付録(2)

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付録2 少子化社会対策大綱~新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へ~

令和2年5月29日
閣議決定

I はじめに

(深刻さを増す少子化)

我が国の少子化の進行、人口減少は深刻さを増している。第2次ベビーブーム世代(いわゆる団塊ジュニア)が40代後半になる中、2019年の出生数(推計)は86万4,000人と過去最少を記録し、いわば「86万ショック」とも呼ぶべき状況となった。出生数の減少は予想を上回るペースで進んでおり、一旦は1.45まで回復した合計特殊出生率もここ数年微減傾向にある。出生数の減少と死亡数の増加を背景に、我が国の総人口は、2008年をピークに減少局面に入っている。

少子化の進行は、人口(特に生産年齢人口)の減少と高齢化を通じて、労働供給の減少、将来の経済や市場規模の縮小、経済成長率の低下、地域・社会の担い手の減少、現役世代の負担の増加、行政サービスの水準の低下など、結婚しない人や子供を持たない人を含め、社会経済に多大な影響を及ぼす。時間的な猶予はない。今こそ結婚、妊娠・出産、子育ての問題の重要性を社会全体として認識し、少子化という国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている。

(少子化の主な原因は、未婚化・晩婚化と、有配偶出生率の低下)

少子化の主な原因は、未婚化・晩婚化と、有配偶出生率の低下であり、特に未婚化・晩婚化(若い世代での未婚率の上昇や、初婚年齢の上昇)の影響が大きいと言われている。

若い世代の結婚をめぐる状況を見ると、男女共に多くの人が「いずれ結婚する」ことを希望しながら、「適当な相手にめぐり会わない」、「資金が足りない」などの理由でその希望がかなえられていない状況にある。また、「一生結婚するつもりはない」という未婚者の微増傾向が続いている。

子供についての考え方を見ると、未婚者・既婚者のいずれにおいても、平均して2人程度の子供を持ちたいとの希望を持っているが、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」、「これ以上、育児の負担に耐えられない」、「仕事に差し支える」といった理由で、希望がかなわない状況がある。また、夫婦の平均理想子ども数、平均予定子ども数は低下傾向が続いている。

このように、少子化の背景には、経済的な不安定さ、出会いの機会の減少、男女の仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育て中の孤立感や負担感、子育てや教育にかかる費用負担の重さ、年齢や健康上の理由など、個々人の結婚や出産、子育ての希望の実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っている。

こうした状況を受け、これまでも幼児教育・保育の無償化や高等教育の修学支援など、子育て支援を拡充してきたところであるが、引き続き今行っている施策の効果を検証しつつ、こうした希望の実現を阻む隘路(あいろ)の打破に強力に取り組み、個々人の希望の実現を後押しするとともに、結婚、妊娠・出産、子育てに希望を持つことができる環境づくりに取り組むことで、多くの人が、家族を持つことや、子供を生み育てることの喜びや楽しさを実感できる社会をつくる必要がある。

(長期的な展望に立って、総合的な少子化対策を大胆に進める)

少子化は今この瞬間も進行し続けており、少子化への対応は遅くなればなるほど、将来への影響が大きくなる。したがって、早急に取組を進めることが必要である。一方で、少子化対策は、その効果が表れるまでに一定の時間を要する。少子化の進展に歯止めをかけるため、長期的な展望に立って、必要な安定財源を確保しながら、総合的な少子化対策を大胆に進めていくことが必要である。

(諸外国の取組に学び、長期的な少子化対策を実践する)

フランスやスウェーデンは、出生率が一時期1.5~1.6台まで低下したが、国民負担を求めながら、経済的支援を含む子育て支援策の充実や仕事と育児の両立支援策など、長期間にわたり継続的かつ総合的な取組を進めてきたことにより、2000年代後半には2.0前後まで回復し、現在も比較的高い出生率を維持している1。また、日本同様、長期間出生率が低迷していたドイツでも、男女の家事育児負担の平等化と女性の職場復帰を促したことにより、近年出生率の回復が見られ始めている2。一方、アメリカは、1990年代から2000年代にかけて2.0前後の高い出生率を維持してきたが、近年出生率が漸減している3

長期的な少子化対策を実践していく際には、こうした諸外国の取組を研究し、社会経済や国民負担の在り方の差異に留意しつつ、どのような施策が効果的で優先されるべきかという観点から、我が国の少子化対策を検討し、できることから速やかに着手することも重要である。

