付録

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付録2 少子化社会対策大綱~結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざして~

平成27年3月20日
閣議決定

I はじめに

(少子化は、個人・地域・企業・国家に至るまで、多大な影響を及ぼす。)

我が国の出生数は、第2次ベビーブーム期の昭和40年代後半には、年間200万人を超える新生児が誕生したが、2014年の出生数(推計)は100万1,000人と過去最少、年間の自然増減数(推計)も26万8,000人の自然減(過去最大の減少幅)となるなど、我が国の少子化の進行、人口減少は深刻さを増している。人口減少と合わせて進行する高齢化により、2060年には、高齢化率が約4割に達すると推計されている。

少子化社会は、個人にとっては、結婚や出産を希望しても、実現が困難な社会である。と同時に、地域・企業・国家にとっても、地域・社会の担い手の減少、現役世代の負担増加、経済や市場の規模の縮小や経済成長率の低下など、個人・地域・企業・国家に至るまで、多大な影響を及ぼす。現在の少子化の状況は、我が国の社会経済の根幹を揺るがしかねない危機的状況にある。

(少子化危機は、克服できる課題である。)

フランスやスウェーデンは、子育て支援の充実や仕事との両立支援策など、長期にわたる少子化対策により、一旦は低下した出生率が2.0程度までの回復に成功した。

また、国全体としてみれば少子化が進行し続ける我が国においても、少子化対策に真剣に取り組み、子育てしやすい環境を整備する努力を地域全体で行ってきた結果、高い出生率を保ち、又は、出生率が上昇した地方自治体も出現している。

少子化は、決して解決不可能な課題ではない。

(少子化のトレンドを変えるため、直ちに集中して取り組む。)

少子化は今この瞬間も進行し続けている。少子化への対応は遅くなればなるほど、将来への影響がより大きくなる。直ちに集中して取り組めば、少子化のトレンドを変えることができる。

一方、少子化対策はその効果が表れるまでに長い時間を要する。集中的な取組に加え、長期的展望に立って、粘り強く少子化対策を進めていくことも忘れてはならない。

(結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現をめざす。)

行政による支援の充実に加え、結婚、妊娠、子供・子育てを大切にするという意識が社会全体で深く共有され、行動に表れることで、若い世代が、結婚、妊娠・出産、子育てに対し、より前向きに考えられるようになる。結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こすべきである。

~大綱の検討経緯~

政府内においては、経済財政諮問会議専門調査会「選択する未来」委員会において、人口急減・超高齢社会を超えて、日本発の成長・発展モデルを構築するための検討を行い、報告書を取りまとめている。また、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26年12月27日閣議決定)を策定し、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる観点からなる政策パッケージを盛り込むなど、少子化対策にかかわる様々な検討や取組が進んでいる。

こうした中、本大綱策定に当たって、内閣府特命担当大臣の下、学識者、医師、地方自治体の長、企業、メディアなど少子化対策に関し優れた見識を有する者で構成される「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」を開催し、幅広い関係者から意見聴取を行うとともに、広く国民からも意見を聴き、「少子化社会対策大綱の策定に向けた提言」を取りまとめた。政府としては、この提言を真摯に受け止め、総合的な見地から検討・調整を図り、本大綱を策定する。

II 基本的な考え方~少子化対策は新たな局面に~

(1)結婚や子育てしやすい環境となるよう、社会全体を見直し、これまで以上に少子化対策の充実を図る。

少子化は、個人・地域・企業・国家に至るまで多大な影響を及ぼす。

これまで少子化対策は、主に子育て支援に重点を置いて推進してきた。本大綱は、従来の枠組みを越えて、新たに、結婚や教育段階における支援を加えるとともに、社会全体を俯瞰して、これまで以上に少子化対策の充実を図る。

社会のあらゆる分野の制度・システムについて、結婚や子育てしやすい環境を実現する仕組みになっているかという観点から、見直していくことが必要である。

(2)個々人が結婚や子供についての希望を実現できる社会をつくることを基本的な目標とする。

個々人が希望する時期に結婚でき、かつ、希望する子供の数と生まれる子供の数との乖離をなくしていくための環境を整備し、国民が希望を実現できる社会をつくることを、少子化対策における基本的な目標とする。

こうした個々人の希望がかない、安全かつ安心して子供を生み育てられる環境を整備することにより、希望する子供の数も増えていくことになれば、少子化の進展に歯止めをかけることにつながる。

