本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第3章 > 第1節 若者を取り巻く現状
ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第1節 若者を取り巻く現状  

8 若者の自立支援の現状

2004年頃から,「ニート」と呼ばれる,働いてもいず,学校にも通っていず,職業訓練も受けていない若者の存在が認知されるようになった。以降,徐々にではあるが,官民一体となった若者への自立支援の取組が加速した。

それ以前は,何らかの理由により社会に一歩踏み出すことができない若者については,主に民間団体が行い,就職活動に当たってはハローワークが行うといった“分業体制”であった。一部に公的な支援はあっただろうが,学校に通えなくなってしまった不登校児童や,ひきこもりと呼ばれる,自宅から外出することすら困難な若者に関しては,その大半を民間団体などが引き受けていた。特に,ひきこもり状況にあった若者に関しては,家庭内という外からは見えづらい場所にその若者がいたこと,そして,あくまでも家庭内(家族支援やしつけの在り方)の問題ととらえられてしまったことなどから,公の目が届きづらかったのだろう。また,多くの志ある支援者もいたが,社会的認知度や関心の低さなどから,自主事業として個人が生計を立てていくことも困難であった。長期にわたり,自立支援の知識やノウハウを蓄積しつつ,事業を継続していたのは一部の団体に限られていた。

しかしながら,そのような“分業体制”の狭間に陥らざるを得ない若者の存在が,ニートという言葉の登場により認知され,官民協働による支援体制が整いつつあるのが今である。フリーターのように働けるわけでもなく,ひきこもりのように自宅から出られない状況でもない若者の存在が知られたことが発端となり,20代,30代の当事者世代の若者や,保護者が積極的に参画して設立した民間支援団体も非常に増えた。公的資金がついたこともあるが,それ以上に,都道府県や市区町村といった地域の自治体の積極的な協力があったからこその流れであろう。

官民協働の取組が進む中,現場レベルではどのような現状であるのかを「若者」,「支援者」,「プログラム」,「情報」,「ネットワーク」の観点から考えてみたい。支援活動が活発化する中,多くの若者が社会参加,職業的自立を獲得していった。各支援機関に足を運ぶ若者の数からも,いかに多くの若者が社会との接点なく浮遊していたのかが認知されたのではないだろうか。しかし,支援活動に取り組む過程で見えてきたのは,支援体制が整いつつある現状の中で,“それでも自立が困難”な若者の存在である。発達障害を抱える若者,心身に病気を患っている若者,成長過程で心に大きな傷(いじめ,DV,中毒症状など)を負った若者など,すぐに社会参加や就労が困難であり,かつ,支援を必要としている若者がまだまだ取り残されている。つまり,当初,社会が「ニート」や「ひきこもり」など,自立支援が必要だと考えていた若者の中でも,深刻な問題を抱えている層への対応が若者自立支援の現状であり,現場レベルでの大きな課題となっている。

これまでの「支援者」は,所属した民間団体内部で育成された「現場たたき上げ」の“職人”が多かった。日々の生活を共にしながら,目の前の若者の状況を把握し,支援計画を作成した。過去に蓄積された経験がいかせない場合には,その都度,試行錯誤で対応方法を思案していった。しかし,今の現場にはさまざまな専門家が関われるようになってきている。キャリア・コンサルタント,臨床心理士,心理カウンセラー,精神保健福祉士など,分野の異なる専門家が集まり,その知識と経験を基に多角的な分析とより重層的な支援が可能となった。

