本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第2章 > 第6節 社会的排除への取組:海外の経験から学ぶこと
ユースアドバイザー養成プログラム
第2章 制度の概要及び業務の内容
  第6節 社会的排除への取組:海外の経験から学ぶこと  

社会的排除への取組:海外の経験から学ぶこと

先進国の状況をみると,若者支援の取組は進んでいるにもかかわらず,1980年代以後労働市場にうまく入っていけない若者が増加している。その中で次の3点が重要な課題となってきた。<1>若者が人生の好調なスタートを切るために,首尾一貫した教育,労働市場,社会政策を保障すること,<2>不利な状況にある若者が直面している特別な問題に対応する効果的な政策を策定すること,<3>より多くの若者が労働市場でより良いキャリアを築くための支援をすることである(OECD Background Report by Norman Bowers, Anne Sonnet and Laura Bordone, Giving young people a good start)。どの国でも教育期間が長くなっているが,その中で中退も含め早期に学校を去る若者は労働市場で最も不利な立場にあり,何度も失業を繰り返したり,無業の状態にあることが多い。このような若者は家庭の貧困や崩壊,心身の障がいや疾病,ドラッグやアルコール問題,高失業地帯に居住していることなど,複合的なリスクを抱えていることが多い。グローバル化の波の中で,就労の安定性や所得水準の点で若者層の中での格差が拡大し,リスクを抱えている若者はよりいっそう不利な状況に置かれている。

上記のような若者をめぐる社会経済状況を踏まえて欧州連合(EU)では,不利な条件下に置かれた若者の問題を,適正な所得や資源あるいは労働市場から排除され,社会サービスや社会関係から排除された人々の 「社会的排除」 の問題として位置づけて社会政策を展開するようになった。

EU諸国で,若者問題に限らず社会的排除への関心が高まり,取組が始まるのは1980年代末から90年代にかけてであったが,特に1997年のアムステルダム条約において,欧州委員会が社会的排除と戦う実質的な権限を持つようになる中で,より具体化するようになった。同年イギリスの労働党政権が,社会的排除への取組を開始したことは,欧州の社会政策のパラダイムの変化を示すものだった。このような流れの中で,若年者の失業や不安定雇用問題は,しだいに社会的排除の問題として検討されるようになった。社会関係や人的関係を欠いた若者の構造的問題として理解されるようになったのである。

イギリスを例にとれば,首相に直接報告する義務を負う社会的排除対策室が,1997年に社会から隔絶された若者への取組を開始した。まず,全国調査が実施され,その結果が1999年にBridging the Gapと題して報告された。その中で,毎年16〜18歳の若者の約9%が学校にも雇用にも訓練にも就いていないニートの状態にあり,しかもその層が固定化する傾向がみられると指摘されている。

ところで,概念としての社会的排除は,貧困やはく奪という概念のように,静止的な結果を対象とするよりは動態的な過程を問題としている。困難を抱えた若者の真の姿は,ある程度長期的に彼ら,彼女らのたどった道を追っていかなければ見えない。このように動的なアプローチで現実を見ることによって,社会の周辺に追いやられる危険にさらされている若者を,ライフスタイルの選択の自由を行使している若者や,キャリアに関する選択肢の自由を探している若者から,区別することができるからである。社会的包摂への取組の主なターゲットとして位置づけられているのは,学校にも職場にもいない無業状態の若者だけでなく,10代の親,里親家庭や養護施設の子ども,家出した(家を追われた)若者,心身の障がいや疾患を持つ者,ドラッグやアルコール中毒者などとされている。一人前になるのに長期間を要する現代社会において,長期にわたって保護してくれる家庭(親)を持たない若者や,低学歴・貧困・心身の疾病や障がいのために職に就けない若者が,最も脆弱な社会的排除のリスクを負った者と認識されている。

EU諸国における位置づけと比較すると,日本ではニート問題の本質が,社会的排除のリスクを持つ,最も脆弱な若者の問題であるという認識が弱い。そのため,ニート対策のターゲットを絞りきれていない。しばしば,ひきこもりの問題と重なって議論され,こころの問題に重点が置かれ,社会経済的問題や社会階層に関連する問題として認識されにくいのが日本の特徴である。そのため中流層に比重がかかった対策になりがちである。このような限界を突破することが,若者自立支援の今後の課題であろう。

-
本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