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第1章 子ども・若者育成支援推進法について

平成21年7月に成立した子ども・若者育成支援推進法(平成21年法律第71号。平成22年4月1日より施行。)は,教育,福祉,雇用等の関連分野における子ども・若者育成支援施策の総合的推進と,ニートやひきこもり等困難を抱える若者への支援を行うための地域ネットワークづくりの推進を図ることの二つを主な目的としている。とりわけ,ニートやひきこもり等に対して関係機関が現場レベルにおいてより一層連携して支援する地域協議会の仕組みが定められたことが特色となっている。

(1)本法の制定に至る経緯

ア ニートやひきこもり等の困難を有する子ども・若者の問題に深刻化

青少年問題の中でも特に社会的自立が困難な子どもや若者については,今日大きな問題となっている。

ニート(NEET)とは,「進学も就職もせず教育訓練も受けない」を意味する英語の頭文字(Not in Employment, Education or Training)をとったもので,1999年の英国内閣府の報告書で使用されたものと言われている。我が国では,年齢を15〜34歳に限定し,非労働力人口のうち,家事も通学もしていない「若年無業者」としていわゆるニートを把握しているが,現在15〜34歳の全体数約3千万人のうち,若年無業者(いわゆるニート)は64万人(平成20年総務省「労働力調査」)とされている。(図1−1参照。15〜39歳までの若年無業者は,平成20年で84万人)

図1−1 若年無業者(いわゆるニート)数の推移

図1−1 若年無業者(いわゆるニート)数の推移

|若年無業者については、非労働力人口のうち家事も通学もしていない者として集計。

|15-34歳計は、「15〜24歳計」と「25歳〜34歳計」の合計。「15〜24歳計」、「25歳〜34歳計」

 それぞれの内訳については、千人単位を四捨五入しているため合計と合わない。

資料:総務省統計局「労働力調査」

なお,参考までに若年無業者(ニート)と失業者の違いは以下のとおりである。平成20年の15〜34歳の失業者は115万人,非正規雇用者は111万人である。ここで,「失業者」は仕事についていないが,仕事があればすぐ就くことができ,かつ求職活動をしている者を指すのに対し,「若年無業者(ニート)」は求職活動をしていない又はすぐ仕事に就くことができない非労働力人口(のうち,家事も通学もしていない者)を指す。つまり,単純化して言えば,失業者と違って,若年無業者(ニート)は公共職業安定所(ハローワーク)に行けない(行かない)者ということになる。このことから,若年無業者(ニート)に対しては,公共職業安定所(ハローワーク)による就業支援の前の段階での福祉や保健,医療等の分野における支援が重要となる。

また,長期間にわたって自宅にひきこもって社会参加しない状態が持続している「ひきこもり」については,約32万世帯(平成16年厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」)とされている。さらに,ニートやひきこもりは中学校不登校,高校中退の経験者が多いと言われているが(平成19年厚生労働省「ニートの状態にある若年者の実態及び支援策に関する調査研究」),中学校不登校は約35人に一人,高校中退者は約48人に一人とされている(平成19年文部科学省調べ)。

これらのニートやひきこもり等が置かれている厳しい現状は,総じて本人の努力不足によるものというより,社会環境の大きな変化によるしわ寄せが若者に及んだ結果が大きいと考えられる。ニートやひきこもり等の問題については,個人の尊厳の問題としても,社会全体で真剣に取り組んでいく必要がある。彼らは働くことへの自信が持てずニート・ひきこもり状態から抜け出せずに苦しんでおり,また,ニートやひきこもりの状態が長期化するにつれて,そして彼らの年齢が高くなるにつれてより解決が難しくなっていくことも指摘されている。また,この問題を放置すると,少子高齢化が進展する中で次代の担い手である子ども・若者が自立を果たせないままでいることになり,社会全体にとっての大きな損失となってしまう。

