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第3部 オーストラリア(1)

第一章 青少年のインターネット利用環境に関する実態

1. 青少年の年齢の定義

 オーストラリアでは一般的に、18歳以上が成人、18歳未満が未成年と見なされる。例えば、選挙権は18歳以上の全国民に与えられ、投票が義務付けられている。また、飲酒や喫煙が認められるのも18歳からである。

 オーストラリアの刑法では、刑事責任の年齢が州毎に定められているが、基本的には下記のとおり、10歳未満、10歳~14歳、18歳未満(ただしクイーンズランドでは17歳未満)、18歳以上という、4つの年齢区分に分けられる73

【オーストラリアにおける刑事責任の年齢】表A1-1
管轄 刑事責任追求無し 刑事責任追及の可能性有 少年裁判所で扱われる年齢
連邦 10歳未満 10歳以上14歳未満 州/テリトリーの法律に準ずる
オーストラリア首都特別地域 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
ニューサウスウェールズ州 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
ノーザンテリトリー 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
クイーンズランド州 10歳未満 10歳以上14歳未満 17歳未満
南オーストラリア州 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
タスマニア州 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
ビクトリア州 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満
西オーストラリア州 10歳未満 10歳以上14歳未満 18歳未満

出典:Australian Institute of Criminology掲載の資料を元に作成74

 このほか、性的同意年齢はオーストラリア首都特別地域、ニューサウスウェールズ州、ノーザンテリトリー、クイーンズランド州、ビクトリア州、西オーストラリア州では16歳、タスマニア州と南オーストラリア州では17歳となっている75。児童ポルノに関しては連邦・州毎に以下の年齢定義が適用される。

【児童ポルノに関わる法律の未成年の年齢定義】表A1-2
管轄 未成年の年齢
連邦 18歳未満
オーストラリア首都特別地域 16歳未満
ニューサウスウェールズ州 16歳未満
ノーザンテリトリー 18歳未満
クイーンズランド州 16歳未満
南オーストラリア州 17歳未満
タスマニア州 18歳未満
ビクトリア州 18歳未満
西オーストラリア州 16歳未満

出典:Australian Institute of Criminology掲載の資料を基に作成76

 インターネット上の未成年の保護という意味では、適用される連邦及び州の法律によって年齢定義が異なる。インターネットを介して青少年を性行為に誘う青少年の斡旋及びグルーミングに関わる法律、年齢制限については第二章で述べる。

2. 青少年のインターネット利用環境に関する管轄組織とその役割

 オーストラリアでは、通信芸術省(Department of Communications and the Arts)の傘下にある「eセーフティー監督官事務所(Office of the eSafety Commissioner)」がインターネット利用環境全般を管轄している。インターネット利用環境に関する組織としては、上記eセーフティー監督官事務所の他、通信芸術省の傘下にオーストラリア通信メディア庁(Australian Communications and Media Authority: ACMA)及びオーストラリアレイティング審査委員会(Australian Classification Board)が存在する。以下、その他の関係組織も含め、青少年のインターネット利用環境に関する管轄組織を説明する。

(1)eセーフティー監督官事務所(Office of the eSafety Commissioner)

 オーストラリアでは、青少年のネットいじめ対策として2015年に「子供のためのeセーフティー監督官事務所(Office of Children’s e-Safety Commissioner)」が設立された。その後、同事務所の役割が拡大され、2017年に「eセーフティー監督官事務所」と名称が変更され、青少年だけでなくオーストラリア国民全体の安全なインターネット利用の促進を目的とすることとなった。同組織では、青少年のネットいじめ、違法・有害情報、リベンジポルノなどの画像による嫌がらせ(Image based abuse)の苦情申立て制度を設けているほか、オーストラリア国民のための安全なインターネット利用情報のワンストップサービスとして情報や教育資料を提供している。また、インターネット利用に関わるさまざまな研究も行っている。

(2)オーストラリア通信メディア庁(Australian Communications and Media Authority: ACMA)

 同庁は、2005年にオーストラリア通信庁(Australian Communications Authority)及びオーストラリア放送庁(Australian Broadcasting Authority)が統合して誕生した。ACMAは、放送、電気通信、無線通信、オンライン業界の規制監督を担っており、その役割は関連業者のモニタリングや法規制の執行、許認可承認から消費者への情報提供や研究など多岐にわたる。従来は、インターネット上の違法・有害情報の規制もACMAが行っていたが、2015年に「子供のためのeセーフティー監督官事務所(2017年にeセーフティー監督官事務所に改名)」が設立されたことで、この責任は同監督官事務所へと移行した。しかしながら、ACMAの職員はeセーフティー監督官の仕事を補佐している。

(3)オーストラリアレイティング審査委員会(Australian Classification Board)

 1995年レイティング77法(The Classification Act, 1995)の下で誕生した独立委員会で、通信科学芸術省の傘下である。違法・有害情報からの青少年保護を目的に、レイティングスキーム(National Classification Scheme)に基づきビデオやDVD等を含む映画やコンピューターゲーム、出版物の倫理審査を実施する。オンライン上のコンテンツも同様のレイティングスキームに基づいて規制されており、ACMAやeセーフティー監督官事務所は必要に応じて同審査委員会にオンラインコンテンツのレイティングを申請する。(2016/17年度、この2つの機関が同委員会にレイティングの申請を行なったのは4件のみで、うち3件がRC、1件がMA15+78に分類されるものだった79。)

(4)オーストラリア・サイバー犯罪オンライン報告ネットワーク(The Australian Cybercrime Online Reporting Network: ACORN)

 ACORNは、連邦、州及び準州政府による共同イニシアチブで、市民がネット犯罪を通報できる国レベルのオンライン制度である。ACORNが扱うのは、主にハッキングやネット詐欺、個人情報窃盗、コンピューターシステムでの攻撃といったネット犯罪だが、深刻なネットいじめや、違法・有害コンテンツの通報もできるようになっている80

(5)コミュニケーションズ・アライアンス(Communications Alliance)

