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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第2節 若者の抱える問題(コンプレックスニーズを持つ若者の理解のために)  

4 非行 ・ 犯罪

子どもは,一つずつ負因という重い荷物を背負わされ,荷物が一つ増えるたびに,その重荷に耐え切れなくなり,社会適応から脱落していく。子どもを,非行リスクから守っているバッファー 3) が一つずつはがれ,排除的な社会のありように,吹きさらしになるほど,非行行為を行いやすくなっているといってもよい。こうした負因は,本人,家庭,地域などの分野ごとに,さまざまな領域に存在している。最も問題が深化した状態にある,少年院の子どもたちを中心に,非行の抱える問題を見ていこう。

(1)日本の非行少年の抱える問題

ア 本人・学校

現在の社会において,子どもを非行へと向かわせる最大のリスク要因は,学校不適応であり,その背後にある学力不振である。

表3−6に示すように,少年院の子どもたちの知能指数は,男子の場合は90から99,女子の場合は80から89をピークとし,本来の平均より低めに位置している。女子の場合は,障害者に位置づけうる70未満の層が10%を超え,その弱者性は際立っている。素因として知能指数が低い子どもは,その他の負因とあいまって,学業に困難を抱えやすい。また,LD・ADHDについても,適切に対処されないと,学力不振や学校不適応に結びつきやすいことが知られている。

表3−6 少年院在院者の知能指数(平成16年)

区分 男子 女子
総数 4772 100.0% 528 100.0%
120以上 213 4.5% 0.6%
110−119 463 9.7% 20 3.8%
100−109 1081 22.7% 77 14.6%
90−99 1366 28.6% 129 24.4%
80−89 867 18.2% 141 26.7%
70−79 503 10.5% 90 17.0%
60−69 134 2.8% 44 8.3%
59以下 81 1.7% 17 3.2%
不詳 64 1.3% 7 1.3%
法務総合研究所,2005,『平成17年度版 犯罪白書』より

図3−16に少年院在院者の学歴を示す。中学在学者を除き,(高校中退者を含め)中卒の学歴の者の比率が男女とも8割を超える。非行を行う子どもたちは,人生の早期に低学歴という大きなハンディキャップを背負っており,これを取り返すには,就労の役割が大きい。

図3−16 少年院在院者の学歴(平成20年)

図3−16 少年院在院者の学歴(平成20年)

イ 家族

このような素因を背負った子どもたちを支えるべき家庭が,むしろ,本人たちの足を引っ張っている状況がある。松浦(2006)は,表3−7に示す,ACE(Adverse Childhood Experiences 逆境的小児期体験)に関する調査を三つの少年院で行い,表3−8の結果を得ている。

表3−7 ACE調査の項目

身体虐待 くりかえし身体的な暴力を受けていた(なぐられる,けられる,など)。
心理虐待 くりかえし,心理的な暴力を受けていた(暴力的な言葉で痛めつけられる,など)。
性的虐待 性的な暴力を受けていた。
酒薬物 アルコールや薬物乱用者が家族にいた。
母親暴力 母親が暴力を受けていた。
精神疾患 家族に慢性的なうつ病の人がいたり,精神病をわずらっている人がいたり,自殺の危険がある人がいた。
家庭欠損 両親のうち,どちらもあるいはどちらかがいなかった。
服役 家族に服役中の人がいた。
ネグレクト 親に無視されていた(学校に行かせてもらえない,食事を作ってもらえない,など)。
松浦直己,2006,「少年院生における,非行化の危険因子に関する累積的相互作用の検討−発達的,
小児期逆境的,家族的特性の調査−」,第1回日本矯正教育・発達医学研究大会発表 より