これらを踏まえると,ニートやひきこもりに対する支援の必要性が浮かび上がってくる。

イ これまでの施策

青少年の健全な育成については,政府においてはこれまで青少年育成推進本部が設置され(平成15年6月10日閣議決定),二次にわたる青少年育成施策大綱(平成15年,20年)の策定等を通じて,施策の総合的推進を図ってきた。また,特にニート等の自立支援については,現下の重要課題としての対応が一層強く求められている。このため,本法において,子ども・若者育成支援推進大綱の作成を規定するとともに,大綱に定める事項として,社会生活に困難を有する者への支援等が明記された。

これまでも,ニートやひきこもり等への対策は積極的に行われてきた。例えば,厚生労働省ではニート状態にある若者の職業的自立を図ることを目的として,キャリア・コンサルティング,就職支援セミナー,職場体験等の支援を行うとともに,地域若者サポートステーションといった,実施団体の機能のみでは自立実現が困難と考えられる場合に他の専門機関と連携し,支援を提供するネットワークを構築するという取組みが行われてきた。

若者がニートやひきこもりとなったきっかけも,学校教育段階でのいじめや家庭問題,非行など様々であり,就労機関や医療機関など単一の分野のみならず様々な分野における支援を組み合わせて行う必要があることから,これまで雇用や教育,福祉等の各分野において連携が行われてきた努力に加え,現場レベルでの連携をより一層進めることにより,縦割りの枠を超えて必要な支援を組み合わせて適切なタイミングで提供することが求められていた。

このように,とくに今日的問題である子ども・若者の社会的自立の遅れに対しては,地域の関係機関が連携して対処していくことが喫緊の課題となっている。

(2)法律の概要

子ども・若者育成支援推進法は,<1>子ども・若者育成支援施策の基本理念や国の施策の大綱等を定める総則(第一章),<2>子ども・若者育成支援施策(第二章),<3>ニート,ひきこもり等を支援する地域ネットワークを規定する子ども・若者が社会生活を円滑に営むことが出来るようにするための支援(第三章),<4>子ども・若者育成支援施策を推進する子ども・若者育成支援推進本部(第四章)及び<5>協議会の秘密保持義務に関する罰則(第五章)という五つの章と,施行期日等を定める附則から構成されている。以下,順次解説する。

ア 総則(第一章)

法の目的や基本理念,国や地方公共団体の責務等を定めている。

(ア)目的(第1条)

この法律は,子ども・若者が次代の社会を担い,その健やかな成長が我が国社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ,日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念にのっとり,子ども・若者をめぐる環境が悪化し,社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者の問題が深刻な状況にあることを踏まえ,子ども・若者の健やかな育成,子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるようにするための支援その他の取組について,その基本理念,国及び地方公共団体の責務並びに施策の基本となる事項を定めるとともに,子ども・若者育成支援推進本部を設置すること等により,他の関係法律による施策と相まって,総合的な子ども・若者育成支援のための施策を推進することを目的とすることを定めている。

(イ)基本理念(第2条)

一人一人の子ども・若者が,健やかに成長し,社会とのかかわりを自覚しつつ,自立した個人としての自己を確立し,他者とともに次代の社会を担うことができるようになることを目指すこと等を定めている。

イ 子ども・若者育成支援施策(第二章)

(ア)子ども・若者育成支援推進大綱の作成(第8条)

子ども・若者育成支援推進本部(後述)は,子ども・若者育成支援推進大綱(以下,大綱)を作成することとされている。大綱に定めるべき事項は,<1>基本的な方針,<2>教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各関連分野における施策に関する事項,<3>修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって,社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対する支援に関する事項等となっている。平成20年末に青少年育成施策大綱が策定されたところであるが,本法の制定を受けて,今後は子ども・若者育成支援推進大綱が作成される。

(イ)子ども・若者計画の作成(第9条)