 同アライアンスは、オーストラリアの通信業界の成長及び消費者保護を目的とする電気通信産業を代表する業界団体である。通信事業者、インターネットサービスプロバイダー(ISP)、コンテンツプロバイダー、メーカー、IT企業ほか、消費者団体など様々な企業や団体が加盟している。コミュニケーションズ・アライアンスは、ISPやコンテンツサービスプロバイダーを規制する「インターネット及びモバイルコンテンツに関するインターネット業界規範(Internet Industry Codes of Practice Internet and Mobile Content)」 及び「コンテンツサービス規範(Content Services Code)」という2つの業界規範を設けている。この2つの業界規範に関しては第三章で詳しく述べる。

(6)オンライン安全諮問作業部会(Online Safety Consultative Working Group)

 オンライン安全諮問作業部会は、通信芸術省の傘下に位置し、インターネットの安全性について政府に助言を行う。地域団体、ISP、業界団体、企業、政府を代表するメンバーから構成され、年に2回会議を開いている81

(7)法執行機関

 連邦及び州の警察には、青少年を狙ったインターネットを介した犯罪に特化した課を以下のように設けているところがある。

【青少年を狙ったインターネットを介した犯罪に特化した連邦及び州の警察の課】表A1-3
ニューサウスウェールズ州 The Child Exploitation Internet Unit ニューサウスウェールズ州警察の一課で、インターネットをはじめとする通信システムを使った子供の性的搾取の捜査を専門とする。また安全なインターネット利用に関して地域社会への啓蒙・教育活動の支援も行っている82
クイーンズランド州 Task Force Argos 1997年に組織的な青少年虐待の捜査を目的に結成されたクイーンズランド州警察の一課で、現在はインターネットを介した青少年の性的搾取及び虐待の捜査を中心としている。
西オーストラリア州 Online Child Exploitation Squad インターネットを介した青少年性的虐待や性的搾取の調査を行っている83
オーストラリア連邦警察 Child Protection Operations インターネットを介した青少年性的搾取を担当する調査班で、オーストラリア各州の警察、政府組織、ISPやコンテンツホストを含む非政府団体、世界の法執行機関、Interpolなどと協力して調査を行う84

出典:各州政府及び連邦警察の情報より抜粋作成。

3. 青少年の閲覧が望ましくないとされている情報

(1)オンライン・コンテンツ・スキーム(Online Content Scheme)

 オーストラリアでは、eセーフティー監督官事務所がインターネットコンテンツの規制行政全般を所掌している。違法及び有害なオンラインコンテンツは、1992年の放送サービス法(The Broadcasting Services Act 1992)の附則5及び附則7から成るオンライン・コンテンツ・スキーム(Online Content Scheme)に基づき、苦情申立て制度を通じて規制が行われている。

 同スキームは消費者(特に子供)が不適切あるいは有害な情報にさらされるのを防ぐために策定されたもので、eセーフティー監督官事務所は通報が寄せられたコンテンツを国家レイティングスキーム(National Classification Scheme)に基づいて評価する。当該コンテンツが禁止コンテンツ(prohibited content)又は潜在的禁止コンテンツ(potential prohibited content)と判断され、ホスティング先がオーストラリア国内の場合、そのサービスプロバイダーに対して削除を命じ、ホスティング先がオーストラリア国外の場合は、当該コンテンツを認可されたフィルタリングの供給業者に通知し、当該コンテンツへのアクセスが阻止されるようにする85

 また、児童虐待の映像等をはじめとする違法コンテンツに関しては、管轄の州警察に通知し、同時に、ホスティングプロバイダーにコンテンツの削除を命じる。ホスティング先が海外だった場合は、オーストラリア連邦政府に通知し、Interpolを通じた対応を求める。 また、同事務所は青少年性的虐待に関わるオンラインコンテンツの撲滅に努める国際通報ネットワークINHOPE(International Association of Internet Hotlines)に加盟しており、青少年の性的虐待のコンテンツが加盟国の管轄下にある場合、eセーフティー監督官事務所が当該国のホットラインにこれを通知する86

(2)レイティングスキーム(National Classification Scheme)

 オーストラリアでは、オーストラリアレイティング審査委員会が違法・有害情報から青少年を保護するために、レイティングスキームに基づきビデオやDVD等を含む映画やコンピューターゲーム、出版物の倫理審査を実施している。eセーフティー監督官事務所は、これと同様のレイティングスキームに基づいてオンラインコンテンツを規制している。

【国家レイティングスキーム】表A1-4
カテゴリー レイティング アイコン 内容
法的規制のない映画及びコンピューターゲームの閲覧や利用 G
(General)
一般的に閲覧可能。
PG
(Parental Guidance)
保護者による児童への説明が必要。

(Mature)
成人に近い判断力、見方ができることが必要。
法的規制のある映画及びコンピューターゲームの閲覧や利用 MA 15+
(Mature Accompanied)
15歳未満は保護者の同伴が必要。性表現や薬物使用など影響度が高いコンテンツを含む可能性がある。
R 18+
(Restricted)
18歳以上限定。性表現や薬物使用など影響度が高いコンテンツを含む可能性がある。
法的規制のあるアダルト映画の閲覧 X 18+
(Restricted)
18歳以上限定。露骨な性交を含むアダルト映画。
RC
(Refused Classification)
国内での販売、入手、展示、輸入の禁止。

出典:各州政府及び連邦警察の情報より抜粋作成87

 上記のレイティングスキームに基づいて、1992年放送サービス法の附則7が禁止コンテンツあるいは潜在的な禁止コンテンツと定義するのは、以下の通りである88

  • RC
  • X18+
  • R18+(子供によるアクセスを防ぐアクセス制限システム(Restricted Access System)の対象となるものは除く。)
  • MA15+(商業目的で提供されるなど特定条件に当てはまるもの。アクセス制限システムの対象となるものは除く。)

(3)違法情報及び有害情報の現状

 eセーフティー監督官事務所の年次報告書によると、2017/18年度に同事務所に寄せられた 違法・有害コンテンツの通報数は12,283件で、2016/17年度から54%増加した。このうち同事務所が調査を行ったのが13,131件(1つの通報が複数の調査につながることがあるため)で、うち禁止コンテンツ及び潜在的な禁止コンテンツは10,229件だった。また、このうちの78%が児童・青少年の性的虐待に当てはまるものだった。

