付録

[目次]  [戻る]

付録3 少子化社会対策大綱の策定に向けた提言

平成27年3月19日
新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会

I 少子化の現状と展望

2014年の出生数(推計)は100万1,000人(過去最少、前年比約2万9,000人減)、年間の自然増減数(推計)も26万8,000人の自然減(過去最大の減少幅)となるなど、我が国の少子化は深刻さを増している。また、安心して子供を生み育て、子供を健やかに育てることが難しくなってきている。

我が国の合計特殊出生率1(以下「出生率」という。)は、1970年代以降低下傾向が続き、人口規模が長期的に維持される水準(人口置換水準(現在は2.07))を下回る状態が続いてきた。出生数も1971年~1974年の第2次ベビーブーム期には、毎年200万人以上であったが、その後低下傾向が続き、ここ数年は毎年100万人強の水準で減少傾向にある。その結果、2008年を境に日本の総人口は減少局面に入り、今後、2020年代初めには毎年60万人程度の減少、2040年代以降は毎年100万人程度の減少となるなど、加速度的に減少し、2060年には人口が8700万人程度となると推計されている。さらに、我が国においては、人口減少とあわせて進行する高齢化により、2060年には、高齢化率2が約4割に達すると推計されている3

人口の減少、特に生産年齢人口(15歳~64歳)の減少は、経済や市場規模の縮小や経済成長率の低下につながり、企業の活動にも大きな影響を与える。2020年頃に予測されている年60万人の人口減少は、毎年人口が0.5%減少することを意味し、2040年代以降の毎年100万人程度の人口の減少は、毎年人口が1%程度以上減少していくことを意味する。労働力人口の減少が加速する中、生産性上昇率が低い現状のままであれば、日本経済全体でプラス成長を続けることは困難になる。

少子化は、人々の生活の場である地域にも深刻な影響を与える。地域によっては、既に人口減少・高齢化が進んでおり、中山間地などでは、過疎化、高齢化、孤立化という深刻な事態を引き起こしているところもある。「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」4によれば、人口減少がこのまま進むと、2050年には、現在人が住んでいる居住地域のうち6割以上の地域で人口が半分以下に減少し、さらに2割の地域では無居住化すると推計されている。少子化は、地域の住民の生活や地域社会の存続にも大きな影響を及ぼすものであり、全国知事会も、「このままいけば近い将来、地方はその多くが消滅しかねず、その流れは確実に地方から都市部へと波及し、やがて国全体の活力を著しく低下させかねない」とする「少子化非常事態宣言」5を発している。

さらに、高齢化が進む中、2060年には、生産年齢人口と65歳以上の高齢者の割合は、1.3対1になる(2014年は2.4対1)と推計されており、将来に向けて、現役世代の負担が大きくなることが見込まれる。少子化は、人口構造として積み重なっていくものであり、現在の少子化が将来の現役世代の減少や総人口の減少につながる。

このように、少子化は、将来の経済や市場規模の縮小、経済成長率の低下、地域・社会の担い手の減少、現役世代の負担の増加など、我が国の社会経済の根幹を揺るがしかねない深刻な問題である。また、少子化は、我が国全体あるいは地域の人口や人口構造に直結する課題であり、今や、あらゆる制度・システムを検討する上で、「要」となる問題となっている。

少子化対策は、効果が出るまでに長い時間を要するが、早く取り組めば取り組むほど効果が上がるものである。例えば、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(平成26年12月27日閣議決定)では、「若い世代の結婚・子育ての希望が実現するならば、我が国の出生率は1.8程度6の水準まで向上することが見込まれる」とし、「仮に、2030年~2040年頃に出生率が人口置換水準まで回復するならば、2060年に総人口1億人程度を確保し、その後2090年頃には人口が定常状態7になることが見込まれる」との将来推計を示している8。さらに、一定の仮定を置いた試算の結果として、「出生率の向上が5年遅れるごとに、将来の定常人口9はおおむね300万人ずつ減少することとなる」としている。

少子化対策への取組は待ったなしである。直ちに取り組むことで、少子化の流れを変えていくことができる。将来世代の負担を緩和するためにも、今を生きる我々が、少子化対策の抜本的拡充に取り組む必要がある。

フランスやスウェーデンは、出生率が低下した時期がある。フランスでは1.66(1993年)、スウェーデンでは直近で1.50(1999年)まで低下したが、家族支援政策を充実させ、長期間にわたり継続的かつ総合的な取組を行い、2010年時点では、出生率が2.0程度まで回復した。我が国においても、例えば、長野県下條村や鹿児島県伊仙町では、若者支援や子育て支援に力を入れ、相対的に高い出生率を維持している。

少子化危機は、解決不可能ではなく、克服できる課題である。早期に集中的な取組を行うとともに、長期的展望に立って、継続的かつ総合的な少子化対策を粘り強く進めていく必要がある。


1 合計特殊出生率(期間合計特殊出生率)は、ある1年において、15歳~49歳の各年齢の女性の出生率を合計したものであり、1人の女性について、それぞれの年齢ごとの出生率で出産すると仮定した場合、一生の間に生む子供の数に相当する。

2 人口全体に占める65歳以上の人口の割合として推計。

3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位(死亡中位)推計による。

4 平成26年7月国土交通省

5 平成26年7月15日全国知事会

6 若い世代における結婚や出産に関する希望等がかなうとした場合に想定される出生率(国民希望出生率)として、「出生動向基本調査」で把握した結婚や子供数の希望等を基に、一定の仮定に基づき、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局において算出したもの。詳細については、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」〈参考資料集〉(平成26年12月27日内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局)p.19を参照。

7 人口が長期的に安定している状態

8 具体的な将来推計は、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」(平成26年12月27日閣議決定)の図1(我が国の人口の推移と長期的な見通し)において示されている。この推計では、2020年に出生率=1.6程度、2030年に1.8程度まで向上し、2040年に人口置換水準(2.07)が達成されるケースを想定している。