(大綱の検討経緯)

2015年3月の少子化社会対策大綱4の策定から5年目となる2019年3月以降、内閣府特命担当大臣(少子化対策)の下、有識者から構成される「第4次少子化社会対策大綱策定のための検討会」を開催し、新たな大綱の策定に向けた議論を行ってきた。検討会は、7回にわたる幅広い関係者からの意見聴取や議論を経て、2019年12月に「第4次少子化社会対策大綱の策定に向けた提言」5を取りまとめた。

提言では、前大綱に基づく取組に加え、「ニッポン一億総活躍プラン」6、「子育て安心プラン」7、「新しい経済政策パッケージ」8、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」9、「第4次男女共同参画基本計画」10など、少子化対策に関わる取組を不断に進めてきたにもかかわらず、依然として個々人の結婚や子供についての希望がかなえられていない状況があり、より一層の努力が必要であることなどについて指摘がなされた。

政府としては、この提言を真摯に受け止め、総合的な見地から検討・調整を図り、本大綱を策定する。

また、新型コロナウイルス感染症の流行は、結婚、妊娠・出産、子育ての当事者にも多大な影響を与えており、安心して子供を生み育てられる環境を整備することの重要性を改めて浮き彫りにした。

こうした状況に対応するため、非常時の対応として、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」11や「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」12などに基づき、学校の臨時休業等を円滑に進めるための環境整備、子育て世帯への臨時特別給付金の支給、妊産婦に対する感染対策の徹底や妊娠中の女性労働者に配慮した休みやすい環境整備、子どもの見守り体制の強化、電話やオンラインも活用した妊産婦や乳幼児に対する相談支援や保健指導、テレワークの強力な推進等に、関係機関と協力して取り組むとともに、今後も事態の推移を見極め、必要に応じて柔軟に対応する。あわせて、本大綱の推進に当たっては、平常時と併せて非常時の対応にも留意しながら、事態の収束後に見込まれる社会経済や国民生活の変容も見通しつつ、テレワークを始めとする多様で柔軟な働き方の推進、地域における子育て支援の充実、男性の家事・育児参画の促進、地方創生と連携した取組の推進等に総合的に取り組んでいく。


1 フランスでは、1990年代以降、経済的支援に加え、保育の充実を図り、その後さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができるような環境整備を強める方向で政策が進められた。それにより、1993年に1.66まで低下した出生率は、2010年に2.02まで回復し、2018年は1.87となっている。スウェーデンでは、比較的早い時期から、経済的支援とあわせ、保育や育児休業制度といった両立支援の施策が進められてきた。それにより、直近では1999年に1.50まで低下した出生率は、2010年に1.98まで回復し、2018年は1.75となっている。

2 ドイツの合計特殊出生率(2018年)は1.57となっている。

3 アメリカの合計特殊出生率(2018年)は1.73となっている。

4 2015年3月20日閣議決定

5 2019年12月23日第4次少子化社会対策大綱策定のための検討会取りまとめ

6 2016年6月2日閣議決定

7 2017年6月公表

8 2017年12月8日閣議決定

9 「第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」」(2014年12月27日閣議決定)、「第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」」(2019年12月20日閣議決定)

10 2015年12月25日閣議決定

11 2020年3月28日新型コロナウイルス感染症対策本部決定

12 2020年4月20日閣議決定

II 少子化対策における基本的な目標

一人でも多くの若い世代の結婚や出産の希望をかなえる「希望出生率1.8」13の実現に向け、令和の時代にふさわしい環境を整備し、国民が結婚、妊娠・出産、子育てに希望を見出せるとともに、男女が互いの生き方を尊重しつつ、主体的な選択により、希望する時期に結婚でき、かつ、希望するタイミングで希望する数の子供を持てる社会をつくることを、少子化対策における基本的な目標とする。

このため、若い世代が将来に展望を持てるような雇用環境の整備、結婚支援、男女共に仕事と子育てを両立できる環境の整備、地域・社会による子育て支援、多子世帯の負担軽減など、「希望出生率1.8」の実現を阻む隘路の打破に取り組む。

もとより、結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくものであり、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに十分留意する。