各専門家の集合は,自立支援の「プログラム」にも変化と柔軟性をもたらしている。前出の「縦割り」分業制だった頃は,就労訓練であれば研修作業,心の問題があればカウンセリング,就職活動となればハローワークと,各プログラムが各機関や団体で別個に行われていた。しかし,自立支援を必要とする若者の多くは,それらの諸問題を“複合的”に抱えており,担当者との相性が合わなかったり,紹介された機関の環境に対応することが不得手な若者もいる。ただ,ここへ来て各機関で単発的に行われていた自立支援プログラムも,“ワンストップ”と呼ばれるような,1か所でかなり包括的な支援を受けられるものとなり始めている。個別カウンセリング,適性検査,職業体験,ワークショップ,企業訪問などが提供され,対象者のニーズが変われば,個別ニーズに可能な限り合わせたプログラムの作成がなされてきている。若者自身が動き出せないことが分かれば保護者への支援が行われ,より困難な状況であることが分かればアウトリーチ(訪問支援)に取り組むところもある。臨床心理士などを活用した相談体制の整備も,発達障害を抱えていたり,深く心に傷を負ったりした若者への対応を考えてのことである。専門家によるつながりの実現により,現場での支援プログラムは柔軟性を持ちながら変化してきている。そのような現場でもなお残る課題としては,各専門家同士を包括的にコーディネートできる人材が不足していることである。広い知識と見識を持った人材が育成されれば,各支援プログラム同士の相互連携が深まり,より高い相乗効果を生み出せるプログラムの構築が可能になるだろう。

専門家をそろえ,支援プログラムも開発した。どのような若者が来ても対応可能な体制を構築した。しかし,蓋を開けてみると肝心の若者が来ないという支援者側の悩みは少なくない。当事者である若者に対して,いかに「情報」を届けるのかが大きな課題となっている。特に,メディアが“働けない若者”に対しての関心を急速に失いつつある中,テレビや新聞を活用して情報を届けることが難しくなった。駅前でチラシをまいたり,ポスターを貼ることも効果があるが,なかなか画期的な情報提供方法にはなりづらいのが若年支援の難しさである。これら“直接情報宣伝”の難しさはここにある。現在,積極的に情報にアクセスする位置にいない若者に対して,どう情報を届けていくのかが大きな課題である。

現場レベルでは,既存メディアやチラシの配布などの直接情報宣伝の手法は残しながら,“間接情報宣伝”の有用性が認められている。それは保護者を中心とした家族であったり,学校の先生であったり,民生委員や市民活動センターなど,当事者である若者と関わる可能性の高い方々に情報を提供することで,間接的に情報を伝達してもらう手法である。この効果性は予想以上に高く,身近な人間から情報を獲得した若者が,ネットなどでプログラム内容などを確認してから来所するようなケースは少なくない。より多くの情報が若者に届くためには,周囲の人間のみならず,社会全体が情報を共有できる仕組みと個々人の若者の自立支援に対する関心が高くなる必要がある。

若者の自立支援の現場では,1か所で多くの支援プログラムを提供できることになったのは先に述べたが,予算や規模などでそれも限界がある。そのときに大切なのは「ネットワーク」をいかに形成できるかだろう。自立支援機関同士だけではなく,医療機関,保健機関,教育機関,職業訓練機関など,各専門機関が横のつながりを密に連携し,一人の若者を包括的に支援できる体制の構築が急がれる。以前はこれもなかなかうまくいかなかった。民間団体が何度も足を運び,顔を担当者に覚えてもらってという“個人ベースのネットワーク”が主流だったからだ。しかし,行政機関が先頭に立って,各機関の責任者から民間支援団体の代表者までが一堂に会する機会を作ったり,現場担当者が集まりケーススタディーを開催したりと,横のネットワークが各レベル(現場,マネージャー,責任者など)で重層的にできあがってきている。今後は,これら若者の支援に携わる者同士のネットワークが,企業や社会といかに連携していけるかが自立支援の鍵となるだろう。そのときにもまた,ネットワーク内部とその外部にあるネットワークをつなぐコーディネーターの存在が欠かせないのである。

若者の自立支援の現状は,より困難な状況にある若者をいかに社会とつなげ,自立への道筋をつけていくのかという新しいステージに上がった。そのとき,若者に関わる個々人が「抱え込まず」,「諦めず」,「動じない」気持ちを持ち続けられるのか,モチベーションの維持も課題として最後に挙げておきたい。


  NPO法人「育て上げ」ネット理事長 工藤 啓
-
本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