9 人口が長期的に安定している状態(定常状態)における人口

II 基本的な考え方~少子化対策は新たな局面へ~

1 早期・集中的に少子化対策を進める

新たな少子化社会対策大綱は、上記の現状や展望も念頭に置きつつ、何よりも、結婚・妊娠・出産・子育ての希望が実現できていない人が多いという我が国の状況にしっかりと取り組み、結婚や出産についての個人の選択を尊重しつつ、家庭を築きたいという国民それぞれの希望がかなえられ、幸せを実感でき、次代を担う子供たちが健やかに育つ社会を作っていくものでなければならない。

少子化対策は、長期的な視点を持って、総合的・継続的な取組を必要とするものであるが、特に、「経済財政運営と改革の基本方針2014」(平成26年6月24日閣議決定)に示された「2020年を目途にトレンドを変える」ためには、2015年から今後5年間を「少子化対策集中取組期間」と位置付け、政策効果の検証を行いつつ、必要な財源を確保し、施策を抜本的に充実させていくことが必要である。その際には、フランスなど出生率の回復に成功した諸外国の取組や理念を参考にしつつ、これまでの我が国の少子化対策の延長線上にない施策を含めて検討する。

また、同基本方針で示されているように、従来の少子化対策の枠組みにとらわれず、社会全体を俯瞰し、福祉分野以外にも、教育、社会保障、社会資本整備、地方行財政、産業振興、税制などが、真に若者・子供世代や次の世代のためになっているか、結婚しやすく子育てしやすい環境を実現する仕組みになっているかという観点から、あらゆる分野の制度・システムを見直していくことも必要である。

平成27年度からは、「子ども・子育て支援新制度」が本格施行される。この制度では、少子化対策を社会保障の一つとして明確に位置付け、安定財源を確保しつつ、地域の実情に応じて、幼児教育・保育・子育て支援について、待機児童の解消のための保育の受け皿確保等の量的拡充や、職員の配置や処遇の改善等の質の向上を図ることとしている。また、国・地方自治体に加え、企業にも次世代育成の取組を求める「次世代育成支援対策推進法」が延長・充実される。さらには、人口減少問題や「東京一極集中」という社会構造に対して正面から取り組んでいく「地方創生」の取組も本格化する。女性の活躍の推進についても、新たな法的枠組みづくりが進められており、取組が加速化されている。こうした動きと連携しながら、少子化対策に早期・集中的に取り組んでいく必要がある。

2 ライフステージの各段階に応じ、一人一人を支援する

結婚から妊娠・出産・子育てまでのライフステージの各段階に対応した支援を切れ目なく行い、若い世代の結婚や出産、子育ての希望がかない、喜びを感じられる社会の実現を目指す。そのためには、結婚・妊娠・出産・子育ての各段階において一人一人の希望の実現を阻害している要因を取り除くとともに、希望の実現を支援することが必要である。結婚の段階よりさらに前の教育や就労段階も重視するとともに、子育てについても高等教育や就職までを見据えるなど、従来よりも視野を広げた取組が必要である。特に、女性の社会進出が進み、共働き世帯が増加する中、「全ての女性が輝く社会づくり」と連携し、希望どおり男女が共に働き、希望する数の子供を共に育てられる社会の実現を目指していくことが必要である。また、若い世代にとって、結婚、出産、子育て等により得られるものが、費用や失うものよりも大きいと感じられる社会を、作っていく必要がある。

3 地方自治体との連携を強化し、地域ごとの少子化対策を推進する

少子化の状況や原因が、都市と地方など「地域」により異なることから、地域の実情に即した取組が必要である。また、結婚・妊娠・出産・子育ては、人々の暮らしそのものであり、暮らしの場である「地域」を重視しながら、取組を進めることが必要である。すなわち、安心して子供を生み、育てられる「地域」、子供が安全な環境の中で健やかに育つことができる「地域」の実現を目指して、国と地方自治体が連携して、「地域」の実情に即した取組を進める必要がある。

「地方創生」の取組と少子化対策の取組は、国においても地方自治体においても、相互に依存し、深く関係するものである。地方自治体は、国の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を勘案し、「地方人口ビジョン」及び「地方版総合戦略」を策定し実行するよう努めるものとされているが、新たに国が策定する少子化社会対策大綱と連携した少子化対策の取組を発展・充実させるなど、両者の連携を意識しながら、少子化対策を進めていく必要がある。

4 社会全体で行動し、少子化対策に取り組む

子供を生み育てやすい社会を築く上で、妊娠・出産・子育てという心理的・肉体的・経済的・時間的な負担が大きい時期に、周囲から温かく受け入れられ、必要な支えを得られることは、何よりも重要なことである。次世代を生み育てることや、妊婦、子供、子育てを大切にするという意識が社会全体で共有され、行動で示されることで、妊婦や保護者の安全や安心感が増し、また、若い世代が、妊娠や子育てに対し、より前向きに考えることができるようになる。妊婦や子供を迷惑なもののように扱う心無い事例が一部報じられるが、未来を育むことを大切にできない社会に、明るい未来はない。子供たちや子育てを通じて、地域の親世代や関係者、様々な住民が協力することは、子育てしやすい地域が作られるだけでなく、地域の連帯や人々のつながりが強まり、地域全体の幸せや安全構築にもつながるものである。

子育てとともに、子育ちも重要であり、子供が健やかに育つことができる社会を実現していく必要がある。子供の健やかな育ちと子育てを支えることは、一人一人の子供や保護者の幸せにつながることはもとより、将来の我が国の担い手の育成の基礎をなす、重要な未来への投資であり、社会全体で取り組むべき最重要課題の一つである。

少子化問題を世代間対立の問題としてはならない。全ての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換することを目指し、若い世代の将来への不安を安心と希望に変え、全ての世代が、未来に向けて協力し合うことが重要である。

少子化問題や若者の結婚・妊娠・出産・子育てが我が国の社会全体にとって、国民一人一人にとっても、地域や企業などにとっても、非常に重要なことであるという認識を共有し、行政、地域、企業、NPO、高齢者、メディアなどが、それぞれの役割を果たしながら連携し、社会全体で行動を起こしていくことが重要である。

III 重点的に取り組む課題

若者が、希望どおりに結婚し、希望する数の子供を持ち、安心して子育てをできるようにするとともに、子供の健やかな育ちを支援していくためには、総合的な少子化対策の取組を更に強化・充実していく必要がある。その際には、以下のような視点を重視し、選択と集中を行いつつ、少子化対策の充実を図る。