13 若い世代における結婚、妊娠・出産、子育ての希望がかなうとした場合に想定される出生率。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」で把握した結婚や子供数の希望等を基に、一定の仮定に基づき算出すると、概ね1.8程度となるとされている。詳細については、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)」(2019年12月20日閣議決定)における「国民希望出生率」を参照。

III 基本的な考え方~新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へ~

若い世代が結婚や子供についての希望を実現できる社会をつくり、「希望出生率1.8」を実現するため、以下の基本的な考え方に基づき、社会情勢の変化等を踏まえた、令和の時代にふさわしい当事者目線の少子化対策を進めていく。本大綱の推進に当たっては、将来の子供たちに負担を先送りすることのないよう、安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、できることから速やかに着手することとする。

(1)結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる

全ての結婚・子育て世代が、どのようなライフスタイルを選択しても将来にわたる展望を描けるよう、環境を整えていくことが必要である。

若い世代の非正規雇用労働者の未婚率は、特に男性で正規雇用に比べて顕著に高くなっており、雇用の安定を図り経済的基盤を確保することが重要である。

また、女性就業率の上昇に伴い、共働き世帯が増加している。女性活躍の推進、価値観の多様化などを背景に、子育てしながらキャリアアップを目指す女性や、家事・育児に関わりたいという男性も増えつつある。一方で、妻が正規雇用の世帯は全体の3分の1弱であり、子育て世代の男性は長時間労働者の割合が高い。家事・育児の負担については、就業形態や就業の有無にかかわらず、依然として女性に偏っており、女性一人が育児をするいわゆる「ワンオペ育児」の状況もある。

このため、家庭内における子育て等にかかる負担の軽減を図りつつ、結婚・子育て世代の男女が、制度的な制約によりライフスタイルの選択の幅が狭められることのないよう、男女共にキャリアとライフイベント双方について展望を描ける環境を整備していく。性別役割分業を前提とした働き方、暮らし方を見直すことにより、経済的基盤の安定を図り、ワーク・ライフ・バランスを確保し、多様なライフスタイルを可能にしていく。就業形態や就業の有無にかかわらず、結婚、妊娠・出産、子育てについて、男女が共に担うべき共通の課題にしていく。

<重点課題>
  • 若い世代が将来に展望を持てる雇用環境等の整備(経済的基盤の安定)
  • 結婚を希望する者への支援(地方公共団体による総合的な結婚支援の取組に対する支援等)
  • 男女共に仕事と子育てを両立できる環境の整備(保育の受け皿整備、育児休業や育児短時間勤務などの両立支援制度の定着促進・充実など)
  • 子育て等により離職した女性の再就職支援、地域活動への参画支援(学び直し支援など)
  • 男性の家事・育児参画の促進
  • 働き方改革(働き方改革関連法14に基づく、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保など)と暮らし方改革(学校・園関連の活動、地域活動への多様で柔軟な参加の促進など)

(2)多様化する子育て家庭の様々なニーズに応える

核家族化の進展、共働き家庭の増加、地域のつながりの希薄化など、家族の在り方や家族を取り巻く環境が多様化している。ひとり親家庭や再婚家庭など、家族の在り方は多様であり、また、都市部への人口流入を背景に、自分の生まれ育った地域以外で子育てをする家庭や、不安や悩みを誰にも相談できず孤立して子育てをする家庭も少なくない。

こうした状況の中で、子育てについての第一義的責任を有する父母などの保護者が共に支え合いながら子育てを行うこと、そしてその家庭を社会全体でバックアップしていくことにより、かつて家族や地域が担っていた子育てを支える機能を、時代にふさわしい形で再構築していくことの必要性が、これまでになく高まっている。

このため、子育て家庭における様々なニーズに対応するとともに、一人一人の子供が心身ともに健やかに育つことができるよう、全ての子育て家庭が、平常時・非常時を問わず、それぞれが必要とする支援にアクセスでき、安心して子供を生み育てられる環境を整備する。

その際、在宅の子育て家庭、ひとり親家庭、低所得の子育て家庭、障害児や医療的ケア児を育てる家庭、多子世帯、多胎児を育てる家庭、再婚家庭などに配慮する。

とりわけ、第3子以降を持ちたいとの希望に関しては、子育て、教育、住居など様々な面における経済的負担の重さが希望の実現の大きな阻害要因となっていることから、多子世帯に配慮し、様々な面での負担の軽減策を推進する。