【eセーフティー監督官事務所が対応に当たった禁止コンテンツ及び潜在的な禁止コンテンツ数】(2017/18年度)表A1-5
オンラインコンテンツのレイティング オーストラリア内でホスティングされているコンテンツ 海外でホスティングされているコンテンツ(フィルタリング業者に通知)
MA15+ 0 0
R18+ 0 328
X18+ 0 1347
RC1(a) (道徳規範や良識の基準に反するもの、及び極めて不快な忌まわしい内容のもの等) 0 501
RC1(b) (子供の不快な描写を含むもの) 0 8,043
RC1(c) (犯罪又は暴力の説明、誘因、助長するもの) 0 9
RC9A (テロ行為を助長する出版物、映画、コンピューターゲーム) 0 1
RC 1-出版物(露骨なヌード等) 0 0
RC 2-出版物(露骨な性行為等) 0 0
合計 0 10,229

出典: Australian Communications and Media Authority; Office of the Children’s eSafety Commissioner Annual Reports 2017-1889

 eセーフティー監督官事務所が対応に当たった禁止コンテンツ及び潜在的な禁止コンテンツ10,229件全ては、海外でホスティングされているもので、オーストラリア国内でホスティングされているものは一つもなかった90

 eセーフティー監督官事務所がコンテンツの削除を求めることができるのは、ホスティング先がオーストラリア国内にあるものに限られている。ホスト先が海外の禁止コンテンツは認可されたフィルター供給業者に通知し当該コンテンツのフィルタリングを求めることになるが、オーストラリアではフィルタリングの利用は義務付けられていないため、こうしたコンテンツに対しては対応が行き届いていない。

 eセーフティー監督官事務所が教育訓練省と共同で行った調査によると、青少年(12歳から17歳)の57%が「ネット上で現実の暴力を見て動揺した」、33%が「テロを奨励する動画や画像を目にした」と答えている91。 また、別の調査では、51%の青少年(大多数が男子)がポルノや違法コンテンツを閲覧したことがあると答える92など、青少年による違法・有害情報へのアクセスが阻止しきれていない点を明らかにしている。

4. 青少年のインターネット(スマートフォン含む)利用数・利用率

(1)オーストラリア統計局データ

 以下のデータは、オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)が2016/17年度のオーストラリアの家庭における情報技術の使用状況をまとめた統計に基づいている。

 インターネットアクセスのある家庭の数は、2004年/05年より増加を続けてきたが、2014/15年度と2016/17年度は86%とその割合は一定に留まっている。2016/17年度では、15歳未満の子供がいる家庭のインターネットアクセスが97%だったのに対し、15歳未満の子供がいない家庭では82%だった。また、インターネットアクセスのある家庭は、主要都市で88%だったのに対し地方では77%だった。

【2004年~2016年におけるインターネットアクセスの家庭別割合】図A1-6

出典:オーストラリア統計局 2016/17年度

 また、利用端末については、インターネットアクセスのある家庭の91%がコンピューターを利用しており、携帯電話やスマートフォンは全体の91%だった。次いで多かったのがタブレットで、インターネットアクセスのある家庭の66%に見られた。

【家庭でのインターネット使用機器別の利用数の割合と変化(2014/15年・2016/17年】図A1-7

出典:オーストラリア統計局 2016/17年度

 さらに、家庭でのインターネット利用に使われている機器の数も増加しており、2014/15年は平均5.8台だったのに対し2016/17年は6.2台だった。そして、15歳未満の子供を持つ家庭では平均端末数は7.8台、15歳未満の子供を持たない家庭では5.4台だった。このほか、15歳未満の児童を持つ家庭の99%が携帯電話あるいはスマートフォンからインターネットにアクセスしていた。

 オーストラリア人の87%がインターネットを利用しており(過去3ヵ月間にインターネットにアクセスした15歳以上のオーストラリア人)、中でも15歳から17歳の青少年の利用率は98%と最も高かった93

【オーストラリアにおけるインターネットの利用率】図A1-8

出典:オーストラリア統計局 2016/17年度

(2)オーストラリア通信メディア庁とeセーフティー監督事務所による共同報告書

 オーストラリア通信メディア庁とeセーフティー監督事務所はオーストラリアの青少年のインターネット利用状況をまとめた共同報告書『Aussie teens and kids online』 を発表している。以下は、同報告書に基づいたデータであり、ここでの青少年は14歳から17歳を指す94

【オーストラリアの青少年のインターネット利用状況】図A1-9

 注: 過去4週間にコンピューター、タブレット、携帯電話を介したインターネット利用。
出典: Roy Morgan Single Source

 2015年の青少年のインターネット利用率は82%で、これは4年前の74%から上昇している。また、インターネット利用者数は女子が85%、男子が78%と女子の利用率が高く、地方に住む青少年よりも都市部の青少年にインターネット利用が多く見られた。こうしたインターネット利用率の増加にはスマートフォンの普及がその一端を担っており、青少年のスマートフォン利用者は2011年には23%だったのが2015年には80%と急増している。

【青少年のスマートフォン利用率の増加(%)】図A1-10

出典: Roy Morgan Single Source

 インターネットの利用場所としては、青少年の98%が自宅でインターネットを利用しており、自宅でのインターネット利用率は2011年から変化していないが、自宅外でのインターネット利用が多様化してきている。自宅外の利用場所として多かったのは教育機関で、2011年の59%から2015年は64%に上昇しており、これはオーストラリアの教育機関がデジタル学習に力を入れていることを反映しているものと思われる。このほか、利用率の最も大きな増加を見せたのがWi-Fiホットスポットで、2011年が17%だったのに対し2015年には36%と4年間で倍増した。

【自宅外でのインターネット利用率(%)】図A1-11

出典: Roy Morgan Single Source

 青少年のインターネット利用時間は、2011年では一日に最低1回インターネットにアクセスする青少年の割合が64%だったのに対し、2015年には一日に最低3回インターネットにアクセスする青少年の割合は83%となっており、利用時間が大幅に増加しているのが分かる。ここもまたスマートフォンの普及が最大要因であると考えられる。

 青少年のインターネット利用目的は多岐にわたり、 エンターテイメントを目的として利用が目立つ、特に動画や音楽をストリーミングする青少年の数が大幅に増加している。例えばYouTubeなどのサイトで動画をストリーミングした青少年の割合は2011年の34%に対し、2015年には64%と倍近い伸びを見せた。

