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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第1節 若者を取り巻く現状  

7 若者の非行及び犯罪の現状

マスコミ報道において,「青少年による凶悪犯罪が急増」といった印象の記事に接したことのある人は多いと思うが,これは公的な犯罪統計においても事実であろうか。ここでは,平成18年の警察の検挙人員(被疑者)を年齢層別に見ることで,若者による非行・犯罪の現状や特徴,そして,留意点について説明する。また,紹介する罪名については,誰もが犯罪として判断しやすいもの(「自然犯」という。)として,たとえば,旧約聖書にあるモーセの十戒のうちの5番目から10番目(5.あなたの父母を敬え,6.殺してはならない,7.姦淫をしてはならない,8.盗んではならない,9.隣人に関して偽証してはならない,10.隣人の家を欲してはならない。)を念頭において,殺人,強姦,強制わいせつ,強盗,詐欺,窃盗の六つの刑法犯の罪名を用いて解説したい。

非行・犯罪には,加害と被害の両面がある。そこで,まず,若者が犯罪の加害者になる場合を見てみよう。図3−10には,先ほどの六つの罪名について,人口10万人当たりの各罪名別の検挙人員の人口比(たとえば,若者が10万人いた場合,そのうちの何人が1年間(平成18年中)にそれぞれの事件で警察に犯罪の被疑者として取調べを受けたかを示す。)が掲げてある。人口比を用いているのは,少子化や高齢化といった各年齢層による人口の凹凸の影響を取り払い,単純にどの世代の人がより犯罪の加害者や被害者になりやすいかを端的に見るためである。

図3−10 人口10万人当たりの犯罪加害者数(人口比)

図3−10 人口10万人当たりの犯罪加害者数(人口比)

警察庁の統計及び総務省統計局の人口資料による

はじめに注意してもらいたいのは,窃盗と他の五つの罪名との人口比が大きく異なっていることである。窃盗(万引き,自転車盗,車上荒らし等)は,どの世代,どの時代,どの地域でも最も多い犯罪であり,たとえば,平成18年の犯罪の認知件数では53.3%を占めている。そこで,図3−10と図3−11では,窃盗(右側の縦軸)と他の五つの罪名(左側の縦軸)とは違う縦軸で表示している。

図3−11 人口10万人当たりの犯罪被害者数(人口比)

図3−11 人口10万人当たりの犯罪被害者数(人口比)

警察庁の統計及び総務省統計局の人口資料による

殺人,強姦,強制わいせつの三つの犯罪については,これらの犯罪を犯す人が比較的少なく,かつ,年齢層の違いによる影響が小さいことが分かる。強盗事件は若者世代に多く,詐欺事件は若者よりも上の年齢層でもあまり低下していない。六つの罪名だけについて見る限り,若者ばかりが凶悪事件を引き起こしやすいのではないにしても,強盗のように,確かにそうした特徴が表れている罪名(六つ以外の罪名では,恐喝,傷害・暴行,器物損壊等)があることも事実である。そして,年齢層の違いによって,最も顕著な違いが見られるのが窃盗で,年齢層が上がるに従って,一貫して低下している。こうした窃盗事件は,比較的軽微なものが多く,大半は軽い処分を受けた後,非行・犯罪から遠ざかっている者がほとんどである(初犯だけの非行・犯罪で終わる人が全体の約7割)。しかしながら,こうした軽微な窃盗事件などを繰り返すうちに,犯罪の方法や手口を学習したり,社会規範を軽視する構えを強めてしまう者も少なからずいることも否めない。

次に,若者が犯罪の被害者になる場合を見てみよう。加害者では,どうも若者が主役である場合が多いことが分かったが,被害者ではどうであろうか。マスコミ報道等から,高齢者が被害に遭っている場合が多いような印象を持っている人はいないだろうか。図3−11は,被害者の10万人当たりの人口比を見たもので,縦軸の人口比の目盛りと,20歳未満の年齢区分が図3−10とは異なっている。窃盗は,加害者の場合と似ており,20代前半からは年齢層が高くなるに従って低下している。殺人については,特に年齢層による差異は見られない。強姦と強制わいせつは,若者世代の女子が狙われることが多いこともあって,低年齢において被害者率が高い。振り込め詐欺など,詐欺事件の被害者は高齢者に多い印象を受けるが,最も人口比が高いのは,20代後半となっている。

以上から,若者の非行・犯罪の加害と被害について,どのようなことが言えようか。

第1に,若者世代が犯罪の加害においても,被害においても他の世代以上に危険にさらされやすいことである。加害の面では,たとえば,遊び仲間との興味本位の万引きのように,好奇心や行動力がそのまま逸脱行動に結びついてしまうことが多いのであろうが,若者は若者と交際することを好んでいることに注意されたい。つまり,自分たちにとって一番気心が許し合える仲間世代は,自分と同様に非行・犯罪に関係しやすい年代であり,犯罪の被害に遭いやすい場所や時間帯に行動・生活していることも多いということである。「もしも,あのとき誰かが止めてくれていたら。」といった嘆息を大きな事件を起こしてしまった犯罪加害者から聞くことがある。これは多分,冷静な考えや判断,つまり,自分たちよりも,上の世代の思考・行動様式になじんでいる者の意見・助言を聞きたかったということではなかろうか。ここから,若者が上の世代の者と交流することの意義やメリットを嗅ぎ取ってほしいものである。

第2に,加害と被害を比べると,加害者が複数の事件を起こしていることが多いことから,被害者の人数の方が加害者を大きく上回っているということである(刑法犯総数(交通関係事犯を除く。)の被害人員の総数は,検挙人員の約4.5倍)。多分,これまでに自分の自転車を盗まれたり,車上ねらいに遭ったことのある人も相当数いるのではなかろうか。どんなに注意をしていても,あらゆる犯罪から安全でいられることはできない。最近,凶悪事件の被害者の声に傾注しながら,犯罪被害者対策が充実し,相談窓口も多くなっていて,被害者が泣き寝入りする時代ではなくなってきていることには,対象者の人数の面でも理由があるということである。

最後に,非行・犯罪に関わりやすいのはおおむね17・18歳がピークで,その後は,窃盗をはじめ,確実に低下している罪名がほとんどであるということである。単純に言えば,非行・犯罪者は加齢とともに,少しずつ落ち着く方向に向かっている(更生する)。これは,内面的な,あるいは社会的な成長が影響していると言われているもので,自己の失敗(非行・犯罪)から学んだ人,成長した人が立ち直っているとも言え,逆に,諦めた人や投げ出した人が再非行・再犯者に多いと考えられている。

以上,六つの罪名の非行・犯罪率によって若者の非行及び犯罪の現状を見てみた。若者世代は,他の世代以上に非行及び犯罪に近づく,あるいは巻き込まれる可能性が最も高く,仲間にも犯罪の被害者を持つことも多いことになり,こうした現状をよく知った上で,慎重に,冷静に,柔軟に,忍耐強く,思考・行動することが若者世代を生きる上での常識であり,知恵と言えよう。

【参考文献】

大渕憲一,2006,『犯罪心理学─犯罪の原因をどこに求めるのか(心理学の世界 専門編)』,培風館

福島章,2000,『非行心理学入門』,中公新書

藤岡淳子編,2007,『犯罪・非行の心理学』,有斐閣


  法務総合研究所研究部主任研究官 小板清文
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