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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第1節 若者を取り巻く現状  

2 学校から職業生活への移行

若者が大人になり,社会を構成する一人前のメンバーとなることは,社会にとっても個人にとっても重要な課題である。大人になることには,親の家計から離れ,自分の家庭を営み経済的に自立すること,あるいは,政治参加や納税の義務を果たすなど,さまざまな局面があると考えられるが,その中でも,職業を持ち,親の家計から自立した生計を営むことは重要な部分を占めるといえる。親の家計に依存して学校に通う状況から,こうした自立に至るプロセスが「学校から職業生活への移行」である。

1990年代初めまで,日本は,この移行が非常にスムーズに行われる国として国際的にも評価されてきた。それは,新規学卒採用・就職という,多くの若者を学校卒業と同時に安定的な職業生活(=雇用期限に定めのないフルタイムの雇用)につなげる仕組みである。特に,当時まで新卒就職者の半分以上を占めていた高校卒業者については,高校が卒業予定者の就職あっせんを自らの責任とし,毎年およそ60万人前後の生徒を一斉に,一括して安定的な雇用へ移行させてきた。高等教育卒業者については,あっせんへの学校の関与は高校より小さいものの,就職担当の事務部門や専門教育の教員等があっせんに関与し,学生の円滑な移行を支えてきた。

企業側はといえば,新規学卒者を一般採用とは別の枠組みで採用する仕組みを持ち,かつそれを採用の基本と位置づけてきた。採用後は,特別な配慮を持った職業能力開発が行われ,賃金や地位の上昇も期待できた。「日本型雇用慣行」といわれる,定年までの長期を前提とした年功的賃金体系を持った雇用への入口が,この新規学卒採用であった。

しかし,1990年代初めの景気後退から,企業の新規学卒者採用への意欲は大幅に減退した。とりわけ,高校卒業予定者への求人は激減した。1992年3月卒業者対象の求人は167万人と著しく多かったが,2003年3月卒に対しては22万人と8分の1にまで減った。図3−4には,高校卒業予定者を対象とした求人倍率(求職者一人当たりの求人数)を示したが,これも求人数が最も多かった92年卒には3.34倍に達していたが,2003年卒では1.27倍まで下がった。

高校生の実感としては,この低下は更に大きいだろう。すなわち,就職を希望する高校生は,3年次の7月初めに学校内に貼り出されたり,一覧表の形で学校から配布されたりする求人票を見て,応募先を(一般には一人1社ずつ)決める。この7月末段階の求人倍率は,2003年には,0.50倍にまで落ちている。すなわち,この時,実質的に就職希望者の半分しか求人がなかったのである。そこで,就職活動を辞めてしまう生徒も現れるし,また,1回応募して不合格になると,その時点で就職活動をやめてしまう生徒も出てくる。2003年卒の場合,当初23万1千人いた求職者(=学校またはハローワークのあっせんでの就職を希望する者)が卒業時には17万8千人に減っていた。

こうして途中で就職を諦めた生徒が出るのに加えて,就職環境の厳しさを知らされていたために,当初から就職希望さえ出さなかった生徒や,成績不振や欠席の多さから卒業の見込みが立たない生徒など,就職に際して不利な条件を持つ生徒がいた。その結果は,統計上では,卒業時点で就職も進学もしていない「無業者」の増加として表れる。高卒無業率(=卒業者に占める「無業者」の比率)は図表中に示したが,最も比率が高いのは2003年卒業者の10.5%(「無業者」数は13万8千人)である。図に見るように,求人倍率が下がれば無業者比率が高まるという一定の関係がある。

このほか,高校中退者比率も,1992年には1.9%であったものが2000年には2.6%に高まっている。学校中退にはさまざまな要因が絡むと思われるが,高卒就職市場が悪化し,卒業したとしても就職できる可能性が低くなったことも,中退を促進する一つの要因になったことが考えられる。

2002年から景気は回復に向かい,高卒予定者への求人も増加に転ずる。求人倍率は高まり,高卒無業者比率も低下した。景気回復で需要が増えたのは大卒も同じであるが,その増加状況は高卒求人をはるかに凌ぐ。新規大卒については,2000年3月卒対象の求人数が最も少なかったが(40万1千人:リクルートワークス研究所調べ),2008年卒には,90年代初めのバブル期を超える水準になった。景気回復を背景に,多くの企業がこれまでの採用抑制で欠けた若年人材の確保に動いたがそれは,特に新規大卒者への求人に集中する形で現れた。なお,現在は世界同時不況の下,新卒求人は高卒,大卒とも大幅な減少が伝えられている。

ここから次の二つの問題が示唆される。第1に,わが国企業においては新卒採用を基本とする採用慣行が今も根強いことである。そして,そのことは一方で,悪い時期に学校を卒業したために「就職」に失敗した既卒者には,景気回復後も不利がともなうという問題を生んでいる。第2に,新卒求人が大きく高学歴者にシフトしているということである。新規高卒求人は数の上で限定的なばかりでなく,職種のうえでは生産工程の仕事に集中するという形になっている。背景には,産業構造の変化に加えて,サービス職や販売職などでは正社員以外の雇用形態の労働者の活用が進んでいることがある。低学歴・正社員以外の雇用形態の働き方の問題が,若者が自立に至るプロセスとしての移行問題の一つの焦点となってきている。

図3−4 新規高卒者の労働市場と無業率

図3−4 新規高卒者の労働市場と無業率
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