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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第2節 若者の抱える問題(コンプレックスニーズを持つ若者の理解のために)  

1 不登校,高校中退

(1)はじめに

不登校はその病態水準や発現様式,元来の性格傾向,経過,環境要因,年齢,性別などのさまざまな観点から理解すべき異種性の高い概念である。不登校児童生徒と関わるには,こうした諸要因を念頭に個別の支援を考えていく必要がある。齊藤(2007)は表3−3のような多軸評価システムを提唱している。本稿では多軸評価システムに基づく不登校の理解,不登校や高校中退の現状,関連する問題について概説する。

表3−3 不登校の多軸評価

第1軸 背景疾患の診断
第2軸 発達障害の診断
第3軸 不登校出現様式による下位分類の評価
第4軸 不登校の経過に関する評価
第5軸 環境の評価

(2)不登校の多軸評価システム

多軸評価は多方面からアセスメント(評価)を試みるものであって,原因を何かに帰属させようとするのではない。不登校は多因子が関与するため,単純な原因−結果論では説明できないことが一般的である。そのことを念頭に置くことは重要である。

第1軸はその児童生徒が持つ背景疾患の診断である。不登校を症状の一つとする子どもの精神状態が病理的であるのか,どの疾患概念が適用されるのかを評価し,それを医学診断として明確にする。また不登校児童生徒では種々の身体症状が見られるが,その評価も行う必要がある。背景疾患が存在する場合には,その疾患への治療が優先されることになる。

第2軸は発達障害の診断で,第1軸の精神疾患とは別に発達障害が認められる場合も少なくない。その主たるものは,注意欠陥/多動性障害やアスペルガー症候群,軽度の精神遅滞(境界知能を含む。)である。支援を考えるときに,特に対人関係において発達障害の特性を考慮することが重要であるため,第2軸として設定している。

第3軸は不登校出現様式による下位分類の評価である。不登校開始までの学校や友人関係における対処法や適応様式を考慮したもので,表3−4には五つの下位分類を示している。過剰適応型不登校は,プライドが高く弱音を吐かずに強がる傾向があり,そうした姿勢の挫折として不登校が発現する。受動型不登校は,萎縮し不安に満ちた性格傾向を有し,いわば学校や仲間集団から圧倒されて不登校に陥ったと理解される。受動型に類似したように見える受動攻撃型不登校は,大人の過剰な干渉に対して努力を放棄するという形で不満や怒りを密かに表出しているタイプといえる。衝動統制未熟型不登校は,発達障害などの体質的に衝動性が高いものや,保護者や親しい友人などからの見捨てられ不安が強く対人場面で情動不安定になるため,仲間集団から孤立し不登校に至ったものである。混合型は以上のいずれにも分類されないものとしている。この評価軸は,その児童生徒のパーソナリティ特性に応じた援助システムを検討する際に有用となる。

表3−4 出現様式による不登校下位分類

過剰適応型不登校
受動型不登校
受動攻撃型不登校
衝動統制未熟型不登校
混合型(あるいは未分化型)

第4軸は不登校の経過に関する評価である。不登校の経過には一般に図3−12のような諸段階があるが,段階に応じて周囲の関わり方を変えていくことが大切である。不登校準備段階では,児童生徒が抱える葛藤はまだ潜在的であり,身体症状が前景に立つことが多く,周囲が認識しにくい。不登校開始段階では,激しい葛藤が顕在化し,家庭内での暴言や暴力,いさかいなどの不安定さが目立ちはじめる。休養が必要な状態であることを理解し,指示し過ぎないような方針が原則である。ひきこもり段階では,外界からの回避と退行が前景に出てくる中で,徐々に余裕を回復しつつ自らの葛藤を解決しようとする変化が生じる。焦らず見守ることを心掛ける。その後,社会との再会段階に入っていくが,この段階の端緒を敏感に察知し,外界への関心をデリケートに育むように心掛ける。ここでの焦りは禁物である。

図3−12 不登校経過の諸段階

図3−12 不登校経過の諸段階

最後に第5軸で環境を評価する。不登校の児童生徒の援助に関わるとき,彼らを取り巻く環境の質や問題点を正確に評価しようとする姿勢を持つことは,大きな意味を持つ。家族機能,ライフイベント,学校の特徴,いじめの有無,地域の支援体制などが含まれる。環境要因は,不登校の治療や援助の最も基礎的な部分であり,最初に介入の対象となることが多い。

以上のような多軸評価を念頭に置くことによって,精神医学的にも心理社会的にも偏り過ぎず,総合的に評価することが可能になると考えられる。

(3)不登校,高校中退の現状(文部科学省,2006)

平成17年度の不登校児童生徒数は,小学校22,709名,中学校99,546名,高校は59,419名で,在籍者数に占める割合はそれぞれ0.32%,2.75%,1.65%となっている。小中学校は4年連続の減少である。小中学校では学年が進むにつれて人数は増加し,中学3年生が最多である。高校では減少に転じるように見えるが,不登校生徒のうち中途退学になった者が37%,留年(原級留置)が11%であり,半数近くは不登校の改善が困難であったと考えられる。中退率(年度当初の在籍者数に占める割合)は2.1%で,第1学年での中退率が3.4%と最も高い。著者らが行った義務教育年代に入院治療を受けた子どもの予後調査では,退院後の経過で改善を示すものでは治療を継続的に受けていた者が多いことが明らかになった。こうしたことを考えると,中途退学者に対して何らかの方法で継続的に支援していくことが重要と思われる。