1 子育て支援施策の一層の充実

子育て支援の充実は、安心して子供を生み、育てることができ、また、子供が健やかに育つことができる社会を実現していく上で不可欠である。家庭や地域を取り巻く環境の変化を踏まえながら、子育て現役世代をしっかりと応援していくことは、人々の子育ての希望の実現につながるとともに、若い世代が結婚・出産・子育てに対して夢や希望を持つことにつながるものである。親の生活スタイルや住む地域の違いにかかわらず、全ての子育て家庭を支援し、子供の健やかな育ちを支援するため、「子ども・子育て支援新制度」の円滑な施行と必要な財源の確保を通じて、地域の子育て支援の質・量の一層の充実を図るとともに、行政、NPO、企業、住民等が連携して、子育てをしやすい地域づくりを進めていくことが重要である。

2 若い年齢での結婚・出産についての希望が実現できる環境の整備

初婚年齢の上昇や、若い世代での未婚率の増加が、少子化の大きな要因10であり、若者の結婚の希望がかなうような環境の整備が極めて重要である。若者の結婚の希望が実現するよう、また、希望に応じて若い時期に結婚できるよう、若者の雇用の安定、結婚生活を維持するための経済的な安定、子供を持つ時期を含めたライフデザインの形成、女性の活躍と結婚・妊娠・出産との両立、男女ともの仕事と子育ての両立、結婚・子育てに対して前向きなイメージが持てるための環境整備等が重要である。そのためにも、子育て現役世代をしっかりと支えることが重要である。


10 1975~2005年の期間合計特殊出生率の変化に対して、初婚行動の変化の寄与が77.7%とされている。(岩澤美帆(2008)「初婚・離婚の動向と出生率への影響」『人口問題研究』第64巻4号、23ページ)

3 子育て支援における多子世帯への一層の配慮

国立社会保障・人口問題研究所によれば、1955年生まれの女性のうち子供の数が3人以上である者が約3割であるのに対し、1975年生まれの女性のうち子供の数が3人以上である者は約15%程度(推計)に低下している11

全ての子育て家庭を支援し、子供の数にかかわらず子供を安心して生み育てられる環境を整備することに加えて、国民が抱く子供の数の希望を実現するためには、子供の数に伴って増加する経済的負担の問題に対応していく必要がある。特に、3人以上の子供を持ちたい方の希望が実現しない理由で最も多くの方が挙げているのが経済的理由12であり、子育て支援に当たって、多子世帯への配慮を行っていく必要がある。


11 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位推計に用いられた仮定値より。1955年生まれの女性の子供数をみると、子供2人が47.1%、3人が23.4%、1人が11.8%、4人以上が5.0%、無子が12.6%である一方で、1975年生まれの女性については、子供2人が34.9%、3人が11.8%、1人が19.5%、4人以上が3.5%、無子が30.3%と推計されている。

12 国立社会保障・人口問題研究所の「第14回出生動向基本調査」において、理想子供数が3人以上で予定子供数が2人以上の夫婦について、予定子供数が理想子供数を下回る理由として最も多いのは、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」であり、71.1%であった。なお、同調査において、理想子供数が3人と答えた夫婦の割合は39.6%、4人:4.6%、5人以上:0.8%となっており、45%の夫婦が理想子供数を3人以上と回答している。

4 男女の働き方改革 ~特に男性について~

男女が安心して働きながら、結婚・妊娠・出産・子育てできることが重要であり、そのためには、まず、長時間労働の抑制が必要である。長時間労働は、経営者を始めとした社会全体の意識の問題とも深くかかわっており、従来の働き方に関する意識を含めた改革が必要不可欠である。また、多様な働き方の推進や長時間勤務の抑制、休暇制度の改善等を含めた休暇の取得促進などにより、仕事と生活の調和が図られることが必要である。ワーク・ライフ・バランスの推進や仕事と育児を両立している男性のロールモデルを示すことにより、男性の家事・育児への参画が進むとともに、女性にとって子育てか仕事かの二者択一がなくなり両立できる見通しを立てられるようになること、さらには、男女が共に働き続けることにより、若い世帯の経済的基盤が安定するなどの効果が考えられる。

5 地域の実情に即した取組の強化

実効性のある少子化対策を進める上で重要なことは、地域が少子化対策の主役になるという視点を持ち、地域の実情に即した取組を進めていくことである。「子ども・子育て支援新制度」に加え、内閣府の地域少子化対策強化交付金などにより、地方を主体とする取組が広がりつつある。

地方自治体が効果的な少子化対策を行うためには、行政のみではなく、地域の結婚・妊娠・出産・子育てに関係する施設や団体、企業とも連携し、少子化対策を推進するためのプラットフォームを構築・強化・拡充しながら、また、地域の若い世代の意見を十分に汲み取りながら、取組を進めていくことが重要である。さらに、地方自治体が、地域の実情に即した結婚・妊娠・出産・子育ての各段階に応じた総合的な少子化対策を進めることができるよう、「地方創生」の取組とも連携した取組を進めていくことが必要である。

IV ライフステージの各段階に応じた支援

1 教育

〈意義・現状〉

若い世代が、結婚や子育ての希望を実現するためには、将来の結婚・妊娠・出産・子育てを含めて、暮らしと仕事の将来像を適切に設計できることが重要であり、その前提となる正しい知識を、教育等を通じて提供することが必要である。

〈施策の方向性〉

妊娠適齢期等に関する正しい知識を教育の中で提供するとともに、ライフデザインについても学ぶ機会を提供することが必要である13。また、男女が、共に働き、共に子育てを行うというライフスタイルの選択を行いやすいよう、学校教育段階から、家事・育児やキャリア形成、両者の両立について学ぶことができることが必要である。こうしたことを家庭や地域でも学べることも重要である。あわせて、教育課程が修了した者(社会人等)に対しても、適切な情報提供、普及啓発を行っていく必要がある。なお、教育を受ける側がどのようにメッセージを受け取るかという点に留意しつつ、取組を進めていく必要がある。また、結婚や妊娠・出産に関する教育・情報提供は、個人の自由な選択を可能にするという観点から行うべきものである。


