第1部 少子化対策の現状(第2章 第2節 4)

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第2章 少子化対策の取組(第2節 4)

第2節 新型コロナウイルス感染症影響下における少子化の現状と対策【特集】(4)

4 新型コロナウイルス感染症影響下における結婚・妊娠・出産・子育て支援

新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する中、これまで対面で行ってきた支援・相談について、感染リスクに配慮しながらサービスを継続するとともに、コロナ禍を契機に改めて浮き彫りになった課題に対応するため、オンラインを活用する取組がさらに広がりをみせている。また、テレワークにより時間や場所にとらわれない多様な働き方が可能であることが広く認知され、地方移住への関心が高まっている人々の意識・行動の変化をとらえて地方へのひとの流れにつなげていこうとする動きもみられる。ここでは、結婚、妊娠・出産、子育てのライフステージごとに取組事例を紹介する。

(1)結婚-登録から引合せまでオンライン完結の結婚支援

オンラインによる結婚支援に積極的に取り組んでいる事例の一つとして、えひめ結婚支援センター(運営主体:愛媛県、運営委託先:愛媛県法人会連合会)では、新型コロナウイルス感染症流行下で外出や集会の自粛が求められる中でも、結婚を希望する独身者が、感染リスクを軽減し安心して参加ができるほか、居住地にとらわれずに参加が可能となる「オンライン婚活サービス」の本格的な導入や、手続のデジタル化により利便性を向上することを目的として、2021年3月17日、えひめ結婚支援センターWebサイト「ひめring」のリニューアルを実施した。リニューアルに伴い、会員登録から会員同士のマッチングまで一貫してオンラインで操作できるようになった結果、リニューアル時点(2021年3月17日)から2022年2月末時点までの間のセンター会員新規登録者数(約1,630名)のうち、オンラインでの登録者数は、約86%(約1,400名)を占めている。

えひめ結婚支援センターのオンラインによる結婚支援の特徴としては、

・結婚支援システム(Webサイト)を活用することで会員登録からイベント参加、マッチングまでオンライン上で実施できる

・独自システム(「トークルーム」「チャット」)でイベント参加者やお引合せの相手とメッセージをやりとりできる

・1対1のお見合い(愛結び)では、ビッグデータを活用したおすすめのお相手の提案のほか、会員自身のスマートフォンやパソコンからもお相手探しができる

・ボランティア推進員(愛結びサポーター)が出会いから成婚に至るまで交際中も継続的にサポートする

といった点が挙げられる。

えひめ結婚支援センターでは、

・「ひめring」トップページにオンラインでの登録方法について説明動画を掲載

・Zoom(オンライン会議システム)の利用に不安がある利用者に対して、イベントやお引合せ前に接続テスト等を実施

・オンライン婚活の利点や楽しさ等を、センターのブログ、SNS等で発信

・イベント前に、オンライン画面での振る舞い方のアドバイス等、事前セミナーを実施

といった取組を行うことで、オンライン婚活サービス利用者の不安の軽減や支援に努めている。

さらに、イベント・お引合せの際には、原則、ボランティア推進員が立ち会い、その場で参加者をフォローするとともに、成立したカップルに対しても、システムを通じてメッセージを送る等、継続的な交際フォローを実施している。あわせて、ボランティア推進員によるオンライン個別相談会を実施することで、会員の悩み等に対応している。

えひめ結婚支援センターでは、このようなオンライン婚活による主なメリットとして、

・移動時間や居住地にとらわれず、自宅等から参加が可能となる

・感染リスクを気にせずに、マスク未着用のままお互いの表情が見える形での参加が可能となる

・参加費が対面の場合よりは比較的安くて済む

といった点を挙げている。

一方で、主なデメリットとして、

・画面越しの交流であるため、参加者同士の雰囲気が掴みづらい

・オンラインイベントでは、運営側でフリートークの相手や時間を設定するため、会話の自由度が低くなる

・オンラインでカップルになった後、当事者が実際に会うことにハードルを感じるケースがみられる

といった点を挙げている。

オンラインを活用した結婚支援活動は、新型コロナウイルス感染症対策といった点以外でも、利用者にとって利便性の向上や費用面での一定のメリットが見込まれる。コミュニケーションや実際会うまでのハードル、ボランティア推進員のスキル等の課題にも留意しながら、コロナ禍を契機とした新たな結婚支援の取組の一つとして定着することが期待される。

