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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第2節 若者の抱える問題(コンプレックスニーズを持つ若者の理解のために)  

2 若者のひきこもり

(1)はじめに

近年,わが国では自宅や自室にひきこもり,社会活動に参加できない若者の増加が指摘されている。本稿では,若者のひきこもりという問題について,そして,ひきこもりケースにみられる家族状況,家族支援の考え方などについて述べてみたい。なお,ここでは「ひきこもり」,「社会的ひきこもり」という用語を,「対人関係を回避して孤立している状態,あるいは,社会生活の範囲が著しく限定されている状態」を指して用いることとする。

(2)ひきこもりケースの概況

近藤らの研究(近藤・宮沢・境・清田・北端・黒田・黒澤・宮田,2007)では,平成19年11月現在,5か所の精神保健福祉センター・こころの健康センターで受け付けていた相談ケースのうち,初回相談の時点で6か月以上の「社会的ひきこもり」がみられていた16歳から35歳までのケースは181件であった。男女比は男性139件,女性42件,平均年齢24.6歳,ひきこもり始めた年齢は平均20.2歳,ひきこもりの期間は平均5.0年であった。最終学歴は中学校卒57件(高校中退を含む。),高校卒78件(大学中退を含む。),専門学校・大学卒45件,就労経験「あり」が87件,「なし」が94件であった。

(3)社会的ひきこもりの精神医学的背景と治療・援助方針

上記181件のうち,相談・支援の経過中,本人が1回以上来談したケースは97件であった。これらを精神医学的診断と治療・援助方針によって3群(近藤・岩崎・小林・宮沢,2007)に分類した。情報不足のために診断が保留されたものは97件のうち19件で,それ以外の事例はこの3群のいずれかに分類された。

<第1群>主診断は統合失調症,気分障害,不安障害などである(例:幻聴や被害妄想などの精神病症状によって対人関係からひきこもっている,生活全般にわたって意欲や活力が著しく低下している,不安や緊張,恐怖感のために社会的活動が著しく制限されているなど)。薬物療法などの生物学的治療が不可欠,ないしはその有効性が期待できる。また,生物学的治療に加えて,病状や障害に応じた心理療法的アプローチや福祉的な生活支援も重視され,精神科医療機関のほか,障害者自立支援法に基づく福祉システムなどが治療・支援の主体となることが多い。この群に分類されたのは,上記97件のうち25件であった。

<第2群>主診断は精神遅滞や広汎性発達障害などで,適応障害(心因反応)や社会恐怖(対人恐怖)などの二次的な精神医学的問題を併せて生じている場合もある(例:学力や社会性などの面でもともと同年代の仲間についていけないところがあり,青年期に相応の社会的機能水準に及ばない,あるいは,外傷的な体験が重なったことで自己評価の低下や被害感などの二次障害をきたし,社会参加が困難になっているなど)。個々の発達特性に応じた心理療法的アプローチや社会技能訓練(SST),生活・就労支援が中心となり,発達障害者支援センターや精神保健福祉センター,障害者職業センターなどの相談支援機関でフォローされていることが多いようである。併存障害(うつ状態や不安感,被害感など)に対する精神医学的治療が必要な場合もある。民間支援団体が運営するサークル活動や就労支援などの役割にも期待したいが,個々の発達水準・特性を踏まえた支援が必須であり,発達障害について的確な診断・評価を受けることが望ましい。この2群に分類されたのは,97件のうち22件であった。

<第3群>何らかのパーソナリティ特性や神経症的傾向がひきこもりの中心的なメカニズムとなっている(例:何とかしなければと思っているが,失敗を恐れる気持ちが強過ぎて行動に移せない,自尊心が傷つくことに敏感で,あらゆることに対して回避的である,外出や就労を迫られると,動悸や呼吸苦,消化器症状などの身体症状が起きる,厭世的(えんせいてき)で万能的な感覚が強い一方,依存的・他罰的な傾向が強く,自ら問題を解決しようとする動機づけはあいまいであるなど)。診断としては,パーソナリティ障害(ないしは傾向)や身体表現性障害,同一性(アイデンティティ)の問題などのほか,気分障害や不安障害のうち薬物療法の効果が乏しいケースもこの群に含む。治療・援助としては,心理療法的アプローチや生活・就労支援が中心となる。精神保健福祉センターなどの公的支援機関や心理療法・カウンセリング機関のほか,サークル活動や就労支援に取り組んでいる民間支援活動の役割も大きい。上記97件のうち31件がこの群に分類された。