また、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を行うとともに、行政の取組に加え、NPOや活力・意欲あるシニア層などの参画を促すことで、子育ての担い手の多様化を進め、地域全体で子育て家庭を支えていく。

さらに、社会経済の構造的な変化を踏まえ税制を検討するに当たっても、子育てやこれから家族を形成しようとする若い世代に重点的に配慮していくことが重要である。

<重点課題>
  • 子育てに関する支援(経済的支援、心理的・肉体的負担の軽減等)
  • 在宅子育て家庭に対する支援(一時預かり、相談・援助等の充実)
  • 多子世帯、多胎児を育てる家庭に対する支援(多子世帯に配慮した子育て、保育、教育、住居など様々な面での負担の軽減策の推進など)
  • 妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援(母子保健法改正15を踏まえた産後ケア事業の全国展開等)
  • 子育ての担い手の多様化と世代間での助け合い(NPOやシニア層などの参画促進による地域での子育て支援、三世代同居・近居16しやすい環境づくりなど)

(3)地域の実情に応じたきめ細かな取組を進める

都市や地方など地域によって少子化の状況は大きく異なっており、その要因や課題にも地域差がある。また、結婚、妊娠・出産、子育ては、人々の暮らしそのものでもある。したがって、実効性のある少子化対策を進めるため、住民に身近な存在である地方公共団体が、地域の実情に応じ、結婚、妊娠・出産、子育てしやすい環境の整備に取り組み、国がそのような地方公共団体の取組を支援する。

また、少子化対策を進めることは、地方創生の観点からも重要であることから、地方創生と連携した取組を進めることが必要である。したがって、地方公共団体の地方創生と少子化対策の関係部局が一体的に施策の企画・立案、実行を進めるよう促していく。加えて、各地方公共団体における分野横断的な地域特性の分析、地域の強みや課題の見える化等を支援し、結婚・出産・子育てしやすい環境の整備を促進する。

さらに、女性や若者の地方への移住・定着を促進することは、将来にわたって「活力ある地域社会」を実現するために有効であることから、地域における女性や若者が活躍できる魅力的な雇用の創出や、働きやすい環境の整備を促進する。

<重点課題>
  • 結婚、子育てに関する地方公共団体の取組に対する支援
  • 地方創生と連携した取組の推進(「地域アプローチ」による少子化対策の推進など)

(4)結婚、妊娠・出産、子供・子育てに温かい社会をつくる

結婚、妊娠・出産、子育てというライフイベントが生じたときに、周囲から温かく受け入れられ、必要な支えを得られることは、何よりも重要なことである。結婚、妊娠・出産、子育てを大切にするという意識が社会全体で深く共有され、行動に表れることで、当事者の抱える不安や負担が軽減され、社会に支えられているという実感を得られるようになる。また、これから結婚・子育てをしようとする若い世代が、結婚や子供を生み育てることに前向きなイメージを持てるようになる。あわせて、子供を大切にし、心身ともに健やかな育ちを支えることは、一人一人の子供の幸せはもとより、未来の担い手を育成することにもつながる。

そのため、行政、地域、企業、NPO、様々な世代に属する人、メディア、教育機関など、社会を構成する多様な主体がそれぞれの役割を果たしながら連携し、社会全体で、不妊治療も含め妊娠・出産への理解を深めるための情報発信を行うとともに、若い世代の結婚の希望や子育てを応援する機運を高めていく。結婚や子育てを通して人生が豊かになったと感じる人が増えるとともに、子供や家族が大事にされる社会の実現に向けて、社会全体で行動を起こしていくことが重要である。

<重点課題>
  • 結婚を希望する人を応援し、子育て世帯をやさしく包み込む社会的機運の醸成(子育て支援パスポート事業の普及・促進、「家族の日」「家族の週間」等を通じた理解促進など)
  • 妊娠中の方や子供連れに優しい施設や外出しやすい環境の整備
  • 結婚、妊娠・出産、子供・子育てに関する効果的な情報発信
(5)科学技術の成果など新たなリソースを積極的に活用する

少子化は、今後、多くの国が直面する課題であり、新技術を活用した少子化対策は、課題先進国日本のチャンスにもなる。結婚に向けたきめ細かい出会いの機会の提供や、子育て世帯の負担軽減・利便性向上等に向け、ICTやAIなどの科学技術の成果を含む新たなリソースを適切に活用する。その際、結婚は個人の自由な意思決定に基づくものである点、また、安全面や子供の健全な発育の観点等に十分留意し、システムと人的資源を有機的に組み合わせ、相乗効果を図る。