(3)オーストラリア心理学会による報告書

 このほか、青少年のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)利用状況に関しては、オーストラリア心理学会(Australian Psychological Society)が調査結果をまとめており、2017年に『Digital Me』と題した報告書を発表している。これによると、オーストラリアの青少年(14歳から17歳)は一日平均3.3時間をSNSに費やしており、SNSサイトへのログイン数は一日に5回から9回ほどだったが、中にはお気に入りのサイトに一日50回アクセスすると答えた青少年も見られた。人気のSNSサイト上位5位は、上からFacebook、YouTube、Instagram、Snapchat、Twitterだった95

5. 青少年のインターネット利用に伴う青少年の生活等への影響とそれに関する捉え方

 スマートフォンの普及に伴い青少年の間でインターネット利用時間は増加しており、携帯電話を使ったSNSの使用頻度の増加など、青少年の携帯電話依存が高まっている。オーストラリア心理学会が青少年(14歳から17歳)と成人のSNS利用状況を調査した報告書『Digital Me』によると、青少年の78.8%が「特に目的もなしに携帯電話を使う」、「携帯電話の使用頻度を減らすことができない」と答えるなど、携帯電話に大きく依存していることが見て取れる。また、SNSの使用に関しては、青少年は1日平均 3.3時間SNSに費やしており、60.3%が就寝15分前にSNSにログインしている96

 こうしたSNSをはじめとする青少年間のインターネット及び携帯電話依存が引き起こしている問題を以下にまとめた。

(1)ネットいじめ

 『Digital Me』によると、四分の一以上の青少年(14歳から17歳)がSNS上でネットいじめまたはトローリングを経験したと答えている。

【時々/頻繁/常時と答えた青少年の割合】図A1-12

出典: オーストラリア心理学会『Digital Me』97

 eセーフティー監督官事務所の調査では19%の青少年が過去1年間にネットいじめを経験したと答えている98。また、同事務所は、年次報告書でネットいじめに関する以下の図のような統計を発表している。

 同事務所の苦情申立て制度を通じて寄せられたネットいじめの件数は、2017年7月1日から2018年6月30日までの1年間で409件に上り、前年同期比34%増だった。中でもネットいじめの主な被害者は13歳から17歳の青少年に多く見られ、通報の約79%を占めた。また、被害者は男子よりも女子に多く見られた。

【2017~2018年に苦情が寄せられたネットいじめの被害者の年齢別割合】図A1-13

出典: Australian Communications and Media Authority; Office of the Children's eSafety Commissioner Annual Reports 2017-1899

【2017~2018年に苦情が寄せられたネットいじめの被害者の性別割合】図A1-14

出典: Australian Communications and Media Authority; Office of the Children's eSafety Commissioner Annual Reports 2017-18

 さらに、苦情が寄せられたネットいじめの内容は、以下のカテゴリーに分類される。(ネットいじめの内容は複数カテゴリーに当てはまる事例もあるため、割合の合計は必ずしも100%とはならない。)

【2017~2018年に苦情が寄せられたネットいじめの内容】図A1-15

出典: Australian Communications and Media Authority; Office of the Children's eSafety Commissioner Annual Reports 2017-18

(2)ゲーム依存

 メディアで取り沙汰されている問題の一つに、特に男子を中心としたオンラインゲーミング依存がある。近年Fortniteと呼ばれるオンラインゲームへの依存が深刻化しており、キャラクターの道具やコスチュームを買うのに親のクレジットカードを盗む、夜中親が寝静まった時間に起きてゲームをする、授業中に教師から隠れてゲームをする、学校の成績が急激に下がるなどの問題を引き起こしているばかりか、親がゲームを禁止しようとすると幼児のように泣き叫んで癇癪を起すなど、保護者の間ではこの問題にどう対処してよいのか戸惑いの声が上がっている100

 eセーフティー監督官事務所は青少年のオンラインゲームの利用状況に関して以下のような調査結果を発表している101

【子供(8歳~13歳)と10代の青少年(14歳~17歳)のオンラインゲーム利用状況】図A1-16

出典:Office of the eSafety Commissioner, State of Play-Youth and Online Gaming in Australia,
https://www.esafety.gov.au/about-the-office/research-library

 同調査によると、青少年の10人に6人がマルチプレイヤーによるオンラインゲームを利用しており、上記の表が示すように青少年の多くが面識のない他人とインターネット上でゲームを利用している。また、青少年の17%がマルチプレイヤーによるオンラインゲームを介したネットいじめを経験したと答えている。年齢別の統計は以下となっている。

【マルチプレイヤーによるオンラインゲームを介したいじめの経験の割合】図A1-17

出典:Office of the eSafety Commissioner, State of Play-Youth and Online Gaming in Australia,
https://www.esafety.gov.au/about-the-office/research-library

 さらに、eセーフティー監督官事務所は、オンラインゲームが引き起こす問題はゲーム依存のみならず、ウェブカメラやプライベートメッセージ、オンラインチャットなどを介して犯罪者が接触してくる危険性、ゲームを介したいじめや嫌がらせ、ギャンブル、アプリ内課金やゲーム内課金、ウイルスやセキュリティの脆弱性などの付随する危険性を挙げている102

(3)セクスティング

 女子の間で多く見られるのがトップレスセルフィーの問題で、これはトップレスなど自分のセミヌード/ヌード写真をスマートフォンで撮影し相手に送るセクスティングである。最近この問題はティーンエージャーの間だけでなく、小学生の間にも見られるようになってきており、スマートフォンを持つ子供の年齢層が若くなっていることに起因している103

(4)ポルノ

 青少年によるネット上でのポルノの閲覧については、ポルノから誤った性教育を受ける、ボディイメージと自尊心を傷つける、女性をセックスの対象として見るようになる、性犯罪を引き起こす可能性があるなど青少年への悪影響が問題視されている104