(4)社会的ひきこもりの文化・社会的背景

ひきこもりの問題は,上記のような個人の“脳と心の要因”だけでなく,時代や文化,社会的状況とも深く関連しているものと考えられる。たとえば,若者の自立・自活やモラトリアムに対する意識・価値観,経済状況との関連,過剰な競争社会や勝つことを諦めた若者の無気力,親世代の経済的余裕と子世代の働くことの価値観の相対化,インターネットの普及や子どもの遊び方が変化したことなどによる社会的(対人関係)技能の低下,社会参加につまずいた青年を対象とする就労支援システムの不備などが指摘されている。今後,こうした文化・社会的な要因についても議論が深められ,実際の支援に結びついていくことが期待される。

(5)ひきこもりと家族

ひきこもる若者と家族との関係は,しばしば緊張に満ちたものである。親への暴力や粗暴行為がみられる事例も少なくない。そして同時に,今日的なひきこもり問題の多くは,家族との生活ないしは家族の支援なくしては成立し得ない問題でもある。ひきこもる本人と家族との間にどのような事態が生じているのか,また,思春期・青年期に至った子どもを自立させるための家族機能とはどのようなものなのかを考えてみる必要がある。

思春期・青年期の子どもを持つ養育者には,子どもを社会に送り出していくために個人と社会との間に介在する“橋渡しシステム”としての機能が求められている。このシステムが適切に機能していないとき,家族の中では以下のようなことが起きているかもしれない。たとえば,家族全体が社会や地域から孤立している,両親間の葛藤に子どもが巻き込まれて自立の機会を失っている,親が子どもとの間で心理的な距離がとれず,子どもを一方的に叱咤激励してしまう,子どもに心理的負荷をかけることに対する親の不安が強い,子どもの自立にともなう心理的な分離や喪失感に親が耐えられないなどのために,親が子どもを必要以上に抱え込んでしまったり,無意識的に子どもの自立的な行動を抑制してしまうといった事態である。

このほか,ひきこもりという事態や本人の体験に関して全く理解・想像・共感が及ばない,あるいは,これまでの子どもとの関係を振り返ってみたり,新たに関わり方を工夫してみるなどの創造性・柔軟性に著しく乏しいために,本人と家族との間で深刻な“悪循環”が固定化しているケースもあり,こうした場合には,本人への支援以前に家族に対する支援が優先課題となる(近藤,2001)。

(6)家族支援の基本的な考え方

近年,家族を対象にした相談活動や心理教育プログラム,親の会など,家族支援の試みが全国的に展開されるようになっている。これらに共通する基本的な理念は,「過去の原因を究明しようとするよりも,現在から未来を指向した問題解決を念頭に置くこと」,「問題解決のための新たな行動選択の可能性を発見するために,家族が希望や意欲,自信を回復すること」である。

しかし,本人が治療・相談に訪れることなく,家族だけが相談を続けているケースに対する介入に困難を感じている援助者は多く,大きな実践的課題となっている。山梨県立精神保健福祉センターでは,<1>まずは,今後の人生について話し合える親子関係を取り戻すことを目標とする,<2>それが実現しそうもなければ,期限を切ったうえで本人に,今の生活を変えるための努力を始めるか,そうでなければ自らが相談・受診するなどの選択を促す,<3>上記のような働きかけがいずれも無効である場合には,とにかくいったんは家から出す,あるいは離れて暮らす,といった段階的な目標を設定し,家族が“橋渡しシステム”としての機能を取り戻すための支援(近藤,2001)を試みているが,精神保健福祉センターの相談ケースを本人が来談するケース(来談群)と来談しないケース(非来談群)とを比較・検討した場合,非来談群の方が回避傾向や社会適応能力などの点で,より深刻なケースを多く含むことが分かってきている(近藤・岩崎・小林・宮沢,2007)。家族支援だけでは限界を感じることも多く,こうしたケースへの介入として,自宅への訪問についても積極的に検討することが必要であろうと思われる(第4章第10節参照)。

(7)若者の自立を支えること

ひきこもる若者の支援を論じようとすると,議論はしばしば「分かってあげることや受け入れることが大切」という立場と「甘やかしてはいけない」という立場,あるいは「大人や社会の責任」を強調する立場と,「若者の不甲斐なさ」を追及するような立場とに二極化していきやすい。おそらく,どちらもが正解であり,どちらかに偏り過ぎてもいけないのであろう。“子どもの自立を支える”とはどういうことなのか,その本質が問われている。


  山梨県立精神保健福祉センター所長 近藤直司
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