図表12 「愛結びサポーター向けガイド」イメージ

(2)妊娠・出産-小児科医、産婦人科医不足の地域でのオンラインを活用した安心して子供を生み育てる環境整備

大船渡市・陸前高田市・住田町の2市1町の気仙圏域では、医療機関などで構成する一般社団法人未来かなえ機構(代表理事・滝田有気仙医師会長)と連携し、「未来かなえネット」の取組を進めている。これは、住民参加型の地域医療介護連携ネットワークであり、電子カルテ情報の共有などにより、医療機関、薬局、消防、各市町地域包括支援センター、介護サービス提供事業所等による情報連携を行うものである。

気仙圏域は、東日本大震災の被災地ということもあり、医師をはじめとした専門職が不足している中で、「未来かなえネット」による情報連携は、緊急時や大規模災害時における病歴や処方箋の確認などを速やかに行い、余分な検査、薬の重複等を防ぎ、医療費負担の軽減にもつながるものと期待されている。

小児科医、産婦人科医も不足しており、妊娠中や産後の方、子育てをされている方が安心して、子供を生み育てることができるよう、「未来かなえネット」の取組の一環として、「小児科・産婦人科オンライン」(株式会社Kids Publicが運営するオンライン医療相談サービス)を導入している。

本サービスは、電話若しくは「LINE」により、平日18時~22時の時間帯に10分間、小児科、産婦人科を専門とする医師、助産師による医療相談が受けられる「小児科・産婦人科オンライン」と、メールで24時間、医療相談を受け付ける「いつでも相談」で、大船渡市・陸前高田市・住田町の住民であれば、「未来かなえネット」に登録することで、無料で利用できる。

利用者からは、「初めての嘔吐(おうと)に慌ててしまいましたが、ビデオで子供の様子を見て、大丈夫と言っていただきとても安心した。」、「1人で心細い中、寄り添う回答をいただいてとても励みになった。」等の声が寄せられており、不安解消につながっている。

「小児科・産婦人科オンライン」に寄せられた相談内容及び担当医師、助産師の指導内容は、相談者の同意を得た上で、翌朝、気仙圏域における広域基幹病院である岩手県立大船渡病院にオンラインで情報連携され、病院で診療に当たる医師は、情報連携された相談内容を基に対面診察を行うことが可能となる。

近年、ハイリスク妊婦、特に特定妊婦等の処遇困難な事例が増えている中で、オンラインを活用し、相談できる先の選択肢を増やしたことで、利用する側だけでなく、支援する側(市町保健師等)も、課題を抱えた妊婦等を把握し、適切なサポートにつなげている。

また、医療的ケア児が在宅で生活できるよう、2021年10月から「未来かなえネット小児連携パス」の運用が始まっている。オンラインを活用し、当該医療的ケア児の生活環境をサポートしている関係者間で、主治医による在宅での小児治療方針や訪問看護ステーションによる在宅看護ケアの実施状況等を共有することで、地域をあげて子供を見守り、ケアに役立てている。現在は、家庭、県立大船渡病院、訪問看護ステーション等の関係機関による連携が主であるが、将来的には、保健所、圏域の各診療所、デイケア事業所、学校、保育所等との連携に広げていきたいと考えている。

図表13 「未来かなえネット小児連携パス」イメージ

(3)子育て-オンラインを活用した子育て世代への支援情報発信、地方移住支援、「学び」の保障
◯「LINE」、スマートフォンアプリを活用した利便性の高いオンラインサポート

新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する中、外出自粛や保育所、幼稚園、地域子ども・子育て支援施設の休館及び利用制限により、子育て親子同士の交流の機会や子育て相談・支援に関する地域サービスの利用機会が減少し、子育て中の親子が不安や悩みをより抱えやすい状況となっている。

熊本県では、新型コロナウイルス感染症拡大以前から、核家族化の進行、地域社会の変化等により孤立化しやすい子育て環境、行政機関の業務効率化を念頭に、現代のコミュニケーションツールに対応した子育て支援の取組「聞きなっせAI くまもとの子育て」を導入している。若年層から幅広い年代で使用されているアプリケーションソフトウェア「LINE」の自動会話プログラムを活用し、「LINE」での友だち登録をするだけで就学未満の子育てに関する問合せにAIが24時間365日応答する。

また、相談対応機能だけでなく、子育て世帯への特典割引や子供連れでの外出のサポート(おむつ替えコーナー等)をしてくれる「子育て応援の店」(2022年3月31日時点で県内約2,600店舗)や公共施設に加え、2021年度からは、新婚夫婦等に料金割引等の特典・サービスを提供する「結婚応援の店」も簡単に検索できるようになっている。

