第2部 少子化対策の具体的実施状況(第2章 第1節 1)
第2章 ライフステージの各段階における施策(第1節 1)
第1節 結婚前(1)
1 ライフプランニング支援
(ライフプランニング支援)
ライフプランニング支援の充実
結婚、妊娠・出産、子育て、仕事を含めた将来のライフデザインを希望どおり描けるようにするためには、その前提となる知識・情報を適切な時期に知ることが重要である。情報提供の一環として、地方公共団体の結婚・妊娠・出産・育児支援の取組の事例集作成、妊娠・出産に関する医学的・科学的に信頼できる情報の関連リンク集の作成等を行い、ホームページに掲載している。
「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)に基づき、内閣府、文部科学省及び厚生労働省が連携しながら、高校生のキャリア形成支援教材「高校生のライフプランニング」を作成し、2018年11月に地方公共団体等に周知を図った。
さらに、文部科学省では2019年度に「次世代のライフプランニング教育推進事業」を実施し、次世代を担う若者が、固定的な性別役割分担意識にとらわれず主体的に多様な進路を選択することができるよう、学校教育段階から男女共同参画意識の醸成を図るため、学校で活用できるライフプランニング教育プログラムの開発を行い、2021年度に各都道府県教育委員会等へ周知を図った。
学校教育段階からの妊娠・出産等に関する医学的・科学的に正しい知識の教育
高校生向けの健康教育に関する啓発教材「健康な生活を送るために」において、個人が将来のライフデザインを描けるようにするため、その前提となる、妊娠・出産等に関する医学的・科学的に正しい知識等について盛り込んでいる1。
1 https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/08111805.htm
性に関する科学的な知識の普及
「生涯を通じた女性の健康支援事業」では、保健所、市町村保健センター等において、妊娠、避妊や性感染症を含めた女性の心身の健康に関する相談指導のほか、女性のライフステージに応じた健康教育等を実施している。
また、「性感染症に関する特定感染症予防指針」においては、性感染症は、10歳代半ばから20歳代にかけての若年層における発生の割合が高いことから、性感染症から自分の身体を守るための正確な情報提供を適切な媒体を用いて行うことで、広く理解を得ることが重要であり、保健所等が行う健康教育にあっては、教育関係者及び保護者等と十分に連携し、学校における教育と連動した普及啓発を行うこととしている。
さらに、学校教育においては、体育科、保健体育科を中心に学校教育活動全体を通じて、児童生徒の発達の段階に応じ、性に関する科学的な知識が身に付くよう指導している。なお、指導に当たっては、児童生徒の発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮すること、集団指導と個別指導の連携を密にして効果的に行うことなどに配慮することが大切である。
妊娠や家庭・家族の役割に関する教育・啓発普及
学習指導要領においては、学校における性に関する指導として、児童生徒が妊娠、出産などに関する知識を確実に身に付け、適切な行動を取ることができるようにすることを目的としており、これに基づき保健体育科を中心に学校教育活動全体を通して指導が行われている。
また、児童生徒に、家族の一員として家庭生活を大切にする心情を育むことや、子育てや心の安らぎなどの家族・家庭の機能を理解させるとともに、これからの生活を展望し、課題をもって主体的により良い生活を工夫できる資質・能力を身に付けさせることが重要である。このため、小学校、中学校、高等学校において、発達の段階を踏まえ、関連する教科等を中心に、家族・家庭の意義や役割への理解を深める教育がなされている。
2017年3月に小・中学校学習指導要領を、2018年3月に高等学校学習指導要領を改訂し、例えば、小学校家庭科では、家庭生活が家族の協力によって営まれていること、中学校技術・家庭科では、家族や地域の人々と協力・協働して家庭生活を営む必要があること、高等学校家庭科では、家族・家庭の機能や子育て支援などについて、教育内容の充実が図られたところである。
・乳幼児と触れ合う機会の提供
乳幼児と接する機会の少ない中学生、高校生等が、乳幼児と出会い、触れ合うことは、他者への関心や共感能力を高め、乳幼児を身近な存在として意識し、愛着の感情を醸成している。
ライフイベントを踏まえたキャリア教育の推進
初等中等教育段階においては、子供たちが、社会の一員としての役割を果たすとともに、それぞれの個性、持ち味を最大限発揮しながら、自立して生きていくことができるよう、後期中等教育修了までに、生涯にわたる多様なキャリア形成に共通して必要な能力や態度を培うキャリア教育の推進が求められている。
文部科学省では、関係省庁等とも連携し、学校におけるキャリア教育・職業教育を推進している。具体的には、教員向けの手引き等の配布や研修用動画の配信、小学校からの起業体験や中学校の職場体験活動、高等学校におけるインターンシップを促進するとともに、児童生徒が主体的に進路を選択することができるよう、児童生徒が活動を記録し蓄積する教材としてキャリア・パスポートの例示資料等を作成し、都道府県教育委員会等に周知するなど、学校における体系的なキャリア教育の充実を図っている。また、文部科学省が運営するホームページ「学校と地域でつくる学びの未来2」において、地域・社会や産業界等が行う教育プログラムの情報を提供するなど、学校と地域・社会や産業界等との円滑な連携に向けた取組を行っている。