 インターネット、さらにはスマートフォンの普及により、青少年が意図的にポルノを閲覧または偶発的にポルノに遭遇する可能性がますます高まってきている。また、クレジットカード払いや年齢確認を必要としないポルノサイトも増加しており、これらのサイトは青少年の閲覧が容易である。青少年は、ブラウザのポップアップや無害なネット検索、大人がポルノサイトを開きっぱなしにするなどが原因でポルノに遭遇することもあれば、関連用語の検索結果を通じてポルノを知る、また友人、年上の兄弟等からポルノを見せられる、など様々な形でポルノを知ることになる105

 2015年、オーストラリア上院は環境通信参考委員会(Environment and Communications References Committee)に対し「インターネット上のポルノ閲覧がオーストラリアの青少年にもたらす危害(Harm being done to Australian children through access to pornography on the Internet)」について調査を委託した。同委員会は、翌年2016年にその報告書をまとめている。この報告書は、オーストラリアの青少年の多くがインターネット上でポルノを閲覧していることを示す複数の調査結果を紹介している。ある調査では、9歳から16歳の青少年の28%がネット上で性的コンテンツを見たことがあり、15歳から16歳の青少年では73%に上った。別の調査では、13歳から16歳の青少年の93%の男子と62%の女子がネット上でポルノを見たことがあるとしている106。 

(5)SNS依存

 SNSやインターネットが摂食障害や心の病の原因になっていることなども青少年の生活への影響として挙げられるほか、より日常的な問題としてSNS依存による睡眠時間の減少や睡眠妨害、それに伴う学習能力の低下や食習慣の悪化なども指摘されている107

 こうした問題がある一方で、SNSをはじめとするインターネット利用が青少年の生活にプラスとなっているという意見も多く存在する。例えば、青少年にとってSNSなどのオンラインコミュニケーションは社会との接点を提供する重要なツールであり、青少年の約半分が困難に直面した際にインターネットを介して助けを求めている。また、SNSは親、家族や親戚、友人とのコミュニケーションの維持と促進に大きな役割を果たしている108

 このように、青少年のインターネット利用には危険が多く伴うもののその影響は必ずしもネガティブなものではなく、得られる利益も大きいというのがオーストラリア社会全体の考え方だと言える。

6.インターネット上のウェブサイトを利用した青少年買春などの犯罪の主たる事例とその数

(1)青少年の斡旋及びグルーミング

 オーストラリアでは、性行為を目的としインターネットを利用した青少年の斡旋及びグルーミングが問題視されている。2007年のカーリー・ライアン事件は、最も有名な事例の一つである。当時15歳だったカーリーが、ネット上で出会った年齢と身分を偽る50歳の男に殺害された事件である。また、最近では、2017年にシドニー在住の16歳の少女が、Snapchatで知り合ったアメリカ人男性に会うために親に内緒でアメリカに渡航し、アメリカ滞在中に性行為に及んだ事件もメディアで大きく取り沙汰された109

 以下は、ビクトリア州とニューサウスウェールズ州における青少年の斡旋及びグルーミング事例数をまとめたものである。この両州は、オーストラリア全人口のおよそ6割を占める。なお、以下の統計は、オンラインに限らずオフラインのものも含まれる。

  1. ビクトリア州
    【ビクトリア州におけるグルーミング違反の事例数】表A1-18
    法令 違反内容 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    Crimes Act 1958 s49B* 性的行為を目的とした16歳未満の青少年のグルーミング 0 19 72 124 89
    Crimes Act 1958 s49M* 性的行為を目的とした16歳未満の青少年のグルーミング 0 0 0 0 71
    CRIMCODE.474.27.1* 通信サービスを使用した16歳未満の青少年のグルーミング 57 54 97 88 89

    *ビクトリア州刑法第49B条(Section 49B of the Crimes Act 1958)の施行期間は2014年4月9日から2017年6月30日。
    *ビクトリア州刑法第49M条は上記49B条に取って代わり2017年7月1日より施行。
    *Crime Code 474.27.11995年連邦刑法典第474.27条

    出典: The Crime Statistics Agency Victoria

    【ビクトリア州におけるグルーミング違反者の年齢】表A1-19
    違反者の年齢区分 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    10 - 17 歳 0 0 0 0 ≤3
    18 歳以上 33 41 77 95 111
    合計* 33 41 77 95 116

    出典: The Crime Statistics Agency Victoria

    【ビクトリア州におけるグルーミング被害者の年齢】表A1-20
    被害者の年齢区分 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    10 - 17 歳 ≤3 17 68 105 141
    18 歳以上 ≤3 0 0 ≤3 ≤3
    合計* 5 20 75 115 155

    *合計数値には年齢不特定のものも含まれる。
    *≤ 3:機密保持のため、1~3件の事例数に関しては左記のように表記。

    出典: The Crime Statistics Agency Victoria

  2. ニューサウスウェールズ州
    【ニューサウスウェールズ州警察が記録した斡旋/グルーミング違反の事例数】表A1-21
    年度別事例数 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    斡旋/グルーミングの事例数 344 302 341 378 399

    出典:NSW Bureau of Crime Statistics and Research

    【ニューサウスウェールズ州警察により斡旋/グルーミング違反で裁判所等に起訴された容疑者の数】表A1-22
    被告人の年齢 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    18歳未満 3 3 3 4 7
    成人 55 92 82 90 75
    合計 58 95 85 94 82

    出典:NSW Bureau of Crime Statistics and Research

    【ニューサウスウェールズ州警察が記録した斡旋/グルーミングの被害者の年齢】表A1-23
    被害者の年齢区分 2013/4~2014/3 2014/4~2015/3 2015/4~2016/3 2016/4~2017/3 2017/4~2018/3
    18歳未満 334 310 312 372 408
    成人 8 8 10 10 4
    行方不明/不明 28 33 49 40 36
    合計 370 351 371 422 448

    出典:NSW Bureau of Crime Statistics and Research

(2)青少年による自作ポルノ

 この他に問題視されているのがネット上のウェブサイトを介した青少年ポルノの増加である。中でも青少年自身がセクシーなポーズを取っている様子や性器部を動画に映すなど、青少年自身が相手に強要されるあるいは悪用されると知らず自作している青少年ポルノが急増している110。 ある事例では、10歳の女子がウェブカメラを通じて相手から自分の体を触るよう指示され、その様子が、小児愛者がよく使うとされるフォーラムにアップロードされた111