もとより、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに留意する。

(3)結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じた切れ目のない取組と地域・企業など社会全体の取組を両輪として、きめ細かく対応する。

少子化の進行は、未婚化・晩婚化の進行や第1子出産年齢の上昇、長時間労働、子育て中の孤立感や負担感が大きいことなど、様々な要因が複雑に絡み合っており、きめ細かい少子化対策を網羅的に推進することが重要である。

妊娠・出産、子育て支援というこれまでの段階に加え、それ以前の段階である結婚や教育への支援も含め、一人一人の各段階に応じた支援を切れ目なく行う。

また、行政に加え、地域・企業など社会全体として少子化対策を進めていく上で、それぞれの役割を一層果たすことができる環境を整備する。

(4)集中取組期間を設定し、政策を集中投入する。

今後5年間を「少子化対策集中取組期間」と位置づけ、必要な財源を確保しつつ、政策を抜本的に充実させていくことが必要である。これまで講じてきた政策の効果検証を行うとともに、IIIで掲げる重点課題を設定し、選択と集中を行いつつ、政策を効果的かつ集中的に投入する。

(5)長期展望に立って、継続的かつ総合的な少子化対策を推進する。

「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、中長期展望として、「人口減少に歯止めがかかると、2060年に1億人程度の人口が確保される」と示されている。長期的な展望を持って、子供への資源配分を大胆に拡充し、継続的かつ総合的な少子化対策を進めなければならない。

出生率の回復を実現した諸外国においては、家族関係支出が対GDP比で3%程度以上であり、長期間にわたり、継続的かつ総合的な取組を進めてきた。国民負担率などの違いもあり単純に比較はできないが、こうした諸外国の取組も参考にしながら、「少子化対策集中取組期間」のみならず、長期的な少子化対策を行う上で必要な財源を確保しつつ、少子化対策予算の拡充を図る。特に、子育て支援の充実など様々な現物給付の充実が必要である。

また、若い人々も含め、全ての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換することをめざして、子育て支援が充実するよう必要な見直しを行っていくとともに、税制の検討に当たっても、子育て支援や少子化対策の観点に配慮していくことが重要である。

III 重点課題

(1)子育て支援施策を一層充実させる。

核家族化の進展、共働き家庭の増加、働き方の多様化、地域のつながりの希薄化など、子育てをめぐる環境が大きく変化する中、子育て家庭における様々なニーズに対応するとともに、一人一人の子供の健やかな育ちを実現するため、子供や子育て支援の更なる充実を図ることが最も重要である。

(子ども・子育て支援新制度の円滑な実施)

平成27年4月から「子ども・子育て支援新制度」を円滑に施行し、財源を確保しつつ、幼児教育・保育、地域の子育て支援の「量的拡充」と「質の向上」を図る。

住民のニーズに基づき、また、待機児童のいる都市部のみならず子供の数が減少しつつある地域など、それぞれの地域の実情に応じて、認定こども園、幼稚園、保育所等を始め、延長保育等の多様な保育、放課後児童クラブ、地域子育て支援拠点、一時預かり等の全ての子育て家庭への子育て支援に関する施設・事業の計画的な整備を図る。

(待機児童の解消)

「待機児童解消加速化プラン」に基づき、就労希望者の潜在的な保育ニーズにも対応して、保育所等の整備を始め、小規模保育、家庭的保育等の地域型保育事業の活用により待機児童の解消をめざす。また、「保育士確保プラン」に基づき、保育士確保に向けた取組を進める。

(「小1の壁」の打破)

「放課後子ども総合プラン」に基づく一体型を中心とした放課後児童クラブ及び放課後子供教室の計画的な整備等を着実に推進し、「小1の壁」を打破するとともに、次代を担う人材育成に取り組む。

(2)若い年齢での結婚・出産の希望が実現できる環境を整備する。

初婚年齢や第1子出産年齢の上昇、若い世代での未婚率の増加が、少子化の大きな要因である。特に、非正規雇用労働者の未婚率は、男性では高い傾向にあり、若い世代の経済的基盤を安定させることが重要である。

また、若い世代は、結婚に対する希望が高いにもかかわらず、「適当な相手に巡り会わない」などの理由で希望が実現できておらず、若い年齢での結婚の希望がかなう環境整備が重要である。