13 妊孕性の知識(国・男女別)について、日本は主要国の中でトルコの次に低い水準との調査結果がある。(第3回検討会における齊藤英和委員提出資料)

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 妊娠適齢期や不妊、健康な体づくりを含めた妊娠・出産についての医学的・科学的に正しい知識等の教育・普及啓発
    • 個人が将来のライフデザインを描き、妊娠・出産等についての希望を実現できるように、必要に応じ、専門家の意見を取り入れながら、医学的・科学的に正しい知識を適切な教材に盛り込むとともに、教職員の研修などを行うことが必要である。
    • 結婚・妊娠・出産・子育てなどの暮らしと仕事の将来像を適切に設計するための教育・普及啓発
    • 家事・育児参画やキャリア教育を含めた教育・普及啓発

2 仕事

〈意義・現状〉

若い世代の経済的基盤を安定させることが、結婚、子育てを安心して行うことにつながる。正社員として働くことによる雇用の安定や、夫婦が共に働き続けながら、安心して子育てができる環境の整備が重要である。また、地方では、女性にとって正規雇用に就く機会が少なく、若い女性が地域から都市に移動する原因となり、地域の少子化に拍車をかけているとの指摘もある。

〈施策の方向性〉

ライフステージの中で、就労する・しない、就労する場合、望むタイミングで望む働き方ができるという個人の希望がかなうよう、環境整備や支援が必要である。子供を持ちながら、自らの人生を追求できる、いろいろな働き方を選択できることが重要である。仕事と子育ての両立ができていない職場もあり、そこで働く若者が将来の両立の実現を不可能と考える原因になっているとの指摘もある。制度の充実や意識の改革などを通じてワーク・ライフ・バランスが実現できる環境を整備することや、子供を持ちながら働き続けたいと思うようなロールモデルを示していくことも必要である。また、地域において「しごと」を創生していく取組も重要である。その際、雇用者のみならず、自営業者・家族従業員としての働き方についても考慮することが必要である。さらに、非正規雇用が増えている現状に鑑み、その希望等を踏まえた正社員化の推進や処遇改善の取組を進めていく。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 若者の雇用の安定
    • 新卒者等への就職支援やフリーター等の正規雇用化支援、職場定着支援
    • 就職準備段階から、就職活動段階、就職後のキャリア形成に至るまでの若者雇用対策が社会全体で推進されるよう、法的整備を行い、総合的かつ体系的な対策を推進
    • キャリアアップ助成金の活用等による非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の促進
  • 正規・非正規にかかわらず妊娠・出産前後での継続就業支援と仕事と子育ての両立
    • 長時間勤務の抑制
    • 短時間勤務やテレワークなど柔軟な働き方の実現
    • 育児休業制度の充実と休業からの円滑な復帰の支援
    • 保育所等の整備による待機児童解消
    • 「小一の壁」を打破し次代を担う人材育成をするため、「放課後子ども総合プラン」を着実に実施
    • 仕事と子育ての両立を後押しするための人事評価制度の見直し
  • 職場における母性健康管理やマタニティハラスメント防止(後掲)
  • 女性の再就職、復職等支援
  • 地域における女性の活躍推進

3 結婚

〈意義・現状〉

未婚化・晩婚化が少子化の大きな要因となっており、若い世代の結婚の希望がかなう社会を実現する必要がある。平均初婚年齢は、1993年から2013年の20年間で、男性は28.4歳から30.9歳に上昇し、女性は26.1歳から29.3歳に上昇している。また、30代前半の未婚率も、1990年から2010年までの20年間で、男性が32.6%から47.3%に、女性が13.9%から34.5%に、それぞれ大きく上昇している。特に、男性については、非正規雇用労働者の未婚率が高い傾向があり、30代前半では、正規雇用で36.1%に対し、非正規雇用では70.5%となっている(2013年)。一方で、18歳から34歳の未婚者で結婚を希望する人は約9割おり(出生動向基本調査、2010年)、結婚に対する希望が引き続き高いにもかかわらず、必ずしも希望が実現できていない状況にある。

〈施策の方向性〉

独身にとどまっている理由を調べると、「適当な相手にめぐりあわない」「結婚資金が足りない」等を挙げる方が多い。結婚のため、あるいは結婚後の生活のための経済的安定のためには、若い世代の男女の雇用の安定、収入の低い者や不安定な者に対する結婚生活の経済的安定への支援、男女の仕事と家庭の両立や継続就業支援などの取組が必要である。加えて、適切な出会いの機会の創出・後押し、ライフデザインの形成への支援等を通じて、若者の結婚の希望がかなうような環境を整えるなど、総合的な結婚支援の取組が重要であり、結婚時期の前倒しにもつながると考えられる。また、若者が出会い、結婚し、子供を持ち、育てることの喜びなど家族形成のポジティブな面をアピールするとともに、子育て現役世代への支援等を通じて、そのような実感の持てる社会を実現していく必要がある。

雇用環境や若年者の意識が変化する中、男女が共に働き共に子育てするという選択ができることも重要である。女性の高学歴化や就労が進む中、妊娠・出産に適した年齢と、仕事を始めてからのキャリア形成期が重なることもあり、結婚・出産・子育てと仕事の両立が非常に重要になっている。女性の活躍と両立しながら、晩婚化に歯止めをかけ、反転させていくことが必要であり、男女が共に働き、共に子育てできるよう、若い年齢での結婚、出産、子育てがキャリア形成の大きな阻害要因にならないような働き方改革、人事評価制度や両立支援が求められる。

当然のことながら、結婚は、個人の選択に基づくものであることに留意しながら、取組を進める必要がある。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 結婚や子育て、家族形成に関する前向きな情報の発信
  • ライフデザイン構築のための支援
    • 結婚、妊娠、出産、子育てなどのライフイベントや学業、キャリア形成などを含めた人生設計を行うための情報提供やコンサルティングなどの支援を行う。
  • 若者の雇用の安定(再掲)
  • 地方自治体等による結婚支援と、その充実に向けた国の支援
    • 地方自治体、商工会議所、企業等の取組を把握・分析し、より地域の実情や支援対象に合った総合的かつ効果的な結婚支援事業が行われるために必要な支援を行う。
  • 高齢世代から若年世代への経済的支援の促進
  • 低所得者の経済的負担の軽減

