第1部 少子化対策の現状と課題
第2章 少子化対策の取組
第2節 「子ども・子育て支援新制度」の施行開始【特集】
2012(平成24)年8月に成立した子ども・子育て関連3法3に基づく子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」という。)は、社会保障・税一体改革の一項目として、消費税率の引上げによる財源の一部を得て実施されるものであり、2015(平成27)年4月から施行された。
3 子ども・子育て関連3法は、「子ども・子育て支援法」、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」、「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」をさす。
新制度の検討の背景と主なポイント
現在、我が国では出生率の低下に伴い少子化が進んでいる。子供や子育てをめぐる環境は厳しく、核家族化や地域のつながりの希薄化により、子育てに不安や孤立感を覚える家庭も少なくない。また、保育所を利用したいと考えていても、希望する保育所が満員であること等から、多くの待機児童が生じていることや、仕事と子育てを両立できる環境の整備が必ずしも十分でないこと等が問題となっており、そうした状況を前に、子供が欲しいという希望をかなえられない人も多い。
もとより、幼児教育や保育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う上で重要なものであり、質の高い幼児教育や保育を地域のニーズに応じて、総合的に提供することが重要である。
これらの課題に対処し、子供が欲しいという希望がかない、子育てをしやすい社会にしていくためにも、国や地域を挙げて、子供や家庭を支援する新しい支え合いの仕組みを構築することが求められている。
加えて、都市部における待機児童の解消や人口が減少しつつある地域における教育・保育機能の維持など、地域ごとに抱える課題が異なっており、それぞれの実情に即した子育て支援の充実が求められている。
新制度の主なポイントは以下の3点である。
一点目は、認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付である「施設型給付」及び小規模保育、家庭的保育等への給付である「地域型保育給付」の創設である。
これまで、幼稚園に対する財政措置は学校教育の体系、保育所に対する財政支援は福祉の体系として別々になされてきたが、新制度では、認定こども園、幼稚園、保育所に共通の給付である「施設型給付」を創設し、財政支援を一本化することとしている。
また、新たな給付である「地域型保育給付」を創設し、6人以上19人以下の子供を保育する「小規模保育」、5人以下の子供を保育する「家庭的保育」や子供の居宅において保育する「居宅訪問型保育」、従業員の子供のほか地域の子供を保育する「事業所内保育」の4つの事業について財政支援の対象とすることとした。
こうした多様な保育を財政支援の対象とする「地域型保育給付」を創設することにより、特に待機児童が多く、施設の新設が困難な都市部における保育の量の拡大と、子供の数が減少傾向にあり施設の維持が困難である地域や、施設までの距離が遠いなど利用が困難な地域における保育の確保が可能となる。
さらに新制度では、給付の創設に併せて、従来の保育所などの認可制度の改善を行い、客観的な認可基準に適合し、必要な条件を満たす場合には、欠格事由に該当する場合や需給調整が必要な場合を除き、認可するものとするという透明性の高い認可の仕組みとすることで、特に大都市部での保育需要の増大に機動的に対応することとしている。市町村は、認可施設・事業に対し、施設等の利用定員を定めるなどの「確認」を行い、給付を実施することとなる。
二点目は、認定こども園制度の改善である。認定こども園は、保護者の就労状況等にかかわらず、そのニーズに合わせて子供を受け入れ、幼児期の学校教育・保育を一体的に行う、幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持った施設である。また、子育ての不安に対する相談を受けることや、親子の集まる場所を提供するなど、地域の子ども・子育て支援の役割も果たすことが期待されている。認定こども園制度は2006(平成18)年に創設されたものであるが、利用者から高い評価を受ける一方で、これまでの制度では、学校教育法に基づく幼稚園と児童福祉法に基づく保育所という2つの制度を前提にしていたことによる、認可や指導監督等に関する二重行政の課題などが指摘されてきた。
今回の制度改正では、認定こども園の類型の一つである「幼保連携型認定こども園」を、学校及び児童福祉施設の両方の法的位置付けをもつ単一の認可施設とし、認可や指導監督等を一本化することなどにより、二重行政の課題などを解消し、それぞれの地域における幼児教育・保育のニーズや事業者の意向に基づき、認定こども園の普及を図ることとしている。また、財政措置についても、「幼保連携型」以外の「幼稚園型」「保育所型」「地方裁量型」を含む4類型全てが「施設型給付」の対象となる。
三点目は、地域の子ども・子育て支援の充実である。保育が必要な子供のいる家庭だけでなく、全ての子育て家庭を対象に地域のニーズに応じた多様な子育て支援を充実させるため、保護者が地域の教育・保育、子育て支援事業等を円滑に利用できるよう情報提供・助言等を行う利用者支援事業や、子育ての相談や親子同士の交流ができる地域子育て支援拠点、一時預かり、放課後児童クラブなど、市町村が行う事業を新制度では「地域子ども・子育て支援事業」として法律上に位置付け、財政支援を強化して、その拡充を図ることとしている。
新制度は、これらの取組により、質の高い幼児期の学校教育・保育を総合的に提供し、地域の子ども・子育て支援を充実させ、全ての子供が健やかに成長できる社会の実現を目指すものである。
新制度の実施主体
新制度では、基礎自治体である市町村が実施主体となり、「施設型給付」等の給付や「地域子ども・子育て支援事業」を計画的に実施し、こうした市町村による子ども・子育て支援策の実施を国と都道府県が重層的に支える仕組みとなる。