表3−8 ACE調査の結果

  少年院A 少年院B 少年院C 高校生
身体虐待 25% 19.5% 19.8% 1%
心理虐待 9.1% 11.9% 8.6% 1%
性的虐待 0% 0.5% 0% 0%
酒薬物 20.5% 22.2% 21.6% 2%
母親暴力 20.5% 14.1% 19.8% 2%
精神疾患 4.5% 8.1% 13.8% 3%
家庭欠損 50% 56.8% 44% 7.1%
服役 9.1% 9.7% 9.5% 0%
ネグレクト 3.8% 4.9% 4.3% 1%
松浦直己,2006,「少年院生における,非行化の危険因子に関する累積的相互作用の検討−発達的,
小児期逆境的,家族的特性の調査−」,第1回日本矯正教育・発達医学研究大会発表 より

一般高校生の家庭に比して,少年院にやってくる子どもたちの育ってきた家庭が,離婚や離散などによる家庭欠損に加え,虐待,DV,問題行動(物質乱用や服役),精神疾患といった,家族機能に負荷のかかる問題に苛(さいな)まれていることは,一見して明らかである。

図3−17に見るように,複数の問題を抱える子どもは,高校生には皆無と言ってよいのに,少年院の子どもたちでは,およそ3分の1を数える。こうした問題が貧困と関連していることは広く知られており,少年院に入る子どもたちの家庭の2割近くが貧困家庭とされている。

図3−17 ACE得点の比較

図3−17 ACE得点の比較

松浦直己,2006,「少年院生における,非行化の危険因子に関する累積的相互作用の検討−発達的,

小児期逆境的,家族的特性の調査−」,第1回日本矯正教育・発達医学研究大会発表 より

さまざまな素因のために,学校適応に困難を抱えやすい子どもたちが,むしろ不適切な養育環境に置かれ,足を引っ張られていると言ってよい。

ウ 地域

こうした非行を行う子どもにとっては,地域が支えである。図3−18は,地域サポート(「地域の人は,私をあたたかく見守ってくれている。」と「地域の人は,困ったときに力になってくれる。」という二つの文章への同意度を得点化したもの)と非行との関係を,親子の絆の強さごとに見たものである。明らかに,地域サポートが小さいほど,非行頻度が高い。また,その関係は,親子の絆の弱い家庭ほど,明瞭である。つまり,非行を行う子どもたちは,(結果としてみれば)十分な地域サポートを受けていない。アメリカの非行研究が,シカゴの地域ごとの非行者比率の研究に出発したことを思い起こせば,社会的に不利な条件の集積した地域における非行の集積は,犯罪学の常識と言ってよい。

図3−18 親子の絆の強さごとに見た,地域サポートと非行の関係(男子)

図3−18 親子の絆の強さごとに見た,地域サポートと非行の関係(男子)

小林寿一,2003,「我が国の地域社会における非行統制機能について」,『犯罪社会学研究』 28: 39-54. より

エ 就労

学歴の低さに加え,家庭や地域の支えを欠いた子どもたちは,容易に仕事に就くことはできない。図3−19に示すように,無職の者は,女子では半数を超え,男子でも40%に近い。学生生徒を除けば,無職の者は,女子では76%,男子では50%に達する。

図3−19 少年院入院者の就労・就学状況(平成20年)

図3−19 少年院入院者の就労・就学状況(平成20年)

法務総合研究所,2009,『平成21年度版 犯罪白書』より

しかも,図3−20に示すように,ここ数年の景気の回復にもかかわらず,出院時点での就職先決定率は下がり続けている。平成16年の入院者のうち有職ないし学校生徒は54%で,過半数が社会制度に帰属しているのに対し,彼らの多くが出院する平成17年の出院者のうち,就職先・復学決定者の合計は40%にも達せず,少年院入院が,再統合を妨げていることが分かる。こうした動向の背景には,少年犯罪の凶悪化や犯罪不安をあおる,排除型社会の進行があるように思われる。

