第2部 少子化社会対策の具体的実施状況
第2章 きめ細かな少子化対策の推進
第2節 社会全体で行動し、少子化対策を推進する。
2 企業の取組
(企業の少子化対策や両立支援の取組の「見える化」)
一般事業主行動計画(次世代育成支援対策推進法)の策定・公表の促進
次代の社会を担う子供が健やかに生まれ育つ環境をつくるために、「次世代育成支援対策推進法」(平成15年法律第120号、以下「次世代法」という。)に基づき、国、地方公共団体、事業主、国民がそれぞれの立場で次世代育成支援を進めている。
地域や企業の更なる取組を促進するため、2008(平成20)年12月に次世代法が改正され、2011(平成23)年4月1日から一般事業主行動計画(以下「行動計画」という。)の策定・届出等が義務となる企業は、常時雇用する従業員数301人以上企業から101人以上企業へ拡大された。これを受けて、次世代育成支援対策推進センター(行動計画の策定・実施を支援するため指定された事業主団体等)、労使団体及び地方公共団体等と連携し、行動計画の策定・届出を促進した結果、2015(平成27)年3月末現在、従業員数101人以上300人以下の企業の届出率は97.8%となった。引き続き、行動計画の策定・届出の一層の促進に取り組んでいる。
また、次世代法については2014(平成26)年度末までの時限立法であったが、同法の有効期限の10年間の延長、新たな認定(特例認定)制度の創設等を内容とする、「次代の社会を担う子どもの健全な育成を図るための次世代育成支援対策推進等の一部を改正する法律案」が第186回通常国会に提出され、2014年4月16日に成立し、2015(平成27)年4月1日から施行された。
くるみん及びプラチナくるみんの周知・取組促進
適切な行動計画を策定・実施し、その目標を達成するなど一定の要件を満たした企業は厚生労働大臣の認定を受け、認定マーク(愛称:くるみん)を使用することができる。また、2014(平成26)年の法改正により、2015(平成27)年4月1日から、くるみん認定を受けた企業のうち、より高い水準の両立支援の取組を行い、一定の要件を満たした場合に認定を受けられる特例認定制度が創設された。特例認定を受けた企業は認定マーク(愛称:プラチナくるみん)を使用することができる。この認定制度及び認定マークの認知度を高めるため、認定企業の取組事例や認定を受けるメリット等を積極的に紹介するとともに、2011(平成23)年6月に創設された認定企業に対する税制上の措置について、「所得税法等の一部を改正する法律」において平成27年度から新たにプラチナくるみん認定企業に対する税制優遇上の措置を拡充し、対象資産及び割増償却率について見直しを図った上で、2018(平成30)年3月まで3年間の延長がされている。今後も当該優遇措置について幅広く周知し、認定の取得促進を図っていく。
企業における両立支援の取組促進
仕事と家庭の両立に向けた自主的な取組を促進するため、インターネットで設問に答えると自社の「仕事と家庭の両立のしやすさ」を点検・評価することができる両立指標や両立支援に積極的に取り組んでいる企業の取組等を掲載したサイト「女性の活躍・両立支援総合サイト」の運用を行っている。
また、仕事と育児・介護との両立支援のための取組を積極的に行っており、かつその成果が挙がっている企業に対し、公募により「均等・両立推進企業表彰」を実施し、その取組を広く周知することにより、労働者が仕事と家庭を両立しやすい職場環境の整備を促進している。
さらに、仕事と家庭が両立できる職場環境作りの後押しとして、経済産業省では、女性を含め多様な人材の能力を活かして、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を「ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)として、表彰し、積極的に取り組む企業のすそ野の拡大を図っている。2012(平成24)年度から開始し、2015(平成27)年3月に52社(大企業28社、中小企業24社)を表彰した。厚生労働省では、2013(平成25)年度より男性の参加を積極的に促進しつつ、業務改善を図る企業を表彰する「イクメン企業アワード」、2014(平成26)年度より部下の仕事と育児の両立を支援し、かつ、業務効率を上げるなどの工夫をしている上司「イクボス」を表彰する「イクボスアワード」を実施し、好事例を普及させていくことで、企業における働き方を改革し、育児と仕事の両立を推進している。