(経済的基盤の安定)

若者の雇用の安定、高齢世代から若者世代への経済的支援を促進する仕組みの構築など、若者の経済的基盤の安定を図る。

(結婚に対する取組支援)

適切な出会いの機会の創出・後押しなど、地方自治体、商工会議所などによる結婚支援や、ライフデザインを構築するための情報提供などの充実を図る。

(3)多子世帯へ一層の配慮を行い、3人以上子供が持てる環境を整備する。

国立社会保障・人口問題研究所の2010年の調査によれば、理想の子供数が2人と答えた夫婦の割合は約50%、3人は約40%、4人以上は約5%、1人は約4%となっている。3人以上の子供を持つことは、子育て、教育、子供部屋の確保など、様々な面での経済的負担が大きくなり、それが第3子以降を持てない最大の理由となっている。

全ての子育て家庭を支援していく中で、3人以上子供を持ちたいとの希望を実現するための環境を整備することは、現在の少子化に歯止めをかけることにもつながる。希望を実現するためにも、若い年齢での結婚・出産の希望が実現できる環境整備を行うことが重要である。

(子育て、保育、教育、住居など様々な面での負担軽減)

多子世帯や若者子育て世帯における子育て、保育、教育、住居など、様々な面での負担軽減に取り組む。

(社会の全ての構成員による多子世帯への配慮の促進)

地方自治体、企業、公共交通機関など社会の全ての構成員の協力により、多子世帯への一層の配慮・優遇措置を促進する。

(4)男女の働き方改革を進める。

長時間労働などにより、男性の家事・育児への参画が少ないことが、少子化の原因の一つであり、従来の働き方に関する意識を含めた改革が必要不可欠である。

また、「ワーク・ライフ・バランス」や「女性の活躍」の推進により、男女ともに希望すれば働き続けながら子育てができるなど、多様なライフスタイルが選択できる環境をつくることが必要である。

(男性の意識・行動改革)

長時間労働の是正に加え、人事評価制度の見直しなど経営者・管理職の意識改革を促す。また、男性が、出産直後から育児を行えるよう、出産直後の休暇取得の促進など、実効性の高い方策を推進する。

(「ワーク・ライフ・バランス」・「女性の活躍」の推進)

育児休業の取得や短時間勤務がしやすい職場環境の整備など、ワーク・ライフ・バランスに向けた環境整備を図る。

また、女性の継続就労やキャリアアップ支援など、女性の活躍に向けた取組を進める。

(5)地域の実情に即した取組を強化する。

少子化の状況や原因は、都市と地方など「地域」により異なる。また、結婚、妊娠・出産、子育ては、人々の暮らしそのものでもある。実効性のある少子化対策を進める上で重要なことは、地域が少子化対策の主役になるという視点を持ち、地域の実情に即した取組を進めていくことである。

(地域の強みを活かした取組支援)

都市部に比べ、出生率が高く、三世代近居やワーク・ライフ・バランスの実現がしやすいといった環境にあることなど、地域の「強み」を活かした取組を支援するとともに、先進事例を全国展開する。

(「地方創生」と連携した取組の推進)

少子化対策は地方を創生する上でも極めて重要であり、「地方創生」との連携を意識しながら、国と地方自治体が緊密に連携した取組を進める。

IV きめ細かな少子化対策の推進

重点課題に加え、長期的視点に立って、きめ細かな少子化対策を総合的に推進する。具体的には、別添1に掲げる施策を講ずる。

(1)結婚、妊娠・出産、子育ての各段階に応じ、一人一人を支援する。

(結婚)

結婚に関する希望を実現できるようにするためには、経済的基盤の安定や結婚に対する取組支援などに加え、結婚や子育てなどの喜びを実感できる環境を整備することが重要である。

子育て中の現役世代を社会全体でしっかりと支えるという姿勢を国民に示し、理解を促すための結婚や子育てに関する情報発信の充実などにより、総合的な結婚支援の取組を進める。

(妊娠・出産)

第1子出産年齢が上昇する中、年齢や健康問題を理由に理想の子供数を実現できないという方も多い。母体や子供へのリスクを低減し、安全かつ安心して妊娠・出産ができる環境整備が重要である。