図3−20 少年院出院者の進路動向

図3−20 少年院出院者の進路動向

法務省,2009,『少年矯正統計調査』より

(2)欧米の非行少年が抱える問題

計量的な予測研究が積み上げられてきた欧米の研究成果として,非行少年の中でも最も非行深度の深い,早期非行少年の非行要因を,表3−9に示す(表3−9には,非行化を防ぐ要因である保護要因も示した。)。わが国の少年院に在院している少年とほぼ同様の問題を,海外の非行少年が抱えていることは明らかである。これらの非行要因については,次の4点が指摘されている。

ア コミュニティ(地域),家族,学校,友人,本人といった多様な領域にまたがっている。

イ より多くの数の非行要因にさらされることで,非行を行う確率が急激に高くなる。

ウ 発達の時期によって,どの非行要因が影響力を持つかは異なる。

エ 非行のみならず,物質乱用(喫煙など),10代の妊娠,学校中退,暴力といったさまざまな問題の要因となっている。

表3−9 早期非行化少年の非行要因(Loeber and Farrington, 2001)

  領域 非行要因
リスク要因 コミュニティ コミュニティの不利な状況と貧困
コミュニティの崩壊
銃の入手可能性
メディアによる暴力描写
家族 家庭崩壊(異なる保護者が連続すること)
親の反社会的行動
親の薬物乱用
母親のうつ
児童虐待及びネグレクト
親の監督不足(銃への接近の許容)
母親の喫煙
10代の親による出産
学校 学業不振
学校への愛着の不足
進学意欲の不足
勉学意欲の不足
学校の崩壊
友人 問題行動を行う友人との交友
友人からの拒絶
本人 出産時の問題
鉛への暴露
過活動
衝動性
刺激追求
気難しさ
保護要因   女性であること
幼稚園時の向社会的行動
知的能力の高さ
Rolf Loeber and David P. Farrington 2001 The Significance of Child
Delinquency In Rolf Lorber and David P. Farrington (eds.) Child
Delinquents. Sage.

(3)立ち直り支援

非行を行う子どもたちは,このように多様な問題を背負っている。その立ち直り支援は,これらの問題のうち,変容が可能なものをターゲットにして行われる。

このような介入モデルを,「リスク要因防止モデル risk factor prevention model」という。それは,<介入 → リスク要因 → 非行>という,介入によってリスク要因を減少させ,それをもって非行/予防を減少させようという考え方である。

予防的な介入として,すでにその効果が示されているものとしては,ハイリスク(通常10代で,収入の低い。)の初産の妊婦を対象とし,看護師が,妊娠前から出産後2年間,家庭訪問をし,妊婦自身のヘルスケア,子育て,本人の将来(次の出産,教育,雇用)を支援する,Nurse-Family Relationshipや,貧しい黒人家族の子どもに対し,3歳から4歳の時に良質の早期幼児教育を与えることで学校適応を促進し,もって非行化を予防するHigh/Scope Perry Preschool Projectがある。やや非行化しつつある若者を対象としたものとしては,少年本人と1対1で接するボランティア(メンター)が,週に3〜5時間,少年と一緒にいろいろな活動をすることによって将来展望を開かせるBig Brothers Big Sisters of Americaのプログラム,一般の家庭を募集して研修し,その家族が預かった少年に対して,家庭,学校,地域において,集中的な指導を行う短期的里親プログラムである,Multidimensional Treatment Foster Careなどがある。要は,これらのプログラムは,社会適応の促進,つまり社会的包摂を狙うものにほかならない。

図3−21に示すように,非行少年の保護処分取消率(再非行・再犯により,保護処分が取消された率)は,職場という社会制度に包摂されているかどうかによって大きく異なる。非行少年の再犯防止の本質が道徳的非難ではなく,自立支援であることは明らかである。

図3−21 非行少年の再犯率

図3−21 非行少年の再犯率

法務総合研究所,2009,『平成21年度版 犯罪白書』より


  静岡県立大学国際関係学部准教授 津富宏

3) 非行リスクから守っているバッファー:非行リスクによる,少年に対する非行化の影響を和らげる緩衝。たとえば,さまざまな社会制度(家庭,学校,職場など)との良好な関係。
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