その他、内閣府では、企業の管理職に対してセミナーを開催し、女性を始めとする多様な人材の能力を引き出して仕事の成果に生かしていくダイバーシティの取組を推進している。
また、経済産業省は、東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として選定・発表する「なでしこ銘柄」(経済産業省)を2012(平成24)年度より実施している。「なでしこ銘柄」の選定に当たっては、「女性のキャリア支援」とともに、「仕事と家庭の両立支援」の側面に着目して評価を行っている。2014(平成26)年度は、40社を選定した。
(企業の少子化対策の取組に対するインセンティブ付与)
入札手続等における対応
企業のワーク・ライフ・バランス等の取組を促進するため、内閣府では2010(平成22)年度より、ワーク・ライフ・バランスや男女共同参画に関連する調査について、一般競争入札総合評価落札方式により入札を行う際に、ワーク・ライフ・バランス等に積極的に取り組む企業を評価できるような仕組みを導入した。2014(平成26)年度には、「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」を男女共同参画推進本部で策定し、国の公共調達及び補助金において、女性の活躍推進に積極的に取り組む企業を評価する取組を推進するとともに、独立行政法人等や地方公共団体に対して取組を促した。
コラム 東日本大震災の被災地等における子供・子育てに関する対応
1 東日本大震災における子供に関する状況
2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震災は未曾有の被害をもたらした。被害が大きかった岩手県、宮城県、福島県の3県において収容され警察による検視等を終えた死者は、2015(平成27)年3月11日までに15,821人にのぼり、身元が判明した人は15,738人で、そのうち0~9歳は468人、10~19歳は425人となっている。震災により親を亡くした児童については、震災孤児241人(岩手県94名、宮城県126名、福島県21名)、震災遺児1,514人(岩手県488名、宮城県871名、福島県155名)となっている(2014(平成26)年3月1日現在)。
さらに、被害の甚大な3県(岩手県、宮城県、福島県)等被災地の学校から他の学校において受け入れた幼児児童生徒数は、21,775人となっており、学校種別の内訳は、幼稚園2,657人、小学校12,155人、中学校5,242人、高等学校1,509人、中等教育学校14人、特別支援学校198人(幼稚部・小学部・中学部・高等部)となっている(2014年5月1日現在。国公私立計。同一都道府県内の学校からの受入れ数を含む。)。21,775人のうち、岩手県、宮城県、福島県の幼児児童生徒で、他の都道府県の学校において受け入れた数は、11,452人となっており、出身県別の内訳は、岩手県285人、宮城県1,400人、福島県9,767人となっている(2014年5月1日現在。国公私立計)。
加えて、物的被害を受けたのは、幼稚園が941校、小学校が3,269校、中学校が1,700校、中等教育学校が7校、特別支援学校が186校となっている(2012(平成24)年9月14日現在)。
2 東日本大震災の被災地等における子供・子育てに関する対応
1)被災者支援(健康・生活支援)総合対策に基づく子供に対する支援の推進
復興大臣を座長とし、関係府省局長級からなるタスクフォースにおいて、2015(平成27)年1月23日に「被災者支援(健康・生活支援)総合対策」を策定した。この総合対策においては、様々な形で被災の影響を受けている子供に対する支援を柱の一つとしており、2015年度に、新たに創設した「被災者健康・生活支援総合交付金」により、被災した子供に対する総合的な支援を行うとともに、心のケアや学習支援等に関する取組を継続して多方面から子供に対する支援事業を実施する。
2)被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針の策定
