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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第1節 若者を取り巻く現状  

5 情報化社会の現状と若者に及ぼす影響

(1)メディアの発達と情報化社会

近年,メディアの発達は目覚ましく,とりわけインターネットは世界をつなぐメディアとして進化し,いつでも,どこでも,情報にアクセスできるユビキタス社会 1) が現実のものとなりつつある。従来,若者を取り巻くメディア環境において取り上げられるメディアはテレビや漫画や雑誌などであった。依然として,これらの健全性について注視することは必要であるが,これらのメディアには放送法や倫理規定があり,限度を超えて過激になることはなかった。一方,インターネットは国境がないため,日本の法律が及ばず,上限がない状態である。あらわな性描写,殺人の映像,自殺や犯罪の指南など,あらゆる情報が存在する。青少年育成の観点から,このような状況を放っておくわけにはいかないであろう。

このような状況の中,内閣の補助機関である内閣官房では,関係省庁の連携を図るべく「IT安心会議」を立ち上げ,現在はインターネット上の違法・有害情報対策のホームページに(http://www.it-anshin.go.jp/index.html)関連情報が掲載されている。

(2)メディアが若者に及ぼす影響:三つのC

メディアの境界線がますますあいまいな状況になりつつあるので,ここではメディア別に論ずるのではなく,諸メディアが伝える情報やその性格を横断的に検討し,三つのCという視点から,メディアが若者に及ぼす影響について考える。すなわち,三つのCとは,Contents(内容),Contact(出会い),Commercialism(商業主義)である。

ア コンテンツ(内容)の問題

どんなメディアであれ,昔から懸念され,実験や調査研究でも指摘されているのが観察学習効果(Observational Learning)である。おそらく我々の脳は,見たものを学び,模倣するようにできているのであろう。とりわけ,自分に利すると思われる行動は学習されやすいことが分かっている。学習効果を促進する要因として,たとえばメディアで示された行動をまねすることで報酬が得られたり,問題解決の手段となったりする場合,あるいは,自分と登場人物が似ていたり,シーンが繰り返し提示されたりすることなどが挙げられる。

次に懸念されるのが,脱感作(だつかんさ=Desensitization)効果,つまり徐々に慣れてしまう効果である。たとえば外科医がメスを使って出血をともなう手術に慣れ,腕を上げることは望ましいことである。一方,ナイフによる出血をともなう殺人のシーンに慣れることは好ましくない。脱感作を促す要因として,たとえば暴力シーン(つまりマイナスイメージのシーン)とともに軽快な音楽(つまりプラスイメージの情報)を流すなどのマイナス刺激とプラス刺激の条件づけや,シーンの繰り返しが挙げられる。

三つめに懸念されるのが,培養効果(cultivation effect),つまり,誇張された世界を現実として受け入れてしまう効果である。この効果を促す要因として,たとえば,現実性の少ない事実を誇張し,リアルに表現することが挙げられる。たとえば,メディアの世界では痩せた女性モデルが起用されることが多いが,そのシーンを頻繁に視聴している女性が現実を正確に反映していない情報を受け入れてしまい,病的に痩せようとすることは問題である。

四つめに懸念されるのが,依存/中毒である。接するメディア内容が魅力的であったりするとやめられなくなり,睡眠不足で仕事の効率が落ちたり,家族の会話が減ったりなど,日常の生活に支障をきたしてしまう。例としては,(オンライン)ゲーム中毒,ポルノ中毒,メール中毒などが挙げられる。

最後に懸念されるのが,犯罪や危険行為を促進する情報提供である。メディアは,人々の既存の態度を強める効果(補強効果)があると言われている。すでに攻撃的な傾向のある人,金儲けをしたい人,自殺をしたい人,あるいは小児性愛者が,爆弾製造法,公文書偽造方法,自殺方法,児童ポルノなどの情報に容易に接することができれば,犯罪や危険行為を助長してしまうであろう。

イ コンタクト(出会い,関わり)の問題

新しいメディアは,情報提供機能と同時に通信機能を持つ。反社会的な情報内容に群がる面識のない人々がお互いに通信機能を利用して連絡を取り合うことが可能になった。出会い系サイトや学校裏サイトなど,子どもたちに懸念されることは,そのような場所における,悪意ある人との関わりである。とりわけインターネットや携帯電話では,親や教師など,大人の目の届かないところで行われ,発見しにくいため,対応が遅れるという問題がある。

ウ Commercialism(商業主義)の問題

テレビや新聞などの従来のメディアと同様,あるいはそれ以上にインターネットは多種多様な広告をともなう。そして広告技術は進化し,インターネットにおいては,より個人に合わせた広告が打たれるようになった。利用者が使用したサイトの内容や検索語を参考にして,その人の興味や行動に合わせた広告を提示する連動型広告がその良い例である。そのような広告にあふれた世界に我々はどう対応したらよいのか,また,広告の内容についても客観性を持った第三者が吟味しているわけでもないので,その信頼性をどう確保したらよいのかなど,さまざまな問題がある。

(3)総合的な対策の必要性

上記の諸問題に対応するためには,総合的な対策が必要であり,少なくとも次の3点を含むべきであろう。一つめは,法的規制や自主的規制などによって有害情報を減らすこと,二つめはフィルタリングソフトの利用や親の介入によって,青少年が有害情報に容易にアクセスできない仕組みを考えること,そして最後に,自分から有害情報を避けつつ,メディアを最大限に有効利用できる青少年を育てるための教育である。


 国際基督教大学教養学部教授 佐々木輝美

1) いつでもどこでも,意識することなくコンピューターを利用することができる社会
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