4 妊娠・出産

〈意義・現状〉

第1子出産年齢は、1993年の平均27.2歳から、2013年の平均30.4歳に上昇しており、こうした中、年齢や健康問題を理由に理想の子供数を実現できないという方も多い。また、高年齢になってからの妊娠・出産も増えているが、母体や子供へのリスクが高まることや、不妊治療による妊娠・出産が増えている一方で、不妊治療を行ったものの、高年齢等の理由により、子供を授かることを断念せざるを得ない方も多いとの指摘がある。

〈施策の方向性〉

妊娠・出産に関する希望がかなうよう、適齢期での妊娠・出産を行いやすい環境を整備する必要がある。そのためには、妊娠と年齢の関係、男性不妊、ライフスタイル、体重、喫煙などのリスクファクター等を含めた正しい情報提供を男女ともに行い、また、個別の相談に対応することにより、子供を持つことを希望する方が適切に判断・行動できるよう支援することが重要である。さらに、妊娠前や妊娠中から出産後の様々な情報を提供し、相談対応することで、産後への不安を和らげることも必要である。

また、正規・非正規にかかわらず、妊娠中や出産後も、職場等において必要な配慮を受けながら仕事を継続できることが、妊娠・出産の安心につながる。あわせて、妊産婦の体と心の健康を支援するために、周産期の医療や支援体制の充実や、妊娠・出産・子育ての切れ目のない支援等が必要である。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 妊娠・出産等に関する医学的・科学的に正しい知識の教育・情報提供と相談支援の充実(再掲)
  • 健康な体づくり・感染症予防
  • 不妊治療への支援
    • 不妊治療への支援を行うとともに、より早い段階からの治療が効果的であること、不妊の原因は男女どちらにもあり得ること、不妊治療を行っても子供を授かることができない場合があること等を周知する。
  • 「子育て世代包括支援センター」の整備
    • 保健師等の専門職等が妊産婦等に対して総合的相談を行うとともに、必要なサービスをコーディネートし、切れ目のない支援を実施する。
  • マタニティハラスメントの防止(後掲)
  • パタニティハラスメントの防止(後掲)
  • 非正規雇用の労働者も産休・育休が取得できることに関する啓発等
    • 非正規雇用の労働者が産前産後休業や育児休業を取得しつつ、継続就業できる雇用環境整備のための具体的な方策を検討する。
  • 周産期医療の確保・充実
  • 産休中の負担の軽減
  • 産後ケアの充実
    • 産後ケアの充実と質の向上を図り、産婦の不安の払しょくや産後うつ等への対応を行い、母親の心身の健康を確保するとともに、児童虐待の防止につなげる。また、産後ケアのガイドラインの策定についても検討する。

5 子育て

〈意義・現状〉

子育ての環境が大きく変化する中、子育てへの不安・負担感や孤立感が大きくなっており、子育て現役世代をしっかりと支援していく必要がある。子育ての不安や悩みを和らげ、安心して子供を育てられるよう、地域の子育て支援の充実を図るとともに、子供が発達段階に応じた支援を受けて健やかに育つことができ、社会生活に必要なことを学ぶことができるよう、教育・保育の質の向上を図る。さらに、子育てに伴う経済的負担について、多子世帯や低所得世帯を中心に緩和することが必要である。

〈施策の方向性〉

平成27年4月から、「子ども・子育て支援新制度」を本格施行し、都市部のみならず様々な地域のニーズを踏まえて、幼児教育・保育・子育て支援を質・量ともに充実させることが必要である。また、地域全体での子育て支援の充実を図るためには、こうした行政の取組に加え、地域のNPOや高齢者など、多様な主体による子育て支援への参画が必要である。さらには、祖父母等などからの子育てへの支援が行いやすくなるよう、三世代同居・近居の促進や経済的支援の円滑化を図ることが必要である。

理想の子供数を持たない理由としては、第3子以降に関し、71.1%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を理由として挙げている。このため、多子世帯に配慮しつつ、幼児教育やそれ以降の学校教育の費用を含め、子育てに係る経済的負担の軽減に取り組むことが重要である。また、社会・経済の構造的な変化を踏まえた税制上の配慮の見直しに当たっても、子育てやこれから家族を形成しようとする若い世代への配慮について重点的に検討を行う必要がある。

安心して子供を育てられるためには、小児医療や地域の安全が重要である。また、ひとり親家庭など様々な家族・子供に対し、相談や情報提供を含め、家族の置かれた状況に適切に対応し、全ての子供の健やかな育ちを支援していくことが必要である。さらに、災害、犯罪、交通事故等から子供を守るための取組も重要であり、普段からの関係者の連携した取組が、地域の安全の確保と子育て力の向上につながる。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

(子育て支援の充実)
  • 「子ども・子育て支援新制度」の本格的実施
    • 子育て家庭の多様なニーズに対応した幼児教育・保育・地域の子育て支援の質・量の更なる充実
    • 上記のために必要な1兆円超程度の財源の確保(消費税引上げによる財源(0.7兆円程度)を含む。)
    • 認定こども園の普及
    • 利用者支援、地域子育て支援拠点、一時預かり、延長保育、病児保育等の地域における多様な子育て支援の充実
  • 「待機児童解消加速化プラン」の着実な実施
    • 保育所等の整備を始めとして、小規模保育、家庭的保育、事業所内保育等の地域型保育事業の活用を含め、5年間で約40万人分(平成27年度からの3年間で約21万人分)の保育の受け皿を確保し、平成29年度末には待機児童を解消
    • あわせて「保育士確保プラン」による処遇改善や人材育成を含めた保育士確保
  • 「放課後子ども総合プラン」の着実な実施
    • 「放課後児童クラブ」について、平成27年度から対象をおおむね10歳未満までから小学生までに拡大するとともに、平成31年度末までの5年間で約30万人分の受け皿を確保
    • 「放課後児童クラブ」と「放課後子供教室」について、全ての小学校区(約2万か所)で一体的に又は連携して実施。うち1万か所以上を一体型として実施することを目指す。
  • 次世代育成支援対策推進法の延長・拡充を通じた、地域の子育て環境の充実や雇用主としての国、地方自治体、企業による子育て支援の取組の促進
  • 地域の子育て、家庭教育支援
    • 高齢者・NPOの活動支援
    • 子育てに関する相談、情報提供支援
  • 祖父母等による支援
    • 三世代同居・近居のための優遇策等を通じた三世代同居・近居の促進
    • 祖父母等からの経済的支援
  • 子育て・教育における経済的負担の軽減
    • 幼児教育の段階的無償化の取組
    • 高等学校等就学支援金制度・高校生等奨学給付金制度等の着実な実施による高校生等の教育費負担の軽減
    • 授業料減免や、奨学金事業の充実等による大学生等の教育費負担の軽減
(多子世帯への配慮)