「東京電力原子力事故により被災した子供をはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(平成24年法律第48号)に基づき、2013(平成25)年10月に、子供を始めとする被災者への様々な支援施策を盛り込んだ「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」を閣議決定するとともに、国会に報告した。これに基づき、被災者生活支援等施策を実施中である。
3)「新しい東北」の創造に向けた取組
東北地方は、震災前から、人口減少、高齢化、産業の空洞化等、現在の地域が抱える課題が顕著であった。このため、単に従前の状態に復旧するのではなく、震災復興を契機として、これらの課題を克服し、我が国や世界のモデルとなる「新しい東北」を創造すべく、取組を進めている。具体的には、幅広い担い手(企業、大学、特定非営利活動法人等)による先駆的な取組を加速するための「新しい東北」先導モデル事業等を実施している。
被災地では、子供の外遊びの減少や、生活環境の変化に伴うストレスの発生等の課題が生じている。こうした課題の解決に当たっては、子供の居場所(遊び場、運動の場)づくりや、子供の育ちを身体・精神の両面から支援できる人材の育成等を通じ、元気で健やかな子供の成長を見守る安心な社会づくりを進めることが重要である。
2014(平成26)年度の「新しい東北」先導モデル事業では、子供の遊び場づくり活動を持続可能な取組として様々な地域に広げていくため、災害公営住宅の共用スペースを利用した地域コミュニティの再生にも寄与する取組や、プレイリーダー(指導員)に「心のケア」や食育等の子供支援に関する専門的な能力を多角的に身につけてもらう取組を支援している。
3 被災地における子育て支援の例
東日本大震災の被災地においては、地方自治体や特定非営利活動法人、ボランティア団体などが、子供や子供を抱える人々に対して、引き続き支援を行っている。
《子育て支援サークル等の取組(岩手県気仙地域)》
岩手県沿岸南部に位置する気仙地域(大船渡市、陸前高田市、住田町)では、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災津波により活動拠点が流失するなど、子育て支援サークル等は大きな被害を受けたが、その後各方面からの支援を受けて活動を再開している。
陸前高田市の「おやこの広場きらりんきっず」(現:特定非営利活動法人きらりんきっず)は、発災翌月には、当時市内最大の避難所であった陸前高田市立第一中学校の図書室にて活動を再開。その後も季節行事や子育て講習会、「男の料理教室」など、多彩な事業構成で地域の子育てを支援している。2014(平成26)年度にはカナダの親教育プログラム「ノーバディーズ・パーフェクト」講座を開催し、親自身のエンパワメントや育児スキルの習得、被災生活の長期化からくる閉塞感の払拭、仲間づくりや活動機会の提供等を行った。また、大船渡市の特定非営利活動法人「こそだてシップ」は、助産師スタッフによる仮設住宅等への巡回訪問やママサロンによる母乳・育児に関する相談など、母子保健の観点からの支援を積極的に展開。「のびのび子育てサポーター『スマイル』」や「子育てサークル『きっぴんきっず』」は、絵本の読み聞かせや食育活動、地域の伝統行事を取り入れた活動を行っている。その他、「育児サポートひよ子」や「ファミリーサポートセンター(大船渡市社会福祉協議会)」の一時預かりサービス、子育て支援センターや保育所等での遊び場提供・育児相談対応など、多様なニーズに対応した重層的な子育て支援活動が展開されている。
気仙地域を所管する岩手県大船渡保健福祉環境センターでは、これらのサークルや地域子育て支援センター、社会福祉協議会、学童クラブ、市町担当課等を構成員として、震災前の2009(平成21)年度から「気仙地域子育て支援推進協議会」を設置し、現在も継続して活動を行っている。同協議会では、管内の子育てサークルや保育所、学童、託児サービス、発達相談・支援機関など、子育てに役立つ情報を集約した小冊子「気仙地域子育て支援のわ!」を毎年刊行しており、自治体窓口や健診会場、団体の活動の場等で配布して、住民への子育て情報の周知や各種サービス等の利用促進を図っている。また、震災後に分散してしまったコミュニティでの「孤」育てを防止するため、地域の子育て環境の充実に向けて関係機関のネットワーク体制の強化を図っているところである。