このような取組は、関係者にとって、以下のようなメリットがあると考えられる。

まず、利用者である子育て世代からは、スマートフォンが手元に一つあれば、

・夜間休日を問わず、県・市町村の子育てに関する情報を入手できるとともに、急な病気の手当てなど子育てに関する様々な悩みについて、問合せできる

・外出先でも、子供連れでの外出をサポートしてくれる店・公共施設などの情報について、現在地からの経路図を含め検索できる

・新型コロナウイルス感染症の影響で対面が制限される中、役場などに行かなくても様々な情報が入手できる

といった点で、メリットがあるとの声が寄せられている。

また、地方公共団体にとっては、

・AIの活用により、問合せ・相談対応業務の効率化が図られ、より専門性の高い相談案件に集中して人員を充てることが可能となり、相談業務全体の質の向上が期待できる

・問合せ・相談内容を集約・分析し、住民のニーズについてのビッグデータとして政策に活用できる

・地方公共団体の子育てに関する施策・イベント等の情報を登録者に一斉配信できる

といったメリットが挙げられる。

さらに、「子育て応援の店」に参画する企業にとっても、利用客の増加につながるとともに、従業員の子育てしやすい環境整備にも寄与しているとの声が寄せられている。

2019年8月から運用が始まった本事業は、2021年度末には登録者が約7,800人となっている。

図表14 「聞きなっせAI くまもとの子育て」イメージ

◯自然環境を活用したテレワーク空間の創造と子育て世帯を含むUIJターン移住者による創業・副業支援事業

新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークの実施率が上昇する中、地方移住を希望する人にとっては、テレワークによって地方でも同様に働けると感じたことが、地方移住へ関心を寄せる大きな理由の一つとなっている1。また、地方移住への関心が特に高まっている若い世代にとっては、子育てが移住を検討する大きなきっかけの一つとなっている。

長野県佐久市は、2019年に民間企業と包括連携協定を締結し、佐久情報センターを改修することで2020年4月にコワーキング施設「ワークテラス佐久」を開所した。単なるワークスペースの提供ではなく、オフサイトミーティングや、ワーケーションの企画を地域事業者と連携して提供することで、都市間の交流人口を増加させている。また、「ワークテラス佐久」の利用者や育児中の女性等に対する創業・副業支援事業等でサポートを行い、地域で事業を起こす仲間を増やす場として機能している。

2020年4月開館時は9名であった月額会員は、2022年3月時点で60名程度に増加し、

・吹き抜けのあるオープンラウンジもあり、県内のテレワーク施設の中でも大規模な施設であるため周囲を気にせずWEB会議がしやすく便利

・開放感があって良い

・地域の仲間と早く繋がることができた

といった利用者からの声もあった。

利用者の9割はUIJターンによる移住者である。職業としては、デザイナー、クリエイター、IT系、コンサルタント、経営者など専門職人材が多いが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことによるリモートワークの普及により会社員の利用も一定程度いる。子育て中の利用者は、子供が保育園、幼稚園、小学校に通う時間に「ワークテラス佐久」で集中して作業を行うなど、時間のメリハリをつけて利用されているケースが多い。

2021年度は、子育て期の創業・副業支援事業として、「じぶんはたらき方講座」を開催し、その中で子育てと両立のための自分の立ち位置やテレワーク技術をはじめ様々な働き方について学ぶ「じぶん軸ととのえ講座」及び、子育てと両立しながら、自身の事業を推し進めるためのステップアップ講座である「基礎から学び実践するチームづくりとリーダーシップ講座」を実施した。新型コロナウイルス感染症感染拡大対策のため、「ワークテラス佐久」を会場に行う説明会はオンラインで開催され、講座本編についても、企画段階からオンラインで設計されたため、補助講座として希望者を対象としたオンラインツールの勉強会が設けられた。創業支援事業における修了者で6名が、地場産品を使ったハンドメイド作品の販売事業やウェディング事業等を開始した。また、両講座ともに初回の講座終了後にフェイスブック(SNS)グループでWEB上での運営ネットワークが構築されることで、受講生同士、あるいは講師への質問・アドバイスや受講生が企画したイベントの告知にも活用され、受講生同士のコミュニティ形成が促された。

図表15 「自分軸ととのえ講座」イメージ


1 内閣府「第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」参照。

◯新型コロナウイルス感染症影響下における「学び」の保障

コロナ禍におけるオンライン教育の実施については、居住地域等により取組状況に差があることが確認されている。子供を大切にし、心身ともに健やかな育ちを支えることは、一人一人の子供の幸せはもとより、未来の担い手を育成することにもつながる。このため、新型コロナウイルス感染症の影響下において、感染症対策と「学び」の保障を両立させた取組が求められる。