産休中の負担の軽減や産後ケアの充実を始め、「子育て世代包括支援センター」の整備などにより、切れ目のない支援体制を構築していく。また、マタニティハラスメントやパタニティハラスメント防止の取組を充実させる。

(子育て)

子育てへの不安が大きいことが、少子化の要因の一つであり、様々な不安や負担を和らげ、多胎児世帯も含め全ての子育て家庭が、安全かつ安心して子供を育てられる環境を整備することが重要である。また、社会・経済の構造的な変化を踏まえた税制上の配慮の見直しに当たっても、子育てやこれから家族を形成しようとする若い世代への配慮について重点的に検討を行う必要がある。

教育を含む子育ての経済的負担を緩和させるとともに、世代間の助け合いを図るための三世代同居・近居の促進など多様な主体による子や孫育てに係る支援を充実させ、子育てしやすい環境を整備する。また、小児医療の充実や地域の安全を向上させる取組により、子供が健康で、安全かつ安心に育つ環境を整備する。さらに、様々な家庭・子供への支援を推進する。

(教育)

結婚、妊娠・出産、子育て、仕事を含めた将来のライフデザインを希望どおり描けるようにするためには、その前提となる知識・情報を適切な時期に知ることが重要である。

妊娠や出産などに関する医学的・科学的に正しい知識について、学校教育から家庭、地域、社会人段階に至るまで、教育や情報提供に係る取組を充実させる。特に、学校教育において、正しい知識を教材に盛り込む取組などを進める。

(仕事)

結婚、妊娠・出産、子育ての各段階のいずれにおいても、就労を望む場合に、望むタイミングで望む働き方ができるという希望がかなう環境を整備することが重要である。また、若い世代が安心して働ける職場を新たに生み出すことも必要である。

個々人の希望を踏まえた正社員化の促進や処遇改善、子供を持ちながら働き続けることができるロールモデルなどの提示、「地方創生」と連携した地域における雇用の創出などを進める。

(2)社会全体で行動し、少子化対策を推進する。

(結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会づくり)

安心して妊娠・出産、子育てをする上で、妊娠中の方や子供連れで外出する際に生じる様々な支障を取り除き、外出しやすい環境を整備することが重要である。こうした環境整備は、若い世代が妊娠・出産、子育てに対して前向きに考えることにもつながる。

マタニティマーク、ベビーカーマークの普及など、妊娠中や子育て時のバリアフリー化を進めるとともに、地域において子供連れにお得なサービスを提供する取組の全国展開などを行う。

(企業の取組)

少子化対策を推進するに当たり、企業の果たす役割は大きい。従業員が安心して結婚し、子供を生み育てながら働き続けられる環境を整備するとともに、企業が地方自治体やNPOと連携して少子化対策に取り組んでいくことが重要である。

「次世代育成支援対策推進法」などを活用し、企業の少子化対策や両立支援の取組の「見える化」とともに、先進事例を他企業へ波及させるための情報共有を進める。また、表彰の活用や、くるみんマーク等の普及などにより、企業が少子化対策に積極的になるインセンティブを付与する取組を進める。

V 施策の推進体制等

(1)国の推進体制

本大綱に基づき、「少子化対策集中取組期間」において、少子化社会対策会議を中心に、まち・ひと・しごと創生本部とも連携しつつ、内閣総理大臣のリーダーシップの下、政府一体となって早期・集中的な少子化対策に取り組む。平成27年4月から発足する「子ども・子育て本部」を中心に、全省庁挙げて少子化対策に取り組む体制を構築する。

(2)施策の検証・評価

財源を確保しつつ、少子化対策を抜本的に拡充していくためには、国民の理解が不可欠である。少子化対策の成果について、しっかりと検証・評価を実施するため、国民や住民からわかりやすい形での「見える化」を進める。

「少子化対策集中取組期間」である今後5年間を目途として、個別施策について別添2に掲げる数値目標を設定するとともに、その進捗をフォローアップする。フォローアップに当たっては、国の施策だけではなく、取組主体の自主性・自立性を尊重しつつ、地方自治体や企業も対象に入れた仕組みを検討する。

なお、効果の検証・評価やフォローアップに当たっては、自己決定権に十分配慮し、個人にプレッシャーを与えることのないよう十分留意する。

(3)大綱の見直し

本大綱については、施策の進捗状況とその効果、社会情勢の変化等を踏まえ、おおむね5年後を目途に見直しを行うこととする。

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