<重点課題>
  • 結婚支援・子育て分野におけるICTやAI等の科学技術の成果の活用促進(AIを活用したシステムと相談員による相談を組み合わせた結婚支援、行政内部や保育現場における業務の効率化、母子保健関連データの関係者間での共有・活用、子育て関連手続にかかる負担軽減など)

14 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)

15 母子保健法の一部を改正する法律(令和元年法律第69号)

16 居住形態としての隣居を含む。

IV ライフステージの各段階における施策の方向性

(1)結婚前

若い世代が将来を見通し、安心してキャリアとライフイベントの双方にチャレンジできる環境を整備する。

(ライフプランニング支援)

若い世代が、結婚、妊娠・出産、子育て、仕事を含めた将来のライフデザインを希望を持って描き、様々なライフイベントに柔軟に対応できるとともに、男女が互いを尊重しつつ、性に関する正しい理解の下、適切に行動できるよう、必要な知識や情報を学び、乳幼児と触れ合う体験を含め将来のライフイベントについて考える機会を、学校、家庭、地域、企業等の様々な場で提供する。

(若い世代のライフイベントを応援する環境の整備)

行政の取組に加えて、結婚、妊娠・出産、子育てに対する企業の理解や積極的な取組が必要である。若い年齢での結婚、妊娠・出産、子育てがキャリア形成の阻害要因にならないような環境整備に取り組むとともに、子育てしながらキャリアアップするロールモデルの提示、経営者・管理職の意識・行動改革などに取り組む。

(2)結婚

若い世代の結婚の希望が、希望する年齢でかなうような環境を整備する。

(経済的基盤の安定)

若い世代の経済的基盤の安定に向け、若者の就労支援、非正規雇用労働者の正社員転換・待遇改善を進め、若い世代の雇用の安定を図るとともに、高齢世代から若者世代への経済的支援を促進する。

(地方公共団体による総合的な結婚支援の取組に対する支援等)

地方公共団体が行う、出会いの機会・場の提供、結婚に関する相談・支援や支援者の養成、ライフプランニング支援などの総合的な結婚支援の一層の取組を支援する。その際、広域的な自治体間連携、AIを活用したシステムと相談員による相談を組み合わせた結婚支援等を促進する。また、結婚に伴う新生活のスタートアップに係る経済的負担を軽減することで、結婚の後押しをする。加えて、結婚支援に取り組むNPOを始めとする民間団体との連携強化を図る。これらの取組に当たっては、結婚は個人の自由な意思決定に基づくものである点に十分留意する。

(ライフプランを支える働き方改革)

働き方改革は、結婚の希望をかなえる観点からも重要である。雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保することは、経済的基盤の安定につながる。また、長時間労働の是正や柔軟な働き方を進めることにより、若い世代が多様な活動に参加することが可能になり、結果として出会いの機会の増加につながるとの指摘もある。

(3)妊娠・出産

妊娠・出産に関する希望がかない、誰もが安心して妊娠期間を過ごし、出産することができる環境を整備する。

(妊娠前からの支援)

妊娠・出産等に関する医学的・科学的な知識を提供することにより、子供を持つことを希望する方が適切に判断・行動できるよう支援する。

調査研究等を通じて不妊治療に関する実態把握を行うとともに、男女問わず不妊に悩む方への支援に取り組む。

(妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援)

子育て世代包括支援センターの整備の促進、産後ケア事業の全国展開や産前・産後サポート事業の充実など、成育基本法17を踏まえ、地域において妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援体制を構築するとともに、児童虐待の発生予防にもつなげる。

予期せぬ妊娠等に悩む若年妊婦等が必要な支援を受けられるよう、NPOなどとも連携しながら、取組を進める。

(安全かつ安心して妊娠・出産できる環境の整備)

妊娠・出産に関する経済的負担の軽減、周産期医療の確保・充実、母子感染予防対策等に取り組む。

正規雇用・非正規雇用にかかわらず、妊娠・出産したことを理由として不利益な取扱いやハラスメントを受けることなく、安心して就業継続できるよう取り組む。

(4)子育て

仕事と子育ての両立の難しさ、子育て中の孤立感や負担感、子育てや教育にかかる費用負担の重さなど、子育ての希望の実現を阻む要因を一つ一つ取り除き、全ての子育て家庭が、平常時・非常時を問わず、それぞれが必要とする支援にアクセスでき、安全かつ安心して子供を育てられる環境を整備する。