 2016年には、「イエロー(Yellow)」(2017年に「Yubo」と改名)と呼ばれる新しいアプリがオーストラリアでリリースされ、このアプリを通じたグルーミングが問題視されている。同アプリは「ティーンエージャー向けのTinder」と呼ばれるなど、出会い系アプリTinderと類似の機能を有し、友達になりたい人物のプロフィールを右スワイプして友達になることができるというものである。利用規約上は、13歳から17歳の未成年が利用するためには保護者の許可が必要だが112、年齢確認は自己申告すれば良いため未成年でも事実上年齢制限を回避して簡単に使用することができる。同アプリのリリース以来、未成年等がヌード写真を送るよう強要され、性的な会話に誘導されるなどの報告がなされているほか、複数のグルーミング事件が警察に通報されており、未成年が性犯罪者の標的にされやすいアプリとして教育者や保護者、ネット安全の専門家の間で懸念の声が上がっている113

(3)セクスティング

 オーストラリアでは、セクスティング自体はそれが同意する成人の間で行われた場合、合法であるが、未成年者が関わった場合、青少年ポルノや青少年虐待の文書の製作・保持として連邦法違反となる。オーストラリアの連邦法では、未成年(18歳未満)のヌード画像や性的ニュアンスのある画像の送受信はわいせつ行為または青少年ポルノに分類される114

 2017年、南オーストラリア州で16歳の少年が青少年ポルノ制作・保持で起訴されたという事件があった。少年は自身の性器の写真を撮りそれを彼女に送信したが、二人の関係が破綻した後に彼女がその写真をSNSに投稿した。少年は裁判官の裁量で有罪を免れ、また彼女は裁判の代わりに家族、警察官、そして関係者を交えたファミリーカンフェレンスへの参加が求められた115

 クイーンズランド州では、2016年6月30日までの10年間で、同州警察が関わった青少年虐待や青少年ポルノの制作・保持の加害者は3,035人に上り、うち1498人が17歳未満の青少年によるものだった。このうち裁判となったのが28件、残りの1470件は裁判を免れ大多数が警察から警告処分を受けるに留まっている。裁判を免れた加害者の大半がセクスティングを介した違反に関わっており、その内訳は、保持が45.4%、配布が34.4%、制作が29.7%だった。違反者の平均年齢は14.8歳で最年少は10歳だった116

 また、NSW州では2010年1月から2014年9月までの間に21歳未満の青少年が関わったセクスティングの起訴件数は120件に上ったと報告されている117

 ビクトリア州では、2014年に犯罪法及び軽犯罪法が改正されセクスティングに関する新たな法律が成立している。1966年軽犯罪法に第41DA条118及び41DB条119の追加により、成人が相手の親密な画像の意図的な配布、あるいは配布を脅迫した場合は犯罪として取り扱われることとなった。また、1958年犯罪法に第70AAA条120が追加されたことで、18歳未満の青少年同士が互いに同意の上でセクスティングした場合、未成年ポルノ違反の罪に問われず、性犯罪者として扱われることはないとされた121

【ビクトリア州におけるセクスティング関連の事例数】表A1-24
2014年11月から2018年7月に申立てられた事例数
違反内容 年齢区分 2014/11~2015/7 2015/6~2016/7 2016/6~2017/7 2017/6~2018/7
相手の親密な画像の意図的な配布 10-17 歳 5 43 68 50
18-24 歳 6 16 28 26
25 歳以上 5 31 50 52
合計* 16 92 147 130
相手の親密な画像配布の脅迫 10-17 歳 0 7 10 11
18-24 歳 0 6 15 24
25 歳以上 0 23 32 41
合計 0 36 57 76

*合計数値には、年齢不特定のものも含まれる。

出典:The Crime Statistics Agency Victoria

【ビクトリア州における2014年11月から2018年7月までの被害報告数】表A1-25
違反内容 年齢区分 2014/11~2015/7 2015/6~2016/7 2016/6~2017/7 2017/6~2018/7
相手の親密な画像の意図的な配布 10-17 歳 0 6 35 83
18-24 歳 ≤3 ≤3 16 42
25 歳以上 0 ≤3 11 67
合計* ≤3 10 67 198
相手の親密な画像配布の脅迫 10-17 歳 0 16 31 27
18-24 歳 0 13 17 39
25 歳以上 0 14 27 40
合計 0 45 77 110

*合計数値には、年齢不特定のものも含まれる。

出典:The Crime Statistics Agency Victoria

7.青少年のインターネット利用の際のフィルタリング・他の防御システムの種類と実態

(1)フィルタリング等の導入の背景

 2007年、当時のハワード自由党政権がオーストラリアの家庭にペアレンタルコントロールとインターネットフィルターを無料で提供するNetAlert政策を開始した。しかし、その利用率はわずか2%程に留まり、同政策はオーストラリアの家庭にあまり浸透せず、2009年にラッド労働党政権が同政策の廃止を発表、代わりに強制ウェブフィルタリングシステムを導入する政策提案がなされた。

 このシステムは、RCレイティングに分類されるものを強制フィルタリングシステムの対象とし、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に対してそれらコンテンツのブロッキングを求めるというものであったが、産業界から十分な賛同が得られなかったことやその他反対意見の多さにより実現にはいたらなかった。

 しかしながら、オーストラリアの2大プロバイダーであるテルストラ(Telstra)とオプタス(Optus)は、オーストラリア通信メディア庁が青少年虐待サイトに指定したウェブサイトやInterpolが「最も最悪な(worst of the worst)リスト」に指定した青少年虐待に関するウェブサイトのブロッキングを2011年より開始している122

 このように、オーストラリアではフィルタリングの使用はISP及びユーザーに法律上の義務は存在していない。しかしながら、民間の取組として、オーストラリアの通信産業を代表するコミュニケーションズ・アライアンスの定める「インターネット業界規範」により、オーストラリアのISPに対して「家庭向けフィルター(Family Friendly Filters)」と呼ばれる家庭向けのフィルタリングの提供を義務付けており、ユーザーは回線契約時にISPが提供するフィルタリングサービスに加入できるようになっている123

