この交付金を活用し、地方自治体において、地域の実情に応じた結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援の先駆的な取組が行われている(コラム「地域少子化対策強化交付金を活用した取組」参照)。また、2014(平成26)年度補正予算においても同額が計上されている。
タスクフォース(第2期)が、2014年5月に、取りまとめた提言の主な内容は、2014年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレから好循環拡大へ~」(以下「骨太方針2014」)に盛り込まれ、政府全体の方針とされた。
「選択する未来」委員会と「骨太方針2014」
人口減少・少子高齢化は、経済社会全体に大きな影響を及ぼすものであることから、2014(平成26)年1月、経済財政諮問会議の下に、「選択する未来」委員会が設置され、精力的に議論が進められ、同年5月、中間整理が取りまとめられた。さらに、同年6月に閣議決定された骨太方針2014においては、「人口急減・超高齢化」が今後の日本経済の課題の大きな項目の一つとして掲げられるとともに、「少子化対策」も重点課題の中に項目として掲げられ、取組の方針が示された。
「選択する未来」委員会においては、引き続き議論が行われ、2014年11月に報告がまとめられた。
放課後子ども総合プランの策定
保育所を利用する共働き家庭等においては、児童の小学校就学後も、その安全・安心な放課後等の居場所の確保という課題に直面している。このいわゆる「小1の壁」を打破するためには、児童が放課後等を安全・安心に過ごすことができる居場所についても整備を進めていく必要がある。加えて、次代を担う人材の育成の観点からは、共働き家庭等の児童に限らず、全ての児童が放課後等における多様な体験・活動を行うことができるようにすることが重要であり、全ての児童を対象として総合的な放課後対策を講じる必要がある。
このような観点から、文部科学省及び厚生労働省が連携して検討を進め、2014(平成26)年7月に「放課後子ども総合プラン」を策定した。このプランにおいては、2019(平成31)年度末までに、放課後児童クラブについて、約30万人分を新たに整備するとともに、全ての小学校区で、放課後児童クラブ及び放課後子供教室を一体的又は連携して実施し、うち一体型の放課後児童クラブ及び放課後子供教室について、1万か所以上で実施することを目指している。
地方創生の取組
人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、<1>「東京一極集中」の是正、<2>若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、<3>地域の特性に即した地域課題の解決という3つの視点を基本として、魅力あふれる地方を創生していくことが必要である。このため、2014(平成26)年9月3日に発足した第2次安倍改造内閣において、地方創生担当大臣を新設するとともに、「まち・ひと・しごと創生本部」を発足させた。さらに、同年11月には、「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、12月27日には、日本の人口・経済の中長期展望を示した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、今後5年間の目標や施策の基本的方向、具体的施策を取りまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定した。これらを勘案し、地方自治体において、まち・ひと・しごと創生総合戦略が策定されることになる。
新たな少子化社会対策大綱の策定
骨太方針2014において、新たな少子化社会対策大綱を2014(平成26)年度内に策定するとされたことを受けて、内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下、2014年11月に、有識者による「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」を発足させ、検討を進めた。同検討会は、2015(平成27)年3月に「提言」を取りまとめ、政府においては、この提言を真摯に受け止めて、大綱の検討を行い、少子化社会対策会議を経て同年3月20日に閣議決定を行った。
子ども・子育て本部の設置
2015(平成27)年4月の子ども・子育て支援新制度の施行に合わせて、内閣府に、内閣府特命担当大臣(少子化対策)を本部長とし、少子化対策及び子ども・子育て支援の企画立案・総合調整並びに少子化社会対策大綱の推進や子ども・子育て支援新制度の施行を行うための新たな組織である子ども・子育て本部を設置した。
コラム 次世代育成支援対策推進法の延長・拡充
「次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」という。)」は、次代の社会を担う子供が健やかに生まれ、育成される環境を整備するために、国、地方公共団体、企業、国民が担う責務を明らかにし、2005(平成17)年4月1日から施行されている。
この法律において、企業は、従業員の仕事と子育てに関する「一般事業主行動計画」を策定することとなっており、常時雇用する従業員が101人以上の企業は、この行動計画を策定し、その旨を都道府県労働局に届け出ることが義務とされている(100人以下の企業は努力義務)。