都道府県(及び市町村)は,国の大綱を勘案して都道府県子ども・若者計画(市町村子ども・若者計画)を作成する努力義務が定められた。子ども・若者計画の内容は,国の大綱を「勘案」して作成するものとされていることから,地方公共団体の状況,抱えている問題などを踏まえて地方公共団体が計画を作成することとなる。

(ウ)総合相談センター(第13条)

子ども・若者総合相談センターは,地方公共団体が子ども・若者育成支援に関する相談に応じて,関係機関の紹介その他の必要な情報の提供及び助言を行う拠点として設けられるものであり,相談の「たらい回し」を防ぐ機能を目指すものである。

ウ 子ども・若者が社会生活を円滑に営むことが出来るようにするための支援(第三章)

本法第三章に基づき,地方自治体に設置されるニート等の支援ネットワークである子ども・若者支援地域協議会の狙いは,社会生活への適応支援を基礎に教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各分野の支援を,地域の資源をネットワーク化し総合的に実施することにより最終的には修学及び就業など自立した社会生活を営み得る状態とすることである。

(ア)子ども・若者支援地域協議会(第19条)

子ども・若者支援地域協議会(以下「協議会」という。)とは,ニート,ひきこもり等困難を抱える若者への支援を行うために,教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各分野の関係機関からなる地域におけるネットワークを指す。(図1−2参照)


図1−2 支援ネットワーク図

図1−2 支援ネットワーク図

協議会の対象者は,「修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者」である若年無業者(いわゆるニート)やひきこもりだけではなく,「その他の子ども・若者であって,社会生活を円滑に営む上での困難を有するもの」である不登校,非行,摂食障害,適応障害などの問題に起因して,就業や修学状態にありながら社会生活を円滑に営む上での困難を有する者も含まれる。

対象年齢は0歳から30歳代である。もっとも,福祉,雇用といった個別の分野において,それぞれの担当機関だけで十分に対応可能なもの(たとえば,フリーター等,就労支援がメインとなるもの)まですべて協議会で継続的に支援を行う対象とするという意味ではなく,協議会においては,関係機関が密接に連携して総合的に対応する必要のあるケースを扱う。

(イ)子ども・若者支援調整機関,子ども・若者指定支援機関(第21条,第22条)

子ども・若者支援調整機関とは,協議会が効果的に機能するための協議会の事務局機能を果たすもので,運営の中核として支援の実施状況を的確に把握し,必要に応じて他の関係機関等との連絡調整を行う。各地方公共団体の「困難を有する子ども・若者への支援」を所掌する部局が調整機関に指定されることとなると考えられる。

子ども・若者指定支援機関は,とりわけ従来公的機関では対応が困難であったひきこもり状態にある子ども・若者への訪問支援(アウトリーチ)などを担うことをその役割としている。例えばNPO法人等の民間団体が指定されることが想定される。

(ウ)秘密保持義務(第24条)

協議会では,官民問わず,構成するすべての者が,協議会の事務に関して知った秘密を漏らしてはならないとし,相談者が安心して相談できる環境を整備すると同時に,協議会における積極的な情報交換及び官民間の連携の推進ができる制度を整備した。

(エ)協議会における支援の流れ

個別の相談,照会から支援に至るまでの具体的な流れについては,地域の実情によって異なるが,子ども・若者の立場からは次のような例が想定される(第20条)。

<1>困難を有する子ども・若者であるX又はその家族は,子ども・若者総合相談センター(第13条)に相談。

<2>子ども・若者総合相談センターは適切な関係機関をXに紹介。

<3>Xは子ども・若者総合相談センターから紹介された個別の関係機関(機関A)に相談。

<4>相談を受けた個別の機関(機関A)は,機関Aだけで対応するよりも,他の機関(機関B,機関C)とも連携をとって対応した方が効果的と判断。

<5>機関Aは,個人情報保護法令・条例に基づき,X(Xが未成年の場合にはその保護者等)より個人情報の取扱い(協議会への提供)について原則書面にて同意を得る。

<6>機関Aは,調整機関を通じ,協議会(個別ケース検討会議)の場で提案(機関A又は調整機関は事前に機関B,機関Cと意見のすり合わせを行うことも考えられる。)。

<7>協議会において,機関Aが中心となりながらも,機関B,機関Cが連携して支援することとし,今後の支援方針を取りまとめ。調整機関(第21条)は,議論の概要及び会議の結果を記録・保存。