このほか、2017年度から、学力格差の解消及び高校中退者等の進学・就労に資するよう、高校中退者等を対象に、高等学校卒業程度の学力を身に付けさせるための学習相談及び学習支援のモデルとなる取組について支援を行うとともに、その成果の全国展開を図るための事業を実施している。
また、2011年度より文部科学省、厚生労働省及び経済産業省の3省合同で「キャリア教育推進連携シンポジウム」を毎年開催し、キャリア教育の充実・発展に尽力し、顕著な功績が認められる学校等に対し文部科学大臣表彰、先進的な教育支援活動を行う企業・経済団体等に対し経済産業大臣表彰(「キャリア教育アワード」)を行い、同時に、学校、地域の産業界及び地方公共団体等の関係者が連携・協働してキャリア教育を行う取組を文部科学省及び経済産業省の両省で表彰する「キャリア教育推進連携表彰」を行っている。
文部科学省では、2010年に「大学設置基準」(昭和31年10月22日文部省令第28号)等を改正し、2011年度から、全ての大学と短期大学において、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を培うよう取り組むこととなっている。2019年度に学部段階においてキャリア教育を実施している大学数は726大学(98%)となっており、勤労観・職業観の育成を目的とした授業科目の開設については2009年の491大学(67%)から643大学(87%)となっている。
2 https://manabi-mirai.mext.go.jp/index.html
学校・家庭・地域における取組の推進
将来の親となる世代が子供や家族・家庭について考え、子供と共に育つ機会を提供するとともに、国民一人一人が家族・家庭や子育ての意義について理解を深められるようにすることが重要である。学校教育においては、子供たちに乳幼児との触れ合いの機会を提供し、将来親となった際に必要となる子育ての態度を育てるとともに、少子化とそれがもたらす社会への影響、子育てや男女が協力して家庭を築くことの大切さなどについても理解を深めさせることが重要である。
このため、小学校、中学校、高等学校の各学校段階で、関係する教科等において相互の連携を図りながら子育てへの理解を深める教育が実施されている。
また、家庭や地域における取組としては、男女で協力して子育てをすることの大切さや命の大切さなどについて保護者が理解を深められるよう、地域の多様な人材を活用した家庭教育支援チーム等が地域の実情に応じて行う家庭教育支援に関する取組(仕事と子育ての両立や、命の大切さ、思いやりをテーマとした講座の実施などを含む)を推進するため、当該取組に対する補助事業(地域における家庭教育支援基盤構築事業)等を実施している。
トピックス:仕事と育児の両立体験によるライフデザイン支援
「第4次少子化社会対策大綱(2020年5月29日閣議決定)」においては、若い世代が、結婚、妊娠・出産、子育て、仕事を含めた将来のライフデザインを希望を持って描けるよう、将来のライフイベントについて考える機会を様々な場で提供することが必要とされている。
ここでは、若い世代が子育て家庭と交流することを通じ、自らのライフデザインについて考える機会を提供する京都府の取組を紹介する。
京都府 ワーク&ライフ・インターン
京都府では、2017年度から、大学生や新入社員等が「京都で働きながら子どもを生み育てる」ことを体験的に学び、それを踏まえて自らのライフデザインを考える「ワーク&ライフ・インターン」という取組を実施している。
「ワーク&ライフ・インターン」の特色は、参加者が、京都府の企業で働く子育て家庭を実際に訪問して体験実習を行うことにある。訪問先の家庭では、リアルな子育てを体験することができ、また、仕事と子育ての両立について質問や意見交換をすることができる。若い世代にとっては、子供と触れ合う体験そのものが新鮮であり、更に、仕事と子育てを両立するロールモデルに出会い、自らの将来のライフデザインをより具体的に描くための貴重な機会となる。2021年度は、新型コロナウイルスの感染予防に配慮し、子育て家庭への訪問に代えて、子連れコワーキングスペースを利用した体験実習や、オンラインによる交流を行った。オンラインでの実施には実感の湧きにくさ等の課題もあるが、参加者や子育て家庭から「コロナ禍でも安心して取組に参加できた」という声もあったことから、今後も状況に応じて工夫しながら取り入れていくこととしている。
インターンを終えた参加者は、地域の企業や行政、大学関係者等に対して、仕事と子育ての両立が可能な社会の実現に向けた課題提起や施策提案を行うほか、体験により得たことや学んだことを自ら発信し、他の学生等へ普及啓発を行う「両立体験伝道師」として活動するなど、社会的な機運醸成にも寄与する取組となっている。
参加者からは、「将来に対して漠然とした不安がなくなり、イメージしやすくなった」といった声があり、また、受入れ家庭からも、「家庭における役割分担や大切にしている価値観を改めて考える貴重な機会となった」といった感想が寄せられた。
京都府では今後も、より多くの学生等が取組に参加できるよう周知・啓発を図るとともに、企業等が独自に行う「ワーク&ライフ・インターン」の導入を支援するなど、取組の拡大を図っていくこととしている。