《特定非営利活動法人「冒険あそび場ネット」の取組(宮城県仙台市)》
特定非営利活動法人「冒険あそび場―せんだい・みやぎネットワーク」(以下「冒険あそび場ネット」)は、「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに、子供たちがやりたいことを実現し、遊ぶ中から生きる力を育んでいる。宮城県内では、「冒険あそび場ネット」が指定管理をする「海岸公園冒険広場」が、子供たちを見守るプレーリーダーが常駐する常設の遊び場で、自らの創意工夫を活かせる「進化する公園」として多くの来園者で賑わっていた。
東日本大震災の津波により、この公園の一部は壊滅状態となり現在も閉園中である。しかし、「冒険あそび場ネット」は、震災による子供たちの心のケアが急務であることから、仮設住宅やその周辺の公園、集会所、学校の校庭などでプレーカーによる移動遊び場を始めた。あわせて、被災者の見守りとコミュニティ再生への支援としてのサロン交流活動も行っている。
小中学生が学校から帰ってくるまでの時間は、乳幼児やその保護者、お年寄りたちで賑わう。子供たちのための広場「ちびひろ」は、若い世代の子育てに対する不安を和らげ、仲間意識も芽生えてきた。お茶サロンや、季節行事の企画などを自分たちの手で行うようになり、そういった取組により、地域にも溶け込んできた。津波被害の大きかった沿岸部や、放射能の危険から逃れてきた親子が、ようやく新しい土地での自分の居場所を見つけ、地域の一員となってきたと言える。
発災から4年、いよいよ復旧から復興へと人々の暮らしも次の段階へと進んできた。しかし、それは仮設住宅でできた関係もいったん解体し、コミュニティを再構築しなければならないことを意味しており、新しい生活への期待と不安の中で、親も子も今まで押さえ込んだり忘れようとしたりしていた感情が、何らかの形で表面化する時期といわれている。子供がありのままでいられる遊び場における心のケアは、ますます重要となってきている。子供たちが「遊び」を通して被災した現状を受け止め、自らを癒す力を引き出している「冒険あそび場ネット」の存在は大きい。
「冒険あそび場ネット」は、「恒久住宅」と言われる地区でも遊び場づくりの取組を始めている。発災後の活動の中で、屋外で子供が遊ぶ姿が大人たちも元気にする様子が数多く見られており、子供の遊び場づくりを通して、新たなコミュニティづくりや交流人口の増加など、子供たち・地域を元気にしていく。
《子供の体力向上、肥満解消に向けた取組(福島県)》
福島県では、東日本大震災以前から子供の体力低下や肥満傾向児の出現率の増加が問題となっていたが、震災以降、様々な制限を受け生活している状況にあり、その傾向が顕著になってきている。
体力の向上と肥満解消のためには、幼児期に体を動かす楽しさを感じることが重要であることから、2014(平成26)年度に体を動かすことに親しみながら、運動習慣の定着を図ることのできる「ふくしまっこ遊び力育成プログラム」を作成した。プログラムでは、発達年齢に応じた遊び(じゃれつき遊びや集団遊びなど)や、遊びを自然に誘発するような環境づくりについて紹介しており、遊びを通じて身体能力や社会性、意欲的な心を育むことができるつくりとなっている。2015(平成27)年度には、作成したプログラムをモデルとなる保育所で実践するとともに、専門家による遊び環境の改善や子供の発育にとって望ましい遊びについての助言を行うこととしている。
また、2013(平成25)年度より、子供たちが、「自らの責任で自由に遊ぶ」ことをモットーに、土・木・水・火等を使い、プレーリーダーや地域の大人が見守る中で、空き地など野外空間を活用して、自由な発想でいきいきと遊ぶことができる「冒険ひろば」の取組を実施している。できるだけ禁止事項を少なくし、子供が自らやってみたいと感じる独創的な遊びを通じて、自主性やチャレンジ精神を養うことができる。2014(平成26)年度には、県内6か所で実施しており、2015(平成27)年度は、冒険ひろば間のネットワークづくりなどに取り組む。冒険ひろばの実施に当たっては、実施場所の放射線量を測定し、あらかじめ公開している。利用した放課後児童クラブから、子供たちが普段できない外遊びを満喫できたとの声もあった。
福島県では、今後も、子供たちが安心して遊びや運動のできる環境づくりを通じて、子供の体力向上や肥満解消に取り組むこととしている。