3人以上の子供がいる世帯など、多子世帯については、子育て、教育、子供部屋など住居等、様々な面での経済的負担が大きくなり、それが第3子以降を持てない最大の理由となっていることから、子育てに係る様々な負担について、特に多子世帯に対して社会全体で支援する仕組みを充実させていくことが必要である。子育て、保育、教育、住居等様々な面での負担軽減策の充実に取り組むとともに、地方自治体、企業、公共交通機関などの協力などによる配慮・優遇措置を求めることが必要である。

  • 子育て、保育、教育、住居等様々な面での負担の軽減
  • 社会のあらゆるセクターによる多子世帯への配慮・優遇措置
    • 子育て支援パスポート事業
    • 公共交通機関での負担の軽減等
(継続就業/両立支援)
  • 男女の仕事と子育ての両立支援(再掲)
  • 男女の学業と子育ての両立支援
    • 企業・大学等教育機関等において、仕事・学業と子育ての両立ができる環境の整備を促進する。
(子供の健康と安全・安心)
  • 小児医療の充実、予防接種
  • 災害、事故、犯罪から子供を守る取組
    • 地方自治体において、乳幼児、妊産婦等の要配慮者に十分配慮した防災知識の普及、訓練の実施、物資の備蓄等を行うとともに、指定避難所における施設・設備の整備に努め、災害時に子供を守るための関係機関の連携強化を進める。
    • 子育てしやすい住宅の整備
    • 食育の推進
(子供の貧困対策との連携)
  • 「子供の貧困対策に関する大綱」と連携した取組の推進
(様々な家族・子供への支援)
  • 児童虐待対策
  • 社会的養護の充実
  • ひとり親家庭支援
  • 障害のある子供への支援
  • 困難を有する子供・若者への支援

V 社会・地域・企業における取組

1 妊婦、子供や子育てに温かい社会・地域づくり

〈意義・現状〉

地域や職場、さらには周囲の様々な方が、妊婦や子供、さらには子育てを温かく見守り、困っているときには、必要な手助けを行うことが、安心して妊娠・出産・子育てができる社会につながる。妊娠・出産・子育てに対する支援を制度面で充実し、必要な支援が行われるようにすることに加え、国や行政が妊婦や子供を応援しているというメッセージがしっかりと当事者や若者世代に届くこと、そして、生命を生み、育むことの大切さへの理解が社会全体に広がっていき、一人一人の意識・行動が変わっていくことが必要である。

〈施策の方向性〉

企業において、妊娠・出産・子育てを理由としたハラスメントが意識的又は無意識的に行われ、女性の継続就業や出産へのモチベーションを下げていると指摘されている。妊娠・出産・子育てについて職場での不利益な扱いが行われることなく、積極的な支援が進むよう、いわゆる「マタニティハラスメント」に関する指針や「くるみんマーク」の周知を含め、関連労働法規の周知・遵守の徹底を求める必要がある。

さらに、実際に子供連れで外出することの支障が少なくなり、より安心して楽しく外出することができれば、負担を軽減し、子供を持つことの楽しさを実感することにつながる。このため、ベビーカーマークの普及や、乳幼児と一緒に出掛けることを支援する施設やサービスの拡充などが重要である。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 「マタニティハラスメント」の防止
    • マタニティハラスメントの防止のため、男女雇用機会均等法等で禁止されている「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」に該当する具体的内容を示した「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」の周知に加え、さらに分かりやすく具体的な事例を示しての普及活動や、意識啓発などのキャンペーン、企業に対する指導の強化を行うことが必要である。
  • マタニティマーク、ベビーカーマーク、くるみんマークの普及
  • 妊婦に優しい施設や妊婦が外出しやすいまちづくり
  • 駅や小売店等を活用した子供(多子世帯、多胎児の世帯を含む。)と外出応援施設・サービス、交通機関での子供連れへの配慮
  • 子供と一緒だとお得なサービス等の検討(子育て支援パスポート事業の全国展開等)
  • 人としての尊厳や、生命を生み、育むことの大切さへの理解を広げる取組

2 地域における少子化対策

〈意義・現状〉

都市と地方など、地域により少子化の状況は様々である。また、結婚・妊娠・出産・子育ては、人々の暮らしそのものであり、暮らしの場である「地域」が、安心して子供を生み育てられる環境であることが重要である。

〈施策の方向性〉

実効性のある少子化対策を進めていくためには、地域が少子化対策の主役であるとの視点をもって、地域の実情に即して施策を充実していくことが必要であり、基礎自治体が地域のニーズに即した取組を進め、都道府県が基礎自治体の取組を支援するとともに、広域的な取組を進め、国が、全国的な制度を構築するとともに、こうした地方自治体の取組を支援することが重要である。

また、「地方創生」の取組とも連携しながら、例えば、地方自治体が「地方版総合戦略」の策定に当たり、国が新たに策定する少子化社会対策大綱も勘案しつつ、少子化対策の取組を発展・充実させるとともに、若い世代、特に若い女性にとって魅力的な地域や仕事を作っていく必要がある。

多くの地域は、都市部に比べ、通勤時間も短く、同居・近居など家族の支援も得やすいことから、仕事と子育ての両立やワーク・ライフ・バランスが実現しやすい環境にある。このような地域の「強み」も生かした少子化対策に取り組み、先進事例を全国に展開していくことが期待される。