(子ども・子育て支援)

「子ども・子育て支援新制度」を着実に実施し、実施主体である市町村が住民のニーズを把握した上で、地域の実情に応じて子ども・子育て支援の充実を図る。また、その更なる「質の向上」(職員の配置改善等)を図るため、消費税分以外も含め、適切に財源を確保していく。

保護者の就業形態や就業の有無等にかかわらず、子育て家庭の多様なニーズに対応する、多様な保育・子育て支援を提供し、地域の実情に応じてそれらの充実を図る。特に、幅広いニーズが見込まれる一時預かり事業やファミリー・サポート・センター事業、広く地域に開かれた施設である認定こども園や地域子育て支援拠点などにおける子育て支援の一層の強化を図る。また、病児保育をはじめ多様な保育について、地域の実情に応じてそれらの充実を図るとともに、保育を希望する保護者がニーズにあった保育につながるよう、相談対応や情報提供等、保護者に寄り添った支援を行う。さらに、保育施設への送迎や、保育施設の開始前・終了後の子供の預かりなど、地域におけるきめ細かな子育て支援を推進する。あわせて、子育て家庭の負担軽減に資するよう、家事の負担を軽減する商品やサービスを積極的に活用できる環境づくりを推進する。

(子育てに関する経済的支援・教育費負担の軽減)

子育てや教育にかかる経済的負担の軽減を図るため、児童手当の支給、幼児教育・保育の無償化、低所得者世帯に対する高等教育の修学支援、子供の数に応じた国民健康保険料の負担軽減を行う地方公共団体への支援などを着実に実施する。

(仕事と子育てを両立するための働き方改革)

男女が共により柔軟な働き方で、子育てしながらキャリアを築けるよう、働き方改革を推進し、長時間労働を是正するとともに、一人一人の実情に応じて多様で柔軟な働き方を選択できるようにする。仕事と家庭生活の両立に資する観点から転勤制度の在り方などを見直すとともに、雇用によらない働き方の者や非正規雇用労働者が安心して働けるよう配慮する。

(男女共に仕事と子育てを両立できる環境の整備、女性活躍の推進)

待機児童の解消に向け、引き続き、保育の受け皿整備や保育人材の確保を行う。また、放課後児童クラブ・放課後子供教室の整備並びに両事業の適切な運営及び一体的な実施に取り組むとともに、地域住民等の参画を得て子供たちに多様な体験・活動の機会を提供する。

男女共に仕事と子育てを両立できる環境を整備するため、引き続き、育児休業や育児短時間勤務などの両立支援制度の定着促進・充実を図る。雇用形態にかかわらず、産前産後休業・育児休業を取得しやすくする。また、希望する女性が妊娠・出産後も継続して就業できるよう支援するとともに、出産・育児のため一旦退職し、再就職を希望する女性への再就職支援や、地域活動への参画支援を行う。

(男性の家事・育児参画の促進)

男性が、妊娠・出産の不安と喜びを妻と分かち合うパートナーとしての意識を高めていけるよう、両親学級等の充実等により、父親になる男性を妊娠期から側面支援する。

労働者に対する育児休業制度等の個別の周知・広報や、育児のために休みやすい環境の整備、配偶者の出産直後の時期の休業を促進する枠組みの検討など、男性の育児休業取得や育児参画を促進するための取組を総合的に推進する。

長時間労働の是正や経営者・管理職の意識改革を促すことなどにより、男性の家事・育児参画を促進する。

(子育ての担い手の多様化と世代間での助け合い)

NPOや活力・意欲あるシニア層などの参画を促すことで、子育ての担い手の多様化を進め、地域全体で子育てを支えていく。支援を求めている側と支援を提供する側をつなぐ取組を進める。三世代同居・近居しやすい環境づくりを推進する。

(多子世帯、多胎児を育てる家庭に対する支援)

多子世帯に配慮し、子育て、保育、教育、住居など様々な面での負担の軽減策を推進する。多胎妊産婦等に対する支援を行う。

(住宅支援、子育てに寄り添い子供の豊かな成長を支えるまちづくり)