文部科学省は、ICT端末を活用した学習のため、「1人1台端末」の早期実現や、家庭でもつながる通信環境整備など、「GIGAスクール構想」における環境整備を推進している2。文部科学省の特設ウェブサイト「StuDX Style(スタディーエックススタイル)」では、1人1台端末の更なる利活用に向けて、全国の学校や地方公共団体から提供された端末の活用法に関する優良事例等を紹介している。具体的な紹介事例は次のとおりである。

  • 教師と子供がつながる:「朝ノート」で健康観察

    校種・学年:小学校3学年以上

    活用の種類:朝の会の健康観察の際に、表計算ソフト等を使って自分の体調等について簡単に報告し合う活動を行っている。
    自分の健康状態のほか、昨日の報告をしたり、教師や友達へのメッセージを書いたりする児童生徒もいる。書き込んだ内容は即時全員に共有されるので、互いにコメントをつけるなどしてコミュニケーションも活発に行っている。
    ただ自分の状態を書くのではなく、友達のコメントを読むことで、クラスメイトとの距離が縮まり、普段あまり話をすることのない人の「朝ノート」にコメントをしたりということもある。

    準備するもの:学習支援ソフト 表計算ソフト(OS標準)で同時編集することで、同様の実践は可能
図表16 「朝ノート」で健康観察

  • 子供同士がつながる:共同編集で学習のまとめを作成

    校種・学年:小学校以上

    活用の種類:プレゼンテーションを隣の児童生徒と共有化し、理科の実験の結果を二人で協力してプレゼンテーションにまとめる実践。
    課題、方法、結果、まとめの4枚のプレゼンテーションを作成し、他のグループと伝え合うことをあらかじめ伝えているので、どの児童生徒も実験に集中して取り組んでいた。
    実験の様子を振り返ったり、実験から分かったことをどのように表現すればよいか相談したりして、二人で対話しながら作成するので、短時間で質の高い学習となった。

    準備するもの:プレゼンテーションソフト(OS標準)
図表17 共同編集で学習のまとめを作成

ICT端末を活用した家庭学習のための環境整備に向けた地方公共団体の取組として、新宿区では、平常時における家庭への端末持ち帰りの推奨、各学級の児童生徒を午前と午後の2つに分けて登校させる分散登校、家庭学習におけるデジタル教材等の活用などオンラインによる学習指導が行われている。大分県では、オンラインによる学習指導の実施に向けたウェブサイトを構築し、授業のモデル例を示した資料や、アプリケーションの操作方法の動画などを整理して公開している。


2 義務教育段階における1人1台端末の整備状況としては、全地方公共団体等のうち、98.5%が2021年度末までに整備完了予定となっている。

おわりに

2019年末に発生が確認された新型コロナウイルス感染症は、感染収束と感染再拡大を繰り返しており、ワクチン接種は進展しているものの、完全な収束には至っていない。結婚・子育てに関する意識や行動について、一定の変化もみられる中で、2021年の婚姻件数、出生数は2020年に続いて、減少傾向となっている。引き続き、新型コロナウイルス感染症が結婚・子育て世代の意識・行動に与える影響や婚姻件数・出生数の今後の推移について、注視していくとともに、不安を抱え困難な状況にある個人が安心して、結婚、妊娠・出産、子育てができる環境整備に取り組む。

また、新型コロナウイルス感染症影響下において、結婚支援・子育て分野でもICTやAIを活用した取組が広がっている。インターネット環境が充実し、テレワークを活用した柔軟な働き方が可能となることで、仕事と家事の両立を適切に実現することが可能となり、出生数増加につながるとの見方もある3。今回の感染症拡大を契機に、結婚、妊娠・出産、子育てに関係する様々な現場において、デジタル技術の利活用が進展することで、コロナ禍においても必要な支援の継続が図られるだけではなく、結婚に向けたきめ細やかな出会いの機会の提供や、子育て世帯の負担軽減・利便性向上などが図られ、我が国の少子化問題の解決の一助となることが期待される。


3 高速(広帯域)インターネット環境の整備が教育水準の高い女性(25歳~45歳)の出生率にプラスの影響を与えることが確認されている(Billari et al.(2019)”Does broadband internet affect fertility?” Population Studies, 73(3)p297-316を参照)。

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