子供が生まれると、基礎自治体にとっては、子育て支援などによる財政的負担が大きくなる。地方自治体が少子化対策を行うことで地方財政の悪化につながることがないよう、地方自治体を支援していくための方策について検討が必要である。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 地域の実情に即した地方自治体の取組の支援
  • 地方自治体の取組及び実情の「見える化」の推進
  • 「子ども・子育て支援新制度」による地域の実情に即した子育て支援の充実
  • 地方自治体において、地域の結婚・妊娠・出産・子育てに関係する施設や団体、企業とも連携し、少子化対策を推進するためのプラットフォームの構築・強化・拡充
  • 「地方創生」の一環として、他の施策とともに行う少子化対策の取組の推進
  • 災害、事故、犯罪から子供を守る取組(再掲)

3 企業の取組

〈意義・現状〉

従業員の仕事と子育ての両立や若者世代の雇用の安定、地域の子育て支援への参画・協力、顧客・利用者である妊産婦や子育て家庭への配慮など、少子化対策を進めるに当たり、企業の果たす役割は大きく、企業との連携は非常に重要である。少子化は、労働力供給や日本の経済規模そのものに影響を与えるものでもあり、経済界全体にとっても極めて深刻な問題である。経済界全体に加え、個々の企業においても、少子化について危機感を共有し、取組を進めていくことが重要である。

〈施策の方向性〉

多くの方が働く場である企業において、従業員が安心して結婚し、子供を生み育てながら、働き続けられる環境が整えられることが必要である。そのような職場環境の整備は、従業員にとってだけではなく、企業にとっても、人材の確保などの観点からも重要である。平成27年4月に延長・充実される次世代育成支援対策推進法に基づき、各企業が定める行動計画の内容の充実が期待される。

少子化対策の取組の効果を企業内で検証するための指標づくりを含めて、企業の少子化対策や両立支援の取組の「見える化」や先進事例を他企業へ波及させるための情報共有を進めるとともに、表彰等を活用しながら、企業が子育て支援・少子化対策に積極的になるようインセンティブを付与することが重要である。

また、経済界や企業の取組が進むよう、地方自治体、経済団体・企業、NPOが連携しながら、少子化対策に取り組むことができるプラットフォームを構築していくことが重要である。

さらに、経済界、企業の取組を後押ししていくためにも、産業構造や企業活動の変化に対応しながら保育を充実していく必要がある。

なお、少子化問題については、メディアの役割も非常に大きい。国民に対して、少子化の現状や課題を広くわかりやすく伝えるとともに、例えば、妊娠・出産に関する正しい知識や、子育てに必要な情報を分かりやすく提供できる。また、視聴者や読者との対話を通じて、子育て世代や子供たちにとって必要なことや不足している情報やサービスなどを敏感に把握し、社会に向けて広く発信することができる。結婚や出産は個人の選択に基づくものであるが故に、国の施策や広報では届かないところがある。人々の希望の実現に向けて、メディアの役割が期待される。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 企業の少子化対策や両立支援の取組やその成果の「見える化」(次世代育成支援対策推進法等の活用、検証ツールの普及など)
  • 次世代育成支援対策推進法に基づく指針を踏まえた企業の取組の充実・強化
  • 企業の少子化対策の取組(企業内の取組、企業外部)に対するインセンティブ付与(表彰、公共調達等)
  • 事業所内保育施設の充実
  • 企業のワーク・ライフ・バランスや、経営者、管理職、現場職員の働き方改革や意識改革:「イクボス14」や「子育て」を尊重するような人事評価や育児休業取得などの社員の子育て参画に対して積極的な企業文化の醸成
  • 行政と企業の連携による子育て支援パスポート事業の推進
  • 産業構造・企業活動の変化に対応した保育の充実
  • 有期雇用者の出産前後の継続就業への支援
  • マタニティハラスメント防止(再掲)
  • パタニティハラスメント防止(後掲)

14 部下の仕事と育児の両立を支援する上司や経営者。

4 男性の子育てなどに関する意識・行動

〈意義・現状〉

男性の意識・行動は、出産への立会いの増加や「イクメン」にみられるように、若い世代では大きく変化しつつあるものの、男性の育児休業取得率は2%程度にとどまっており、また、6歳未満の子供を持つ夫の家事関連時間は1日当たり67分で先進国中最も低い水準であり、共働き世帯でも、約8割の男性が全く「家事」を行わず、約7割の男性が全く「育児」を行っていない15など、低調な状況にある。


15 総務省「平成23年社会生活基本調査」より。なお、同調査においては、15分単位で行動を報告することとなっているため、15分に満たない行動は報告されない点に留意が必要である。

〈施策の方向性〉

男性の長時間労働割合が高く、家事・育児への参画が少ないことなどが、少子化の原因の一つとなっている。経営者、管理職の意識改革とともに、子供を持つ男性が、父親として子育ての当事者意識を持ち、家族の中で役割を担い、育児を行うことが、妻の就業の有無にかかわらず、男性自身の豊かな人生につながり、また、女性の活躍の観点からも、少子化対策の観点からも重要である。イクメンなどのロールモデルを示すとともに、現状、低い割合にとどまっている男性の育児休業取得率を高めるための実効性の高い方策について検討を進め、男性が育児を行うことを進めることも必要である。なお、都道府県ごとにきめ細やかに把握していくことも考えられるとの指摘もある。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 家庭の大切さについての意識啓発
  • イクメン・プロジェクト等を通じた男性の家事・育児の推進と必要な家事・子育て力の向上
  • 男性の育児休業取得の推進など、男性が育児を行うことを進めるための取組
    • 妻の就業の有無等、個別の状況を踏まえた、男性の育児休業取得率を高めるための実効性の高い方策について検討を進め、男性が育児を行うことを進める。また、育児休業の取得促進などワーク・ライフ・バランスの実現に関する、人事評価等を活用した職場マネジメントのあり方の調査研究及び好事例の情報提供を行う。
    • 男性社員が育児休業を取ったり、育児のための短時間勤務等を行ったりすることを妨げる行為(いわゆる「パタニティハラスメント」)がないよう、分かりやすく具体的な事例を示しての普及活動や意識啓発を行うとともに、企業に対する指導の強化を行う。
  • 男性が出産直後から育児を行うことを促進
    • 配偶者出産休暇などの企業独自の休暇制度の創設の促進や、育児休業の利用促進などを通じて、男性が配偶者の出産直後から育児を行うことを促す。
  • 経営者、管理職の意識改革・人事評価(再掲)
  • 長時間労働の抑制