<8>機関AからXに対し,支援方針など必要な事項を伝達。

<9>機関Aは協議会において状況を適宜に報告し,協議会は必要に応じ支援方針を再検討。

<10>調整機関は支援の結果を記録し,保存。

(オ)アウトリーチ(訪問支援)の実施

本法のもう一つの重要な点は,ニートやひきこもり等に対してアウトリーチ(訪問支援)を実施することについて明記したことである。

ニート・ひきこもり等は自ら相談窓口に出向くことは難しく,行政の側が受け身的な姿勢に留まっていては,結局支援機関につながらない。特に,ひきこもり状態にある者においては,本人が外出することや相談窓口や医療機関に出向くことが難しい場合や,家族への支援を継続しても本人と家族の関係や本人の生活状況には何らの変化も生じない場合等がある。

このような場合に,より積極的な支援手段として,子ども・若者の自宅などにおいて訪問支援(アウトリーチ)を実施し,本人への直接の働きかけが効果を挙げる場合が多いことから,訪問支援に係る規定(子ども・若者の住居その他の適切な場所において,必要な相談,助言又は指導を行うこと)が本法において初めて定められた。(第15条第1項第1号「社会生活を円滑に営むことができるようにするために,関係機関等の施設,子ども・若者の住居その他の適切な場所において,必要な相談,助言又は指導を行うこと。」)

実際の訪問支援の内容としては,ひきこもり状態等にある子ども・若者が,社会とのつながりを持つために必要となる日常生活習慣や集団生活への適応といった社会生活適応分野を中心とした相談,助言,指導の実施を想定している。また,ひきこもっている状態から次の状態(外出や社会参加)へと導くことが目的であり,その後には協議会による継続的な支援によって就労等を目指していくこととなる。

エ 子ども・若者育成支援推進本部(第四章)

(ア)子ども・若者育成支援推進本部の設置(第26条〜第33条)

内閣総理大臣を本部長とし,内閣官房長官及び内閣府特命担当大臣(青少年育成)を副本部長とする子ども・若者育成支援推進本部の設置が定められた。この本部は子ども・若者育成支援推進大綱の作成を主な機能とするものである。

従来,平成15年に閣議決定により設置された青少年育成推進本部が青少年育成施策大綱を作成してきたが,今後は,本法により設置される子ども・若者育成支援推進本部が大綱を作成していくこととなる。

また,平成21年4月に施行された「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(平成20年法律第79号)に基づく基本計画の作成については,インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議(会長:内閣総理大臣)が担ってきたが,今後は,子ども・若者育成支援推進本部が同法に基づく基本計画作成の事務を引き継ぐこととなる。

オ 罰則(第五章)

第24条の秘密保持義務に違反して協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らした者は,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることが定められている。

カ 施行期日等(附則関係)

子ども・若者育成支援推進法の附則第1条では,同法の施行期日を,「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」としており,これを受け制定された「子ども・若者育成支援推進法の施行期日を定める政令」(平成21年政令第280号)により,平成22年4月1日が本法の施行日として定められた。

(3)おわりに

本法の制定により,初めてニートやひきこもりに対する支援について根拠法令が定められた。これにより,現場レベルでの連携をより一層進め,縦割りの枠を超えて各分野の機関が連携してひとりひとりの子ども・若者に対し総合的な支援を行うことが期待される。


 内閣府 青少年支援担当
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