(2)家庭用フィルターの利用率

 現在のところ、オーストラリアの保護者によるフィルタリングソフトウェアやペアレンタルコントロールの利用率に関する詳しい統計は明らかになっていない。

 2016年に、eセーフティー監督官事務所が保護者による子供のオンライン活動の管理状況をまとめた『Parenting Online』インフォグラフィック(情報やデータを視覚的に表現したもの)によると、96%の保護者が子供のオンライン上の安全を守るために何らかの対策を講じていると答えているものの、フィルタリングの使用率はわずか17%に留まっている124。詳細は、後記10.(1)で触れる。

【ペアレンテイング オンライン(抜粋)】 図A1-26

出典: eセーフティー監督官事務所、『Parenting Online』2016年

 また、金融調査会社Canstar Blueは16歳未満の子供を持つ親600人を対象とした調査結果を以下の通り発表した125

【16歳未満の子供を持つ親600人対象の調査結果】表A1-27
質問事項 回答 回答別%
子供のインターネット利用を監督しているか 「ネットナニー(Net Nanny*)などのセキュリティソフトウェアを使っている」 11%
「子供がインターネットを利用する際には一緒に座って様子を見ている」 31%
「不適切なサイトにアクセスしないと子供を信頼しているので、監督していない」 40%
「子供のインターネット使用を制限する必要はないと考えているため、監督はしない」 18%

*Net Nannyはペアレンタルコントロールとウェブフィルタリングを提供するソフトウェア。

出典: 金融調査会社Canstar Blue

8.青少年のインターネット利用に関する教育機関としての取組と主たる実態

(1)背景

 オーストラリアでは教育は州の管轄となっており、各州の教育省がその管理運営を行っている。初等中等教育について言えば、学校教育の体系、カリキュラムの実施、学生の評価や認定などは州の教育省が独自で決定しているが、各州に共通点は多い。また、カリキュラムは国が定める統一された「オーストラリアカリキュラム」に則ったものとなっている。国レベルでは、教育訓練省(Department of Education and Training)が就学前から高等教育・職業教育に至るまでの教育政策の策定を行っており、学校教育に関して言えば、資金援助の他に各州と協調を図ることで国全体に一貫した学校教育制度を提供することを目標としている126

(2)連邦政府の取組

 国レベルでは、教育訓練省が安全な学校環境の創出・維持を目的に学生、教育者、保護者に情報を提供するサイト「Student Wellbeing Hub」の中でサイバーセーフティーについて情報を提供している。また、連邦政府及び州政府教育大臣会議(Ministerial Council on Education, Employment, Training and Youth Affairs, MCEETYA)は、安全で協力的な学校環境を作り上げるためのガイドライン「National Safe Schools Framework」を定めている。同ガイドラインは、2003年に策定された枠組みを改訂し2010年に発行されたもので、「サイバーセーフティーを促進し、嫌がらせや攻撃的な態度、暴力やいじめに反撃するためのスキルと理解を指導する」、「サイバーセーフティーに関わる問題等に対処する上での法制度と協調する」など、近年浮き彫りになってきた新たな課題を盛り込んでいる127

(3)ネットいじめ等に対する取組

 国レベルの取組としては、安全で協力的な学校社会のワーキンググループ(Safe and Supportive School Communities Working Group, SSSC)がネットいじめを含むいじめ全般の情報提供サイト「Bullying. No Way! 」を設けているほか、「National Day of Action against Bullying and Violence(NDA)」と呼ばれるいじめ撲滅の日を定め、オーストラリア全土の学校に参加を呼び掛けている(2018年現在、NDAに参加した学校は4,575校)128

 各州の教育機関における安全なインターネット利用の取組については、どの州の教育機関も特に強制的なプログラム導入を学校側に求めておらず、その取組は学校によって異なる。また、各州の教育省がインターネットの安全性についてウェブサイトで情報提供を行っているが、その内容は、州によってまちまちであり、取組の度合いも異なる。

 特に力を入れていると思われるのがビクトリア州で、州の教育省のウェブサイトに「ブリー・ストッパーズ(Bully Stoppers)」と呼ばれるいじめ対策のためのページを設けており、その中で学生、保護者、教育者、校長向けにそれぞれ項目を分け、ネットいじめをはじめとするサイバーセーフティー情報を詳しく紹介している。例えば、インターネットを介した問題が発生した場合の対応手順を紹介した手引きが定められており、学生がインターネット上で不適切な行為の加害者あるいは被害者となった場合の対処法を詳しく説明している129

 ビクトリア州政府は、アラナ・アンド・マデリン財団(Alannah and Madeline Foundation)が提供する「eスマートスクール(eSmart School)」プログラムを支援しており、ビクトリア州全ての初等・中等教育校に同プログラムを導入するための資金援助を行っている。

9.青少年のインターネット利用に関するワーキンググループ等民間の取組と主たる実態

 オーストラリアの民間団体による取組は、非営利団体及び営利団体による教育機関を対象とした指導プログラムが主体となっている。eセーフティー監督官事務所はこうした団体に対して認証制度130を設けており、そのウェブサイトで 認証を受けている団体の一覧を紹介している。その他、様々なウェブサイトで青少年の安全なインターネット利用についての情報提供を行っている。ネットいじめなどが原因で心を病んでいる青少年を対象にしたカウンセリングサービスなどを提供している。