また、企業の自発的な次世代育成支援に関する取組を促すため、行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の基準を満たした企業は、申請することにより、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができる。(2015(平成27)年3月末時点で、くるみん認定企業数は2,138社。)
次世代法は2014(平成26)年度末までの時限法として制定されたが、引き続き、子供が健やかに生まれ、育成される環境を更に改善し、充実させることが必要であることから、2014年に次世代法が改正され、法律の有効期限が10年間延長されるとともに、2015(平成27)年4月1日から新たな特例認定(プラチナくるみん認定)制度が創設された。
プラチナくるみん認定は、くるみん認定企業のうち、より高い水準の取組を行っている企業が、一定の基準を満たした場合に認定を受けられる制度で、特例認定を受けた企業は、「特例認定マーク(愛称:プラチナくるみん)」が付与され、商品等に付けることができる。ただし、特例認定を受けた後は、行動計画の認定・届出義務が免除される代わりに、「次世代育成支援対策の実施状況」について公表を行う必要がある。
次世代法の改正に伴い、認定を受けた企業に与えられる「くるみん」マークも新しくなっている。「くるみん」マーク、「プラチナくるみん」マークは、広告や商品、名刺、求人票などに表示することにより、子育てサポート企業であることをPRすることができ、この結果、企業イメージの向上や、優秀な従業員の採用・定着を図ることができる。
認定企業の情報は、「女性の活躍・両立支援総合サイト」で調べることができる。

コラム 企業における取組事例
●従業員のニーズを踏まえた仕事と子育ての両立支援
戦前から続く島根県松江市の塗装工事・防水工事等を柱とする企業(従業員数27名、うち7名が女性)は、従業員個々のニーズに沿った働き方ができるようにするため、若い従業員の仕事と子育ての両立を含む両立支援に力を入れている。きっかけは、定年間近のベテランの「若い職人が育たないと会社はダメになる」という言葉だったという。若い人が会社に入らず、ベテランが退職していけば、老舗といえども培った技術力が低下しかねない。こうした問題意識のもと、同社は、ベテラン職人の技能・経験を受け継ぐ若年層の従業員の定着・育成の観点から、従業員一人ひとりの力を発揮してもらうため、個々のニーズに沿った働き方のできる環境の整備を進めた。
同社は特徴的な「子の看護休暇制度」として、高校を卒業するまでの子1人につき年5日の有給休暇を30分単位で取得できる制度を設けている。従業員の生活実態や意見をもとにしており、例えば、子供の急な発熱があった場合でも、病院への受診と病児保育に預けるために必要な最小限の休暇を取得し、仕事に戻ることができるなど、利便性が高い制度となっている。同様の考え方をもとに、育児のための始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げや、育児短時間勤務制度も設けているほか、年次有給休暇を1時間単位で取得可能としている。また、出産祝い金を10万円支給したり、保育料の3分の1を補助する等の制度も設けている。
こうした休暇制度を利用しやすい環境づくりについても工夫し、職場では休日取得の希望日を共有するようにし、お互いがカバーする態勢が取られている。また、個人で対応する仕事は極力作らず、誰が休んでも対応できるようにしている。
同社は、次世代育成支援対策推進法の認定基準を満たし、島根県内で第1号の「くるみん」マークの認定を受けている。これらの両立支援の効果として、退職者も激減し、若年層の従業員の定着・育成が図られたことがあげられる。18歳~39歳の従業員数が2002(平成14)年に6名だったが、2015(平成27)年には13名に増加し、2002年には一人もいなかった子育て中の従業員数も13名に増加している。また、2013(平成25)年度には20代の女性現場監督が誕生したり、受注額が増加するなどの成果にも結びついている。
コラム 地域少子化対策強化交付金を活用した取組
我が国の危機的な少子化問題に対応するため、結婚・妊娠・出産・育児の「切れ目ない支援」を行うことを目的に、地域の実情に応じた先駆的な取組を行う地方公共団体を支援するため、2013(平成25)年度補正予算において地域少子化対策強化交付金が創設された。この交付金を活用し、地方公共団体は、以下の4点を盛り込んだ計画を策定し、事業を実施することとした。
- <1>結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援を行うための仕組みの構築
- <2>結婚に向けた情報提供等
- <3>妊娠・出産に関する情報提供
- <4>結婚・妊娠・出産・育児をしやすい地域づくりに向けた環境整備
この交付金に対しては、全ての都道府県から応募があり、地域の実情に応じて少子化対策の取組への機運が高まりつつある。
また、2014(平成26)年度補正予算においても、この交付金について予算措置され、上記の4点に加え、
- <5>少子化対策への前向きな機運の醸成
を新たに追加し、引き続き、地域の実情に応じた先駆的な取組を行う地方公共団体を支援することとなっている。