不登校のきっかけ(誘因)を図3−13に示すが,性格傾向など本人に起因すると考えられる割合は小学校,中学校,高校で大きな変化はないものの,環境要因である家庭と学校のウエートは次第に変化し,成長につれて親子関係の割合が低下する。一方で友人との関係や成績の比重が高まっており,児童生徒が直面する発達課題や精神的成熟の違いを反映しているといえよう。

(4)不登校の年齢別特徴(清田・齊藤,2006)


図3−13 平成17年度不登校状態となった直接のきっかけ(文部科学省,2006)

図3−13 平成17年度不登校状態となった直接のきっかけ(文部科学省,2006)

臨床的には,思春期の開始前後を境界として,不登校の発症機転や特徴について違いがある。齊藤(1987)に従って年少型と思春期型に二分し,精神療法的視点を中心に説明する。

ア 年少型(幼稚園児及び小学校低学年の年代)

年少型不登校の多くは,母親や家から離れることへの分離不安の直接的な表現として理解することができる。こうした子どもは幼い頃から受動的で消極的な姿勢を見せることが多く,もともとの不安レベルの高さを予感させる。

対応として,まず親に子どもの成長を見守る余裕を回復してもらうことが大切である。親は戸惑いや不安,悲しみ,怒りなどの入り交じった複雑な感情を経験するため,丁寧な心理教育が必須である。子どもは親の感情に敏感であるから,親の精神的安定は重要である。また担任教師を中心に学校側との共同作業として治療を考える。親との同伴登校や保健室・相談室の利用,給食時間や休み時間における友人との交流など,脱感作療法的な意味を持つ段階的なチャレンジが学校復帰の一つのモデルとして考えられる。言語能力が未発達なこの年代では,遊戯療法や描画療法などの非言語的な関わりが有益な場合は少なくない。

イ 思春期型(小学校高学年から中高校生の年代)

思春期型の不登校では,不登校状態に加えて身体症状,不安,焦燥感,強迫症状,家庭内暴力,摂食障害,ひきこもりなどの諸現象をともなうものが多く,状態像の把握が複雑になる。親への反発などのため,子どもが受診を拒み,親ガイダンスだけが続く場合もある。親との面接では,親の心情に共感しながら,親が子どもの状態を冷静に理解できるように混乱した状態を整理していく。子どもが初めて姿を見せる時は,初回から明確な支持的介入を行うことが大切である。また不登校を全く意に介さない,あるいは投げやりな態度を示す子どもであっても,一部の事例を除き,本心ではどこか漠然とした不安や自尊感情の低下を感じている場合が多い。

思春期型では,形式的な登校にこだわらず,自我の確立という思春期中期の発達課題を念頭に,子どもの価値観や意思の成長を促すような援助を心掛けたい。必要とあれば学校を迂回した人生の可能性を子どもと共に探していくような柔軟性を持っていなければならない。不登校の子どもにおいて最も深刻に疎外されているのが仲問集団の体験である。したがって,治療の進行につれて回復してくる仲間集団への関心を治療者は最大限に支持すべきである。

(5)発達障害と不登校

発達障害の中で注意欠陥/多動性障害やアスペルガー症候群では,就学前後になり問題行動を顕在化させることがある。その多くは多動や衝動性,社会性の障害による他児とのトラブルや,授業中の態度や忘れ物などの生活面での困難さである。そのことに対して度重なる叱責や注意を受けたり,他児からからかわれたり避けられたりすることがあると,学校への拒否感を持ち,あるいは教師や同級生への怒りから不登校が生じる。特に彼らの障害がそれと気づかれていない場合にはリスクが大きい。

思春期になると,彼らなりに他者の感情を理解するようになると同時に,対人欲求を見せ始める子どももいる。しかし小学校高学年から始まる対人関係の小集団化の時期では,彼らの独特な認知構造や対人交流の持ち方,かたくなな思考などが周囲にとって異質に見え,次第に疎外されるようになる。結果として周囲に対して被害感情を持ち,不適応状態に至る場合もある。彼らの被害感情に理解を示しながら,何とか現実的な対応策を受け入れてもらえるように時間をかけて話し合うことが支援においては必要である。そのためにも平時からの信頼関係を構築していくことが肝要で,家族はもちろん学校関係者が発達障害の一般的特性や本人の特徴を理解し,適切に関わっていくことが重要となる。

【引用文献】

齊藤万比古,2007,『不登校対応ガイドブック』,中山書店

文部科学省,2006,『平成17年度における生徒指導上の諸問題の現状について』,文部科学省

清田晃生,齊藤万比古,2006,「不登校の年齢的変化」,『精神科治療学』,21;281-286,星和書店

清田晃生,2009,「アスペルガー症候群と不登校」,『別冊発達30 アスペルガー症候群の子どもの発達理解と発達援助』,150-157,ミネルヴァ書房


  大分大学医学部附属病院小児科こどもメンタルクリニック 清田晃生
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