ホーム>薬物乱用者の手記
ある日、裁判所からの娘宛の封書を受け取りました。
胸騒ぎがして封を切ると、『被告人』の欄には娘の名前、次の欄には『覚せい剤取締法違反』の罪状が書かれていました。
身体中の血が一気に逆流するような衝撃を受けました。
私は、裁判を告げるこの手紙を見るまで、娘が覚せい剤に手を染めていることを全く知りませんでした。
娘は大学を卒業後、10年近く一生懸命に仕事をしていましたし、ダンスの指導者としても活躍していました。離婚をしてしまいましたが、結婚もしていました。
小さい頃は元気で活発な、色々なことに前向きに取り組む子でした。
そんな娘に対する裁判では、執行猶予付きの判決が下りました。
裁判から半年ほど経ったある日、娘が突然、「お母さん、そっち向かないで、死神がいる。」というような意味不明なことを言いながら、私にすがりついてきました。
私の人生が崩れ落ちるような感覚に襲われたのもつかの間、娘の様子が見る間に変わっていきました。
何かに怯える様子で、「ウワー」とか「ギャー」と大声で叫びながら、あちらこちらを手で払いのけるのです。
その動きが激しさを増してきて、どうにもならない状態になった時、夫と次女、そして私の3人で、娘を畳の上に押し倒し、両手足を押さえつけ、口を塞いでいました。
娘の心臓は、胸から飛び出しそうな勢いで激しく鼓動を打っていました。
夫が突然、「その濡れたタオルじゃ、死ぬぞ。」と叫びました。
次女と私の手で塞いだ娘の口には、私がいつの間にか掴んでいた濡れタオルがあったのです。
「こんな修羅場を世間に知られたくない」という気持ちから、無意識のうちに娘の口に濡れタオルを押し当てていたのでしょう。
徐々に狂ったような状態が遠ざかり、やがて落ち着きを取り戻した娘は、「自首する」と言いました。
「執行猶予中の再使用、警察に自首すれば間違いなく刑務所行きになる。どうしたら良いのだろうか。」
家族全員で話し合いましたが、結局、娘を自首させることに決めました。
それは
「再び、あの修羅場を起こしたら、娘はきっと死んでしまう。」
と、本人も私たちも強く感じていたからです。
娘の『死』よりも、覚せい剤が絶対に使えない『刑務所』を選んだのです。
夫と私が付き添い、娘と一緒に近くの警察署へ行きました。
娘は現在、刑務所に服役しています。
今、私は薬物依存症を抱える家族のための家族会に通い、薬物依存や依存症について学んでいます。
そして薬物依存症が病気であることや、この病気は完治しないが、回復はすると教えられました。
娘の回復を待ち続けられる母親でありたいと思っています。
警察庁資料「DRUG2010」より