ここでは、2013年度補正予算に計上された交付金を活用した事業を紹介する。
大学連携による人材育成カリキュラム作成と研修事業(兵庫県)
地域あるいは個人における課題は多種多様であり、結婚から子育てまでの総合案内が必要となるため、子育て支援拠点等の支援者に対し、結婚から子育て支援までの体系的研修プログラムを策定・研修した。
子育て支援分野に造詣の深い県内大学の学識者で構成する「ひょうご地域子育て支援大学間連絡協議会」の全面的な協力を得て、研修プログラムを策定し、子育て支援リーダー、スタッフ等を対象に専門性の高い研修を実施することにより、支援人材の育成及び資質向上を図った。
研修においては、子育て支援者の役割、対象者の特性・ニーズと活用できる資源を知る目的と方法、相談分析の目的と方法、個別対応の手法など、結婚、妊娠・出産、子育ての「切れ目のない支援」を実現するための手法を学ぶ。
また、策定した研修プログラムは、県ホームページ等で公開し、市町が研修で自由に活用できるようにすることにより、広域的な支援人材の育成に役立てる。
専門性の高い研修を実施し、汎用性の高いプログラムを開発するため、「ひょうご地域子育て支援大学間連絡協議会」のほか、効果的な研修機能を有する認定特定非営利活動法人とも連携のうえ、事業を実施した。
今後は、公表した研修プログラムにより、各地域において広域的に人材育成を図ることで、研修修了者を中心に経験と知識が継承され、地域の実情に合わせた事業展開が図られることが期待される。
愛顔(えがお)の婚活サポート事業(愛媛県)
2010(平成20)年11月に開設した「えひめ結婚支援センター」の利用者や成婚報告者の平均年齢は35歳前後と晩婚化が顕著になっているほか、うまくカップルになれない、婚活に踏み切れない、自信がないなどの声も多く、出会いの場に参加する以前の独身者個々のスキルアップ・意識改革を行っていく必要があった。
一方で、成婚事例や好アドバイス等の記録など6年間培った各種データがあるが、これらを利用者に還元できず、成婚に向けた活動に活かしきれていなかった。
そこで、独身者及び地域で婚活を支援する者向けに、有識者による基調講演を始め、コミュニケーション能力向上などのワークショップの実施、婚活力を高める好アドバイスや成婚事例等の紹介など基礎編・応用編の啓発講座を開催するとともに、えひめ結婚支援センターの結婚支援システムに蓄積されたビッグデータ及び関連データを分析し、成婚に至るモデルケース、婚活力を高める好アドバイスなどをまとめ、ホームページや小冊子で情報発信した。さらに、地域で切れ目ない婚活を応援するために、婚活を応援する団体の掘り起こしと育成を実施した。
実施に当たっては、地元大学や国の研究機関の支援を得ることにより、客観的なデータ分析を行い、結婚支援のための精度の高い支援情報データベースを構築できた。
今後も、えひめ結婚支援センターを核に、県民総ぐるみの活動を展開していく。
まちなかマタニティ普及啓発事業(富山県魚津市)
魚津市ではマタニティマークの認知度が低く、母子健康手帳交付時に初めてマークを知る人が多かった。
そこで、母子保健推進員や子育て中のママなどによる調査隊をつくり、公共施設や観光施設などで、たくさんの親子がよく利用し、マークのPRに効果的で望ましい箇所を提案してもらい、マークの設置と紹介掲示を行い啓発を図った。
また、調査隊が、市内を巡回し、ショッピングセンター、公園、児童センター、観光施設などのオムツ替えシート、子供用トイレの設置など妊産婦や子育てに配慮した施設の場所や内容を調査し、調査結果を分かりやすく紹介する冊子「まちなかマタニティ&キッズマップ」を作成し配布を行った。
「まちなかマタニティ&キッズマップ」は、妊婦や母親ばかりでなく、父親にも活用してもらい育児参加を促進するとともに、子育て支援関係者、市内施設、企業に配布を行い、妊娠・出産に理解・関心を深めてもらえるように活用を図った。
男性の育児参加を促すイクメン企業同盟活動推進事業(広島県)
県内の男性の育児休業取得率は、全国平均を上回る状況となっているが、女性との格差は未だ大きい現状があり、女性が仕事と子育てを両立しながら、第2子以降も安心して子供を生み、育てられる環境を整備するため、男性の育児参加の促進を図り、女性の家事・育児の負担を軽減する必要があった。
一方で、広島県が2013(平成25)年度に県内企業に対して実施した「企業訪問事前調査」では、男性の育児休業取得について「業務が忙しい」等を取得が進まない理由に多くあげており、消極的な企業が多かった。
男性の育児参加のためには、男性自身の意識改革に加え、企業経営者の理解が不可欠であり、経営者のリーダーシップの下、各企業の風土や制度へ男性の育児参加を反映させるよう啓発していく必要がある。
このため、2014(平成26)年3月に結成したイクメン企業同盟(イクメンを応援する企業経営者の同盟)の活動を展開し、企業経営者自らが主体的に職場の働き方改革を目指す行動を起こすとともに、ほかの企業の経営者にも取組を呼びかけ、輪を広げることにより、社会全体に対しても男性の意識改革、行動変容を促し、男性も積極的に育児に参加する社会をつくるための取組を行った。
今後も、イクメン企業同盟の活動を強化するとともに、経営者のみならず、企業の管理職が“イクボス”となるための取組などを進め、男性の家事・育児参画を促進し、男女ともに仕事と子育ての両立ができる環境づくりを推進する。