子育て世帯が、必要な質や広さを備えた住宅に、世帯の状況に応じて居住できるよう支援する。主要駅を中心に多様な子育て関係施設や商業施設を集約して整備するなど、地域の実情に応じて、子育てに寄り添い、子供の豊かな成長を支えるまちづくりを進めていく。その際、空き家を活用する。

(子供が健康で、安全かつ安心に育つ環境の整備)

小児医療の充実や地域の安全を向上させる取組により、子供が健康で、安全かつ安心に育つ環境を整備する。

(障害のある子供、貧困の状況にある子供、ひとり親家庭等様々な家庭・子供への支援)

障害のある子供、貧困の状況にある子供、ひとり親家庭等様々な家庭・子供への支援を行うとともに、児童虐待の防止や社会的養育の充実を図る。

(社会全体で子育てを応援する機運の醸成)

子育て世帯をやさしく包み込む社会的機運の醸成を図るとともに、妊娠中の方や子供連れに優しい施設や外出しやすい環境を整備する。

(子育て分野におけるICTやAI等の適切な活用)

「成長戦略実行計画」18などを踏まえ、経済成長に資する観点からも、子育て分野におけるICTやAI等の適切な活用を促進し、子育て世帯の負担軽減・利便性向上等に取り組む。


17 成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(平成30年法律第104号)

18 2019年6月21日閣議決定

V 施策の推進体制等

(1)推進体制

少子化対策を総合的に推進するため、少子化社会対策会議を中心に、内閣総理大臣のリーダーシップの下、政府一体となって少子化対策に取り組む。あわせて、本大綱の推進に当たり、内閣府子ども・子育て本部が司令塔となって、関係省庁の連携・推進体制の強化を図る。

少子化対策の推進に当たっては、まち・ひと・しごと創生など、少子化対策と関連の深い政策分野との連携に留意する。

(2)施策の検証・評価

本大綱の施策について、その効果的な推進を図り、より実効性のある少子化対策を進めるため、施策の進捗状況等を検証・評価し、必要な見直しにつなげるPDCAサイクルを適切に回していく。

今後5年間を目処として、本大綱の施策について数値目標を設定するとともに、その進捗を定期的にフォローアップする。数値目標の設定に当たっては、目指すべき成果を可能な限り定量的かつ客観的に示すとともに、実態を踏まえることに留意する。

また、施策の進捗状況とその効果等を検証・評価し、施策の効果的な推進につなげる。検証・評価に当たっては、より適切に実態を捉えるため、例えば雇用形態別、就業形態別、地域別などで現状を把握・分析するとともに、目指すべき成果に照らした定性的な評価も踏まえる。あわせて、政府全体として、有識者の意見を聞きつつ、施策の進捗状況等を検証・評価するための体制を構築する。

少子化に関する調査研究や事例収集等を通じて、少子化の状況、施策の実施状況等を適切に把握・分析し、政策的対応に向けた検討を行う。

(3)更なる少子化対策の充実・強化

我が国の家族関係社会支出の対GDP比は、少子化社会対策基本法19が施行された2003年以降、児童手当の段階的拡充や、保育の受け皿拡大により、徐々に増加してきたが、2017年度で1.58%となっている。国民負担率などの違いもあり、単純に比較はできないが、フランス(2015年度2.93%)、スウェーデン(2015年度3.54%)、ドイツ(2015年度2.28%)など出生率の回復を実現した欧州諸国と比べて低水準となっており、現金給付及び現物給付を通じた家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されている。

今般、消費税の引き上げにより確保した2兆円規模の恒久財源を子供や子育て世代に大胆に投資し、保育の受け皿の大幅な整備、幼児教育・保育の無償化、真に経済的支援が必要な子供たちを対象とした高等教育の修学支援などを実現した20

少子化の進展が国民共通の困難であることに鑑み、更に強力に少子化対策を推し進めるために必要な安定財源の確保について、国民各層の理解を得ながら、社会全体での費用負担の在り方を含め、幅広く検討を進めていく。

(4)大綱の見直し

本大綱については、施策の進捗状況とその効果、社会情勢の変化等を踏まえ、おおむね5年後を目処に見直しを行うこととする。


19 平成15年法律第133号

20 2019年10月の幼児教育・保育の無償化の実施に伴い、家族関係社会支出は平年度で約8,860億円(公費ベース)の増額となる(対名目GDP比+約0.16%相当)。

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