5 ワーク・ライフ・バランス

〈意義・現状〉

結婚・出産・子育ての希望を実現する上で、仕事と子育てを両立できるような働き方が重要である。ワーク・ライフ・バランスは、多様なライフスタイルを可能にし、男女共に働く人の幸せにもつながるものであり、また、地域の活性化にもつながるものである。

〈施策の方向性〉

ワーク・ライフ・バランスが実現しない背景には、仕事の成果よりも長時間働いていることを評価することや、企業のトップや管理職の意識の問題などが指摘されている。ワーク・ライフ・バランスを考えるときには、勤務時間の長さはもちろんのこと、育児休業を含めた休暇・休業の取得のしやすさ、子育て期における転勤や始業・終業時間、休憩への配慮等を含めて考えていく必要がある。頻繁な転居を伴う転勤の見直しや、労働時間以外にも、仕事に関連する時間として通勤時間も重要であり、長時間通勤問題の検討が必要との指摘もある。また、仕事のために生活や家庭があるのではなく、生活や家庭のために仕事があるのだというぐらいの根本的な意識転換が必要との指摘もある。

〈具体的な取組〉

以上の施策の方向性を踏まえ、以下の具体的な施策に取り組むことが必要である。

  • 長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得の促進、短時間勤務の利用の促進
  • 短時間勤務やテレワークなど柔軟な働き方の実現
  • 育児休業が取得しやすい職場環境整備
  • 企業トップへの働きかけや「イクボス」の取組
  • 国の率先的取組
  • 勤務地を限定した正社員制度の導入・普及、転勤の実態を把握した上での労働者の仕事と家庭の両立に資する取組の推進
  • 経営者、管理職の意識改革・人事評価(再掲)

VI 少子化対策のその先に向けて

1 目標・フォローアップ

少子化対策全体の目標は、個々人が希望する時期に結婚でき、かつ、希望する子供の数と生まれる子供の数との乖離をなくしていくための環境を整備することであり、国民が希望を実現できる社会をつくることとすべきである。これは、国が地方自治体や企業等と連携しながら、責任を持って取り組んでいくべき目標である。家族を持つこと、子供を持つことの喜びを実感できる社会をつくることに注力する。

人々の自由な選択と決定を尊重することを基本とした上で、結婚、出産、子育てについての希望がかなえられるような環境を整備することにより、人々の結婚や子供の数についての希望が増えていくことも考えられる。このことを視野に入れながら、人々の希望の実現を阻害する要因を一つ一つ取り除いていくことが重要である。

こうした少子化対策全体の目標を踏まえて、個々の環境の整備に資する取組・施策については、数値目標を設定するとともに、その進捗をフォローアップしていく必要がある。結婚や出産は個人の自由な決定に基づくものであることから、その数値目標により、国が個々人の決定に特定の価値観を押しつけるようなプレッシャーを与えることがあってはならないことに留意すべきである。少子化対策の推進には、地方自治体や企業の取組が非常に重要であることから、フォローアップに当たっては、国の施策だけではなく、地方自治体や企業も対象に入れて行っていくべきである。

特に、地方自治体については、各地域の首長が、少子化対策や関連政策の効果について住民に丁寧に説明し、取組を強化していくことが重要であるとの指摘があり、また、国と地方が連携したフォローアップ体制を検討していく必要がある。少子化対策を含め、子供の視点を生かした様々な行政施策の評価や提案募集を行っている地方自治体もあり、こうした取組を広げていくことも重要との指摘もある。

なお、結婚や出産に関する状況について、例えば、都道府県ごとにきめ細やかに把握していくことも考えられる。

2 少子化対策予算の拡充

出生率の回復を実現した諸外国においては、家族関係支出が対GDP比で3%程度以上であり、長期間にわたり、継続的かつ総合的な取組を進めてきた。国民負担率などの違いもあり単純に比較はできないものの、こうした諸外国の取組も参考にしながら、我が国において、早期・集中的な少子化対策を行う上で必要な施策を、財源を確保しつつ抜本的に充実すべきである。人口構造、社会保障負担、経済面での国際競争力などを含めて、50年、100年後の日本の将来の姿を考えたときに、未来への投資として、少子化対策の充実・強化が必要不可欠である。

少子化対策予算の拡充に当たっては、現物給付と現金給付のバランスを考慮していく必要があり、例えば、子育て支援の充実や多子世帯に対する様々な現物給付を中心に拡充することが考えられる。また、育児休業給付などの現金給付についても、子供を生み育てやすい環境の整備という観点から、選択と集中を行いながら、効果が高いと考える予算を、財源を確保しつつ充実していく必要がある。さらに、若い人々も含め、全ての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換することを目指し、子ども・子育て支援など、若い人の希望につながる投資を積極的に行うとともに、子育て世代の支援が充実するよう必要な見直しを行っていくとともに、税制の検討に当たっても子育て支援や少子化対策の観点に配慮していくことが、重要である。

また、国や地方自治体が行う、結婚の前段階から子育てまでの少子化対策について、国民や住民からわかりやすい形での「見える化」を進めるとともに、成果について分析を行っていく必要がある。

3 国民の理解

少子化対策の予算を抜本的に拡充していくためには、国民の理解が不可欠である。少子化対策が、我が国全体や地域社会にとって重大な課題であるということを、国民・住民にわかりやすく説明するとともに、少子化対策に取り組み、各種の施策を進めることで、どのような社会が実現されるのか、人々の暮らしがどのように変わるのかを丁寧に説明していくことが必要不可欠である。

VII 結び

少子化の反転に成功したと言われる諸外国においても、数十年に及ぶ継続的な取組が必要とされた。我が国においても、本提言における取組に着実に取り組むとともに、更なる少子化対策の強化に向けた取組の検討や、長期的な財源確保、制度改正等の環境整備を期待する。

[目次]  [戻る]