このため、市町村においては、地域における幼児教育・保育及び子育て支援についての需要を把握するための調査を順次実施し、その需要に対する子ども・子育て支援の提供体制の確保等を内容とする事業計画(「市町村子ども・子育て支援事業計画」)を策定し、その実施に取り組んでいるところである。また都道府県においても、市町村子ども・子育て支援事業計画の数値を集計したものを基本として、各年度における需要の見込みと確保方策等を記載した2015(平成27)年度から5か年の「都道府県子ども・子育て支援事業支援計画」を策定している。
都道府県及び多くの市町村においては、計画の策定に際していわゆる「地方版子ども・子育て会議」において多くの関係者の参画を得ながら作業が進められてきたが、今後は同会議等を活用し、計画の継続的な点検・評価を行い、その実施状況をフォローするとともに、必要に応じた見直しを行っていくこととしている。
施設・事業等の利用手続と市町村の役割
新制度において、「施設型給付」の対象となる認定こども園、幼稚園、保育所や、「地域型保育給付」の対象となる小規模保育等を利用するに当たっては、保護者は市町村に対して、子供の年齢(満3歳以上又は未満の別)や保育の必要性の有無により分類される区分に該当することの認定の申請を行い、認定を受けることとなる。
申請を受けた市町村は、子供の区分の認定と併せて、子供が保育を必要とする場合に該当すると認めるときは、保育必要量(施設型給付等の対象となる保育の量)の認定を行う(保育の必要性の認定)。そして、こうした区分や保育必要量等を記載した認定証を交付する。認定を受けた保護者は、市町村の関与の下、施設・事業等を選択し契約を行うこととなるが、市町村は新制度の下でも保育所での保育の実施義務を負い、保育所以外(認定こども園や小規模保育等)の保育についても必要な保育を確保する義務を負うことから、当分の間、「保育を必要とする」との認定を受けた子供については、市町村が保護者からの利用の申込みを受けて利用調整を行い、利用可能な施設・事業者のあっせん等を行うほか、施設・事業者に対して、その子供が利用できるよう要請を行うこととなる。なお、私立保育所を利用する場合には、保護者と市町村が契約を行う形となる。
費用負担
新制度は、社会保障・税一体改革の一項目と位置付けられ、これまで高齢者3経費(基礎年金、老人医療、介護)とされていた国分の消費税収の使途を、社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)として子育て分野にも拡大することとされている。具体的には、2017(平成29)年4月に予定されている消費税率10%への引上げにより社会保障の充実の財源に充てられる2.8兆円(国及び地方の合計額)のうち、0.7兆円程度を子ども・子育て支援に充てることとされており、また、これを含め1兆円超程度の財源を確保し、新制度に基づく幼児教育・保育・地域の子育て支援の更なる充実を図ることとしている。
これについては、子ども・子育て関連3法に対する参議院の附帯決議において、幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るためには、1兆円超程度の財源が必要であり、消費税率の引上げにより確保する0.7兆円程度以外の0.3兆円超の確保について、最大限努力するものとする旨の記述が盛り込まれているところである。
その具体的な使途については、子ども・子育て会議等での議論を経て、2014(平成26)年3月に取りまとめられたところであり、待機児童解消加速化プランの推進のための保育の受け皿確保などの「量的拡充」に0.4兆円程度を充て、また「質の向上」については、消費税10%への引上げにより0.7兆円程度の財源が確保された場合には0.3兆円程度、さらに消費税分を含め1兆円超程度の財源が確保された場合には0.6兆円超程度を充てることとなっている。「質の向上」について、0.7兆円の範囲で実施する主な事項としては、幼稚園・保育所・認定こども園等における職員の処遇改善(+3%)や、3歳児の職員配置の改善(20:1→15:1)等があり、また、消費税増収分も含め1兆円超が確保された場合には、職員の処遇改善を+5%まで引き上げるほか、1歳児の職員配置の改善(6:1→5:1)、4・5歳児の職員配置の改善(30:1→25:1)等も実施することとしている。
2015(平成27)年度予算においては、消費税10%への引上げが2017年4月に延期されたものの、子ども・子育て支援は、社会保障の充実において優先的に取り組む施策と位置付けられ、所要の量的拡充のみならず、消費税10%への引上げにより確保する0.7兆円程度の財源の確保を前提に実施を予定していた上記の「質の向上」に係る事項を全て実施するために必要な予算が計上されたところである。
利用者負担
新制度における利用者負担については、世帯の所得の状況その他の事情を勘案して定めることとされており、従来の幼稚園・保育所の利用者負担の水準を基に国が定める水準を限度として、実施主体である市町村が定めることとしている。第1-2-9図の国が定めた水準は、従来の私立施設の保育料設定を基礎として、<1>教育標準時間認定(1号認定)を受ける子供については、従来の幼稚園就園奨励費を考慮し、また<2>保育認定(2・3号認定)を受ける子供については、従来の保育所運営費による保育料設定を考慮し設定したものであり、1号給付、2・3号給付それぞれにおいて、施設・事業の種類を問わず同一の水準となっている。
実施体制
2015(平成27)年4月の新制度の施行開始と併せ、内閣府に子ども・子育て本部が発足した。子ども・子育て本部は、内閣府特命担当大臣を本部長とし、行政各部の施策の統一を図る観点から少子化対策や子育て支援施策の企画立案・総合調整を行う。また、子ども・子育て支援法に基づく給付等や児童手当など子育て支援に係る財政支援の一元的な実施を担うとともに、認定こども園制度を文部科学省、厚生労働省と共管している。