【認証を受けている主な団体】表A1-28
シンクユーノウ (ThinkUKnow)  イギリスで始まったプログラムで、オーストラリアでは2009年にオーストラリア連邦警察によって立ち上げられた。同プログラムはオーストラリアの保護者、教育者、学生に対して安全なインターネットの利用方法を指導する無料のプログラムで、青少年がインターネットで「語る、見る、行う(Say, See and Do)」内容に基づいてプレゼンテーションを行い、SNS上の評価管理、ネットいじめ、セクスティング、オンラインゲーミング、不適切なコンテンツ、個人情報管理、個人情報窃盗といった問題を取り上げる。ThinkUKnowはオーストラリア唯一の国レベルでの犯罪防止プログラムで、プレゼンテーションは州・準州の警察によって行われる。またウェブサイト上で安全なインターネット利用に関する様々な情報を掲載している131
アラナ・アンド・マデリン財団 (Alannah and Madeline Foundation) 子供を暴力から保護することを目的に設立された慈善団体で、子供の健康と安全のための様々な慈善事業を展開している。同財団は安全なインターネット利用環境が整った教育環境を構築するための「eスマート(eSmart)」プログラムを教育機関に提供している。132また、いじめ撲滅に努める「National Centre Against Bullying」の運営も行っている。
カーリー・ライアン財団 (Carly Ryan Foundation) インターネット上で会った18歳の青年を偽る男に殺害された15歳の少女カーリー・ライアンの母親が立ち上げた慈善団体。インターネットの安全な利用方法について学生、保護者、教育者向けにセミナーやワークショップを行う133
スタイミー (Stymie) クイーンズランド州の元教育者レイチェル・ダウニー氏が2014年に立ち上げたネットいじめ通報ウェブサイト。いじめ対策として傍観者の通報を奨励するもので、学校は同ウェブサイトに有料でメンバー登録し、担当職員(一般に教頭など経験のある教職員)を割り当て、通報が寄せられた際にはそれに対応する。学生はいじめを匿名で通報できるようになっている134
キッズヘルプライン (Kids Helpline) 5歳から25歳の青少年・若者に対して24時間体制で無料の電話・インターネットカウンセリングを提供する。そのウェブ上ではネットいじめに関して詳しい情報を掲載している135
レイジングチルドレンネットワーク (Raising Children Network)  子育てに関するあらゆる情報を提供するウェブサイトで、青少年のための安全なインターネット利用について詳しい情報とアドバイスを提供している136
国立いじめ撲滅センター (National Centre Against Bullying) Alannah & Madeline Foundationが運営する団体。ネットいじめを含む子供のいじめ全般に関する情報提供を行うほか、学校、地域社会、保護者や学生たちに向けた啓蒙活動を行う137

出典:eセーフティー監督官事務所及ぶ各団体のウエブサイト情報を基に作成。

10.青少年のインターネット利用に関する家庭での話合い並びにルール設定等の傾向

 保護者による子供のインターネット利用のモニタリングや監督、及びそれに関する親子間の話合いの重要性は、青少年のネット利用に起因する社会問題について触れた新聞記事をはじめ、政府機関や民間団体のウェブサイトでも頻繁に触れられている。

(1)保護者による子供のオンライン活動の管理

 eセーフティー監督官事務所は、2016年6月までの一年間に家庭内で行われた保護者による子供のインターネット利用の監督・監視について8歳から17歳までの子供を持つ保護者2,360人を対象に調査を行い、『Parenting Online』と題したインフォグラフィックをまとめている138

 同調査によると、96%の保護者が子供のインターネットの安全利用のための何らかの対応策を講じたと答えている。また、その対応について、ネット上の作業を実際に手伝った、共同でオンライン活動に取り組んだ、子供のネット上の問題に耳を傾けた、ネット上で発生した問題に対処したなど86%の保護者が実践的なアプローチをとっている。そして、ネットを使っている様子を監督した、閲覧履歴を確認した、SNSのプロフィールを確認した、友達とグループを確認した、子供と友達になったなど、70%の保護者が、子供のネット利用をモニタリングしていた。さらに、利用時間を減らすように言った、一時的に端末を取り上げた、モバイルデータ通信を無効にした、フィルタリングを使った、アプリ内購入を無効にしたなど59%の保護者が子供のネット利用に制限を課していた。また、79%の保護者が、子供と話合いを行ったと答えている。

【ペアレンテイング オンライン(詳細)】 表A1-29

出典: eセーフティー監督官事務所、『Parenting Online』2016年

(2)保護者による管理の課題とルール設定

 上記のeセーフティー監督官事務所の調査結果を見る限りにおいては、大多数の保護者が何らかの形で子供のネット利用に介入している印象を受ける。しかし、一方で、子供のインターネット利用の実態を把握できていない、スマートフォンの利用についてのルール作りをしていない、保護者から子供との話合いをどのように行えば良いのかわからない等、保護者から戸惑いの声が上がっているという文献も数多く見られる139

 家庭でのルール設定に関しては、インターネット利用に関する同意書の作成が推奨されている。クイーンズランド州の警察は、ウェブサイトで「家庭における安全なインターネット利用のための同意書(Family Internet Safety Agreement)140」のサンプルを提供している。また、シンクユーノウがカーリー・ライアン財団と共同で「家庭における安全なインターネット利用のための契約書(Family Online Safety Contract)141」を作成し、ウェブサイトからサンプルをダウンロードできるようにしている。

11.青少年のインターネット利用環境に関する実態における現状での問題点の把握

 eセーフティー監督官事務所は、そのウェブサイトで、青少年の安全なインターネット利用について保護者に情報とアドバイスを提供するページ「iParent」を設けており、青少年が直面する大きな課題として、ネットいじめ、オンライン・ポルノ、見知らぬ相手からの接触、セクスティング、オンラインゲーム、摂食障害、SNS、インターネット利用時間、個人情報保護を挙げている142

 オーストラリアではフィルタリングの使用が法令等により義務付けられていないこと、またeセーフティー監督官が削除通達を出せるのは国内でホスティングされているコンテンツに限られること等を考慮すると、インターネットの安全な利用は個人の責任に任されている部分が大きい。そのため青少年が安全にインターネットを利用するためには、保護者による管理・監督が必要になってくるわけだが、オーストラリア心理学会がまとめた『Digital Me』の調査で60%の保護者が子供のインターネット利用を監督していないと答えていることからも分かるように、保護者側からの努力も未だ十分とは評価できない。

 オーストラリア心理学会のリン・オグレイディ氏は、「ティーンにとってSNSは財産。しかし、彼らはリスクを識別する能力にさほど長けておらず、成人と比べ衝動的な行動をとる傾向にある」、そして「ネット以外の状況と同様に、ティーンが正しい判断を下すことができるよう、保護者が限界を定め、ルールを設け、指導する必要がある」と述べるなど、保護者が子供のインターネット利用を厳しく管理するのではなく、開放的なコミュニケーションを通じ、青少年がネット上で正しい判断をすることができるよう指導・ルール設定を行うことがカギと考えられている143。 このように、オーストラリアでは、保護者が子供のインターネット利用により関与すること、そして青少年がインターネット上のリスクを識別し回避する能力を培っていくことが今後の課題と考えられていると言える。


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